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第1章 学園編
第31話 ひとりごと
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もう、何をやってもダメなのかもしれない。
この先もきっと、負け続ける。どんなに強い、優れたパートナーがいたって、それを使う人が無能じゃ、どうしようもないじゃないか。
それならもう、いっそのこと――。
「自分の弱さに嫌気がさした……って顔をしているな」
ベンチに座り、俯いていた顔を上げる。
メアという希少な存在が隣にいない今、僕に声をかけてくる人だなんて誰もいないと思っていた。
目の前に立っていた人……それは、さっきまで敵同士だった人。リョウだった。
「え、何で……」
自分より弱いやつとは話さない。そう言っていたはずなのに、何故今になって話しかけてきたのだろう。
そう思っていると、彼は僕から少し離れた位置に、腰を下ろす。
会話をするような距離ではないが、それでもシンと静まり返ったこの場所、嫌でも声が聞こえてくる。
「勘違いするのは辞めてくれないかな。俺は、たまたまここで休憩したくなって、ひとりごとを言っているだけだ。君とは話していないし、するつもりもない」
……一体、どういうつもりなんだ。
休憩する場所なんて、ここ以外にも山ほどある。それにひとりごとというのも、無理があるだろう。
おそらくだが、彼は……僕に何か言いたいことがあって、ここへ来たのだろう。
僕とは話をしないと言った手前上、ひとりごとという手段を使って、それを伝えようという訳だ。
「俺は――君みたいな人間が、一番嫌いなんだ」
何を言うかと思えば、彼の口から飛び出てきたのは、ただの暴言だった。
……いや、よくよく考えてみれば、それ以外で僕に話しかける理由なんてないか。
ひとりごとという体で、反論することも許されずにただ黙って聞き続けるしかない……それが、敗者というものなのだから。
「君みたいに、弱くて、何も出来なくて、自信もない。でも、人一倍誰かに認められたい。そんな人が、大嫌いだ」
「…………」
分かっている。全て、僕に当てはまっていることだ。
認められたい――パートナーと共に強敵に立ち向かったり、ライバル達と切磋琢磨したり……そういう風になりたくて、僕はこの学園を選んだ。一度は諦めかけたが、メアともパートナーになり、そして今ここにこうしている。
だけど、現実は厳しくて。
思い描いていた理想のようにはいかなくて、今みたいに負けて……そして、戦うこと自体怖くなってしまった。
そんな僕が、これから先この学園生活を送れる訳がない。
そう、遠回しに辞めろと、彼は言っているのだ。実際、僕もそうした方がいいと――。
「でも、その嫌いという感情は、同族嫌悪からくるものだ」
「……え?」
思わず、声が漏れ出てしまった。
だって、僕と彼とじゃあ全然、何もかもが違う。
自信の表れも、実力も……全て、彼の方が上じゃないか。むしろ、一緒のところを探す方が、難しいと思うのだが。
「……俺の目。この国じゃ、何の変哲もない普通のものなんだろうが、俺の故郷では違った」
リョウの故郷……確か、四季の国。
こことは、価値観も文化も全く異なる場所だ。
「俺の国じゃあ、黒髪に黒の瞳以外は認められない。でも、何の間違いか、俺の目は金色に作られてしまった」
そう言いながらリョウは、右目を隠すようにして伸ばされた髪を触る。
別に、僕からしてみれば何もおかしなところはない目なのだが、リョウのいた国では違ったのだろうか。
明らか不便になるというのに、それでも目を隠したくなるような待遇を、受けていたのか。
「まだ子どもだった僕は、それに対抗する術を知らなかった。毎日罵倒され、虐げられ、それでも抵抗出来なかった。自分がおかしい、悪いんだって思っていた」
ただ、瞳の色が違っただけ。虐げられただなんて一言で済ませてはいるが、きっと想像を絶するようなことがあったのだろう。
ましてや、子どもの頃のことだ。その時のこと、考えただけで胸が痛くなる。
「誰も味方はいなかった……だが、ライと出会って俺は変わった。誰にも負けることはなくなったし、一生を過ごすと思っていた、あの国も出ることが出来た」
パートナーと出会って……自らの、人生まで変えてしまったリョウ。
僕は……どうだろうか。メアと出会って、どれ程変わっただろう。
「つまり、俺が言いたいのは……いや、これはひとりごとなんだけど……とにかく! もっと自分のパートナーを頼ってみたらどうなんだって思う。隣にいるパートナーのことを無視して、一人だけの行動ばかりなのは……イライラするんだよ」
言いたいだけ言って、リョウは立ち去っていった。いやまぁ、ひとりごとだもんな。
「パートナーを頼る……か」
一人で本を見て、知った気になって。
僕が指示を出して、その通りにメアが動く。戦いは、二人でやるものだというのに。
それなのに、僕は何をやっていた?
