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第2章 救国のハムスターは新たな人生を歩む
27 がまんくらべでは負けないかしら
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精霊祭の前日祭ともあって、王都全体が華やいだ空気に包まれている。
それにもかかわらず、レンホルム伯爵家のテラスには、微妙な空気が漂っていた。
どこかよそよそしい笑顔を、いかつい顔に張りつかせたトール・レンホルム伯爵。
その横には、いつもの省エネモード全開で静かにたたずむクレア。
いつも私の傍にいてくれるターニャも、屋敷の中に戻されてしまった。
モランデル家の養女であるにもかかわらず、いまだにレンホルム伯爵家に居候している私に、トールは努めて明るく話しかけてくる。
「明日のパレードではニルス殿下の馬車に一緒に乗るそうだな、ハーモニー?」
「はい。そのようになっております」
「君は魔族四天王を倒した英雄だからな。精霊祭では君とシルフィーの姿を一目見ようと、例年以上に大勢の人がやってくるだろう。公式行事で姿を見せたことのないニルス殿下と一緒となれば、精霊祭の一番人気になるのは間違いないな」
トールは言い慣れないお世辞を口にした後、うんうんとうなずいた。
「ところで、君はニルス殿下と幼馴染みだそうだな?」
トールは何気なく切り出したつもりだろうけど、おそらく、ここからが本題だろう。
メイドたちを遠ざけ、クレアをすぐ傍に控えさせているのだ。
世間話に花を咲かせたいわけではないだろう。
「私は君が記憶を失くしていると思っていたのだが、ひょっとして何か思い出したのかな?」
シーラは私が召喚獣契約陣から出てきたことを知らない。
私がレンホルム伯爵領で生まれ育ったと思っている。
だから、曖昧な笑みを浮かべていただけで、勝手に私のことをニルス王子の幼馴染みであると思いこんでくれた。
でも、トールの場合はそうはいかない。
こいつはいったい何者なのか?
という疑問は常にトールの頭の片隅にあったはずだ。
「それとも、ニルス殿下は君のことを知っているが、君は思い出していないということかな?」
「幼馴染み……ではないと思うのですが……」
「うーむ……しかし、聞いたところによると、ニルス殿下は君の小さい頃のことも知っているようだし、君もニルス殿下のことを知っていたとか?」
「……はい。そのようですね……」
記憶喪失という訳にはいかないらしい。
危うく泥船に乗るところだった。
とはいえ、トールの疑問はもっともだ。
よく今まで、私に何も聞かずにすませてたね。
気が長いな、トール。
たぶん、そのうち私から話してくれると思っていたのだろう。
ただ、トールにすら本当のことを言う訳にはいかない。
この世界で生きていくにあたって、私には関わってはいけない存在がいるのだ。
救国のハムスター、ハーミア・レンホルム。
新しく得た情報によると、私にとって代わった新しいハムスターは、王宮の一室に引きこもったまま、ハムスター仲間とともに暮らしているらしい。
百匹前後のハムスターに囲まれて、ハムスター生活を満喫しているのだ。
メスだけで暮らしているので、増えることはないらしいのだけど、それってどうなんだろう、と思う。
私はちゃんと式典やお祭りといった公式行事に参加していたというのに、新しいハムスターはハムスター同士でぬくぬくと遊んで暮らしているのだ。
正直、むっとする。
お前の地位を確立したのは私だ、と怒鳴り込みたいところだけど、救国のハムスター様に人族ごときが注意することはできない。
奴は神の使いなのだ。
人界で一番えらいのは奴なのだ。
王様よりも上に君臨する存在。それが救国のハムスター。
奴の権力の前では私などひとたまりもない。
もしも、私が元救国のハムスターですと名乗ったらどうなるか?
私はそのことをさんざんシュミレーションしてきた。
今では、王太子様はもちろん、トールにシーラ、王様や王妃様だって説得できる自信がある。
私との関わりが深ければ深いほど、お互いしか知らないことがあるものだ。
それをひとつひとつ挙げていけば、私がハーミアであるとわかってもらえると思う。
ただ、新しい救国のハムスターが私を敵認定したらどうなるか?
