訳あり幼女に声をかけたら最強のドラゴンだった

Luculia

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第1章 学園編

第10話 簡単なこと

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「困ったぞ。なにをしようか、全く思いつかない」
「君は、なんの計画もなしに私を誘ったのか」
「いやいや、僕だってこの街に来たのは初めてで、どこになにがあるかも分からないし……」
 それに、どんなことをすれば彼女を楽しませてやれるのかも、全く分からない。
 ……いや、やめよう。ドラゴンだと考えてしまうから、余計に難しくなってしまうのだ。
 目の前にいるのは、幼女……幼い、女の子なんだ。とすれば、どうすればいいのかも、ぼんやりとだが見えてくる。
「そうだ、甘いものでも食べに行こう!」
「甘いもの?」
 そう、女の子といったらスイーツ、スイーツといったら女の子。切っても切り離せない関係である。
 それに、彼女と初めて会った時のことを思い出してみると、パンをとても珍しがっていた。
 三大欲求のうちの一つである食欲……なんだ、簡単なことじゃないか。
 美味しいものを食べさせてやる。これだけでよかったのだ。
「甘いもの……スイーツ……バイキング! あそこで、スイーツバイキングをやっているよ! あそこにしよう!」
「君、さっきから適当に勢いだけで決めていないか?」
「そ、そんなことないよ! 美味しいデザートが食べ放題だよ? ね、行こう?」
 実際、勢いでどんどん決めていかなければ、僕のような人間はうだうだと悩んだ挙句に微妙な空気にしてしまうのだ。それに、全く考えがないかというと、そういう訳でもない。
 食べ歩きというのも考えてはいたが、そうするとお財布が大打撃を受けることになる。
 早い話が、定額で色々な種類を好きなだけ食べられるって、お得じゃん? と、いう訳だ。
 とはいえ、種類はスイーツだけに限定されている。甘いものばかりで、果たして満足してくれるかどうか……。
「うぅぅぅ……美味すぎる……」
 杞憂だった。めちゃくちゃ満足している。なんなら、この店潰す勢いで食べている。
「なんか、この……フワッとした、なんか甘いパン……」
「ケーキね」
「色が変わると、味も変わって……どうなっているんだ? 街の外じゃ、こんなもの見なかったぞ」
「人が作った食べ物だからねぇ……」
 なんだか、見ているだけでお腹がいっぱいになってくるというか、胸焼けしてくるというか……。
 ……それにしても、本当に食べることが大好きなんだな。単に、物珍しいだけなのか?
 この子が感情を高ぶらせているのを見るのは、なにかを食べている時だけな気がする。
「……ふぅ。人間が、こんなに素晴らしいものを作っていたとは……知らなかった……」
「気に入ってくれたのなら、よかったよ。じゃあ、そろそろ出ようか?」
 いくら食べ放題とはいえ、流石に周囲の目が辛くなってくる頃だ。彼女も大変満足してくれていることだし、もういいだろう。
「待ってくれ」
 お会計をとMFCを取り出す僕を制止して、彼女は言った。
「あと、一種類ずつ食べてからにしてくれ」
 …………。
「うむ、正直あまり期待はしていなかったが、満足だった」
「それはよかった……」
 お会計の時、店員さんと目を合わせるのが、気まずかった……。
 別にルール違反をしている訳でもないのだし、堂々としていればいいんだけれど……。
「む、あれはなんだ? なんというんだ?」
「……え? なに、どれ?」
 バイキングがきっかけで色々なものに興味が湧き始めたのか、彼女はあっちこっち見回しながら、フラフラと歩いていく。
 人にぶつかったり、迷子にでもなったりしたら面倒――いや、大変だ。
 慌てて後をついて行くと、彼女は電気屋さんのディスプレイに飾られている、テレビに釘付けになっていた。
「この四角いものはなんだ? なんで、モンスターが中に入っている?」
 テレビは、最近可愛いと人気の、アイドルモンスター特集を映し出していた。
 彼女はそれを、不思議そうに見つめている。本当に、中にモンスターが入っているのだと思っているのだ。
「これはね、遠くで撮影した映像を電波で送って、それをこっちで受信することで見ることが出来るんだよ」
「よく分からないが……つまり、私が世界を見ているのと一緒ということか」
「いや、そんな大規模なものじゃないよ……」
 しかし、そうか……テレビに興味を持つのか。
「ねぇ、よかったら映画でも見ない?」
「映画? それはなんだ?」
「これよりももっと大きい画面で、もっと大迫力の映像が見られるよ」
 僕がそう言うと、彼女は無言で目をキラキラと輝かせた。
 あまり感情は表に出さない子だが、なんとなく考えが読めるようになってきたぞ。
「えっと、今はどんな映画を上映しているのかな……」
 バイキングときての、映画。座っているだけで余裕で二時間は時間を潰せる、またまた楽な娯楽である。
 あれこれ考えて結局見たのは、子ども向けの魔法少女が活躍する映画。正直、彼女がドラゴンだということを忘れていた。
 どうしよう、つまらないと思っているかもしれない。
 チラリと横目で確認してみると、彼女は口を閉じるのも忘れて映像に見入っていて。
 魔法少女たちが繰り出す技の、派手な赤と青のエフェクトが、チカチカと彼女を照らしていた。
「面白かった!」
「うんうん、よかったねぇ」
 なんか、どんどん精神年齢が退行していってないか? それほど夢中で楽しんでいるということなら、僕はなにもしていないけれど、嬉しくなってくる。
「ん、これはなんだ?」
「次はなに? なにが気になって……」
 彼女がそう言いながら持っていたのは、クシャクシャになった紙。
 僕が、ずっとポケットに入れたままにしていた、あの紙だ。
「合格……証? これは……」
 自分でも信じられないくらいの力と早さで紙を奪い取ると、そのまま折りたたむこともせず無造作にポケットへと突っこむ。
「あ……これは、なんでもないやつだから……」
「なにに合格したんだ?」
「大したことじゃないよ……」
「そうか。それで、なんの合格証なんだ?」
 メンタル鋼なのかな? 明らかに言いたくない感じを出しているというのに。
 僕は諦めて、ため息と共にそれを明かした。
「……モンスターとパートナーを組むには、学園への入学が義務付けられているんだよ。それで、これはその結果……」
「合格したのか。凄いじゃないか」
「別にすごくないよ……。勉強してれば、誰だって……」
 そう。例え合格出来たとしても、意味がないのだ。知識として頭に入っているだけでは。
 ……パートナーを作ることが、出来ないのでは。
 だから、僕はこの街に来たのだ。僕が合格した学園……に、入学を辞退すると伝えるために。
「……なんだ、やっぱり対価はあったんじゃないか」
「……え?」
 対価? それは、僕が彼女に娯楽を教えてあげる代わりに……のくだりのやつか?
 そんな……対価だなんて、考えてもいなかったのだが。
「簡単なことじゃないか。私がパートナーになれば、全てが上手くいく。そうだろう?」
 自信満々にそう言う彼女は、楽しさのあまり浮かれているのか一度パートナーを断られているという事実を全て、忘れてしまっているようだった。
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