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第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む
25 誰か王子様をとめてくれないかしら?
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その瞬間、ニルス王子と私のまわりだけ、空間が切り取られたかのように、すべてが動きをとめた。
じわっと視界がゆがむ。
息が詰まる。
大きな緑の瞳に吸い込まれそうな気がして、私は慌てて目線を宙にさまよわせた。
もし、同じことを王太子様に言われていたら、泣きながら抱きついていただろう。
でも、王子様は王子様でも、ニルス王子の言葉にはそこまでの力はなかった。
それでも、充分すぎる衝撃だ。
この攻撃力は魔王をも上回る。
おかげで、足ががくがくするし、握りしめられた手は心臓の鼓動を感じられるほどに熱を持っている。
なぜだろう?
なぜ、ニルス王子は私のことをハーミアだと思ったんだろう?
お見舞いに来る人って、そんなに少なかったの?
でも、それだけで私とハーミアを結びつけるのは無理だよね。
そういえば、手を握ってたね。
うーん、念話のせいかな?
一年にわずか二度のお見舞いとはいえ、ニルス王子の手のひらの上に居座った私は、それほど口数の多くない王太子様の代わりに、どうでもいいようなことをずーっと話していた。
ハムスター時代の私は、触れている相手と念話で意思を通じあえた。
体が弱くすぐ疲れるニルス王子にとって、わざわざ口を開かずとも意思が通じる私は、思いのほか大切な存在だったのかもしれない。
ニルス王子の手のひらには、その時の感覚が残っているのだろうか?
とはいえ、ニルス王子が私のことをハーミアだと言っても誰も信用しないだろう。
しかも、王太子様にはアンジェリカ王女という新しい婚約者もいる。
新しい救国のハムスターだって、私の味方かどうかわからない。
シルフィーのおかげで精霊術師として自立するめどもついたところだ。
ここで無用なトラブルを起こしたくはない。
「ハーモニーと申します。ニルス殿下」
私はあさっての方向を向いたまま、硬い声を出した。
「……うーん……じゃあ、ハーモニー様。どうして、こん――」
「ハーモニーです。ニルス殿下」
王子様に敬称をつけて呼ばれてはたまらない。
私はニルス王子の言葉を大急ぎでさえぎった。
ニルス王子はまたしても、大きな緑の瞳をパタパタと瞬かせた。
それから、頬をぽっと赤らめ、私の手を引き寄せて両手でギュッと包みこんだ。
「ハーモニーって呼んでもいいってこと?」
「はい、殿下。ハーモニーでお願いします」
宙に浮かせた視界の片隅で、ニルス王子がキラキラと目を輝かせながら、顔いっぱいに広がる笑みをこちらに向けている。
記憶の中のニルス王子とくらべて、ずいぶん健康的だ。
かつてのニルス王子はもっとはかなげで、王子様というよりは薄幸のお姫様という雰囲気をまとっていた。
「じゃあ、ハーモニーは僕のことをニルスって呼んでね」
えーっと、どういうこと?
