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番外編 ~本編後おまけ話~
風邪を引いた話②
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少し眠った後、酷く汗を掻いたのでラウロの手を借りながら着替えた。再び横になって唸る。体の熱っぽさとだるさが消えない。
「うう。ありがとうラウロ」
「何か欲しいものはありますか?」
「じゃあ手かして」
手に触れる。大きくてひんやりしていて、つい頬ずりしていた。
「あー気持ちいい」
「……以前もこんなことがありましたね」
ラウロが懐かしそうに言った。私も思い出してみる。そうだ、世界を救う旅の途中の出来事。私がトゥーリエで寝込んだのだ。その時もラウロの手は冷たかった。冷たくて心配になった。体内の魔力が少ないと体が冷たくなるから。
「ラウロ、魔力は足りてる?」
「十分にあります。今は自分の心配をしてください」
ぬるくなった手が私の頬を優しく撫でる。最近は忙しくてのんびりする暇もなかった。今のような穏やかな時間は久々かもしれない。思わず顔がにやけた。
「贅沢……」
「何がですか」
「ラウロがずっと傍にいてくれるから、贅沢だなって。仕事は大丈夫?」
手際の良いラウロがいないと他の人たちも大変かもしれない。傍にいてくれるのは嬉しいけど、私がずっと独り占めしたら恨まれそうだ。
「みんなに悪いし、ラウロも仕事に」
「貴方はアホですね」
「い、いきなり罵倒された」
何故? 病人なのに? ラウロは大きく溜め息を吐いた。
「これまでも何度も言っていますが。私は基本的にエコ様以外のことはどうでもいいんです。仕事が滞っても、世界中に恨まれても世界が滅んでもどうでもいい」
「もっと世界に興味を持って……」
大事なものなのに。私が救世主として救った世界をどうでもいい呼ばわりされてしまった。私が救ったというか、私とみんなで救ったというか。ラウロは厳しい表情をしている。
「それより、贅沢だと言わせてしまったことの方が問題です。少し仕事を減らしましょう。全部ミケに押し付ければいいんです。暇なんですから」
ひ、ひどい。私は苦笑した。ミケもしっかり休んだ方がいいと思う。隙を見て上手にサボっているみたいだけど。会社と違って固定の休暇がないのは問題かもしれない。立場上仕方ないこともあるとはいえ……駄目だ、頭が上手く働かない。
思考を放り出すように瞼をぎゅっと閉じて開けると、ラウロと目が合う。嬉しくなって笑みが零れた。ラウロは悩ましげに息を吐く。
「……なんてかわいいんでしょう。自分の邪さに嫌悪感が募ります。いつか自分を刺し殺してしまいそうです」
「ラウロ、ストレス溜まってる?」
彼は苦しそうに胸元で手を握りしめている。やっぱり仕事、減らした方がいいかもしれない。心身の健康は大事だ。
「風邪治ったら、ごほっ……」
「無理に喋らず休んでください」
「水を……」
喉がイガイガする。ラウロは部屋を出てすぐに水の入った瓶とグラスとを持って戻ってきた。綺麗な水を注いで、グラスを私に差し出した。
「ありがとう~」
受け取ろうとして、寝たままだと飲めないことに気付いた。ラウロに支えられながらなんとか起き上がる。
「ん? あっ、あれ?」
グラスは目の前にあるのに手が宙を泳ぐ。距離感が上手くつかめない。手の甲がグラスにぶつかって、ラウロがさっとグラスを引いた。これではただ零してしまうだけだ。せっかく持ってきてくれたのに、と申し訳ない気持ちになる。
「ごめん……あとで飲むからそこに置いといて」
「そのまま、動かないでください」
ラウロはグラスに口を付けた。なんだろうと思っていると、私の肩を支えて今度は私に口づける。混乱する中、開いた口からぬるい水が流れ込んでくる。少量の水を飲み下すとラウロはゆっくり離れた。私は口を半開きにしたまま動けない。思考がぐちゃぐちゃしている。
