異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

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エピローグ

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 やり直し結婚式を明日に控えて、ミシェル先生とアンバーが俺とウィルが住む屋敷にやって来た。

 ちなみに俺は結婚式前日にも関わらず、この訪問を受ける前に、宗教学とタヌキ先生の授業を受けていた。王子様の嫁たる自覚を再確認して、分刻みのスケジュールというやつを受け入れていた。



「いやぁ、良かった。二十年前のようなことになったらどうしようかと思ったよね」

 王様が他国からの出征依頼にブチ切れて、頼んできた国を滅ぼしに行ったときのように、今回も戦争になってたかもしれないって話を先生はしてる。

 王様の武勇伝は語り尽くせないほどある。

「ウィルをああしたのもカイで、止めたのもカイなんだってな! 大活躍だ!」

 なんで現場にいなかったこの人がこんなに興奮してるんだ。会うたびにこの話。

「違いますよ、ウィルが勝手に一人で」
「そう、ウィルが一人で焦って暴走した。バカにつける薬はない」
「………」

 アンバーとウィルの関係性も相変わらずよくわからない。

 アンバーの毒舌を笑い飛ばした先生だが、相変わらず足を引き摺ってる。



 あの日。

 キフィソスの部隊は他国の傭兵部隊と一緒になって、ヴァルラを一斉攻撃、国境付近のいくつかの村を襲撃した。その中のひとつがフォグリスだった。

「前回の式は私も行くつもりだった。しかし、足止めを喰らって結局行けなかったんだ。私も番持ちとは言え、腐っても女オメガだからな。まだ価値があるらしい」

 生物学の研究者として名高い先生である。当然、狙われた。逃げるときに足首を捻ったそうだ。運動不足だと笑っていた。年で治りが遅いと言うが、見た目は若いんだ……。

 ヴァルラでは大型種のサベラが自警団を組織している。王が最強なら市民も最強。港湾の保安部隊同様に、フォグリスでも敵をさっさと蹴散らすことに成功した。

 戦い慣れしている。

 襲撃されることをわかって、あんな辺鄙な場所で結婚式をしたくらいには、この国の民は血の気が多い。

 初めから返り討ちにする気で待ってたんだ。

「明日は私も先生も式に出るから。親族席の後ろの席だ」
「へえ。この間はアンバーを見てビックリした。招待客一覧は渡されたけど余りにも人数が多過ぎて全然見てない。来る予定があったなら教えてくれれば良かったのに」
「カイは外部との連絡を遮断されてた」
「そうだっけ?」
「そう。ウィルが嫉妬深くて器が小さいから」
「………」

 キフィソスとの戦いで腹部を刺されて瀕死だったアンバーは無事に復活。後遺症もなく、今は看護師の仕事に戻っている。

 それにしても、あのときの素早い身のこなしは常人がなせる技ではない。アンバーってレオみたいに、スパイ的なことでもしてるのかな……?

 明日は一応結婚式なわけだけれど、緊張感はない。一度してるから。

 ツヴァンクスという拘束着のような婚礼衣装の元々の意義は俺が思っていたとおりだったが、最近は伝統衣装としての意味をもって作られていたらしい。作成者であるジーンは形が自由にできないことを不満に思っていた。

 だから、次の式の俺の衣装はもっと動きやすいものにすると息巻いた。伝統に即したものはちゃんと作ってみせたから、次は自分で作りたいものを作るんだと。ジーンの心意気がカッコいい。

 一度だけ試着した。ズボンの上には大胆なカットで裾の長いアシンメトリーなスカートを巻く。上着の装飾には騎士っぽさが入れ込んであった。腰には刀やら小刀を身につけられるよう仕様を変えてくれた。俺はアンバーから日本製!? と思しき小刀をもらっていたので、大剣とともに腰に差すことにしている。マントも羽織れば、これまでのものとは別次元だ。男として式に出る。当日が楽しみだ。

「最近はどう? ウィルとの契約が済んで、体はかなり楽になっただろ?」
「………」
「恥ずかしがることじゃないって! 自慢したっていいくらいのことだよ!」

 ソファから身を乗り出してきて、向かい側の俺の肩をバンバンと叩いてくる。先生は元気だ。

「ちゃんと外に出てる?」
「出れてますけど……。ウィルのファンからの地味な嫌がらせを受けるのが最近の悩みです……」
「ああ、はいはい」
 
 街に散歩に行く途中の馬車を囲まれて行く手を阻まれたり、呪いの手紙が届いたり。この国が平和じゃないってことが段々わかってきたぞ……!

「あはっ、まあ、がんばって」
「カイに何かあったらウィルを殺せってステラから言われた」
「………」

 森の中のお菓子の家のマルチーズ……、意外と気性が烈しいんだな。

「サベラは殺したって死なないから。私の傷も見てのとおり、ニンゲンより治りが早い。サベラは長生きだ。ヴァンダラーも。ステラはそれをわかって言ってる。かわいいだろ」
「……ん?」

 アンバーが淡々と言うのを聞いて、俺は混乱した。長生き? 前に聞いた話が違うんだけど? 俺は先生を睨む。

「バレたか。昔は戦が多くて平均寿命が短かったんだ。嘘じゃない。カイに早く決断して欲しかったんだよ! 許して?」

 先生は終始こんなだ。

「俺がシリアスに悩んだ時間を返して欲しい……」
「でも、つがいがいるって素晴らしいことだってカイも思うだろう?」

「先生の番は先生を大事にしてくれますか」
「してもらってるよ。ほら」

 先生が指差す廊下から足音がした。

 この部屋の鍵は俺とウィル、それから正式に俺の騎士となったジークのみ開けることができる。だからジークが戻ってきたのかと思ったら、違った。

 そこに現れたのは……。

「コンラート……?」
「お久しぶりでございます、カイ様」

 戦火の最中のドームで会って以来だ。コンラートの後ろからジークもやって来た。

 先生が椅子から立ち上がる。足が捻れてよろついたのを、コンラートが支えた。

「気をつけろ」
「ダーリン! 久しぶり! お迎えありがとう!」

 俺の目は点になる。えっ、今、先生はそれを誰に言った!?

「先生の番が!? コンラート!?」

 騒ぎ立てる俺を無視して、抱き合ってチークキスなんかしている。

 チャラい先生と渋い隊長の組み合わせって何それ!?

「嘘!?」

 俺は絶叫。すると、マイペースの権化みたいな先生が振り返って言った。

「あ、そうだ。カイ。ちょっと体を見せてよ。今日はカイの身体検査のために呼ばれたんだよ」
「え?」
「聞いてたとおりだなぁ。オメガの匂いが完全に消えてる」
「え? そうですか?」

 自分ではわからないが、毎日ウィルと体を繋げているから……、中和されたかな?

 アンバーが床のラグの上に置いていた革製の鞄を持ち上げ、ローテーブルの上で広げた。鞄の中には聴診器やらの医療機器が入っている。アンバーから渡されたひとつひとつを装着しながら、先生が俺の隣のソファに移動する。

「さすがはウィルだな」

 無駄のない動きで装備をつける先生が下唇を舐めながら言った。

「カイがここに来てからまだ一年経ってない。番の体を自由自在か。研究対象としては申し分ない」
「?」
「カイの検診、頼まれたから。これからは毎週末に来るからね、ダーリン」

 コンラートとジークが顔を見合わせて、驚愕の表情をしている。

「……あの、検診て?」
「式が終わったら次は出産かぁ。忙しないなあ! ダブルでおめでとう!」
「おめでとう、カイ。カトリーヌさんには私から話しておく」

 俺の受難は、まだまだ続く……!?


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