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魔法使いは人さらい
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私はこれ以上何も言わないと決め、固く口チャックをした。相手が相手だし、何かの拍子にうっかり喋ってしまいそうで怖い。このまま黙ってやり過ごそう。
ラウロは私の反応が無いのを良いことに推理を始めた。
「エコ様の性格からして、危害を加えるようなことではないでしょう。貴方は他人が傷付くくらいなら自分が傷付く道を選びます。そういう人ですから。そして」
とラウロは困った子を見るような優しい笑みを浮かべた。
「耳まで赤くなっていますから、恐らくは恥ずかしいことなのでしょうね」
言わないでください。許してください。羞恥で死ねます。私は一生懸命頭の中で他のことを考えようとしたものの、
「少し、失礼します」
ラウロがベッドの方に身を乗り出して、私の顔を覗き込もうとした。つい反射的に口元を塞いで顔を逸らしてしまう。
「何故そんなに逃げるのですか。まだ何か魔法でもかかっているのではと思ったのですが」
「かかってません……!」
つい答えてしまった。体が触れてはいないもののラウロは私の後ろに手を突いて、私を上から覗くようにしている。あれ。これ、大丈夫ですか?
「シルフィ様にお願い出来ないこと、となると、大人でなければいけないことなんですね?」
近い。近い、近い声が近い。喋る度に吐息の熱がかかって意識が飛びそうだ。ぐらつく意識を保つ為にも、私はしっかり腹から声を出した。
「ま、また私で遊んでるんですね、勘弁してくれませんか。私その、男の人にあまり耐性がなく……つ、辛いんですけど」
「なるほど。しかし私は真面目ですよ。ただ疑問を解消しようとしてるだけです。エコ様の言う行為が、一体どんな意味を持つのか、私には見当もつきませんので」
ラウロが再び私の顔を覗き込もうとするので、私はまた慌てて顔を逸らした。熱い。体は離れているのに体温が混じってどんどん熱くなっている。後ろへ逃げようと、私はベッドへ手を突いた。と、その手にラウロの手が重なる。ぎょっとしてる間に、彼の唇が私の耳に近付いて、低く囁いた。
「教えていただけますか?」
体がぞくっとする。途端、
「元の世界に帰る為に、キスが必要なんです」
勝手に口が喋った。びっくりして口を噤むも、もう遅い。一体何が? どうして私喋ったの? 混乱の中、鈍い思考が必死で働いてそして思い至る。もしかして!
「よく分かりました。ありがとうございます」
あっさり離れていくラウロ。あの笑顔が憎たらしい! 私は歯噛みしながら言った。
「魔法、使ったんですね……!」
「いえ。使ったつもりはありませんが……つい熱が入ってうっかり使ってしまったかもしれませんね。すみません。もう二度と致しませんので」
しっ、白々しい! 私はひたすら流されてしまったことを悔やむしかない。
「絶対わざとだ! くうぅ……罠にはまった自分が、馬鹿過ぎて辛い……」
ラウロは面白そうにくすくす笑っている。くそぉ。私は深呼吸して冷静になろうと努めた。さっきの温かい手とか吐息とかは全部忘れる! 忘れるのが一番!
