訳あり幼女に声をかけたら最強のドラゴンだった

Luculia

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第1章 学園編

第15話 殺戮の誤差

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 メアはあれから、例の育成ゲームに夢中だ。
 大人まで育て上げたら、また新しいモンスターを迎え入れる。繰り返し行われる単調な作業に、よくもまあ飽きないものだと、感心してしまう。
 とはいえ、これはいい傾向だと思った。
 ゲームに熱中しすぎるのもよくはないが、それでもメアの中で、なにかが変わっていると、そう信じたかった僕は、早速メアに話しかけてみることにした。
「メア。ゲームはどう? 楽しい?」
「む、主……。いや、このゲームというものは、終わりがないのだな……」
 そう言いながらゲームをプレイするメアは、僕の想像に反してあまり楽しそうではなさそうで。
 なんだろう……お刺身に、タンポポを乗せ続けている時のような目をしている。
「育て終わると、すぐに新しいモンスターが来るんだ。世話をしないと、死んでしまうだろう? だから……」
「死んで……あっ」
 そうか……僕は、以前メアにゲームを渡した時に、こう言った。
 今度は、絶対に死なせてはダメだと。
 メアは、今もその言いつけを守ってゲームをやり続けているのだ。
 とっくに飽きてしまっているゲームを、ずっと……。
「ごめん、メア。気がつかなくて……もう、無理にゲームはやらなくていいよ。ゲームは、楽しんでやるのが一番だからね」
「ゲームをやめたら、私の八十七代目はどうなるのだ?」
「怖いぐらいやりこんだね。このゲーム、モンスターの種類は五種類しかいなかったはずだけど……まあ大丈夫。電源を消しておくだけだから――」
「……! だ、ダメだ!」
 酷く慌てた様子で、メアは僕から乱暴にゲームを奪い取る。
 なんだ、どうしたんだ? メアがここまで感情を表に出したのは初めてのことで、心臓がバクバクと音を立てて鳴る。
 そうだ、ここのところ日々を一緒にすごしていたせいで、忘れそうになっていた。
 彼女が、災厄のドラゴンだということを。
 なんとなく、メアは大人しくて僕に従順なのだと勝手に思いこんでいた。全く、そんなことはないというのに。
「えっと……メア? どうしたの? ゲームを終わらせたいなら、僕に渡してくれないと……」
 とりあえず、当たり障りのないことを言って様子を見てみる。
「ダメだ……だって消したら、今までのやつらも、みんな消えてしまう……」
 メアはゲームを抱えこむようにして持ち、頑なに渡そうとしない。
 ……というか、って……
 全五種類に対して、八十を超え育成したモンスターたちのことを、ちゃんと一匹ずつ別の個体として認識している……?
 あれだけ、死なせても代わりはいる、違いはない同じだと言っていたというのに。
 もし、さっきの感情を出した行動も、ゲームを通じて成長したのだとしたら――。
「そっか……。その子たちは、みんなメアの大切な子たちなんだね」
「…………」
 メアは頷きこそしなかったものの、かといって否定もしなかった。
 見た目も相まって、なんだか本当に子どものように思えてくる。先ほどの恐怖も今では消え、変わりに微笑ましい気持ちが芽生えた。
「大丈夫。電源を消すっていうのは、データを消すってことじゃないんだ。ゲームの中の時間を止めるから、今の子が死ぬこともないんだよ。いつかメアがやりたくなったら、またその時やろう? ね?」
 優しく、それこそ子どもに言い聞かせるようにして話すと、メアはチラッとこちらを伺ってから、そっとゲームを手渡してきた。
「……実のところを言うとな、毎日毎日このゲームをやるのは、少し億劫だったんだ」
「うん、そうだろうね。とにかく、これは僕が預かっておくよ。今までの子たちも見られるから、安心してね」
「フライも見られるのか?」
 フライ……初代から、三代目までのモンスターの名前だ。四代目からは違う名前をつけたようだが、それ以降どうなっているのかは知らない。
「うん、フライも見られるよ。巣立ったから、会えはしないけど……ちゃんと、記録に残ってる」
 しかし、ゲームの……言ってしまえば、ただのデータにここまで感情を引き出されるだなんて、思ってもみなかったことだ。
 もちろん、そうなればいいなくらいは思っていたが、まさかここまで上手くいくだなんて……。
 それなら、現実の方でも上手くいくのでは?
「ね、ねえメア?」
「ん? なんだ、主」
「その……災厄のドラゴンとしての役目のことなんだけどね」
「やめろと言われても、やめられないぞ」
 キッパリはっきりと、言われてしまった。いや違う。そんなことが言いたい訳じゃない。
 殺すことで頭数を調整しているというのも、必要なことなのだと理解しているつもりだ。ただ、僕が言いたいのは――。
「毎回毎回、規模が大きすぎると思うんだよね。何百年も前のことだけど、人口を半分にしたりだとかさ……もう少し、いい感じに調整は出来ないの?」
「調整? なんでそんな面倒なことをする必要があるのだ? 別に百も千も、そう変わらないだろう。誤差だよ、誤差」
 そう言いながらメアは、空中にクルクルと円を描いてみせた。
 ……確かに、数字だけで見れば、百を千にすることなんて、ゼロを一つ足せばいいだけのことである。
「でもね、違うよ。百を千にするには、その間に九百の人がいるんだ。死ぬ必要なんて全くなかった、誤差で済まされる人たちがね」
「うっ、九百……私が嫌になるくらい育てても八十七……百にすら届いていないのか……」
 あれっ、これは……。
 ゲームが、いい方向に働いてくれているのでは?
「そ、そうだよ。メアにとっては百や千なんていつでも消し飛ばせる、取るに足らない数かもしれないけど、僕たち人間にとっては大変な数なんだから!」
「確かに、人口を半分まで削った後、元に戻るまでにかなりの年月がかかったものな……少し、考えを改めてみるか……」
 ……めちゃくちゃあっさりと、話がついてしまった。
 喜びよりもまず、ゲームがもたらす影響力というものは、凄まじいものがあると、ある種の感動すら覚えてしまったのだった。



 
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