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楽園の在り処
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「私が頑張れば、全部上手くいくかもしれない。だから……ん?」
外が騒がしい。咄嗟に息を潜めた。
「いやいや、何言ってんだ。あれは息子が作った船だよ! ダリア! 説明してやってくれ!」
親父さんの声だ。私たちはダリアさんと顔を見合わせる。
「……あんたら、二階に隠れててくれ」
私たちは急いで二階へ上がって再び息を潜めた。外の会話が聞こえてくる。
「さっき船を上げてただろう! 奴らが乗って来た船じゃないのか!」
「俺が作った船だ。買ってくれるってんならいくらでも見ていいぞ」
ダリアさんの言葉に、誰かが疑わしげな声を出した。
「匿ってんだろ? 相手は犯罪者だぞ?」
「わけ分かんねえこと言ってねえで仕事しろ」
「なあ……金なら分けてやるからさ」
「何の話だ」
急な展開に私は耳を澄ませた。相手が猫撫で声で言う。
「犯罪者を捕まえると報奨金が出るらしいじゃねえか。王から直々に、しかも大金だぞ大金!」
「はあ?」
「お前らの商売より相当儲かるぜ。こんな貧乏から脱したいだろ? 半分は分けてやるからさ、協力しろよ、な? どこにいるか教えろよ」
王様め、なんて卑怯な! お金で釣るとは! 私は歯軋りした。お金の力は強い。異世界でも同じだ。
正直な話、私は売られても文句は言えないなと思った。私たちに協力しても何のメリットもなく危険なだけ。しかし私たちを捕まえて差し出せば大金が手に入るのだ。ダリアさんは好きなように船を作って過ごせる。生活にも困らない。
ダリアさんの答えは、
「そういうことなら、教えてやる。こっちだ」
仕方ない。仕方ないんだこれは。ダリアさんを責める資格は無い。彼は誰かを連れて私たちのいる方へ……は来なかった。代わりに水音と悲鳴が聞こえる。
「テメッ、なにしやがる! う、海に落とすなんて、魔物に襲われでもしたら死んじまうだろうが!」
「そこで頭を冷やせ。金に目が眩んでんじゃねえよ、この馬鹿野郎が」
ミケが小さな声で「いい男じゃ~ん」と言ったのが聞こえた。私も同意見です。何て言い表していいか分からないけれど、嬉しさと感謝で気持ちがいっぱいいっぱいだ。
「俺は善意で言ってんだよ! ろくに客も来ねえ商売してよ、心配してやってんだぞ!」
「うるせえんだよ。放っとけ。次来たら沖に放り投げるからな」
ダリアさんは家に戻って来て「追い払ったぞ」と仏頂面で言った。ラウロがすかさず頭を下げる。
「助かりました。ですがここも安全ではありませんね」
「国を出るしかないな」
「そうですね」
ユリスの言葉にラウロが頷いた。確かに、この調子ではとても身動きが取れない。一度国を出て仕切り直すしかないのか。私の頭の中で思考が渦を巻く。元はと言えば全部私の所為だ。
「ねえ、やっぱり私が……」
「一晩くれ」
「え?」
ダリアさんはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「俺に、一晩くれ。船を整備する時間が欲しい。あんたらを、精霊のところに連れていく」
「い、いいんですか?」
ダリアさんを見上げると、強い眼差しで頷いてくれた。
「悪い。目が覚めた。日和ってる場合じゃなかったな。金目当てじゃなく、俺を船大工と船乗りとして頼ってくれたあんたらの力になりたい」
「ありがとうダリアさん! 本当に……」
感極まって私は言葉に詰まってしまった。この気持ちをそのまま全部伝えられればいいのに。ダリアさんは照れ臭そうに笑みを浮かべた。
「セレンを渡しておいて、手前で守れもしねえんじゃ格好悪すぎるわな」
わはは、とダリアさんは豪快に笑い声を上げて、目を丸くしている私に続けて言った。
「あー、と、そうだ、魔力はどれくらい使えるんだ? 先に知っておきたいんだが」
「は、はい」
私は一応主従の様子を窺った。ユリスが小さく頷いたので、教えることにする。
「ダリアさん、手を出してもらえますか?」
「ん? ああ」
私は腕輪を外すと、ダリアさんの大きな手を握った。
「えっ、な、何だ、きゅ、急に」
途端にあたふたし始めた。握る前に何か言うべきだったかな。そわついていたダリアさんは突然動きを止めて、私の手を凝視した。
「なっ……なんだ、どうなってんだ……あんた一体」
「私のこの魔力を使って、精霊を起こすんです。たくさん使えるみたいなので、魔力については心配しないでください」
そう言って私はダリアさんから手を離した。腕輪も忘れずにつける。ダリアさんは怯えたように私を見ている。みんな似たような反応をするんだな。まるで私が化け物のようである。
「お、驚いたな。変わった奴だとは思ってたが、ここまでとは」
「私変わってますか」
「ああ、まあ……あ、わ、悪い意味じゃないぞ」
「いいんですよ、正直に言ってくれて。変わってるのは分かってますから」
少し拗ねた気分になってしまった。ダリアさんはフォローしようとしてか、慌てた様子で言った。
「全然、悪くない。良いと思うぞ俺は。逆に変わってるからこそ良いというか、ほら、だから」
「大丈夫ですよ本当に」
「そういうところが好き、な、奴もいる……かもしれないだろ。な!」
