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白の裏は
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地上へ出る。立派だが開きっぱなしの城門、その前に兵士が見えた。兵士はオレたちを見て訝しげな顔をする。
「ではハインツ様、よろしくお願いします」
ラウロが堂々と指示をすると、ハインツは頷いて背中の剣を抜いた。囮役のハインツには叫んで暴れろとだけ伝えてある。
「エコさんはどこだああ!?」
ハインツは叫びながら兵士の方へ突進していった。兵士は困惑している。
「え? ……えっ、だ、誰!?」
「エコさんをここに連れてきてよ! 居場所は!?」
「だ、だから、一体誰のことを……」
どうしたどうしたと他の兵士も現れる。ハインツが叫んで兵士たちが注目している隙に、オレたちはささっと城門をくぐり抜けて城へ入ってしまった。背後でわーわー言いながら暴れるハインツの姿を振り返る。勇敢だ。そういやオレを助けてくれたこともあったっけ。やっぱり大きくて力があると違うよなあ、羨ましいことだ。
いざ侵入が成功すると、オレたちは客人面をして堂々と歩いた。
「さっきの兵士。エコがここにいることを知らない様子だったな」
ユリスの堂々たる様子といったらまるで我が家のごとくだ。ユリスは肩身が狭いとかそういう思いはしたことがないんだろうな。
「末端の兵士には知らされていないのでは?」
これまた当然の顔をして歩くラウロ。オレなんて城の中とか、つい金目の物とか探しちまうってのにやっぱり生まれも育ちも違うと違うんだねえ。ユリスがまた言う。
「魔力を使うつもりならば、どうしても国中に知れ渡る。エコが逃げ出した時の為にもせめて兵士には知らせておくべきだろう。何か理由があって隠しているのか……」
言いながら立ち止まった。何かの匂いの先を辿るように顔をゆっくり巡らせる。
「魔力の妙な動きがあるな」
「全然分かんねえぞ」
「こっちだ」
ユリスは先導して歩き出した。早足のそれについて行きながらオレは肝心のところを問う。
「なあ、エコを見つけたらどうするんだ? まさか無理矢理連れて帰るつもりじゃないよな?」
「話が通じんなら仕方あるまい」
「ああ、そうですか……」
ただの人攫いですよオレたち。呆れていると、シルフィが声を上げた。
「駄目だよ!」
「なんだ召喚士。文句があるなら帰れ」
シルフィはユリスの隣に並びながらその顔を見上げた。
「エコがどうしたいか、ちゃんと聞かなきゃ駄目だよ……!」
「話なら昼間も出来たはずだろう」
ユリスはにべもない。エコが自分から離れたことに相当ご立腹らしい。エコも苦労するなあ。オレはシルフィの意見に同調する。
「シルフィくんの言う通りだと思うぜ。エコの気持ちが一番大事だろ」
「あれは危機感が欠落している。己の立場も状況も何一つ理解していない」
「だからエコが何言っても無視するってのか? ったく、そんなだからエコが……」
「お前に何が分かる」
吐き捨てるように、しかし重みのある言い方だった。空気がひりつく。ユリスが必死なのはよく分かるが、これじゃどう足掻いたって余計に空回るだけだ。オレは諦めて息を吐いた。
ユリスはエコのことが大ッ好きで暇さえあればずーーーっと見てるのは知ってるが、そこまで好きなら多少歩み寄ろうとかいう気持ちは生まれないのか。疑問だ。悲しいことにエコはユリスのことを怖がっている。ユリスは気付いてないんだろうなあ。本当は頼って欲しいだけなんだろうに。
部屋の前で立ち止まった。
「ここだ。魔力が妙な動きをしている」
オレは横からひょっこり顔を出して、高級そうなドアの取っ手を掴んだ。開かない。そりゃそうか。
「まあここにエコがいるとも限らないわけだし、様子を窺って」
「邪魔だ」
ユリスが取っ手を掴むと、バキッと派手な音がしてドアごと壊れた。
「馬鹿力!?」
「魔法だ」
「いや魔法にしてももっと賢い方法がって聞いてねえか~。エコがいなかったらどうす……」
部屋の光景に言葉の先を呑み込んだ。思考が止まる。恐らくは全員がそうだろうと思う。
エコがいた。ベッドの上で丸くなっている。目を閉じて、苦しそうに呻きながらシーツをぎゅっと握りしめていた。大きな金色の首輪、両足首には足枷。足枷は鎖でベッドの足と繋がれている。
怒りなのか悔しさなのか、とにかく激しい感情が沸き上がってきて必死で抑え込んだ。
「エコ……」
シルフィが恐る恐る近付いてエコの肩に触れる。エコはびくっと震えて薄っすら目を開けた。
「うっ! な、何……?」
「大丈夫か!? 意識はあるんだな?」
「どけ」
駆け寄ろうとするもユリスに押し退けられる。むっとしたが、ここは魔法が得意な人間に任せるしかない。
ユリスは足枷の鎖を切断すると、首輪を外そうとしてか手を伸ばした。エコは怯えた様子で後退る。
「来ないで!」
「それを外すだけだ。大人しくしていろ」
「触らないでっ!」
エコはユリスの手を振り払った。白いドレスを纏った体を縮めて、魔物でも見るような目でユリスを見ている。ユリスは渋々といった様子で言った。
「首輪が魔力を吸い取っている。お前が苦しいのはそれが原因だろう。ただ外すだけだ」
恐怖を無くすためか、ユリスにしては丁寧な説明だ。それでもエコは変わらない目つきで、首を横に振った。そして衝撃的なことを言う。