「ま、待って、今の何?」
「まだ飲みますか?」
ラウロは変わらぬ様子で問いかけてくる。どうしよう。私は鈍い頭で考える。私が知らないだけでこれは普通の行為なのではないか? 意識している私が変なのかもしれない。そう思ってラウロに頷いた。喉も乾いていた。
「ゆっくりでいいですから」
ラウロはまた同じようにして私に顔を近付ける。私はぎゅっと目を閉じた。ラウロの体温でぬるくなったものを飲んでいると、体温を直に体内に取り込んでいるようで変な気分になってくる。唇が離れて、ラウロはそのままの距離で囁いた。
「……もう少し?」
「え、えっと。風邪うつるといけないから……ん!」
今度は普通のキスだ。柔らかい感触に溶けそうになる。ラウロの手が首に触れて、いつもより熱く感じられた。
「あつ……」
「着替えますか?」
「で、でもさっき」
体がぴくっと震える。ラウロの手がナイトドレスの中に滑り込んで直に肩に触れた。曲線に沿うようにするすると撫でる。
「少し汗をかいていますね」
「さ、触らなくても……!」
「この辺りとか」
「あ、だ、だめだって」
「エコさんっ!! 大丈夫!?」
バンッと大きな音を立ててドアが開いた。私もラウロも固まる。
「ちょうど近くに来たから、ミケに寝込んだって聞いて、俺っ、俺……エコさんに何かあったらどうしようって……でも先に何か食べ物とか……」
「ハインツ様、入室の際は先に声をかけてください」
ラウロは私から離れるとハインツの正面に立ちはだかった。ハインツは私に近寄ろうとして、ラウロがそれを邪魔するのを何度か繰り返す。
「あの、俺、エコさんに会いに来てて」
「部屋から出てください。今ちょうど着替えて……」
ラウロは急に黙ったと思うと言い直した。
「ではなく。恋人として当然の営みを」
「ラウロ私病人!! 病人なんです!!」
咄嗟に大声で遮っていた。堂々と何を言うんですかこの人は! ここ最近で一番大きな声が出た。頭がくらくらする。
「もう寝る……ので二人とも後で……」
どっと疲れがきた。ベッドに倒れてあっという間に眠りに落ちていた。
「うう。ありがとうラウロ」
「何か欲しいものはありますか?」
「じゃあ手かして」
手に触れる。大きくてひんやりしていて、つい頬ずりしていた。
「あー気持ちいい」
「……以前もこんなことがありましたね」
ラウロが懐かしそうに言った。私も思い出してみる。そうだ、世界を救う旅の途中の出来事。私がトゥーリエで寝込んだのだ。その時もラウロの手は冷たかった。冷たくて心配になった。体内の魔力が少ないと体が冷たくなるから。
「ラウロ、魔力は足りてる?」
「十分にあります。今は自分の心配をしてください」
ぬるくなった手が私の頬を優しく撫でる。最近は忙しくてのんびりする暇もなかった。今のような穏やかな時間は久々かもしれない。思わず顔がにやけた。
「贅沢……」
「何がですか」
「ラウロがずっと傍にいてくれるから、贅沢だなって。仕事は大丈夫?」
手際の良いラウロがいないと他の人たちも大変かもしれない。傍にいてくれるのは嬉しいけど、私がずっと独り占めしたら恨まれそうだ。
「みんなに悪いし、ラウロも仕事に」
「貴方はアホですね」
「い、いきなり罵倒された」
何故? 病人なのに? ラウロは大きく溜め息を吐いた。
「これまでも何度も言っていますが。私は基本的にエコ様以外のことはどうでもいいんです。仕事が滞っても、世界中に恨まれても世界が滅んでもどうでもいい」
「もっと世界に興味を持って……」
大事なものなのに。私が救世主として救った世界をどうでもいい呼ばわりされてしまった。私が救ったというか、私とみんなで救ったというか。ラウロは厳しい表情をしている。
「それより、贅沢だと言わせてしまったことの方が問題です。少し仕事を減らしましょう。全部ミケに押し付ければいいんです。暇なんですから」
