キスだけは断固拒否します!現実に帰りたくないので!~異世界での私は救世主らしいです~

空木切

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船上

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 海の上は潮の匂いと共に穏やかな風が吹き抜けていた。私の首にはダリアさんに貰ったペンダントが下がっている。こんな小さなお守りなのにとても心強く感じられた。
「寝そう……」
 船は大きいのにすいすい進んだ。不自然なくらいに早いのは、魔力を使っているからだろう。それにしても居心地が良い。甲板でそのまま眠ってしまいそうだ。
 太陽の光を適度に浴びながら、はしゃぐシルフィを眺めて、うとうとしていた。
「エコ様」
 呼ばれているのに分からなかった。大分経ってから私の名前だと言うことに気付いて振り向くと、後ろで船を操縦していたはずのラウロがそこにいた。
「どうしたの?」
「少し……お願いがあります」
 言い辛そうに、申し訳なさそうにラウロが言ったのは、魔力が足りないので手伝って欲しいということだった。今日は風が無いので、波の力と海からの魔力と、ラウロの魔力を使って船を進ませていたらしい。
「ごめん、気付かなくて。ボケっとしてる場合じゃなかったね……」
「いえ。私が悪いんです」
 ラウロは少し顔色が悪かった。無理して自分の魔力を使ったのかもしれない。
「この下に魔力を溜めておける場所があります」
 と言って、操縦桿の足元のハッチを開いた。かなり急な階段がある。ラウロが先に降りて行ったので、私も緊張しながら降りた。
 そこは小さな部屋になっていた。木の壁にぐるぐると陣と模様と文字らしきものが、削って描かれていて、中央に手の平くらいの大きさの歪な石がはめこまれていた。
「この石に魔力を溜めるの?」
 私が問うと、ラウロは頷いて、壁に触れた。
「この魔法陣も、呪文も古いんですよ。もっと効率よく魔力を引き上げる方法もあるはずなんですが……ああ、今する話ではありませんね」
 操縦桿からも補助的に魔力を送れるけど、ここに溜めてから少しずつ使った方が効率がいいらしい。
 ラウロは魔法石だという歪な石に触れて、私に手を差し出した。私は首を傾げる。
「手だけでいいの?」
「何とかします」
 何とかします? 私はよく分からないままラウロの手に手を重ねた。
「腕輪外した方がいい?」
「いえ。やめておきましょう。魔物が多いですから……」
 腕輪を外した瞬間、海中にいる魔物に船をどかどか叩かれたら怖い。私は「そうだね」と頷いたきり、黙った。
 魔力、ちゃんと取れているのだろうか。引っ張られる感覚が無い。聞いてもいいものか、ラウロの顔色を窺っていると、彼は首を振った。
「すみません、駄目ですね。やはり手からでは難しいようです」
 それはそうだ。いつも私が何の為にシルフィを抱きしめたりユリスに抱きしめられたりしているのだろうという話だ。私が魔力の操作が出来ないので、魔力を渡すには全身で触れ合うしか方法がないのである。
「あの、他意はないですから」
 ラウロは気まずそうに言う。私は彼が何を遠慮しているのかよく分からない。以前はわけが分からないくらい距離が近かったのに。耳元で囁いたり首にキスまでした癖に。
 私はラウロの遠慮を取り除こうと、大袈裟に頷いて両腕を広げた。
「全然良いよ。どうしたの? 私、別に臭くないと思うけど」
「そういうことではなく……」
 ラウロは息を零して、後ろからでいいですか、と言った。私は魔法石の前に立って背を向ける。ラウロはかなり躊躇いながら、ゆっくり片腕を回した。もう片腕は魔法石の方に伸ばされる。私の魔力が引っ張られていく。
「…………ええと」
 無言だ。気まずい。何だろう。
「えーと、ラウロ、魔力は大丈夫なの? ここまで自分の魔力使ってたんでしょ?」
「大丈夫です」
「なら良かったです……」
 会話終了。私たち初対面だっけ? まるで、会社の飲み会の席で普段全然喋ったこともない同年代の人と隣になったのでとりあえず会話を試みた時のようである。仕事大変ですよねー、そうですねー……というような。
 私は話題を探して何とか話しかけた。
「船旅も新鮮で良いね。ラウロは操縦とか大変だろうけど、海の風とか気持ちいいよね」
「嫌ではないんですか」
「え? 大丈夫だよ、船も思ったより快適だし」
「好きでもない人に触れられて、嫌ではないんですか」
 ラウロは真剣な声で言っていた。私は笑おうとしたものの空気的に違うと思って真面目に考えた。
 気にしたこともなかった。魔力の為だし、相手がどうこうで不快に感じたこともない。
「嫌じゃないよ。私が役に立てるのはこれだけだし、考えたこともないな」
「貴方に邪な気持ちで触れる者がいるとは思わないんですか」
「ええ? そんなこと言われても……。いるかなあ?」
 悲しいことに自分ですら疑ってしまう。
「ハインツ様とのことをもうお忘れですか?」
「あ、いや~……あれは私が誤解させたのが悪いのであって、ハインツは全然悪くないというか」
 例のハインツ全裸事件の時のことだ。お互いの勘違いがすれ違って起きた事故のようなものである。決してハインツに邪な気持ちがあったわけでは……どうなんだろう? 無ければ何事も無かったわけであって……?
 今更疑問を覚えていると、ラウロが少し腕に力を込めた。
「私が今何をしても、貴方は自分が悪いと言うつもりですか?」
「え?」
 ドキッとした。何を、って何を? 振り向こうとして、今は魔力を送ってる最中だったと思い出してやめた。ラウロが言う。
「……すみません。失言でした。忘れてください」
「あ、い、いいよ、うん。うん」
 私は安堵していた。
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