キスだけは断固拒否します!現実に帰りたくないので!~異世界での私は救世主らしいです~

空木切

文字の大きさ
223 / 252
分岐点

221

しおりを挟む
 目覚めた時、毛布の中には私しかいなかった。何枚も重なった毛布をどかして体を起こす。みんながテーブルを囲んで何か食べているのが見えた。朝食だ。ミケが私を見て笑みを浮かべた。
「お、なんだ腹減って起きたか」
「エコさんっ! エコさんの分もちゃんとあるからね!」
「おはようエコ」
 シルフィの頭がぼさぼさだ。まだ眠そうに見える。私は挨拶を返して氷のように冷たい水で顔を洗った。
 パンのみという簡単な朝食を終えて、ラウロが出立の準備をしている間に私は言った。
「ユリスさん。ディキタニアの為の農業の仕事って私にも出来ますか?」
 世界を救う旅が終われば次に考えるのは普通の生活のことだ。昨日のユリスの話だと、ディキタニアの人たちにメセイルの土地を貸すという話だった。開拓して農業して、ディキタニアの人たちの為に食物を生産する。私も手伝いたいと思ったのだ。
「ちょっとくらいなら食べ物も貰えますよね?」
 目の前に座るユリスに言うが、ユリスは渋い顔をして黙っている。
「え、駄目なんですか?」
「エコには無理だろ。肉体労働だぞ」
 床でだらけているミケが「無理無理」と手を振った。私はむっとする。
「私、昔おばあちゃんの畑手伝ったことあるし」
「規模が違うだろ規模が」
 そう言うミケを睨んでいて気付いた。ミケはこれからどうするつもりなんだろう。この中で出身地が違うのは私とミケだけだ。
「ミケは緩衝地帯に帰るの?」
「オレなあ、どうすっかなー」
「メセイルへ移住する気があるならそれでも構わんぞ」
 とユリスが言った。ミケは「あー」と苦々しい顔をする。何か都合が悪いのだろうか。私は後押しをする。
「前にメセイルに住みたいって言ってなかったっけ? いいじゃん。移住しなよ」
「えー……いやー、でもなあ」
「俺の村に来る? 人手が足りないから歓迎してくれると思う」
 ハインツが言うもミケはいまいち乗り気では無さそうだ。相変わらず可愛らしい顔で唇を尖らせている。
「まあ、有難いけど出来れば人が少ないところの方が良いかなーオレは」
「僕の家はどう? 師匠と二人で森の中で暮らしてるんだよ」
「その師匠とやらもこんな得体の知れない奴が来たら困るだろ」
 シルフィの誘いを断るとはなんてことだ。ミケはうんうん唸りながら床を転がっている。
 あ、そうだ。名案が浮かんだ。
「じゃあ私と一緒に住む? それならいいでしょ」
「えっ」
「え!?」
「エコ、一緒に師匠のところに帰らないの?」
「えっ!?」
 ミケが驚いてハインツが驚いて、シルフィの発言に私が驚いた。私がレドとシルフィの生活に入るのはちょっと難しいかな。森、魔物多いし。仕事無さそうだし。当然いずれは菓子折りなどを手に挨拶には行きますけれど。社会人として。
 四人とも黙った後、ミケが体を起こしながら声を上げた。
「いや~、オレ的にはエコと住めればそりゃ嬉しいけどさ、なあ?」
 と半笑いで顔を見回した。なあと言われても。
「エコ様。貴方にはユリス様とのことが」
「馬車の確認をする。行くぞ」
 言うなりユリスは外へ出て行ってしまった。ラウロも追っていなくなる。……ユリスは気を使ってくれたのだろうか。ありがとう。またラウロに何か言われたら私は怒って飛び出してたところだ。静かな部屋で、ふうと息を吐く。
「…………誰か一人くらい冗談言う奴いねぇの!?」
 ミケが急に叫んだ。叫んでいる内容もよく分からない。
「ど、どうしたのいきなり」
「あのさぁ、ほら、本当に嬉しいには嬉しいんだけど、エコはそうじゃねえだろ?」
「そうじゃない?」
 ミケは立ち上がってうろうろした。頭が疑問符まみれの私の前に立って言う。
「オレの相手してる場合じゃないだろって、ことだよ!?」
「なるほど!? え?」
 私は気圧されてよく分からないままに返事をした。ミケは一人で頭を抱えたり手を振ったりしている。
「言わないと分かんねぇのかよどんだけ鈍いんだよ、オレどうすりゃいいんだよ、って何でオレ一人でこんなに焦ってんの!?」
「し、知らないけど」
 私に聞かれても。ミケは頭を抱えてしゃがんでしまった。私はさっぱりついて行けずにミケを観察する。呻きの合間に押し殺した叫びが聞こえた。
「ああ、もう、いきなりあんなこと言うから無駄に……!」
「うわ耳真っ赤……」
「言うな! こんの馬鹿がよぉ~!」
 ミケは私の頭を拳骨で挟むとぐりぐり攻撃してきた。割れる!
「ぎゃー痛い痛い! 頭が!」
「ふざけんな~!」
「ごめんって、何か分かんないけどごめんって!」
 ハインツが止めに入る前に止まった。ミケはチッ!! と大きめの舌打ちをすると溜め息を吐く。
「はあ……オレは一人で寂しく緩衝地帯に帰る。だからオレのことは放っとけ」
「そんなこと言うなら」
「エコは喋んな」
「ひ、ひどい」
「もっと考えてから発言しろ」
 ミケはまた大きな溜め息を零して床に転がった。何だったんだ一体。ミケは一緒に住んでくれないということだけは分かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...