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第1章 学園編
第12話 名前
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「……う……はよう……おはよう」
「うん……うん?」
温かい布団、綺麗にまとめられた荷物があるだけで、ほとんど私物のない、生活感のない部屋。
そうだ僕は、田舎から電車で六時間もかかるこの街の宿屋に、泊まっていたのだった。
「やっと、起きたか。やれやれ、パートナーというのも、楽な役目じゃないな」
「……おはよう。まだ、朝の五時なんだけどね……」
昨日とは、決定的に違う点は、ただ一つ。それは、一人じゃないこと。早朝から起こしてくれるような、パートナーがいること。
未だに、信じられなかった。
昨日――。
「――どうだ? これで、私はパートナーになれたのか?」
「ああ待って、今登録するから……」
MFCを起動し、パートナーの登録申請を行う。
手順にそって操作していくと、画面がカメラモードに切り替わる。
これでモンスターを映すだけで、自動的に情報がスキャンされるらしい。なんとハイテクで便利なことか。
少し震える手で彼女を画角に収めると、MFCが自動で反応する。なにやら数式? 文字列が流れるが、ちゃんと出来ているのだろうか。
なにせ、災厄のドラゴン、世界に一匹しかいない生物だ。心配にもなる。
……それにしても、パートナーになるには、モンスター側もそれを望んでいなければ、成立しないはず。それも、こうして映しているだけで、分かってしまうのだろうか。
やがて、ピーという甲高い音と共に、やっと僕にも読める文字が現れる。
そこには、登録完了の四文字が。どうやら、成功したらしい。
「うん……終わったよ。これで、晴れて僕たちはパートナーになったって訳だ」
「ふむ……こんなに簡単になれるものなのか」
「まあ、まだ情報が登録されたってだけだね。えっと……これからよろしく、えー……」
ここからが、僕たちの始まりなんだ。これから、一緒に頑張っていこう。そう言おうとしたが、途中で言葉に詰まってしまう。
どうしよう……そういえば、まだ名前を聞いていなかった。聞くにしても、もうタイミングを逃した感があるし、どうしたものか……。
「ああ、そうだ。今更だが、私は君のことをなんと呼べばいいのだ?」
ナイスタイミング。心の中で華麗にガッツポーズを決めながらも、僕はなんでもない風を装って言った。
「僕の名前は、レイズ。君は?」
完璧だ。自分から名乗りながらも、さり気なく名前を聞く。これなら、全く不自然じゃない。
「私に名前なんて、ないぞ」
「えー……」
そうきたか。いや、普通ほとんどのモンスターは、人間がつけた……いわばニックネームのようなもので呼ばれている。
だがドラゴンという、人間を遥かに超越した存在なら、名前というものを持っているかもしれないと、思っていたのだ。
「そもそも、名前なんてつけて意味があるのか? 自分か、それ以外。これだけ分かれば充分だろうに」
「い、いやいや! 名前は大事だよ! 現にほら……こういう時、なんて呼んだらいいか、困るじゃないか」
「…………」
彼女は黙ったまま、ジッと僕を見つめてくる。
なんだ、どうしたというんだ。さっき、なんとなく感情が分かるようになってきただとか、悲しげな表情に見えるだとかほざいてしまったが、前言撤回する。
全く分からない。なにを考えているんだ? そして、この沈黙に対してのアクションに、正解はあるのか?
「…………ふむ」
「……! ど、どうしたの?」
「いやなに、確かに君の名前がレイズだと知れたことは、よかったと思ってな。どうやら私が思っているよりもずっと、名前というものは重要なのかもしれないな」
「うんうん、そうだよ! 名前って、すごく大切なものなんだよ。この先ずっと使うものだし――」
「なら、私の名前を決めてくれないか?」
「え、名前……」
名前……まずいぞ。なにも考えていなかった。そもそもパートナーになるつもりなんてなかったのだから、当たり前だ。
どうする? 散々名前は大事なものだなんて言っておきながら、適当な名前はつけられないぞ。しかし、このまま名無しのままにしておくのも……。
……そうだ。こういう時は、そのモンスターの特徴から、名前を頂戴するのが、一般的だ。
色々と、思い起こしてみよう。えー、まず災厄のドラゴンで、最強で、世界を管理する者で……。
……名前に出来る要素が、何一つ見当たらない。
いやいや、落ち着け。見た目から取るということも、出来るじゃないか。というか、彼女は見た目だけなら可愛らしい女の子なのだ。むしろ、そっちの方から取るべきだろう。
よし、まずは黒い髪に……目は青くて、それから黒いドレス姿で……。
全体的に、黒が多い。なんだこの、驚くべき黒さは。洗剤もびっくりの黒さだぞ。
そうだ、確か彼女がドラゴンだと判明した日も、夜だった。あの時、真っ暗な闇の中で月明かりに照らされる彼女は、思わず心臓が高なってしまうくらい美しくて……。
闇……ナイトメア……メア……。
「メア……そうだ、メアにしよう。どうかな? 悪い名前じゃないと思うけど?」
「随分と、可愛らしい名前をつけてくれたものだな」
まあ理由は全く、可愛らしいものではないのだが。
「それじゃあ、レイズ……いや、名前呼びはよくないな。私と君は、主従関係を結んだのだから」
「主従関係って……」
「そうだな、それっぽい呼び方……そうだ、主。主と呼ぼう。どうだ?」
「うーん、まあ、呼びやすいなら、僕はなんでもいいけど……」
という訳で、彼女の名前はメアに決まった。
そして、話は現在に戻る。
「――ついた。ここが、これから通うことになる学園……」