ひ、ひどい。私は苦笑した。ミケもしっかり休んだ方がいいと思う。隙を見て上手にサボっているみたいだけど。会社と違って固定の休暇がないのは問題かもしれない。立場上仕方ないこともあるとはいえ……駄目だ、頭が上手く働かない。
思考を放り出すように瞼をぎゅっと閉じて開けると、ラウロと目が合う。嬉しくなって笑みが零れた。ラウロは悩ましげに息を吐く。
「……なんてかわいいんでしょう。自分の邪さに嫌悪感が募ります。いつか自分を刺し殺してしまいそうです」
「ラウロ、ストレス溜まってる?」
彼は苦しそうに胸元で手を握りしめている。やっぱり仕事、減らした方がいいかもしれない。心身の健康は大事だ。
「風邪治ったら、ごほっ……」
「無理に喋らず休んでください」
「水を……」
喉がイガイガする。ラウロは部屋を出てすぐに水の入った瓶とグラスとを持って戻ってきた。綺麗な水を注いで、グラスを私に差し出した。
「ありがとう~」
受け取ろうとして、寝たままだと飲めないことに気付いた。ラウロに支えられながらなんとか起き上がる。
「ん? あっ、あれ?」
グラスは目の前にあるのに手が宙を泳ぐ。距離感が上手くつかめない。手の甲がグラスにぶつかって、ラウロがさっとグラスを引いた。これではただ零してしまうだけだ。せっかく持ってきてくれたのに、と申し訳ない気持ちになる。
「ごめん……あとで飲むからそこに置いといて」
「そのまま、動かないでください」
ラウロはグラスに口を付けた。なんだろうと思っていると、私の肩を支えて今度は私に口づける。混乱する中、開いた口からぬるい水が流れ込んでくる。少量の水を飲み下すとラウロはゆっくり離れた。私は口を半開きにしたまま動けない。思考がぐちゃぐちゃしている。
「ま、待って、今の何?」
「まだ飲みますか?」
ラウロは変わらぬ様子で問いかけてくる。どうしよう。私は鈍い頭で考える。私が知らないだけでこれは普通の行為なのではないか? 意識している私が変なのかもしれない。そう思ってラウロに頷いた。喉も乾いていた。
「ゆっくりでいいですから」
ラウロはまた同じようにして私に顔を近付ける。私はぎゅっと目を閉じた。ラウロの体温でぬるくなったものを飲んでいると、体温を直に体内に取り込んでいるようで変な気分になってくる。唇が離れて、ラウロはそのままの距離で囁いた。
「……もう少し?」
「え、えっと。風邪うつるといけないから……ん!」
今度は普通のキスだ。柔らかい感触に溶けそうになる。ラウロの手が首に触れて、いつもより熱く感じられた。
「あつ……」
「着替えますか?」
「で、でもさっき」
体がぴくっと震える。ラウロの手がナイトドレスの中に滑り込んで直に肩に触れた。曲線に沿うようにするすると撫でる。
「少し汗をかいていますね」
「さ、触らなくても……!」
「この辺りとか」
「あ、だ、だめだって」
「エコさんっ!! 大丈夫!?」
バンッと大きな音を立ててドアが開いた。私もラウロも固まる。
「ちょうど近くに来たから、ミケに寝込んだって聞いて、俺っ、俺……エコさんに何かあったらどうしようって……でも先に何か食べ物とか……」
「ハインツ様、入室の際は先に声をかけてください」
ラウロは私から離れるとハインツの正面に立ちはだかった。ハインツは私に近寄ろうとして、ラウロがそれを邪魔するのを何度か繰り返す。
「あの、俺、エコさんに会いに来てて」
「部屋から出てください。今ちょうど着替えて……」
ラウロは急に黙ったと思うと言い直した。
「ではなく。恋人として当然の営みを」
「ラウロ私病人!! 病人なんです!!」
咄嗟に大声で遮っていた。堂々と何を言うんですかこの人は! ここ最近で一番大きな声が出た。頭がくらくらする。
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