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影の王様
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何故か目が覚めた。私の本能が今だと感じたのかもしれない。
繋いだ手は離れていて、アルバは私に背を向けて熟睡している。チャンス! 大チャンスだ!
私は眠い頭を素早く覚醒させると、物音を立てないようにそっとベッドから降りた。……裏切るみたいで少し心が痛むけど仕方ない。心の中で謝りながら部屋を出た。
廊下を当てもなく歩く。暗い上に道順も覚えていないので出口がどこか分からない。と、曲がり角から大きな人影が現れた。危うく出かけた悲鳴を抑える。
人影の正体は、ベズさんだった。私は気まずさに俯くしかない。逃走劇もここまでか。観念する私の耳に届いたのは、
「……俺は何も見ていない」
小さく低い呟きだった。驚く私を見もせず、彼は道の先を指差しながら続けた。
「ここをまっすぐ行け。後は明るい方に向かえばいい」
「あ、ありがとうございます!」
囁き声で礼を言って頭を下げた。すぐに言われた通りの道を行く。まさか見逃してもらえるとは思わなかった。廊下は寒かったけれど、心は温かかった。
外に出ると扉のすぐ脇に見張りの人がいた。二人とも私を見ても無反応だ。いいのかな? びくびくしつつも、無事に脱出。しかしのんびりしている暇はない。とにかく遠くへ行かなければ。夜空の下、私は船着き場の方へと向かった。
人通りが少ないのもあって、あっけなく船着き場に辿り着いた。ひとまず建物の陰に体を隠す。
ここにいればみんな迎えに来てくれるだろうか。来て、くれるのかな。
暗い海と暗い空に挟まれて、独りぼっちで膝を抱えた。夜は寒い。アルバの話が頭に浮かぶ。大好きだった母親を亡くして、一人で眠る夜の話。私は逃げてきて良かったのか、悩んでしまう。……これ以上考えるのはやめよう。私にはやるべきことがあるんだから。
少しずつ空が明るくなり始めた。白い光に気持ちが安らぐ。完全に気が緩んだところに突然肩を掴まれた。
「えっ!?」
「いたぞ!」
相手は知らない男の人だった。剣も持っていない、普通の島の人だ。私は慌てた。
「ち、違います! 人違いです!」
「大人しくしろ、すぐに引き渡すからな」
「違います、違うんですよ! 本当に誤解です!」
自分でも何を言っているか分からない。彼は私の腕をぐいぐい引っ張りながらどこかへ向かおうとする。私は抵抗した。
「離してください! 何するんですか!」
「お前、王の下から逃げて来たんだろう。分かってるからな」
怖い顔で睨まれた。バレている。どうしよう。このままだとまた王様のところに逆戻りだ。何とか隙を見て逃げ出すことは出来ないか、必死で頭を働かせる。助けは期待できない。私は今一人きりなんだから。――本当に?
私はシルフィの真剣な顔を思い出していた。もし、私が助けてって言ったら助けに来てくれる? 気休めが欲しくて言った言葉に、シルフィはきちんと答えてくれた。それなら、信じなきゃ。絶対にみんなは迎えに来てくれる、絶対にシルフィは助けに来てくれる。
私は肺に空気をいっぱい吸い込んだ。そして叫ぶ。
「シルフィ、助けて!!」
喉がひりひり痛んだ。シルフィは絶対助けに来てくれる、そう言ってくれたんだから。私が信じなくてどうする!
男は私の大声に驚いたのか目を丸くしている。
「いきなり何を言って……ん?」
男の声に混じって何かが聞こえる。私は海の方を振り向いた。夜明けの空を飛ぶ一羽の鳥……ではなく。
「エコー!」
私の名を呼ぶ声はどんな音よりも高く綺麗に聞こえた。私は海の方へ身を乗り出す。
「シルフィ! ここ! ここだよ!」
掴まれていない方の手を必死で振った。鳥はどんどん近付いてきて、その巨大な姿を見せる。
「なっ、何だ、魔物か!? ひえっ……!」
男は悲鳴を上げながら私から手を離した。私はすぐに大鳥に駆け寄る。シルフィは白馬の王子様よろしく地面に降り立って言った。
「エコ、大丈夫だった!?」
私を心配する表情も凛々しい。しばらく離れていた所為か、少し大きくなったように見えた。
「シルフィー! 男前になったね~!」
感動のあまり泣きそうになっていると、シルフィは困った顔をした。
「う、うん……。エコ、痛いところは無い?」
「大丈夫。全然平気」
じっとシルフィに見つめられる。気になることでもあるのかな。私は念を押すように繰り返した。
「本当に何も無いよ、大丈夫!」
「良かった」
シルフィは柔らかく大人びた笑みを浮かべた。この子、こんなに大人だったっけ!? 私はついどぎまぎしてしまった。さりげなく自分の髪型を整えてみたりする。寝癖ついてないよね?