「何を言ってるか分かりません……貴方は誰なんですか、何しに来たんですか」
空気が止まった。オレの心臓も一瞬止まったかと思った。色んな意味で。冗談にしては笑えない。
「ではハインツ様、よろしくお願いします」
ラウロが堂々と指示をすると、ハインツは頷いて背中の剣を抜いた。囮役のハインツには叫んで暴れろとだけ伝えてある。
「エコさんはどこだああ!?」
ハインツは叫びながら兵士の方へ突進していった。兵士は困惑している。
「え? ……えっ、だ、誰!?」
「エコさんをここに連れてきてよ! 居場所は!?」
「だ、だから、一体誰のことを……」
どうしたどうしたと他の兵士も現れる。ハインツが叫んで兵士たちが注目している隙に、オレたちはささっと城門をくぐり抜けて城へ入ってしまった。背後でわーわー言いながら暴れるハインツの姿を振り返る。勇敢だ。そういやオレを助けてくれたこともあったっけ。やっぱり大きくて力があると違うよなあ、羨ましいことだ。
いざ侵入が成功すると、オレたちは客人面をして堂々と歩いた。
「さっきの兵士。エコがここにいることを知らない様子だったな」
ユリスの堂々たる様子といったらまるで我が家のごとくだ。ユリスは肩身が狭いとかそういう思いはしたことがないんだろうな。
「末端の兵士には知らされていないのでは?」
これまた当然の顔をして歩くラウロ。オレなんて城の中とか、つい金目の物とか探しちまうってのにやっぱり生まれも育ちも違うと違うんだねえ。ユリスがまた言う。
「魔力を使うつもりならば、どうしても国中に知れ渡る。エコが逃げ出した時の為にもせめて兵士には知らせておくべきだろう。何か理由があって隠しているのか……」
言いながら立ち止まった。何かの匂いの先を辿るように顔をゆっくり巡らせる。
「魔力の妙な動きがあるな」
「全然分かんねえぞ」
「こっちだ」
ユリスは先導して歩き出した。早足のそれについて行きながらオレは肝心のところを問う。
「なあ、エコを見つけたらどうするんだ? まさか無理矢理連れて帰るつもりじゃないよな?」
「話が通じんなら仕方あるまい」
「ああ、そうですか……」
ただの人攫いですよオレたち。呆れていると、シルフィが声を上げた。
「駄目だよ!」
「なんだ召喚士。文句があるなら帰れ」
シルフィはユリスの隣に並びながらその顔を見上げた。
「エコがどうしたいか、ちゃんと聞かなきゃ駄目だよ……!」
「話なら昼間も出来たはずだろう」
ユリスはにべもない。エコが自分から離れたことに相当ご立腹らしい。エコも苦労するなあ。オレはシルフィの意見に同調する。
「シルフィくんの言う通りだと思うぜ。エコの気持ちが一番大事だろ」
「あれは危機感が欠落している。己の立場も状況も何一つ理解していない」
「だからエコが何言っても無視するってのか? ったく、そんなだからエコが……」
「お前に何が分かる」
吐き捨てるように、しかし重みのある言い方だった。空気がひりつく。ユリスが必死なのはよく分かるが、これじゃどう足掻いたって余計に空回るだけだ。オレは諦めて息を吐いた。
ユリスはエコのことが大ッ好きで暇さえあればずーーーっと見てるのは知ってるが、そこまで好きなら多少歩み寄ろうとかいう気持ちは生まれないのか。疑問だ。悲しいことにエコはユリスのことを怖がっている。ユリスは気付いてないんだろうなあ。本当は頼って欲しいだけなんだろうに。
部屋の前で立ち止まった。
「ここだ。魔力が妙な動きをしている」
オレは横からひょっこり顔を出して、高級そうなドアの取っ手を掴んだ。開かない。そりゃそうか。
「まあここにエコがいるとも限らないわけだし、様子を窺って」
「邪魔だ」
ユリスが取っ手を掴むと、バキッと派手な音がしてドアごと壊れた。
「馬鹿力!?」
「魔法だ」
「いや魔法にしてももっと賢い方法がって聞いてねえか~。エコがいなかったらどうす……」
部屋の光景に言葉の先を呑み込んだ。思考が止まる。恐らくは全員がそうだろうと思う。
エコがいた。ベッドの上で丸くなっている。目を閉じて、苦しそうに呻きながらシーツをぎゅっと握りしめていた。大きな金色の首輪、両足首には足枷。足枷は鎖でベッドの足と繋がれている。
怒りなのか悔しさなのか、とにかく激しい感情が沸き上がってきて必死で抑え込んだ。
「エコ……」
シルフィが恐る恐る近付いてエコの肩に触れる。エコはびくっと震えて薄っすら目を開けた。
「うっ! な、何……?」
「大丈夫か!? 意識はあるんだな?」
「どけ」
駆け寄ろうとするもユリスに押し退けられる。むっとしたが、ここは魔法が得意な人間に任せるしかない。
ユリスは足枷の鎖を切断すると、首輪を外そうとしてか手を伸ばした。エコは怯えた様子で後退る。
「来ないで!」
「それを外すだけだ。大人しくしていろ」
「触らないでっ!」
エコはユリスの手を振り払った。白いドレスを纏った体を縮めて、魔物でも見るような目でユリスを見ている。ユリスは渋々といった様子で言った。
「首輪が魔力を吸い取っている。お前が苦しいのはそれが原因だろう。ただ外すだけだ」
恐怖を無くすためか、ユリスにしては丁寧な説明だ。それでもエコは変わらない目つきで、首を横に振った。そして衝撃的なことを言う。
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