奴はハムスター時代の私より、はるかにハムスター脳だ。
というか、ハムスターと一緒に暮らしているくらいだ。
ハムスターそのものだ。
自分のなわばりを荒らすものには容赦しないかもしれない。
そうなったら、私が味方だと思っていた人がすべて、敵に回るだろう。
しかも、半径一キロメートル完全消滅(自爆)という能力を持っている可能性が高い。
命だって、たくさん持っているかもしれない。
私の命はひとつだけだ。
絶対結界と完全消滅(自爆)という鉾盾対決は是が非でも避けなければならない。
分が悪すぎる。
というわけで、私が元ハーミア・レンホルムであるということは最高機密とさせてもらっている。
今のところ、私がハーミアであると知っているのはニルス王子だけだ。
しかも、私自身がそれを認めたことはない。
ニルス王子が勝手に思い込んでいるだけだ。
遠回しにではあるけども、口止めもしている。
たぶん、大丈夫だろう。
トールの笑みがだんだん引きつっていく。
気の長いトールだけど、さすがにずーっと黙っている私に思うところがあるのだろう。
あと三十分ほど様子を見てみよう。
私は能面精霊顔のまま、じーっとトールの目を見つめ続けた。
あっという間に三十分経過。
トールは引きつった笑みを浮かべたまま、微動だにしない。
もちろん、省エネクレアは活動をとめたままだ。
お屋敷でお嬢様待遇を受けている恩もある。
しかたがない。
「今、王宮にいらっしゃる新しい救国のハムスター様はどのようなお方なのですか?」
ニルス王子は、新しいハムスター様は面会拒絶で会ってもくれない、と言っていたけど、トールならば少しは情報をもっているだろう。
優しいハムスターならば、一度会って話し合うこともできるかもしれない。
聞くだけ聞いてみよう。
そう思った私は、しぶしぶ口を開いた。
そのとたん、トールの顔から笑みが消えた。
「新しい? というのはどういう意味だ?」
何のことだ?
という表情だ。
ひょっとして、ハムスターは私の記憶を引き継いでいて、完全にハーミアとして暮らしているのだろうか?
ひょっとして、どちらかがクローン?
まさか、私がクローンってことはないよね?
ダメだ。
完全に失敗した。
黙ってたほうがよかった。
私は完全に押し黙った。もともと表情が硬い。
我慢比べなら私の方が強いはずだ。
クレアには勝てないけど。
そこから、さらに三十分経過。
今度はトールの方が先に折れた。
クレアは微動だにしないけど。
「私はしばらく救国のハムスター様に会っていない。最近のご様子に関しては一切知らないな」
「最近と言いますと、どのくらい前からですか?」
「ふーむ……そうだな……一年と……すこし……に、なるかな」
トールは無表情のまま、じっくりと時間をかけて言葉を選んだ。
つまり、トールは新しいハムスターには会ったことがないということだろうか?
じゃあ、新しいハムスターを召喚したのはトールじゃない?
いや、トールが召喚した後、会っていない?
いろいろと考えられるパターンは多い。
情報が少なすぎる。
私はどちらかというと石橋を叩いて、叩いて、叩いて、やっぱり渡らないタイプなのだ。
リスクを冒したくない。
トールはじっと私の様子を見ている。
自分は質問に答えたのだから、次はそちらだということだろうか?
