転生ハムスターは王妃を夢見る?

ハイエルフスキー

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第一章 転生ハムスターは王太子様がお気に入り

5 復活! そして破局?

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 どこかで見たことのある、テレビドラマそのまんまの取調室だった。

 つい先日見た覚えのある、無機質な壁に事務机と卓上ライト。

 見まちがえようがない、白いトーガを身にまとった女性が翼を広げた。

「えーっと、ハムちゃんね。お疲れ様」

 頭の上の輪っかがまぶし過ぎて、顔がよく見えなかったが、優しそうな声だった。

「嘆願書が出てるわね」

 そういえば、前もそんなこと言ってたね。

「ハムスターのアリスちゃんね」

 えっ!? 

 それって、たしかジャンガリアンハムスターの子だよね。

 あれっ? 

 たしか、前はハムちゃんだったよね。

 ゴールデンハムスターの。

「とてもかわいがってくれました、だって」

 それって、たしか中学生のとき飼ってたハムスターだよね。

「よかったわね、では二択よ」

 えっ!?

 そこはやっぱり二択なの?

「強いのと弱いの、どちらがいいかしら?」

 あ、同じだ。

 前は強いのを選んだよね。

 でも、弱いのは選びにくいな。

「できるだけ急いでね」

 あれっ?

 前の翼女より優しいよね。

 違う人なのかな? 

 そう思いながらも、私は強いほうを選んだ。

「じゃあ、次ね。かっこいいのとかわいいのはどちらがいい?」

 ひょっとして、前の人より優しいから答えてくれるかなと思った私は、勇気を振り絞って尋ねてみた。

「えーっと、どう違うんですか?」

「かっこいいのがオスで、かわいいのがメスよ」

 えーっと、動物確定ですか? 

 そう思いながらも、私はかわいいほうを選んだ。

 大きくうなずいた翼女は、手にした大きなハンコに、ふーっと息を吐きかけた。

 えっ?

 朱肉切れですか?

 と思いながらも、私は大慌てで口を開いた。

「あのっ、通常用と決戦用って質問はないんですか?」

「ああ、前回は嘆願書が三枚あったからでしょうね。一枚使ったから、今回選択できるのは二つよ」

 翼女の言葉がクルクルと頭を駆け巡る。

 いや、意味わからんぞ。

 でも、ちょっと待って! 

 聞かなくちゃ。

 あせるあまり口をパクパクさせながらも、私は必死に声を出した。

「じゃあ、あのっ、どっちなんでしょうか? 通常用と決戦用の?」

「決戦用よ。前と同じ。それと、気をつけてね。嘆願書を使いきれば、生き返れないわよ。ああ、あとね、魔王を倒した分の経験値が入ってるからレベルが上がってるわ。まあ、死んだから通常の百分の一だけどね」

 翼女はそう言うと同時に、書類に向けてハンコを振りおろした。

 えっ?

 百分の一ってケチすぎない? 

 それに、死なずに倒す方法なんてどう考えてもなかったよね?

 そんなことを思いながら、私は反転する世界の中でずっと目を閉じていた。




「おいおい、出たぞ! まさかのハムスター様が出たぞ!」

 聞き覚えのある大きな声に驚いて目を開けると、魔法使いのコスプレをしたおっさんが、目をまん丸にしてこちらを見ていた。

 あれっ? 

 あのいかついおっさんはトールだよね。

 うん、まちがいない。

「あんた引きが強いわね、トール! でも、前のハムスターと色が違うし、違う種類なんじゃないの?」

 ああ、やっぱりそうだよね。

 こっちは精霊術師のシーラだよね。うんうん。

 うん?

 ということは、王太子様もいるの? 

 私のかわいい婚約者はどこ?

「おー、すげーなー、トール。こいつもひょっとして決戦用ハムスターってやつなのか?」

 勇者の声がする。

 確認しようと、私はぐるっと辺りを見回した。

 あれっ? 

 なんだろう?

 人がいっぱいだ。

 前は四人だったのに、いつの間にこんなに増えたんだろう。

 夕刻の草原にはずらっとテントが立ち並び、騎士のコスプレをした屈強な男たちがわいわいとこちらを見ている。

 あちこちに煙が立ち上っているのは食事の支度中だからだろうか?

 なにやら、いい匂いが漂ってくる。

 ぐるーっと首を回して真後ろに目をやったところで、ようやく勇者の姿が目に入った。

 ようっ、という感じで気さくに手を振ってくる。

 その後ろで、勇者に隠れるように、頭だけちょこんと出した王太子様を、私はようやく見つけた。

 ひゃっほー! 

 私の王太子様お元気でしたかー!

 と私は一目散に王太子様に向かって走った。

 チョコチョコと足を動かし、ひたすら王太子様の元へと。

 走っているはずだった。

 しかし、私の体は宙に浮き、短い手足は空をかいていた。

 首の後ろがびにょーんと伸びている気がする。

 またか。トールだな。

 振り返って見上げるとやっぱりトールだった。

「うーんっと……前は決戦用ハムスターLV1ってとこまでは見えたんだが、今度のやつは何にも見えないな。ひょっとして、前のやつより強いのかもしれんな」

「えっ!? それほんと、トール!? すごいじゃない。前のやつですら、魔王を消し去ったんだから、今度のはもっと役に立つんじゃないの? あんた、歴史に名を残すわよ、ほんと」

 あれっ? 

 トールとシーラって前より仲良さそうだよね。

 そういえば、前いた場所とは違うみたいだし、死んでる間に時間がたったのかな?

 ひょっとして、私がいない間に何かあったのかな?

 まあ、それはいいんだけど、前より強いってあれだよね。

 たしかレベルが上がってるって翼女が言ってたやつかな?

 あっ! 

 そんなことより王太子様のところに行かなくちゃ、と思った私はトールの手をパシパシ叩いた。

「とはいえ、今度のやつも契約の輪っかを背負ってないから、どうやって使ったらいいのかわからんな。前は殿下に懐いていたから使えたが、絶対結界だって仲間だと認識してないやつは弾き飛ばされる可能性があるしな。殿下があの様子ではどうかな?」

「このハムスターも前と同じで、王太子様のところに走っていこうとしたわね。たぶん、王太子様にはハムスターを惹きつける何かがあるのよ。そうね、王太子様があの調子だとどうかしらね?」

 うん? 

 私の王太子様ってば体調でも悪いの? 

 そういえば、勇者の後ろに隠れてたね。

 そう思って、じーっと王太子様に目を凝らすとなんだか目が赤いし、ブルブル震えているみたいだ。

 なにっ!?

 誰か私の王太子様をいじめたんじゃないでしょうね!? 

 こらっ!

 トール、離しやがれっ!

 私は体に力を入れて、思いっきりブルブルと毛を震わせた。

 次の瞬間、ピカッとまばゆい光が辺りを照らし、トールがはじかれたように倒れ込んだ。

 あれっ?

 どうしたの、トール? 

 大袈裟だな、と思っていると、私の横で大きな声が響いた。

「生命の営みを司る清らかな水の乙女よ。ここに姿を現せ、ウンディーネ召喚!」

 どうやら、フワフワと浮いている私のすぐ傍で、シーラが精霊を召喚したようだ。

 みるみる水が宙からあふれ出して、女性の姿を形づくる。

 ああ、たしか水の精霊ウィンディーネさんだね。

 けっこうな美人さんなんだよねと思っていると、さらにシーラの高い声が響き渡った。

「そいつは敵よ! ウィンディーネ、倒しなさい!」
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