キスだけは断固拒否します!現実に帰りたくないので!~異世界での私は救世主らしいです~

空木切

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東の国の事情

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「一体……何者なんだ。どんな能力を持ってる」
 男は困惑した様子で私を見た。どうやら私の魔力量には気付いていないらしい。ユリスが前に立った。
「詮索するな」
「私たちはただの旅の者です。貴方は気絶させられて、うっかり逃してしまった。そうですね?」
 ラウロが交渉を試みる。男はラウロを睨んだ。
「見逃せと?」
「その方が宜しいかと。貴方も余計な責任は負いたくないでしょう」
「…………分かった」男はしぶしぶ了承した。「だがせめて本当の目的を教えてくれ。俺の責任の為だ。貴族の戯れにしては妙な点が多すぎる」
 主従は目配せをして、ラウロが頷いた。ユリスが答える。
「我々はこの国の精霊を起こす為に来た。確実な手段でな。もし貴様が精霊の居場所を知っているなら言え」
 な、なんて偉そうなんだ。これでは知っていたとしても言う気を失くすだろう。案の定男は厳しい眼差しでユリスを見ていた。
「精霊を? 本当なんだろうな」ラウロに目をやる。ラウロは深々と頷いた。男は僅かに警戒を解いた様子で続ける。
「そういうことなら協力出来るかもしれない」
「協力とは?」ラウロが問う。
「俺から女王に話を通すことが出来る。最も、精霊の居場所も女王しか知らないからな。精霊を探しているなら辿り着く場所は同じだろう」
「女王?」
 この国の王様は女の人なのか。女王というと、お伽話では姫を苦しめる悪女だったりするけど。高笑いを上げる女王を思い浮かべ、私は気が重くなった。
「実権は親が握っているようだが……話す価値はあるはずだ。どうする?」
 男の申し出に、「遠回りするよりはいいかもしれませんね」とラウロが言った。ユリスは男を見下ろすように顎を少し持ち上げる。
「兵士、貴様の話に乗ろう。ただし、女王へは我々が直接話をする。勝手に決められても困るからな」
 まるでこっちの立場が上だとでも言いたげな態度だ。王子だし実際そうなんだけど、ここ外国だし、私たちはお願いする側のはず……。
 兵士の男は心が広かったのか面倒になったのか、私たちを女王の前まで連れて行くと言った。ここから女王のところまでどれくらい距離があるんだろう。馬車に乗るのかな、なんてその時の私は暢気に考えていた。

 まさか空を飛んでいくとは誰も想像できなかったはず。
「ハインツ、ハインツ! ちゃんと掴まってる!? 大丈夫!?」
「だ、だだ大丈夫、大丈夫……」
「はー、はー、下を見ちゃ駄目、下は見ない、下は見ない……!」
「え? 下に何かある?」
「ぎゃー! 駄目! 落ちるって! 落ちるー!」
「うぐ、お、落ち着いてエコさん! さすがに腹が苦しい」
 私が全力でしがみ付いている所為で、ハインツは苦しそうだった。本当に申し訳ないけど許して欲しい。だって命綱も無く、身一つで私は空を飛んでいるのである。
 私たち一行は、翼竜の背に乗って空を移動していた。翼竜は何匹もいるらしく、体重など考慮した上で一匹に二人ずつ割り振られ、私はハインツとペアになって乗っていた。ちなみに残りはユリスとミケ、ラウロとシルフィである。
 この翼竜、普段は五匹で空を巡回しながら警護をしているらしい。兵士の男が一人でこれらの翼竜をコントロールしている。本当に魔物を飼い慣らしている様には驚いたけど、さすがに背中に乗って空を飛ぶのは無理がある気がします!
 翼竜には馬のように手綱が付けてあって(ただ掴まる為にあるだけらしい)、ハインツがそれを握り私は彼にしがみつくだけ。座席はおろかシートベルトも無いのはめちゃくちゃ怖い。でも絶叫マシンと違って揺れないし、広めのスペースにしっかり跨っているので滅多なことでは落ちないし安全、と心を落ち着かせようとする。それでも私は怖かった。地面が恋しい。
 私は下を見ないよう必死で前を向いていた。前の翼竜にはシルフィが乗っていて、首をきょろきょろさせて景色を楽しんでいるようだ。強い。私にはとてもそんな余裕はない。
 ハインツも怖いらしく、微かに震えている体を後ろからぎゅうぎゅう締め付けながら、私たちは女王のいる城へと降り立った。
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