しょうがない。
私は以前から考えていた最もリスクを低く抑えられそうな作戦を実行することにした。
名付けて、虎の威を借る狐作戦だ。
神の加護を持つとされる私であれば、この作戦でうまくいくはずだ。
「トール様は大天使様をご存知でいらっしゃいますよね?」
「ああ、もちろんだ。プルッキア帝国との戦いで助けていただいたからな」
「では、大天使様がおふた方いらっしゃることはご存知ですか?」
「……いや、それは初耳だ。そのような記録も残っていないと思うのだが……」
目を大きく見開いたトールが、背もたれから大きく身を乗り出してくる。
クレアですらピクッと肩を震わせた。
「トール様がご存知の大天使様は恐いほうの大天使様です。今回、私を人界に送り出したのは優しいほうの大天使様です」
トールが驚愕の表情を浮かべたまま固まった。
クレアですら目に力が込められた。
うんうん、ここからが本番だ。
「ただ、このことは内密にしていただきたいのです。というのも、私の持っている情報では、救国のハムスターであるハーミア・レンホルム様はすでにお亡くなりになっているはずなのです。それがいまだに御存命であるということは、恐いほうの大天使様が関与しているのかもしれません。そうなると、私としては関わるべきではないのです。それぞれの大天使様で違った思惑があるのかもしれませんからね。救国のハムスター様の邪魔をするつもりはございません。お願いできますか、トール様?」
私は無表情精霊顔を最大限に活用して、言い淀むことなく、一気に話しきった。
一切、嘘は含まれていない。
あとは、トールがどう解釈するかだ。
トールはこめかみを手でギュッと掴んだ。
頭に血でも上ったのか、親指と中指がぐりぐりと動いている。
大丈夫だろうか?
クレアは視線をまっすぐ前に向けたまま、動きをとめた。
さすがは省エネ設計だ。
「亡くなった……? 神の使いが……? そんなことがありえるのか……?」
トールがぶつぶつとつぶやき始めた。
あれっ?
そこが気になるの?
じゃあ、ニルス王子とはどういう間柄だ?
みたいなことになると思ってたのに、そこが気になるのか。
うーん、亡くなったとは言ってないんだけどね。
トールは王宮にいるハムスターが新しいハムスターだとは思ってなかったみたいだし、そこが気になるってどういうことなんだろう?
どこかおかしかったかな?
しばらく思考の奥底に沈みこんでいたトールだったけど、頭をガシガシと両手でかきむしった後、真っ赤な目を私に向けた。
「ハーミア様が亡くなったいうのは本当なのか? ティトラン王国を見捨てたわけではないのか?」
「うん? 見捨てた? いや、ハムスターですからね。三年も生きれば長生きしたほうですよね?」
「長生き? いやいやいやいや、ハーミア様は神の使いだ。亡くなるはずが……三年?」
「はい。ハムスターの寿命は二年から三年といったところですからね。三年も生きられれば、ずいぶんと長生きですよ。うん? でも、亡くなってないんですよね? 新しいハムスターではないんですよね?」
それにもかかわらず、レンホルム伯爵家のテラスには、微妙な空気が漂っていた。
どこかよそよそしい笑顔を、いかつい顔に張りつかせたトール・レンホルム伯爵。
その横には、いつもの省エネモード全開で静かにたたずむクレア。
いつも私の傍にいてくれるターニャも、屋敷の中に戻されてしまった。
モランデル家の養女であるにもかかわらず、いまだにレンホルム伯爵家に居候している私に、トールは努めて明るく話しかけてくる。
「明日のパレードではニルス殿下の馬車に一緒に乗るそうだな、ハーモニー?」
「はい。そのようになっております」
「君は魔族四天王を倒した英雄だからな。精霊祭では君とシルフィーの姿を一目見ようと、例年以上に大勢の人がやってくるだろう。公式行事で姿を見せたことのないニルス殿下と一緒となれば、精霊祭の一番人気になるのは間違いないな」
トールは言い慣れないお世辞を口にした後、うんうんとうなずいた。
「ところで、君はニルス殿下と幼馴染みだそうだな?」
トールは何気なく切り出したつもりだろうけど、おそらく、ここからが本題だろう。
メイドたちを遠ざけ、クレアをすぐ傍に控えさせているのだ。
世間話に花を咲かせたいわけではないだろう。
「私は君が記憶を失くしていると思っていたのだが、ひょっとして何か思い出したのかな?」
シーラは私が召喚獣契約陣から出てきたことを知らない。
私がレンホルム伯爵領で生まれ育ったと思っている。
だから、曖昧な笑みを浮かべていただけで、勝手に私のことをニルス王子の幼馴染みであると思いこんでくれた。
でも、トールの場合はそうはいかない。
こいつはいったい何者なのか?
