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影の王様
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俺が許可を出してもいないのに愉快な一行は勝手に全部打ち切って、勝手に出て行ってしまった。がっかりだ。俺はとても残念で残念で、椅子にどっかり腰かけて、腹心であるベズを見やった。
「何なんだあれ。意味分かんねえ」
「はい。変わった方々でしたね」
「あーあ。折角面白そうだったのに。あの女も気になるし……なあ?」
俺が言うと、ベズは返事をせずに背を伸ばした。
「また戻ってくればいいけど」独り言のように呟く。
「……少し用を思い出しました」
「あ、そうなの? 俺は部屋に戻ってるから、何かあったら言ってくれ」
「はい」
ベズは大きい体を縮めるように丁寧に頭を下げて、どこかへ去って行った。俺はその行き先を知らない。知らない、ということになっている。
**
賑やかな喧騒から離れ人気のない船着き場へ戻って、船に乗って、私は我に返った。
「帰っちゃ駄目じゃないですか!?」
「うおっ。いきなり大声出すな」
ミケが目を見開いて私を振り返った。私はミケの、ではなくユリスの顔を見た。
「どうするんですか! 精霊のところ行けないじゃないですか!」
「他の方法を探す」
ユリスはいつもと変わらずクールに言って私から目をそらした。私は納得いかない。
「王様の言うこと聞いた方が早いじゃないですか、どう考えても」
「のこのこ出てきておいて今更何を言っている」
「それは、そうですけど……だって……」
シルフィには勝てない。私が反論できずにいじけていると、ミケがきっぱりと、
「済んだことはいいだろ」
「でも……私も役に立てると思ったのに。王様は嫌がることはしないって言ってたし」
「エコ」
ユリスに呼ばれた、と思った瞬間、頭をがしっと掴まれた。
「な、なんですか!?」
「奴は嫌なら嫌と言え、と言っていたな」
「そうですね」
「言ってみろ」
肌がちりちりと静電気のようなものを感じた。私は口を開くも、声の出し方が分からない。手足も動かせなかった。口だけが魚のように動くだけだ。これは、魔法だ。惨めにも全く抵抗出来ないまま、私は渋い顔をした。
「理解したか」
言いながらユリスは私の頭を解放した。
「よく分かりました……」
今度はちゃんと声が出た。前にも同じような魔法をかけられたのを思い出す。相手は違うけど。
つまりは、魔法をかけられてしまえば良いも嫌も言えなくなるということだ。だとしてもここで足踏みをしている場合ではないだろう。
「ユリスさん、でも、私が言うこと聞いて事が済むならその方が早いじゃないですか」
「黙れ」
「きゅ、急に辛辣……」
ラウロが船を出すと言うのを聞きながら、私は息を吐いた。これからどうするんだろう。と、ふと気付く。
「あれ。ハインツは?」
甲板に姿はない。シルフィも不思議そうに首を傾げて、私と一緒にきょろきょろした。
「見張りで残ってたはずだよな」
ミケの言葉に同意しながら姿を探して、ぎょっとした。ラウロの方へ走りながら叫ぶ。
「ラウロ、船止めて! ハインツが!」
「どうしました?」
「あれ見て、あれ!」
私は島の方を指差す。ハインツが剣を携えた男二人に捕まっていた。男たちは、ぐったりしたハインツの姿を私たちに見せつけるようにしている。どうやら意識が無いらしい。
「助けないと!」
「置いて行く手もあるが」といつの間にかそばに来ていたユリスが言った。私は無言で睨む。
「見覚えのある人物がいますね」
ラウロが目を細めて言った。私も目を凝らす。彼らから随分離れたところに、体格のいい男がいた。あれは王様の近くに控えていた、確か、ベズとかいう人だ。
「私が行きます」
ラウロが言って、タラップの準備を始めた。
「き、気を付けてね」
声をかけるも、ラウロは反応もせずにさっさと船を降りて行ってしまった。返事をする余裕もなかったのかもしれない。きっとそう。私はゆっくり息を吸って、吐いた。
「随分と手荒な真似をしますね」
ラウロが男たちに対峙する。男が言った。
「これはお前たちの仲間か」
「そうです」
「こいつは盗みを働いていた。悪いが連行させてもらう」
どういうこと? ハインツが盗みなんてするはずがない。私は船の縁から身を乗り出しながら事の成り行きを見守った。
「有り得ませんよ。下手な言いがかりはやめてください」
「確かに見たと証言があるんだ」
そう言って男が後ろを向くと、建物の陰からぞろぞろと人が現れた。皆腰に剣を下げている。ラウロ一人に対して、男たちは十人近くになっている。そのうちの一人が声を高らかに、どこどこの店でこういう商品を盗んだと何とか氏から通報があった、と言った。その真実味のある言い方に、気持ちが不安定になる。ハインツが盗みを働くなんて有り得ないのに。理解が出来ない。
「やべえな」
混乱する私の耳にミケの声が聞こえた。そっちを見ると、ミケは苦々しい顔をしていた。
「まずい。完全にはめられた。もっと警戒しとくべきだった」
「は、はめられたって?」
ミケに縋るように問うと、ミケは鋭く私を見た。
「あの王様だよ。ああ見えて実は超怒ってたのか、或いは……」
ミケは私を見ながら段々と表情を緩めて、終いには「ハハハ」と乾いた笑い声を零した。
「何で笑うの」
「面倒なのに好かれるなぁと思って」
「どういう意味?」
「別に」
ミケはまた笑って、「どうするかねぇ」と呟いた。