繋いだ手は離れていて、アルバは私に背を向けて熟睡している。チャンス! 大チャンスだ!
私は眠い頭を素早く覚醒させると、物音を立てないようにそっとベッドから降りた。……裏切るみたいで少し心が痛むけど仕方ない。心の中で謝りながら部屋を出た。
廊下を当てもなく歩く。暗い上に道順も覚えていないので出口がどこか分からない。と、曲がり角から大きな人影が現れた。危うく出かけた悲鳴を抑える。
人影の正体は、ベズさんだった。私は気まずさに俯くしかない。逃走劇もここまでか。観念する私の耳に届いたのは、
「……俺は何も見ていない」
小さく低い呟きだった。驚く私を見もせず、彼は道の先を指差しながら続けた。
「ここをまっすぐ行け。後は明るい方に向かえばいい」
「あ、ありがとうございます!」
囁き声で礼を言って頭を下げた。すぐに言われた通りの道を行く。まさか見逃してもらえるとは思わなかった。廊下は寒かったけれど、心は温かかった。
外に出ると扉のすぐ脇に見張りの人がいた。二人とも私を見ても無反応だ。いいのかな? びくびくしつつも、無事に脱出。しかしのんびりしている暇はない。とにかく遠くへ行かなければ。夜空の下、私は船着き場の方へと向かった。
人通りが少ないのもあって、あっけなく船着き場に辿り着いた。ひとまず建物の陰に体を隠す。
ここにいればみんな迎えに来てくれるだろうか。来て、くれるのかな。
暗い海と暗い空に挟まれて、独りぼっちで膝を抱えた。夜は寒い。アルバの話が頭に浮かぶ。大好きだった母親を亡くして、一人で眠る夜の話。私は逃げてきて良かったのか、悩んでしまう。……これ以上考えるのはやめよう。私にはやるべきことがあるんだから。
少しずつ空が明るくなり始めた。白い光に気持ちが安らぐ。完全に気が緩んだところに突然肩を掴まれた。
「えっ!?」
「いたぞ!」
相手は知らない男の人だった。剣も持っていない、普通の島の人だ。私は慌てた。
「ち、違います! 人違いです!」
「大人しくしろ、すぐに引き渡すからな」
「違います、違うんですよ! 本当に誤解です!」
自分でも何を言っているか分からない。彼は私の腕をぐいぐい引っ張りながらどこかへ向かおうとする。私は抵抗した。
「離してください! 何するんですか!」
「お前、王の下から逃げて来たんだろう。分かってるからな」
怖い顔で睨まれた。バレている。どうしよう。このままだとまた王様のところに逆戻りだ。何とか隙を見て逃げ出すことは出来ないか、必死で頭を働かせる。助けは期待できない。私は今一人きりなんだから。――本当に?
私はシルフィの真剣な顔を思い出していた。もし、私が助けてって言ったら助けに来てくれる? 気休めが欲しくて言った言葉に、シルフィはきちんと答えてくれた。それなら、信じなきゃ。絶対にみんなは迎えに来てくれる、絶対にシルフィは助けに来てくれる。
私は肺に空気をいっぱい吸い込んだ。そして叫ぶ。
「シルフィ、助けて!!」
喉がひりひり痛んだ。シルフィは絶対助けに来てくれる、そう言ってくれたんだから。私が信じなくてどうする!
男は私の大声に驚いたのか目を丸くしている。
「いきなり何を言って……ん?」
男の声に混じって何かが聞こえる。私は海の方を振り向いた。夜明けの空を飛ぶ一羽の鳥……ではなく。
「エコー!」
私の名を呼ぶ声はどんな音よりも高く綺麗に聞こえた。私は海の方へ身を乗り出す。
「シルフィ! ここ! ここだよ!」
掴まれていない方の手を必死で振った。鳥はどんどん近付いてきて、その巨大な姿を見せる。
「なっ、何だ、魔物か!? ひえっ……!」
男は悲鳴を上げながら私から手を離した。私はすぐに大鳥に駆け寄る。シルフィは白馬の王子様よろしく地面に降り立って言った。
「エコ、大丈夫だった!?」
私を心配する表情も凛々しい。しばらく離れていた所為か、少し大きくなったように見えた。
「シルフィー! 男前になったね~!」
感動のあまり泣きそうになっていると、シルフィは困った顔をした。
「う、うん……。エコ、痛いところは無い?」
「大丈夫。全然平気」
じっとシルフィに見つめられる。気になることでもあるのかな。私は念を押すように繰り返した。
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(追記2018.07.24)
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ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
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