という疑問は常にトールの頭の片隅にあったはずだ。
「それとも、ニルス殿下は君のことを知っているが、君は思い出していないということかな?」
「幼馴染み……ではないと思うのですが……」
「うーむ……しかし、聞いたところによると、ニルス殿下は君の小さい頃のことも知っているようだし、君もニルス殿下のことを知っていたとか?」
「……はい。そのようですね……」
記憶喪失という訳にはいかないらしい。
危うく泥船に乗るところだった。
とはいえ、トールの疑問はもっともだ。
よく今まで、私に何も聞かずにすませてたね。
気が長いな、トール。
たぶん、そのうち私から話してくれると思っていたのだろう。
ただ、トールにすら本当のことを言う訳にはいかない。
この世界で生きていくにあたって、私には関わってはいけない存在がいるのだ。
救国のハムスター、ハーミア・レンホルム。
新しく得た情報によると、私にとって代わった新しいハムスターは、王宮の一室に引きこもったまま、ハムスター仲間とともに暮らしているらしい。
百匹前後のハムスターに囲まれて、ハムスター生活を満喫しているのだ。
メスだけで暮らしているので、増えることはないらしいのだけど、それってどうなんだろう、と思う。
私はちゃんと式典やお祭りといった公式行事に参加していたというのに、新しいハムスターはハムスター同士でぬくぬくと遊んで暮らしているのだ。
正直、むっとする。
お前の地位を確立したのは私だ、と怒鳴り込みたいところだけど、救国のハムスター様に人族ごときが注意することはできない。
奴は神の使いなのだ。
人界で一番えらいのは奴なのだ。
王様よりも上に君臨する存在。それが救国のハムスター。
奴の権力の前では私などひとたまりもない。
もしも、私が元救国のハムスターですと名乗ったらどうなるか?
私はそのことをさんざんシュミレーションしてきた。
今では、王太子様はもちろん、トールにシーラ、王様や王妃様だって説得できる自信がある。
私との関わりが深ければ深いほど、お互いしか知らないことがあるものだ。
それをひとつひとつ挙げていけば、私がハーミアであるとわかってもらえると思う。
ただ、新しい救国のハムスターが私を敵認定したらどうなるか?
奴はハムスター時代の私より、はるかにハムスター脳だ。
というか、ハムスターと一緒に暮らしているくらいだ。
ハムスターそのものだ。
自分のなわばりを荒らすものには容赦しないかもしれない。
そうなったら、私が味方だと思っていた人がすべて、敵に回るだろう。
しかも、半径一キロメートル完全消滅(自爆)という能力を持っている可能性が高い。
命だって、たくさん持っているかもしれない。
私の命はひとつだけだ。
絶対結界と完全消滅(自爆)という鉾盾対決は是が非でも避けなければならない。
分が悪すぎる。
というわけで、私が元ハーミア・レンホルムであるということは最高機密とさせてもらっている。
今のところ、私がハーミアであると知っているのはニルス王子だけだ。
しかも、私自身がそれを認めたことはない。
ニルス王子が勝手に思い込んでいるだけだ。
遠回しにではあるけども、口止めもしている。
たぶん、大丈夫だろう。
トールの笑みがだんだん引きつっていく。
気の長いトールだけど、さすがにずーっと黙っている私に思うところがあるのだろう。
あと三十分ほど様子を見てみよう。
私は能面精霊顔のまま、じーっとトールの目を見つめ続けた。
あっという間に三十分経過。
トールは引きつった笑みを浮かべたまま、微動だにしない。
もちろん、省エネクレアは活動をとめたままだ。
お屋敷でお嬢様待遇を受けている恩もある。
しかたがない。
「今、王宮にいらっしゃる新しい救国のハムスター様はどのようなお方なのですか?」
ニルス王子は、新しいハムスター様は面会拒絶で会ってもくれない、と言っていたけど、トールならば少しは情報をもっているだろう。
優しいハムスターならば、一度会って話し合うこともできるかもしれない。
聞くだけ聞いてみよう。
そう思った私は、しぶしぶ口を開いた。
そのとたん、トールの顔から笑みが消えた。
「新しい? というのはどういう意味だ?」
何のことだ?
という表情だ。
ひょっとして、ハムスターは私の記憶を引き継いでいて、完全にハーミアとして暮らしているのだろうか?
ひょっとして、どちらかがクローン?
まさか、私がクローンってことはないよね?