「あはは、ありがとうございます」
ダリアさんは汗まで掻きながら必死で弁明している。その慌てっぷりに私はおかしくなってしまった。ミケが小さな声で「ヘタレ」と言ったのが聞こえた気がした。
外が騒がしい。咄嗟に息を潜めた。
「いやいや、何言ってんだ。あれは息子が作った船だよ! ダリア! 説明してやってくれ!」
親父さんの声だ。私たちはダリアさんと顔を見合わせる。
「……あんたら、二階に隠れててくれ」
私たちは急いで二階へ上がって再び息を潜めた。外の会話が聞こえてくる。
「さっき船を上げてただろう! 奴らが乗って来た船じゃないのか!」
「俺が作った船だ。買ってくれるってんならいくらでも見ていいぞ」
ダリアさんの言葉に、誰かが疑わしげな声を出した。
「匿ってんだろ? 相手は犯罪者だぞ?」
「わけ分かんねえこと言ってねえで仕事しろ」
「なあ……金なら分けてやるからさ」
「何の話だ」
急な展開に私は耳を澄ませた。相手が猫撫で声で言う。
「犯罪者を捕まえると報奨金が出るらしいじゃねえか。王から直々に、しかも大金だぞ大金!」
「はあ?」
「お前らの商売より相当儲かるぜ。こんな貧乏から脱したいだろ? 半分は分けてやるからさ、協力しろよ、な? どこにいるか教えろよ」
王様め、なんて卑怯な! お金で釣るとは! 私は歯軋りした。お金の力は強い。異世界でも同じだ。
正直な話、私は売られても文句は言えないなと思った。私たちに協力しても何のメリットもなく危険なだけ。しかし私たちを捕まえて差し出せば大金が手に入るのだ。ダリアさんは好きなように船を作って過ごせる。生活にも困らない。
ダリアさんの答えは、
「そういうことなら、教えてやる。こっちだ」
仕方ない。仕方ないんだこれは。ダリアさんを責める資格は無い。彼は誰かを連れて私たちのいる方へ……は来なかった。代わりに水音と悲鳴が聞こえる。
「テメッ、なにしやがる! う、海に落とすなんて、魔物に襲われでもしたら死んじまうだろうが!」
「そこで頭を冷やせ。金に目が眩んでんじゃねえよ、この馬鹿野郎が」
ミケが小さな声で「いい男じゃ~ん」と言ったのが聞こえた。私も同意見です。何て言い表していいか分からないけれど、嬉しさと感謝で気持ちがいっぱいいっぱいだ。
「俺は善意で言ってんだよ! ろくに客も来ねえ商売してよ、心配してやってんだぞ!」
「うるせえんだよ。放っとけ。次来たら沖に放り投げるからな」
ダリアさんは家に戻って来て「追い払ったぞ」と仏頂面で言った。ラウロがすかさず頭を下げる。
「助かりました。ですがここも安全ではありませんね」
「国を出るしかないな」
「そうですね」
ユリスの言葉にラウロが頷いた。確かに、この調子ではとても身動きが取れない。一度国を出て仕切り直すしかないのか。私の頭の中で思考が渦を巻く。元はと言えば全部私の所為だ。
「ねえ、やっぱり私が……」
「一晩くれ」
「え?」
ダリアさんはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「俺に、一晩くれ。船を整備する時間が欲しい。あんたらを、精霊のところに連れていく」
「い、いいんですか?」
ダリアさんを見上げると、強い眼差しで頷いてくれた。
「悪い。目が覚めた。日和ってる場合じゃなかったな。金目当てじゃなく、俺を船大工と船乗りとして頼ってくれたあんたらの力になりたい」
「ありがとうダリアさん! 本当に……」
感極まって私は言葉に詰まってしまった。この気持ちをそのまま全部伝えられればいいのに。ダリアさんは照れ臭そうに笑みを浮かべた。
「セレンを渡しておいて、手前で守れもしねえんじゃ格好悪すぎるわな」
わはは、とダリアさんは豪快に笑い声を上げて、目を丸くしている私に続けて言った。
「あー、と、そうだ、魔力はどれくらい使えるんだ? 先に知っておきたいんだが」
「は、はい」
私は一応主従の様子を窺った。ユリスが小さく頷いたので、教えることにする。
「ダリアさん、手を出してもらえますか?」
「ん? ああ」
私は腕輪を外すと、ダリアさんの大きな手を握った。
「えっ、な、何だ、きゅ、急に」
途端にあたふたし始めた。握る前に何か言うべきだったかな。そわついていたダリアさんは突然動きを止めて、私の手を凝視した。
「なっ……なんだ、どうなってんだ……あんた一体」
「私のこの魔力を使って、精霊を起こすんです。たくさん使えるみたいなので、魔力については心配しないでください」
そう言って私はダリアさんから手を離した。腕輪も忘れずにつける。ダリアさんは怯えたように私を見ている。みんな似たような反応をするんだな。まるで私が化け物のようである。
「お、驚いたな。変わった奴だとは思ってたが、ここまでとは」
「私変わってますか」
「ああ、まあ……あ、わ、悪い意味じゃないぞ」
「いいんですよ、正直に言ってくれて。変わってるのは分かってますから」
少し拗ねた気分になってしまった。ダリアさんはフォローしようとしてか、慌てた様子で言った。
「全然、悪くない。良いと思うぞ俺は。逆に変わってるからこそ良いというか、ほら、だから」
「大丈夫ですよ本当に」
「そういうところが好き、な、奴もいる……かもしれないだろ。な!」
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