ニルス王子の考えがさっぱりわからない。
でもね、王子様を呼び捨てにしたら怒られるからね。
私は視線を戻し、能面精霊顔をニルス王子にグイッと寄せた。
「かしこまりました。ニルス殿下」
「うんうん、僕たちは仲良しだからね。それはそうと、今日はここで何をしてるの、ハーモニー?」
能面顔にもひるまず、ニルス王子はあふれんばかりの笑みをたたえたまま、上機嫌な声を響かせた。
今ひとつ会話が噛み合っていない気もするけど、大丈夫だろう。
私の思いは伝わっている、はずだ。
「今日は対魔族四ヶ国合同攻戦の表彰式が午前中にありまして、今はその慰労会というか食事会ですので、いろいろと食べておりました」
「ふーん、そうだったんだ。僕はついさっき王宮についたばかりで、何してるのかなーって見に来たんだけど……すごいね、ハーモニー。勲章がいっぱいだね」
モランデル家の紋章に埋もれている勲章に目をとめたニルス王子は、またしても瞳をパシパシと瞬かせた。
ただ、瞬きの原因が勲章のせいなのか、紋章のせいなのかは、判断しかねる。
「契約した精霊が大活躍しまして、いろいろと貰いました」
「ふーん……って、ひょっとして魔族四天王を倒したのってハーモニーなの?」
「私というよりは、契約している風の精霊が倒したんですけど、赤と緑と黄色の四天王を倒しました」
「さすがだね、ハーモニー。じゃあ、大天使の加護を持った精霊術師ってハーモニーのことなんだ。ものすごい評判になってるよ。第一位防御膜を魔法陣なしで発動できるって聞いたけど。あれっ? でも、ハーミア様って絶対結界を――」
あっさりと妙なことを口走ったニルス王子に、私は無表情の精霊顔を押し付けた。
「ニルス殿下! お腹がすいていませんか? 何か召し上がってはいかがですか?」
ニルス王子は言葉を失い、動きをとめた。
口を半開きにしたまま、ぽーっと私の瞳を見つめている。
顔がすこし赤い。
うんうん、ずいぶん元気そうでなによりだけど、考えてしゃべろうね。
「ううん、お腹は空いていないから、大丈夫だよ」
いやいや、大丈夫じゃないよ。
この王子様は目を離したら何をしゃべるか、わかったもんじゃない。
精霊術師としては有名になったかもしれないけど、さすがに元救国のハムスターを名乗るのは危険だ。
命にかかわる。
ニルス王子は王子様ではあるけど、発言力はまったくと言っていいほどない。
うかつなことを言えば、ニルス王子は大丈夫だろうけど、私が牢獄送りになる可能性がある。
いったいどうしたらいいだろう、と思っていると、シーラがものすごい速足でこちらにやってきた。
「まあまあまあまあ、ニルス殿下、ご機嫌麗しゅうございます。わたくし精霊省長官のシーラ・モランデル子爵でございます。ひょっとして、今日、王都に戻ってこられたのですか? 存じ上げておりましたら、出迎えさせていただきましたものを」
ニルス王子がキュッと顎を引いて背筋を伸ばした。
あきらかに、警戒している。
たぶん、ハムスター時代の私が散々シーラの悪口を吹きこんだせいだろう。
それに、シーラはニルス王子に会ったことがないはずだ。
おそらくは、私が大きな声でニルス殿下と言ったのを聞きつけて飛んできたのだ。
営業活動の一環として。
「モランデル子爵ということは、ハーモニーのお姉様ですか?」
「まあまあまあまあ、お姉様だなんて、殿下。お世辞でもうれしいですわ。ハーモニーは私の娘でございます。とは申しましても、養女ですので姉妹に見えても不思議ではございませんわね。ほっほっほっ」
さっそく、シーラの営業活動が始まった。
ただ、シーラの視線の位置が微妙にずれている。
金色のつり上がった目が、なぜか、ニルス王子の胸のあたりをじっと見ている。
あっ!
そうか!
ニルス王子は私の手をずーっと握ったままだ。
そのことに気が付いた私はそーっと手を引いて、ニルス王子の両手から逃れようとした。
しかし、逆に私の手は力強く掴まれ、さらに、ニルス王子の胸にピッタリとくっつけられた。
うん?
魔族すら引き寄せられる私より力が強いってどういうこと?
と思ったが、ニルス王子は敵ではないので絶対結界の力が発動しないのかもしれない。
ニルス王子の手を振りほどくのをあきらめた私は、おとなしくその場で立ちつくすことにした。
ニルス王子を監視する必要もある。
「それはそうと、ニルス殿下。王立学園に通うために王都に戻ってらっしゃたのですよね? 実はハーモニーも通うことになっているのですわ。それに、私の実家であるローセンダール公爵家の末弟であるユリウスも通うことになっております。学園で困ったことがあれば、このふたりになんなりとお申し付けください」
「えっ! そうなんだ! ハーモニーも学園に通うんだ。じゃあ、僕ら同級生だね、ハーモニー。よかったー。僕はずっとウルネスで暮らしてたからね。王都には知り合いもいないし、心細かったんだ。ハーモニーが一緒なら心強いね」
まずい、と思った瞬間、シーラの金色の目がすっと獲物を狙うかのように鋭さを増した。
口もとに笑みを浮かべたまま、目だけが私を射抜くように光る。
「まあまあまあまあ、ニルス殿下はハーモニーのことをよーくご存じでいらっしゃるんですね」
「僕たちはウルネスの離宮にいた時から大の仲良しだからね。ここ一年ほど会えなかったから心配してたんだけど、元気そうでよかった。まさか、モランデル子爵家の養女になっていたなんて、びっくりだね」
「そうなんですの? そう言われてみれば、レンホルム伯爵領ってウルネスの離宮の近くでしたわね」
「小さかった頃のハーモニーも可愛かったけど、今のハーモニーはまるで精霊みたいに美しいね」
「そうでしたの? 小さい頃から? まあまあまあまあ、ハーモニーったら、私にも教えて欲しかったわ」
シーラの笑顔が恐い。
ニルス王子はシーラと話をしているというよりは、私にだけ話しかけている。
どうにも、妙な感じだ。
それに、ニルス王子はハムスター時代の私を小さかったと言ってるのだけど、シーラの頭の中では私とニルス王子は幼馴染みということになっているだろう。
後で根掘り葉掘り聞かれるに違いない。
誰かこのふたりをとめてくれないだろうか?
