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南国の道のり
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主従二人は情報集めに行き、ミケは引き続き寝る、というので私とハインツとシルフィは三人でダリアさんのところを訪れることにした。
ちょうど倉庫から出て来たダリアさんは私たちを見て「おう」と手を上げた。作業中だったらしく、流れる汗を手の甲で拭った。
「どうした? こっちは順調だぞ。部品も無事に揃ったしな」
「何か手伝うことはありますか?」
私が言うと、ダリアさんは一瞬変な顔をしてから笑みを作った。
「相変わらずだな。手伝ってもらうことは特に……いや、なあ、あんた」
「俺?」
ハインツは目を瞬かせた。ダリアさんは何か値踏みでもするようにハインツの体を見てから大きく頷いた。
「あんた力あるだろ。ちょっと手伝ってくれるか?」
「わ、分かった」
ハインツが何故かこっちをちらちら見てくるので私は「頑張って!」とエールを送った。ハインツはぱっと表情を輝かせて嬉しそうに何度も頷く。可愛いな! 私は思わずにやついてしまった。
「ダリア、僕は手伝うこと無いの?」
シルフィもやる気に満ちているらしく、ダリアさんをじっと見上げる。ダリアさんは頭を掻いて少し唸った後、「無いな」と申し訳なさそうに言った。それなら、と私はシルフィに提案する。
「シルフィ、私たちは向こうの浜で遊ぼうよ。ね! 私、体動かしたいし、付き合ってくれると嬉しいな」
「いいよ! 行こ!」
少し落ち込んでいるように見えたのは気の所為だったのか、シルフィは元気よく返事をしてくれた。早速砂浜へ向かおうとすると、ダリアさんが言った。
「ああそうだ、雨が降りそうだから気を付けろよ」
「雨?」
「向こうに厚い雲があるだろ」
と沖の方を指差す。何重にも塗り重ねたような分厚い雲が遠くに見えた。
「気を付けますね。ありがとうございます」
私が礼を言うと、ダリアさんは「どうも調子狂うな」と苦笑してまた頭を掻いた。
「そう丁寧にされるとむず痒いな。俺はこんなんだからさ、もし失礼があったらすぐ言ってくれよ」
そんなに丁寧だったかな? 私はどう答えていいか迷って、とりあえず頷いて返事の代わりにした。
ダリアさんはハインツを連れて倉庫へ行ってしまったので、私とシルフィも浜へ向かった。
「何する?」
到着するなりシルフィが期待の眼差しで私を見上げてきた。砂浜での遊びに関しては私の方が詳しい。ここぞとばかりに胸を張って言った。
「砂で山を作ろう! 私がやり方を教えるね!」
「分かった!」
私はシルフィの目の前で、砂で山を作り海水をかけて固め、その上に砂を乗せてまた海水をかけ……と繰り返した。要領が分かって来たらしいシルフィも作業に参加して、二人でどんどん砂山を大きくしていった。
「ねえエコ」
「何?」
砂山が私の顔二つ分くらいの大きさになっている。高くするのはなかなか難しい。幅が広くなるばかりだ。バランスを考えつつ砂を乗せていると、シルフィがまっすぐした声で言った。
「これって何か意味があるの?」
「え。い、意味? 意味は……」
意味って何? 遊びに意味ってあるの? 私は手を止めて不格好な山を見つめた。意味。砂で山を作る意味とは。
「これは、遊びだから、特に意味は無いというか。ええと、ほら、完成したら嬉しいでしょ、だからそれが目的であって……達成感の為にやるというか……」
「どうなれば完成?」
砂山の完成ってどこ? シルフィはせっせと砂を積み続けている。私はすっかり手が止まってしまった。そういえば、砂山はよく作ったけど完成したって思ったことないな。
「完成は、その人次第というか。お、面白い、よね? これ」
不安になってきた。シルフィは「んー。よく分かんない」と正直に答えながら砂を掘っている。
「よし! やめよう! 他の遊びしよう!」
私は立ち上がって砂を払った。
それから私たちは砂浜に棒を立ててビーチフラッグスもどきをやったり、穴掘り競争をしたりした。シルフィが一番気に入ったのは、波打ち際に落書きをして、波で消えていくのを見る遊びだ。容赦なく波に消されていくのが面白かったらしい。砂浜の端から端まで線を引き切れるか波と競争をして、私は途中で体力が尽きてリタイア。シルフィはまだ一人で延々と砂浜を走り続けている。
シルフィの体力はすごい。いくら走っても息が切れる様子がないのだ。木の棒を砂に当てながらさーっと走って、途中で書いていた線が消されて悔しそうに戻って来て、また間もなく走り始める。もはや遊びというよりスポーツだ。自分の限界に挑戦している感じ。
「シルフィにとって遊びって――ん?」