ダメだ。
完全に失敗した。
黙ってたほうがよかった。
私は完全に押し黙った。もともと表情が硬い。
我慢比べなら私の方が強いはずだ。
クレアには勝てないけど。
そこから、さらに三十分経過。
今度はトールの方が先に折れた。
クレアは微動だにしないけど。
「私はしばらく救国のハムスター様に会っていない。最近のご様子に関しては一切知らないな」
「最近と言いますと、どのくらい前からですか?」
「ふーむ……そうだな……一年と……すこし……に、なるかな」
トールは無表情のまま、じっくりと時間をかけて言葉を選んだ。
つまり、トールは新しいハムスターには会ったことがないということだろうか?
じゃあ、新しいハムスターを召喚したのはトールじゃない?
いや、トールが召喚した後、会っていない?
いろいろと考えられるパターンは多い。
情報が少なすぎる。
私はどちらかというと石橋を叩いて、叩いて、叩いて、やっぱり渡らないタイプなのだ。
リスクを冒したくない。
トールはじっと私の様子を見ている。
自分は質問に答えたのだから、次はそちらだということだろうか?
しょうがない。
私は以前から考えていた最もリスクを低く抑えられそうな作戦を実行することにした。
名付けて、虎の威を借る狐作戦だ。
神の加護を持つとされる私であれば、この作戦でうまくいくはずだ。
「トール様は大天使様をご存知でいらっしゃいますよね?」
「ああ、もちろんだ。プルッキア帝国との戦いで助けていただいたからな」
「では、大天使様がおふた方いらっしゃることはご存知ですか?」
「……いや、それは初耳だ。そのような記録も残っていないと思うのだが……」
目を大きく見開いたトールが、背もたれから大きく身を乗り出してくる。
クレアですらピクッと肩を震わせた。
「トール様がご存知の大天使様は恐いほうの大天使様です。今回、私を人界に送り出したのは優しいほうの大天使様です」
トールが驚愕の表情を浮かべたまま固まった。
クレアですら目に力が込められた。
うんうん、ここからが本番だ。
「ただ、このことは内密にしていただきたいのです。というのも、私の持っている情報では、救国のハムスターであるハーミア・レンホルム様はすでにお亡くなりになっているはずなのです。それがいまだに御存命であるということは、恐いほうの大天使様が関与しているのかもしれません。そうなると、私としては関わるべきではないのです。それぞれの大天使様で違った思惑があるのかもしれませんからね。救国のハムスター様の邪魔をするつもりはございません。お願いできますか、トール様?」
私は無表情精霊顔を最大限に活用して、言い淀むことなく、一気に話しきった。
一切、嘘は含まれていない。
あとは、トールがどう解釈するかだ。
トールはこめかみを手でギュッと掴んだ。
頭に血でも上ったのか、親指と中指がぐりぐりと動いている。
大丈夫だろうか?
クレアは視線をまっすぐ前に向けたまま、動きをとめた。
さすがは省エネ設計だ。
「亡くなった……? 神の使いが……? そんなことがありえるのか……?」
トールがぶつぶつとつぶやき始めた。
あれっ?
そこが気になるの?
じゃあ、ニルス王子とはどういう間柄だ?
みたいなことになると思ってたのに、そこが気になるのか。
うーん、亡くなったとは言ってないんだけどね。
トールは王宮にいるハムスターが新しいハムスターだとは思ってなかったみたいだし、そこが気になるってどういうことなんだろう?
どこかおかしかったかな?
しばらく思考の奥底に沈みこんでいたトールだったけど、頭をガシガシと両手でかきむしった後、真っ赤な目を私に向けた。
「ハーミア様が亡くなったいうのは本当なのか? ティトラン王国を見捨てたわけではないのか?」
「うん? 見捨てた? いや、ハムスターですからね。三年も生きれば長生きしたほうですよね?」
「長生き? いやいやいやいや、ハーミア様は神の使いだ。亡くなるはずが……三年?」
「はい。ハムスターの寿命は二年から三年といったところですからね。三年も生きられれば、ずいぶんと長生きですよ。うん? でも、亡くなってないんですよね? 新しいハムスターではないんですよね?」
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