そう思っていると、願いが神に通じたのか、ニルス王子を呼ぶ声がこちらに近づいてきた。
ピシッとした身なりに、落ちつき払った所作だけど、ずいぶんと息が荒い。
どうやら、ニルス王子は従者の目を盗んで、慰労会に来ていたみたいだ。
「じゃあね、ハーモニー。また学園で会えるのを楽しみにしてるね。これからは王宮で暮らすから、遊びに来てね。僕も遊びに行くからね。約束だよ」
満面の笑みを人懐っこい顔にたたえながら、ニルス王子は大きく手を振った。
従者に半ば連れさられるように会場を後にしたニルス王子を見送って、私はほっと安堵の息を吐き出した。
ふー、なんとかなったね。
ありがとう、従者の人、と深々と頭を下げた私の頭上で、高音の猫なで声が響いた。
「さてと、詳しく聞かせてもらおうかしらね、ハーモニー。仲良しどころじゃないわよね。あんたとニルス殿下って。掴んだ手も離そうとしなかったし、誰が見てもはっきりわかるわよ」
シーラはニルス王子の去ったほうを見つめながら、すっと私の耳元に顔を寄せた。
「第二王子派はリスクが高いわよ。ハイリターンではあるけどね」
じわっと視界がゆがむ。
息が詰まる。
大きな緑の瞳に吸い込まれそうな気がして、私は慌てて目線を宙にさまよわせた。
もし、同じことを王太子様に言われていたら、泣きながら抱きついていただろう。
でも、王子様は王子様でも、ニルス王子の言葉にはそこまでの力はなかった。
それでも、充分すぎる衝撃だ。
この攻撃力は魔王をも上回る。
おかげで、足ががくがくするし、握りしめられた手は心臓の鼓動を感じられるほどに熱を持っている。
なぜだろう?
なぜ、ニルス王子は私のことをハーミアだと思ったんだろう?
お見舞いに来る人って、そんなに少なかったの?
でも、それだけで私とハーミアを結びつけるのは無理だよね。
そういえば、手を握ってたね。
うーん、念話のせいかな?
一年にわずか二度のお見舞いとはいえ、ニルス王子の手のひらの上に居座った私は、それほど口数の多くない王太子様の代わりに、どうでもいいようなことをずーっと話していた。
ハムスター時代の私は、触れている相手と念話で意思を通じあえた。
体が弱くすぐ疲れるニルス王子にとって、わざわざ口を開かずとも意思が通じる私は、思いのほか大切な存在だったのかもしれない。
ニルス王子の手のひらには、その時の感覚が残っているのだろうか?