宿屋を出た僕たちは、学園の高い高い門を見上げていた。
「うん……うん?」
温かい布団、綺麗にまとめられた荷物があるだけで、ほとんど私物のない、生活感のない部屋。
そうだ僕は、田舎から電車で六時間もかかるこの街の宿屋に、泊まっていたのだった。
「やっと、起きたか。やれやれ、パートナーというのも、楽な役目じゃないな」
「……おはよう。まだ、朝の五時なんだけどね……」
昨日とは、決定的に違う点は、ただ一つ。それは、一人じゃないこと。早朝から起こしてくれるような、パートナーがいること。
未だに、信じられなかった。
昨日――。
「――どうだ? これで、私はパートナーになれたのか?」
「ああ待って、今登録するから……」
MFCを起動し、パートナーの登録申請を行う。
手順にそって操作していくと、画面がカメラモードに切り替わる。
これでモンスターを映すだけで、自動的に情報がスキャンされるらしい。なんとハイテクで便利なことか。
少し震える手で彼女を画角に収めると、MFCが自動で反応する。なにやら数式? 文字列が流れるが、ちゃんと出来ているのだろうか。
なにせ、災厄のドラゴン、世界に一匹しかいない生物だ。心配にもなる。
……それにしても、パートナーになるには、モンスター側もそれを望んでいなければ、成立しないはず。それも、こうして映しているだけで、分かってしまうのだろうか。
やがて、ピーという甲高い音と共に、やっと僕にも読める文字が現れる。
そこには、登録完了の四文字が。どうやら、成功したらしい。
「うん……終わったよ。これで、晴れて僕たちはパートナーになったって訳だ」
「ふむ……こんなに簡単になれるものなのか」
「まあ、まだ情報が登録されたってだけだね。えっと……これからよろしく、えー……」
ここからが、僕たちの始まりなんだ。これから、一緒に頑張っていこう。そう言おうとしたが、途中で言葉に詰まってしまう。
どうしよう……そういえば、まだ名前を聞いていなかった。聞くにしても、もうタイミングを逃した感があるし、どうしたものか……。
「ああ、そうだ。今更だが、私は君のことをなんと呼べばいいのだ?」
ナイスタイミング。心の中で華麗にガッツポーズを決めながらも、僕はなんでもない風を装って言った。
「僕の名前は、レイズ。君は?」
完璧だ。自分から名乗りながらも、さり気なく名前を聞く。これなら、全く不自然じゃない。
「私に名前なんて、ないぞ」
「えー……」
そうきたか。いや、普通ほとんどのモンスターは、人間がつけた……いわばニックネームのようなもので呼ばれている。
だがドラゴンという、人間を遥かに超越した存在なら、名前というものを持っているかもしれないと、思っていたのだ。
「そもそも、名前なんてつけて意味があるのか? 自分か、それ以外。これだけ分かれば充分だろうに」
「い、いやいや! 名前は大事だよ! 現にほら……こういう時、なんて呼んだらいいか、困るじゃないか」
「…………」
彼女は黙ったまま、ジッと僕を見つめてくる。
なんだ、どうしたというんだ。さっき、なんとなく感情が分かるようになってきただとか、悲しげな表情に見えるだとかほざいてしまったが、前言撤回する。
全く分からない。なにを考えているんだ? そして、この沈黙に対してのアクションに、正解はあるのか?
「…………ふむ」
「……! ど、どうしたの?」
「いやなに、確かに君の名前がレイズだと知れたことは、よかったと思ってな。どうやら私が思っているよりもずっと、名前というものは重要なのかもしれないな」
「うんうん、そうだよ! 名前って、すごく大切なものなんだよ。この先ずっと使うものだし――」
「なら、私の名前を決めてくれないか?」
「え、名前……」
名前……まずいぞ。なにも考えていなかった。そもそもパートナーになるつもりなんてなかったのだから、当たり前だ。
どうする? 散々名前は大事なものだなんて言っておきながら、適当な名前はつけられないぞ。しかし、このまま名無しのままにしておくのも……。
……そうだ。こういう時は、そのモンスターの特徴から、名前を頂戴するのが、一般的だ。
色々と、思い起こしてみよう。えー、まず災厄のドラゴンで、最強で、世界を管理する者で……。
……名前に出来る要素が、何一つ見当たらない。
いやいや、落ち着け。見た目から取るということも、出来るじゃないか。というか、彼女は見た目だけなら可愛らしい女の子なのだ。むしろ、そっちの方から取るべきだろう。
よし、まずは黒い髪に……目は青くて、それから黒いドレス姿で……。
全体的に、黒が多い。なんだこの、驚くべき黒さは。洗剤もびっくりの黒さだぞ。
そうだ、確か彼女がドラゴンだと判明した日も、夜だった。あの時、真っ暗な闇の中で月明かりに照らされる彼女は、思わず心臓が高なってしまうくらい美しくて……。
闇……ナイトメア……メア……。
「メア……そうだ、メアにしよう。どうかな? 悪い名前じゃないと思うけど?」
「随分と、可愛らしい名前をつけてくれたものだな」
まあ理由は全く、可愛らしいものではないのだが。
「それじゃあ、レイズ……いや、名前呼びはよくないな。私と君は、主従関係を結んだのだから」
「主従関係って……」
「そうだな、それっぽい呼び方……そうだ、主。主と呼ぼう。どうだ?」
「うーん、まあ、呼びやすいなら、僕はなんでもいいけど……」
という訳で、彼女の名前はメアに決まった。
そして、話は現在に戻る。
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宿屋を出た僕たちは、学園の高い高い門を見上げていた。
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