俺が許可を出してもいないのに愉快な一行は勝手に全部打ち切って、勝手に出て行ってしまった。がっかりだ。俺はとても残念で残念で、椅子にどっかり腰かけて、腹心であるベズを見やった。
「何なんだあれ。意味分かんねえ」
「はい。変わった方々でしたね」
「あーあ。折角面白そうだったのに。あの女も気になるし……なあ?」
俺が言うと、ベズは返事をせずに背を伸ばした。
「また戻ってくればいいけど」独り言のように呟く。
「……少し用を思い出しました」
「あ、そうなの? 俺は部屋に戻ってるから、何かあったら言ってくれ」
「はい」
ベズは大きい体を縮めるように丁寧に頭を下げて、どこかへ去って行った。俺はその行き先を知らない。知らない、ということになっている。
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賑やかな喧騒から離れ人気のない船着き場へ戻って、船に乗って、私は我に返った。
「帰っちゃ駄目じゃないですか!?」
「うおっ。いきなり大声出すな」
ミケが目を見開いて私を振り返った。私はミケの、ではなくユリスの顔を見た。
「どうするんですか! 精霊のところ行けないじゃないですか!」
「他の方法を探す」
ユリスはいつもと変わらずクールに言って私から目をそらした。私は納得いかない。
「王様の言うこと聞いた方が早いじゃないですか、どう考えても」
「のこのこ出てきておいて今更何を言っている」
「それは、そうですけど……だって……」
シルフィには勝てない。私が反論できずにいじけていると、ミケがきっぱりと、
「済んだことはいいだろ」
「でも……私も役に立てると思ったのに。王様は嫌がることはしないって言ってたし」
「エコ」
ユリスに呼ばれた、と思った瞬間、頭をがしっと掴まれた。
「な、なんですか!?」
「奴は嫌なら嫌と言え、と言っていたな」
「そうですね」
「言ってみろ」
肌がちりちりと静電気のようなものを感じた。私は口を開くも、声の出し方が分からない。手足も動かせなかった。口だけが魚のように動くだけだ。これは、魔法だ。惨めにも全く抵抗出来ないまま、私は渋い顔をした。
「理解したか」
言いながらユリスは私の頭を解放した。
「よく分かりました……」
今度はちゃんと声が出た。前にも同じような魔法をかけられたのを思い出す。相手は違うけど。
つまりは、魔法をかけられてしまえば良いも嫌も言えなくなるということだ。だとしてもここで足踏みをしている場合ではないだろう。
「ユリスさん、でも、私が言うこと聞いて事が済むならその方が早いじゃないですか」
「黙れ」
「きゅ、急に辛辣……」
ラウロが船を出すと言うのを聞きながら、私は息を吐いた。これからどうするんだろう。と、ふと気付く。
「あれ。ハインツは?」
甲板に姿はない。シルフィも不思議そうに首を傾げて、私と一緒にきょろきょろした。
「見張りで残ってたはずだよな」
ミケの言葉に同意しながら姿を探して、ぎょっとした。ラウロの方へ走りながら叫ぶ。
「ラウロ、船止めて! ハインツが!」
「どうしました?」
「あれ見て、あれ!」
私は島の方を指差す。ハインツが剣を携えた男二人に捕まっていた。男たちは、ぐったりしたハインツの姿を私たちに見せつけるようにしている。どうやら意識が無いらしい。
「助けないと!」
「置いて行く手もあるが」といつの間にかそばに来ていたユリスが言った。私は無言で睨む。
「見覚えのある人物がいますね」
ラウロが目を細めて言った。私も目を凝らす。彼らから随分離れたところに、体格のいい男がいた。あれは王様の近くに控えていた、確か、ベズとかいう人だ。
「私が行きます」
ラウロが言って、タラップの準備を始めた。
「き、気を付けてね」
声をかけるも、ラウロは反応もせずにさっさと船を降りて行ってしまった。返事をする余裕もなかったのかもしれない。きっとそう。私はゆっくり息を吸って、吐いた。
「随分と手荒な真似をしますね」
ラウロが男たちに対峙する。男が言った。
「これはお前たちの仲間か」
「そうです」
「こいつは盗みを働いていた。悪いが連行させてもらう」
どういうこと? ハインツが盗みなんてするはずがない。私は船の縁から身を乗り出しながら事の成り行きを見守った。
「有り得ませんよ。下手な言いがかりはやめてください」
「確かに見たと証言があるんだ」
そう言って男が後ろを向くと、建物の陰からぞろぞろと人が現れた。皆腰に剣を下げている。ラウロ一人に対して、男たちは十人近くになっている。そのうちの一人が声を高らかに、どこどこの店でこういう商品を盗んだと何とか氏から通報があった、と言った。その真実味のある言い方に、気持ちが不安定になる。ハインツが盗みを働くなんて有り得ないのに。理解が出来ない。
「やべえな」
混乱する私の耳にミケの声が聞こえた。そっちを見ると、ミケは苦々しい顔をしていた。
「まずい。完全にはめられた。もっと警戒しとくべきだった」
「は、はめられたって?」
ミケに縋るように問うと、ミケは鋭く私を見た。
「あの王様だよ。ああ見えて実は超怒ってたのか、或いは……」
ミケは私を見ながら段々と表情を緩めて、終いには「ハハハ」と乾いた笑い声を零した。
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「どういう意味?」
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