思い返してみれば、メアはずっと気遣ってくれていたな。
それを、僕は邪険にして……静かにしろだとか、先に帰れだとか……。
「会わないと……メアに」
会って、言わないと。まず、謝罪。それから――。
この先もきっと、負け続ける。どんなに強い、優れたパートナーがいたって、それを使う人が無能じゃ、どうしようもないじゃないか。
それならもう、いっそのこと――。
「自分の弱さに嫌気がさした……って顔をしているな」
ベンチに座り、俯いていた顔を上げる。
メアという希少な存在が隣にいない今、僕に声をかけてくる人だなんて誰もいないと思っていた。
目の前に立っていた人……それは、さっきまで敵同士だった人。リョウだった。
「え、何で……」
自分より弱いやつとは話さない。そう言っていたはずなのに、何故今になって話しかけてきたのだろう。
そう思っていると、彼は僕から少し離れた位置に、腰を下ろす。
会話をするような距離ではないが、それでもシンと静まり返ったこの場所、嫌でも声が聞こえてくる。
「勘違いするのは辞めてくれないかな。俺は、たまたまここで休憩したくなって、ひとりごとを言っているだけだ。君とは話していないし、するつもりもない」
……一体、どういうつもりなんだ。
休憩する場所なんて、ここ以外にも山ほどある。それにひとりごとというのも、無理があるだろう。
おそらくだが、彼は……僕に何か言いたいことがあって、ここへ来たのだろう。
僕とは話をしないと言った手前上、ひとりごとという手段を使って、それを伝えようという訳だ。
「俺は――君みたいな人間が、一番嫌いなんだ」
何を言うかと思えば、彼の口から飛び出てきたのは、ただの暴言だった。
……いや、よくよく考えてみれば、それ以外で僕に話しかける理由なんてないか。
ひとりごとという体で、反論することも許されずにただ黙って聞き続けるしかない……それが、敗者というものなのだから。
「君みたいに、弱くて、何も出来なくて、自信もない。でも、人一倍誰かに認められたい。そんな人が、大嫌いだ」
「…………」
分かっている。全て、僕に当てはまっていることだ。
認められたい――パートナーと共に強敵に立ち向かったり、ライバル達と切磋琢磨したり……そういう風になりたくて、僕はこの学園を選んだ。一度は諦めかけたが、メアともパートナーになり、そして今ここにこうしている。
だけど、現実は厳しくて。
思い描いていた理想のようにはいかなくて、今みたいに負けて……そして、戦うこと自体怖くなってしまった。
そんな僕が、これから先この学園生活を送れる訳がない。
そう、遠回しに辞めろと、彼は言っているのだ。実際、僕もそうした方がいいと――。
「でも、その嫌いという感情は、同族嫌悪からくるものだ」
「……え?」
思わず、声が漏れ出てしまった。
だって、僕と彼とじゃあ全然、何もかもが違う。
自信の表れも、実力も……全て、彼の方が上じゃないか。むしろ、一緒のところを探す方が、難しいと思うのだが。
「……俺の目。この国じゃ、何の変哲もない普通のものなんだろうが、俺の故郷では違った」
リョウの故郷……確か、四季の国。
こことは、価値観も文化も全く異なる場所だ。
「俺の国じゃあ、黒髪に黒の瞳以外は認められない。でも、何の間違いか、俺の目は金色に作られてしまった」
そう言いながらリョウは、右目を隠すようにして伸ばされた髪を触る。
別に、僕からしてみれば何もおかしなところはない目なのだが、リョウのいた国では違ったのだろうか。
明らか不便になるというのに、それでも目を隠したくなるような待遇を、受けていたのか。
「まだ子どもだった僕は、それに対抗する術を知らなかった。毎日罵倒され、虐げられ、それでも抵抗出来なかった。自分がおかしい、悪いんだって思っていた」
ただ、瞳の色が違っただけ。虐げられただなんて一言で済ませてはいるが、きっと想像を絶するようなことがあったのだろう。
ましてや、子どもの頃のことだ。その時のこと、考えただけで胸が痛くなる。
「誰も味方はいなかった……だが、ライと出会って俺は変わった。誰にも負けることはなくなったし、一生を過ごすと思っていた、あの国も出ることが出来た」
パートナーと出会って……自らの、人生まで変えてしまったリョウ。
僕は……どうだろうか。メアと出会って、どれ程変わっただろう。
「つまり、俺が言いたいのは……いや、これはひとりごとなんだけど……とにかく! もっと自分のパートナーを頼ってみたらどうなんだって思う。隣にいるパートナーのことを無視して、一人だけの行動ばかりなのは……イライラするんだよ」
言いたいだけ言って、リョウは立ち去っていった。いやまぁ、ひとりごとだもんな。
「パートナーを頼る……か」
一人で本を見て、知った気になって。
僕が指示を出して、その通りにメアが動く。戦いは、二人でやるものだというのに。
それなのに、僕は何をやっていた?
思い返してみれば、メアはずっと気遣ってくれていたな。
それを、僕は邪険にして……静かにしろだとか、先に帰れだとか……。
「会わないと……メアに」
会って、言わないと。まず、謝罪。それから――。
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