とはいえ、ニルス王子が私のことをハーミアだと言っても誰も信用しないだろう。
しかも、王太子様にはアンジェリカ王女という新しい婚約者もいる。
新しい救国のハムスターだって、私の味方かどうかわからない。
シルフィーのおかげで精霊術師として自立するめどもついたところだ。
ここで無用なトラブルを起こしたくはない。
「ハーモニーと申します。ニルス殿下」
私はあさっての方向を向いたまま、硬い声を出した。
「……うーん……じゃあ、ハーモニー様。どうして、こん――」
「ハーモニーです。ニルス殿下」
王子様に敬称をつけて呼ばれてはたまらない。
私はニルス王子の言葉を大急ぎでさえぎった。
ニルス王子はまたしても、大きな緑の瞳をパタパタと瞬かせた。
それから、頬をぽっと赤らめ、私の手を引き寄せて両手でギュッと包みこんだ。
「ハーモニーって呼んでもいいってこと?」
「はい、殿下。ハーモニーでお願いします」
宙に浮かせた視界の片隅で、ニルス王子がキラキラと目を輝かせながら、顔いっぱいに広がる笑みをこちらに向けている。
記憶の中のニルス王子とくらべて、ずいぶん健康的だ。
かつてのニルス王子はもっとはかなげで、王子様というよりは薄幸のお姫様という雰囲気をまとっていた。
「じゃあ、ハーモニーは僕のことをニルスって呼んでね」
えーっと、どういうこと?
ニルス王子の考えがさっぱりわからない。
でもね、王子様を呼び捨てにしたら怒られるからね。
私は視線を戻し、能面精霊顔をニルス王子にグイッと寄せた。
「かしこまりました。ニルス殿下」
「うんうん、僕たちは仲良しだからね。それはそうと、今日はここで何をしてるの、ハーモニー?」
能面顔にもひるまず、ニルス王子はあふれんばかりの笑みをたたえたまま、上機嫌な声を響かせた。
今ひとつ会話が噛み合っていない気もするけど、大丈夫だろう。
私の思いは伝わっている、はずだ。
「今日は対魔族四ヶ国合同攻戦の表彰式が午前中にありまして、今はその慰労会というか食事会ですので、いろいろと食べておりました」
「ふーん、そうだったんだ。僕はついさっき王宮についたばかりで、何してるのかなーって見に来たんだけど……すごいね、ハーモニー。勲章がいっぱいだね」
モランデル家の紋章に埋もれている勲章に目をとめたニルス王子は、またしても瞳をパシパシと瞬かせた。
ただ、瞬きの原因が勲章のせいなのか、紋章のせいなのかは、判断しかねる。
「契約した精霊が大活躍しまして、いろいろと貰いました」
「ふーん……って、ひょっとして魔族四天王を倒したのってハーモニーなの?」
「私というよりは、契約している風の精霊が倒したんですけど、赤と緑と黄色の四天王を倒しました」
「さすがだね、ハーモニー。じゃあ、大天使の加護を持った精霊術師ってハーモニーのことなんだ。ものすごい評判になってるよ。第一位防御膜を魔法陣なしで発動できるって聞いたけど。あれっ? でも、ハーミア様って絶対結界を――」
あっさりと妙なことを口走ったニルス王子に、私は無表情の精霊顔を押し付けた。
「ニルス殿下! お腹がすいていませんか? 何か召し上がってはいかがですか?」
ニルス王子は言葉を失い、動きをとめた。
口を半開きにしたまま、ぽーっと私の瞳を見つめている。
顔がすこし赤い。
うんうん、ずいぶん元気そうでなによりだけど、考えてしゃべろうね。
「ううん、お腹は空いていないから、大丈夫だよ」
いやいや、大丈夫じゃないよ。
この王子様は目を離したら何をしゃべるか、わかったもんじゃない。
精霊術師としては有名になったかもしれないけど、さすがに元救国のハムスターを名乗るのは危険だ。
命にかかわる。
ニルス王子は王子様ではあるけど、発言力はまったくと言っていいほどない。
うかつなことを言えば、ニルス王子は大丈夫だろうけど、私が牢獄送りになる可能性がある。
いったいどうしたらいいだろう、と思っていると、シーラがものすごい速足でこちらにやってきた。
「まあまあまあまあ、ニルス殿下、ご機嫌麗しゅうございます。わたくし精霊省長官のシーラ・モランデル子爵でございます。ひょっとして、今日、王都に戻ってこられたのですか? 存じ上げておりましたら、出迎えさせていただきましたものを」
ニルス王子がキュッと顎を引いて背筋を伸ばした。
あきらかに、警戒している。
たぶん、ハムスター時代の私が散々シーラの悪口を吹きこんだせいだろう。
それに、シーラはニルス王子に会ったことがないはずだ。
おそらくは、私が大きな声でニルス殿下と言ったのを聞きつけて飛んできたのだ。
営業活動の一環として。
「モランデル子爵ということは、ハーモニーのお姉様ですか?」
「まあまあまあまあ、お姉様だなんて、殿下。お世辞でもうれしいですわ。ハーモニーは私の娘でございます。とは申しましても、養女ですので姉妹に見えても不思議ではございませんわね。ほっほっほっ」
さっそく、シーラの営業活動が始まった。
ただ、シーラの視線の位置が微妙にずれている。
金色のつり上がった目が、なぜか、ニルス王子の胸のあたりをじっと見ている。
あっ!