ぽつん、と鼻に当たった。何だ? と思考を働かせる頭にぽつ、ぽつと感触が。シルフィも足を止めて上を見上げている。一体何が、って、
「雨か!」
ちょうど倉庫から出て来たダリアさんは私たちを見て「おう」と手を上げた。作業中だったらしく、流れる汗を手の甲で拭った。
「どうした? こっちは順調だぞ。部品も無事に揃ったしな」
「何か手伝うことはありますか?」
私が言うと、ダリアさんは一瞬変な顔をしてから笑みを作った。
「相変わらずだな。手伝ってもらうことは特に……いや、なあ、あんた」
「俺?」
ハインツは目を瞬かせた。ダリアさんは何か値踏みでもするようにハインツの体を見てから大きく頷いた。
「あんた力あるだろ。ちょっと手伝ってくれるか?」
「わ、分かった」
ハインツが何故かこっちをちらちら見てくるので私は「頑張って!」とエールを送った。ハインツはぱっと表情を輝かせて嬉しそうに何度も頷く。可愛いな! 私は思わずにやついてしまった。
「ダリア、僕は手伝うこと無いの?」
シルフィもやる気に満ちているらしく、ダリアさんをじっと見上げる。ダリアさんは頭を掻いて少し唸った後、「無いな」と申し訳なさそうに言った。それなら、と私はシルフィに提案する。
「シルフィ、私たちは向こうの浜で遊ぼうよ。ね! 私、体動かしたいし、付き合ってくれると嬉しいな」
「いいよ! 行こ!」
少し落ち込んでいるように見えたのは気の所為だったのか、シルフィは元気よく返事をしてくれた。早速砂浜へ向かおうとすると、ダリアさんが言った。
「ああそうだ、雨が降りそうだから気を付けろよ」
「雨?」
「向こうに厚い雲があるだろ」
と沖の方を指差す。何重にも塗り重ねたような分厚い雲が遠くに見えた。
「気を付けますね。ありがとうございます」
私が礼を言うと、ダリアさんは「どうも調子狂うな」と苦笑してまた頭を掻いた。
「そう丁寧にされるとむず痒いな。俺はこんなんだからさ、もし失礼があったらすぐ言ってくれよ」
そんなに丁寧だったかな? 私はどう答えていいか迷って、とりあえず頷いて返事の代わりにした。
ダリアさんはハインツを連れて倉庫へ行ってしまったので、私とシルフィも浜へ向かった。
「何する?」
到着するなりシルフィが期待の眼差しで私を見上げてきた。砂浜での遊びに関しては私の方が詳しい。ここぞとばかりに胸を張って言った。
「砂で山を作ろう! 私がやり方を教えるね!」
「分かった!」
私はシルフィの目の前で、砂で山を作り海水をかけて固め、その上に砂を乗せてまた海水をかけ……と繰り返した。要領が分かって来たらしいシルフィも作業に参加して、二人でどんどん砂山を大きくしていった。
「ねえエコ」
「何?」
砂山が私の顔二つ分くらいの大きさになっている。高くするのはなかなか難しい。幅が広くなるばかりだ。バランスを考えつつ砂を乗せていると、シルフィがまっすぐした声で言った。
「これって何か意味があるの?」
「え。い、意味? 意味は……」
意味って何? 遊びに意味ってあるの? 私は手を止めて不格好な山を見つめた。意味。砂で山を作る意味とは。
「これは、遊びだから、特に意味は無いというか。ええと、ほら、完成したら嬉しいでしょ、だからそれが目的であって……達成感の為にやるというか……」
「どうなれば完成?」
砂山の完成ってどこ? シルフィはせっせと砂を積み続けている。私はすっかり手が止まってしまった。そういえば、砂山はよく作ったけど完成したって思ったことないな。
「完成は、その人次第というか。お、面白い、よね? これ」
不安になってきた。シルフィは「んー。よく分かんない」と正直に答えながら砂を掘っている。
「よし! やめよう! 他の遊びしよう!」
私は立ち上がって砂を払った。
それから私たちは砂浜に棒を立ててビーチフラッグスもどきをやったり、穴掘り競争をしたりした。シルフィが一番気に入ったのは、波打ち際に落書きをして、波で消えていくのを見る遊びだ。容赦なく波に消されていくのが面白かったらしい。砂浜の端から端まで線を引き切れるか波と競争をして、私は途中で体力が尽きてリタイア。シルフィはまだ一人で延々と砂浜を走り続けている。
シルフィの体力はすごい。いくら走っても息が切れる様子がないのだ。木の棒を砂に当てながらさーっと走って、途中で書いていた線が消されて悔しそうに戻って来て、また間もなく走り始める。もはや遊びというよりスポーツだ。自分の限界に挑戦している感じ。
「シルフィにとって遊びって――ん?」
ぽつん、と鼻に当たった。何だ? と思考を働かせる頭にぽつ、ぽつと感触が。シルフィも足を止めて上を見上げている。一体何が、って、
「雨か!」
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