「い、今聞いたことは内緒にしてください」
「貴方はユリス様の選択次第ではこの世界を去ろうとしているのですね?」
私と違ってラウロは超冷静だ。私が馬鹿みたいに思えてしまう。まあ向こうがそんな風だから私も落ち着いてきたんだけど。
「そうです! もうこの際隠しても意味ないから言うけど、私は戦争の道具になるなんて絶対に嫌なんです。そうなるくらいなら帰るし、もし帰れなくても……」
最悪の場合。私一人の命で大勢の命が助かるのなら。これはいくら誰に止められようと私は捻じ曲げる気は無かった。強い意志と共にラウロを見る。すると、
「そうですね。それも良いと思います」
「え?」
易々同意された。逆に私の方が狼狽えてしまう。
「私はエコ様のお考えを悪いとは思いません。正直私としても、いざ必要な時に貴方の姿が無いと狼狽えるあの方を見たいですし」
「酷い従者だ……」知ってたけど。
「そもそもエコ様というただ一点のみに賭けて三国と剣を交えるなどというのは、あまりに無謀過ぎて呆れかえりますよ」
「誰の味方なんですか貴方は」
正直な物言いに呆れてつつくように言うと、ラウロは肩を竦めた。
「今回に関しては全面的にエコ様の味方ですね」
「ほ、本当?! じゃあ万が一の時は協力してくれるってこと?」
「いいえ」
「何で!?」
期待を早々に裏切られた。やっぱりいくら理由があっても私とキスなんて嫌ですか。そうですよね。好きでもない相手とはきついですよね。じめじめした気持ちで私は床を見下ろした。
「選択肢は二択ではないということですよ。他にも手はあります」
他の手? 私は顔を上げた。ラウロは膝を突いた格好に戻って、私を気遣うように見上げている。
「手を取り尽くしてからということに致しましょう。ですが、貴方を苦しめる意図はありません。ですから……私から見て、エコ様が苦しんでいると判断した時に、元の世界に帰して差し上げると約束します。もちろん自己申告でも構いませんよ。一言帰りたいと言ってくださればいつでも協力します」
「わ、分かりました」
なんか変なことになったな。でも協力してくれるのは確かだし、むしろ良かったのかもしれない。ラウロならきっと何があっても良い方向に進めてくれるに違いない。少し肩の荷が下りた。……別に私とのキスが嫌だったとかではないんだね、そうだよね、うん、良かった。色んな意味で良かった。
言うことも無くなって、私とラウロの間に微妙な空気が流れる。いや私が感じているだけかもだけど、さっきのあの距離感を思い出すとむずむずして仕方ない。
「と、とりあえず、そういうことでよろしくお願いします! 私は寝ます」
「はい、おやすみなさい」
私は頭を下げて再びベッドに横になった。ラウロが離れていって、やっと一息吐く。
後はユリスの決断を待つだけだ。どうか悪いことにはなりませんように。……。
ラウロは私の反応が無いのを良いことに推理を始めた。
「エコ様の性格からして、危害を加えるようなことではないでしょう。貴方は他人が傷付くくらいなら自分が傷付く道を選びます。そういう人ですから。そして」
とラウロは困った子を見るような優しい笑みを浮かべた。
「耳まで赤くなっていますから、恐らくは恥ずかしいことなのでしょうね」
言わないでください。許してください。羞恥で死ねます。私は一生懸命頭の中で他のことを考えようとしたものの、
「少し、失礼します」
ラウロがベッドの方に身を乗り出して、私の顔を覗き込もうとした。つい反射的に口元を塞いで顔を逸らしてしまう。
「何故そんなに逃げるのですか。まだ何か魔法でもかかっているのではと思ったのですが」
「かかってません……!」
つい答えてしまった。体が触れてはいないもののラウロは私の後ろに手を突いて、私を上から覗くようにしている。あれ。これ、大丈夫ですか?
「シルフィ様にお願い出来ないこと、となると、大人でなければいけないことなんですね?」
近い。近い、近い声が近い。喋る度に吐息の熱がかかって意識が飛びそうだ。ぐらつく意識を保つ為にも、私はしっかり腹から声を出した。
「ま、また私で遊んでるんですね、勘弁してくれませんか。私その、男の人にあまり耐性がなく……つ、辛いんですけど」
「なるほど。しかし私は真面目ですよ。ただ疑問を解消しようとしてるだけです。エコ様の言う行為が、一体どんな意味を持つのか、私には見当もつきませんので」
ラウロが再び私の顔を覗き込もうとするので、私はまた慌てて顔を逸らした。熱い。体は離れているのに体温が混じってどんどん熱くなっている。後ろへ逃げようと、私はベッドへ手を突いた。と、その手にラウロの手が重なる。ぎょっとしてる間に、彼の唇が私の耳に近付いて、低く囁いた。
「教えていただけますか?」
体がぞくっとする。途端、
「元の世界に帰る為に、キスが必要なんです」
勝手に口が喋った。びっくりして口を噤むも、もう遅い。一体何が? どうして私喋ったの? 混乱の中、鈍い思考が必死で働いてそして思い至る。もしかして!
