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盗賊
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盗賊たちに縄を掛ける手間暇も惜しかったので、結局は注意だけで解放した。彼らが大人しく去って行ったのを見届けて私たちも再び旅路につく。
「さすがユリス様。魔力の操作はお手の物ですね」
ラウロが流れるように褒めた。やっぱりあれ、私にはよく分からないけど凄いことなんだなあ。感心していると、ユリスは眉を顰めた。
「フン。私では精々あの程度だな。お前ほどじゃない」
ユリスは当然のように言ってさっさと先を歩き始めた。ラウロが珍しく苛ついているように見えたのでつい声をかけてしまう。
「ラウロ、さっきはありがとう。本当、凄かったね!」
「ありがとうございます。ですがユリス様ほどではアリマセン」
何で片言。しかも主従揃って互いに謙遜し合ってるし。私が訝しんでいると、ラウロは疲れた息を零した。
「ユリス様は、何故か私を買い被り過ぎています。ええ、当たり前に私にも出来るものと思っているのでしょうね。それも皮肉でもなく、素で言っているんです」
「へ、へえ~……」
そう言うってことはつまりラウロには出来ないことらしい。それほどに難しい技術なのだろう。ラウロは愚痴のついでに続けた。
「ユリス様は、戦闘だの魔力の操作では非常に優れた腕をお持ちです。我が国において右に出る者はほぼいないでしょう。ですが本人はそれを自覚していません。多少心得があれば誰でも出来るものと思っています。ですから余計にエコ様のように無力な人間が理解出来ないのでしょうね」
自分がムカつくからと言って私まで刺そうとするのやめてもらえませんかね。「ああ失礼しました。エコ様を貶めるつもりはありません」と取り繕っていたけれど既にめちゃくちゃ遅いです。
ラウロが感情を出すことも滅多に無いのでもう少し見ていたい気持ちはあるけれど、私まで巻き添えを食いそうなので話題の方向を変えた。
「あ、そういえば。ユリスって本当にあの……非力?」
思わず小声になって言った。体が重くなる魔法をかけられて一瞬で崩れ落ちた様には魔法をかけた側もびっくりしていた。思わず素に戻るレベルって相当では。ラウロは今度は感情も出さず粛々と頷いた。
「それが唯一にして最大の弱点と言ってもいいですね。ユリス様は重い物を持つどころか剣の一本も振れないのですよ。ですからこの時代においてもあのような魔力頼りの武器を使っています。そして私だけ剣を握るわけにもいきませんから……」
ね。と、困った笑みを浮かべた。なるほどなあ。そう考えると納得出来たことがいくつかある。土の精霊とのいざこざがあった時、私を抱え上げずに振り回していたのはそもそも抱え上げるほどの腕力が無かったという……そういうことか。本当、ユリスの行動には裏表がないというか、何の悪意も無いのだ。分かってはいたけど、ちょっと癪に障るだけで別に悪い人ではないんだよね。
「幻滅させてしまいましたか?」
ラウロが目を細めて言った。私は首を傾げる。
「え、幻滅? 何で?」
「非力な男というのは女性からするとあまり宜しくは無いでしょう。本人も多少は気にしているとは思いますから」
「私は別に、というかそれ言ったら私も女らしくないし、ユリスに至っては他の問題点の方が相当……うん。とにかく私は全然気にしないよ。人それぞれだし」
「そうですか」
納得した風にラウロは頷いて、それきり何も言わなかった。まるで私の返答が期待していたものと違っていたかのような、そんな反応で。少し歯切れが悪そうだったのを無理矢理断ち切った感じだ。何だろう。ラウロって普段から何考えているか分からない感じがあるけれど今のは更によく分からなかった。
「エコ、あっちにオオカミいるよ」
シルフィに声を掛けられ私は我に返った。オオカミって危ないのでは!?