そうか!
ニルス王子は私の手をずーっと握ったままだ。
そのことに気が付いた私はそーっと手を引いて、ニルス王子の両手から逃れようとした。
しかし、逆に私の手は力強く掴まれ、さらに、ニルス王子の胸にピッタリとくっつけられた。
うん?
魔族すら引き寄せられる私より力が強いってどういうこと?
と思ったが、ニルス王子は敵ではないので絶対結界の力が発動しないのかもしれない。
ニルス王子の手を振りほどくのをあきらめた私は、おとなしくその場で立ちつくすことにした。
ニルス王子を監視する必要もある。
「それはそうと、ニルス殿下。王立学園に通うために王都に戻ってらっしゃたのですよね? 実はハーモニーも通うことになっているのですわ。それに、私の実家であるローセンダール公爵家の末弟であるユリウスも通うことになっております。学園で困ったことがあれば、このふたりになんなりとお申し付けください」
「えっ! そうなんだ! ハーモニーも学園に通うんだ。じゃあ、僕ら同級生だね、ハーモニー。よかったー。僕はずっとウルネスで暮らしてたからね。王都には知り合いもいないし、心細かったんだ。ハーモニーが一緒なら心強いね」
まずい、と思った瞬間、シーラの金色の目がすっと獲物を狙うかのように鋭さを増した。
口もとに笑みを浮かべたまま、目だけが私を射抜くように光る。
「まあまあまあまあ、ニルス殿下はハーモニーのことをよーくご存じでいらっしゃるんですね」
「僕たちはウルネスの離宮にいた時から大の仲良しだからね。ここ一年ほど会えなかったから心配してたんだけど、元気そうでよかった。まさか、モランデル子爵家の養女になっていたなんて、びっくりだね」
「そうなんですの? そう言われてみれば、レンホルム伯爵領ってウルネスの離宮の近くでしたわね」
「小さかった頃のハーモニーも可愛かったけど、今のハーモニーはまるで精霊みたいに美しいね」
「そうでしたの? 小さい頃から? まあまあまあまあ、ハーモニーったら、私にも教えて欲しかったわ」
シーラの笑顔が恐い。
ニルス王子はシーラと話をしているというよりは、私にだけ話しかけている。
どうにも、妙な感じだ。
それに、ニルス王子はハムスター時代の私を小さかったと言ってるのだけど、シーラの頭の中では私とニルス王子は幼馴染みということになっているだろう。
後で根掘り葉掘り聞かれるに違いない。
誰かこのふたりをとめてくれないだろうか?
そう思っていると、願いが神に通じたのか、ニルス王子を呼ぶ声がこちらに近づいてきた。
ピシッとした身なりに、落ちつき払った所作だけど、ずいぶんと息が荒い。
どうやら、ニルス王子は従者の目を盗んで、慰労会に来ていたみたいだ。
「じゃあね、ハーモニー。また学園で会えるのを楽しみにしてるね。これからは王宮で暮らすから、遊びに来てね。僕も遊びに行くからね。約束だよ」
満面の笑みを人懐っこい顔にたたえながら、ニルス王子は大きく手を振った。
従者に半ば連れさられるように会場を後にしたニルス王子を見送って、私はほっと安堵の息を吐き出した。
ふー、なんとかなったね。
ありがとう、従者の人、と深々と頭を下げた私の頭上で、高音の猫なで声が響いた。
「さてと、詳しく聞かせてもらおうかしらね、ハーモニー。仲良しどころじゃないわよね。あんたとニルス殿下って。掴んだ手も離そうとしなかったし、誰が見てもはっきりわかるわよ」
シーラはニルス王子の去ったほうを見つめながら、すっと私の耳元に顔を寄せた。
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