「よく分かりました。ありがとうございます」
あっさり離れていくラウロ。あの笑顔が憎たらしい! 私は歯噛みしながら言った。
「魔法、使ったんですね……!」
「いえ。使ったつもりはありませんが……つい熱が入ってうっかり使ってしまったかもしれませんね。すみません。もう二度と致しませんので」
しっ、白々しい! 私はひたすら流されてしまったことを悔やむしかない。
「絶対わざとだ! くうぅ……罠にはまった自分が、馬鹿過ぎて辛い……」
ラウロは面白そうにくすくす笑っている。くそぉ。私は深呼吸して冷静になろうと努めた。さっきの温かい手とか吐息とかは全部忘れる! 忘れるのが一番!
「い、今聞いたことは内緒にしてください」
「貴方はユリス様の選択次第ではこの世界を去ろうとしているのですね?」
私と違ってラウロは超冷静だ。私が馬鹿みたいに思えてしまう。まあ向こうがそんな風だから私も落ち着いてきたんだけど。
「そうです! もうこの際隠しても意味ないから言うけど、私は戦争の道具になるなんて絶対に嫌なんです。そうなるくらいなら帰るし、もし帰れなくても……」
最悪の場合。私一人の命で大勢の命が助かるのなら。これはいくら誰に止められようと私は捻じ曲げる気は無かった。強い意志と共にラウロを見る。すると、
「そうですね。それも良いと思います」
「え?」
易々同意された。逆に私の方が狼狽えてしまう。
「私はエコ様のお考えを悪いとは思いません。正直私としても、いざ必要な時に貴方の姿が無いと狼狽えるあの方を見たいですし」
「酷い従者だ……」知ってたけど。
「そもそもエコ様というただ一点のみに賭けて三国と剣を交えるなどというのは、あまりに無謀過ぎて呆れかえりますよ」
「誰の味方なんですか貴方は」
正直な物言いに呆れてつつくように言うと、ラウロは肩を竦めた。
「今回に関しては全面的にエコ様の味方ですね」
「ほ、本当?! じゃあ万が一の時は協力してくれるってこと?」
「いいえ」
「何で!?」
期待を早々に裏切られた。やっぱりいくら理由があっても私とキスなんて嫌ですか。そうですよね。好きでもない相手とはきついですよね。じめじめした気持ちで私は床を見下ろした。
「選択肢は二択ではないということですよ。他にも手はあります」
他の手? 私は顔を上げた。ラウロは膝を突いた格好に戻って、私を気遣うように見上げている。
「手を取り尽くしてからということに致しましょう。ですが、貴方を苦しめる意図はありません。ですから……私から見て、エコ様が苦しんでいると判断した時に、元の世界に帰して差し上げると約束します。もちろん自己申告でも構いませんよ。一言帰りたいと言ってくださればいつでも協力します」
「わ、分かりました」
なんか変なことになったな。でも協力してくれるのは確かだし、むしろ良かったのかもしれない。ラウロならきっと何があっても良い方向に進めてくれるに違いない。少し肩の荷が下りた。……別に私とのキスが嫌だったとかではないんだね、そうだよね、うん、良かった。色んな意味で良かった。
言うことも無くなって、私とラウロの間に微妙な空気が流れる。いや私が感じているだけかもだけど、さっきのあの距離感を思い出すとむずむずして仕方ない。
「と、とりあえず、そういうことでよろしくお願いします! 私は寝ます」
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(追記2018.07.24)
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ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
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お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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