「え!? ど、どこ!?」
「あそこー」
「え? わ、み、見えない……」
シルフィの指差した方を見るも遥か遠くに胡麻みたいなものが見えるくらいだ。あれがオオカミ? 全然見えん。
「エコも師匠みたいに目が悪いの?」
「シルフィが良すぎるだけだと思う……」
私も視力は良い方だけれど、さすがにシルフィには敵わないようだ。じっと目を凝らしたお陰で変な筋肉を使った気がする。
まあ人には色んな面があるよね。得意とか不得意とかも違うし。私は相変わらず何も無い景色を眺めながら歩いた。
「さすがユリス様。魔力の操作はお手の物ですね」
ラウロが流れるように褒めた。やっぱりあれ、私にはよく分からないけど凄いことなんだなあ。感心していると、ユリスは眉を顰めた。
「フン。私では精々あの程度だな。お前ほどじゃない」
ユリスは当然のように言ってさっさと先を歩き始めた。ラウロが珍しく苛ついているように見えたのでつい声をかけてしまう。
「ラウロ、さっきはありがとう。本当、凄かったね!」
「ありがとうございます。ですがユリス様ほどではアリマセン」
何で片言。しかも主従揃って互いに謙遜し合ってるし。私が訝しんでいると、ラウロは疲れた息を零した。
「ユリス様は、何故か私を買い被り過ぎています。ええ、当たり前に私にも出来るものと思っているのでしょうね。それも皮肉でもなく、素で言っているんです」
「へ、へえ~……」
そう言うってことはつまりラウロには出来ないことらしい。それほどに難しい技術なのだろう。ラウロは愚痴のついでに続けた。
「ユリス様は、戦闘だの魔力の操作では非常に優れた腕をお持ちです。我が国において右に出る者はほぼいないでしょう。ですが本人はそれを自覚していません。多少心得があれば誰でも出来るものと思っています。ですから余計にエコ様のように無力な人間が理解出来ないのでしょうね」
自分がムカつくからと言って私まで刺そうとするのやめてもらえませんかね。「ああ失礼しました。エコ様を貶めるつもりはありません」と取り繕っていたけれど既にめちゃくちゃ遅いです。
ラウロが感情を出すことも滅多に無いのでもう少し見ていたい気持ちはあるけれど、私まで巻き添えを食いそうなので話題の方向を変えた。
「あ、そういえば。ユリスって本当にあの……非力?」
思わず小声になって言った。体が重くなる魔法をかけられて一瞬で崩れ落ちた様には魔法をかけた側もびっくりしていた。思わず素に戻るレベルって相当では。ラウロは今度は感情も出さず粛々と頷いた。
「それが唯一にして最大の弱点と言ってもいいですね。ユリス様は重い物を持つどころか剣の一本も振れないのですよ。ですからこの時代においてもあのような魔力頼りの武器を使っています。そして私だけ剣を握るわけにもいきませんから……」
ね。と、困った笑みを浮かべた。なるほどなあ。そう考えると納得出来たことがいくつかある。土の精霊とのいざこざがあった時、私を抱え上げずに振り回していたのはそもそも抱え上げるほどの腕力が無かったという……そういうことか。本当、ユリスの行動には裏表がないというか、何の悪意も無いのだ。分かってはいたけど、ちょっと癪に障るだけで別に悪い人ではないんだよね。
「幻滅させてしまいましたか?」
ラウロが目を細めて言った。私は首を傾げる。
「え、幻滅? 何で?」
「非力な男というのは女性からするとあまり宜しくは無いでしょう。本人も多少は気にしているとは思いますから」
「私は別に、というかそれ言ったら私も女らしくないし、ユリスに至っては他の問題点の方が相当……うん。とにかく私は全然気にしないよ。人それぞれだし」
「そうですか」
納得した風にラウロは頷いて、それきり何も言わなかった。まるで私の返答が期待していたものと違っていたかのような、そんな反応で。少し歯切れが悪そうだったのを無理矢理断ち切った感じだ。何だろう。ラウロって普段から何考えているか分からない感じがあるけれど今のは更によく分からなかった。
「エコ、あっちにオオカミいるよ」
シルフィに声を掛けられ私は我に返った。オオカミって危ないのでは!?
「え!? ど、どこ!?」
「あそこー」
「え? わ、み、見えない……」
シルフィの指差した方を見るも遥か遠くに胡麻みたいなものが見えるくらいだ。あれがオオカミ? 全然見えん。
「エコも師匠みたいに目が悪いの?」
「シルフィが良すぎるだけだと思う……」
私も視力は良い方だけれど、さすがにシルフィには敵わないようだ。じっと目を凝らしたお陰で変な筋肉を使った気がする。
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