ホーク・フリート

海飛

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第一章 開戦編

#3 本当の意味

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  時は遡り、2031年5月。

防衛省本部では、ある計画案について議論されていた。

  「空母だと?そんなものを持ってどうするというのだ!」
  「あくまでも、護衛だと言っているだろう」

そう言い合っているのは防衛省建造科課長・志波光俊と防衛省運営科課長・紗波恒剛であった。

  「空母というものは、攻撃するものだ!なんでもかんでも護衛と付ければ済む問題ではない!」
  「護衛空母というものを知らんのか君は」
  「それがどうしたというのだ。使い方次第で攻撃型の空母にもなりうる」
  「君はどうしても空母建造には反対というわけか」
  「当たり前だ!そんなものを作って、諸外国に目を付けられたらどう責任を取るのだ!」
  「そこまでにせんか!!わしらはそんなくだらんことを言い合いにきたのではない!」

と太い声で怒鳴ったのは防衛省本部本部長及び海上幕僚長を兼任する海上幕僚長たる海将・鈴沼勇であった。

  「貴様らだけの言い合いなら外でせい。貴様らはもう少し身分を弁えろ。ここにいるのは貴様ら2人を除く全ての人間が防衛省本部の人間だ。貴様らはただ派遣で来ただけだ。貴様らが勝手に討論していい場ではないということを自覚しろ!」
  「申し訳ありません…」
  「すみませんでした…」

志波と紗波は深々と頭を下げ謝罪をした。それを無視し鈴沼は会議を続けた。

  「わしは、この空母の建造は反対じゃ」
  「しかし…」
  「わしの意見を聞け。護衛空母というものが嫌いでな。わしはやるなら全力でやりたいのだ。そこでだ。わしの考える案を持ってきたのだ。それが、これだ」

鈴沼はカバンの中から1枚の設計図を出した。
それは、一年後に廃艦が決まっている護衛艦「いずも」「かが」の後継艦となる護衛艦の設計図だった。艦種は「航空護衛艦」。DDH、つまり「ヘリコプター搭載護衛艦」をさらに大きくし、戦闘機とヘリコプターの同時発艦を可能にし、格納庫にはヘリと戦闘機の両方を格納、整備する広さを備えたまさに夢のような空母案であった。それを見た一同は「おぉぉぉぉ」「これはなんとも素晴らしい…」「これが新しい時代の空母…」と言った声が飛び交った。

  「わしはこれを『航空護衛艦』という艦種とし、名を『ひよう』と名付けている。わしの意見はこれだけだ。続けてくれ」
  「ひよう……先の戦争で軽空母の名に使われていたものか」
  「お見事。さすがは軍事好きの渡辺さん。ひようと聞いただけで軽空母と分かりましたか」
  「そんなことはどうでもいい。ただ、その艦の建造費は?何隻作るつもりだ。それだけの大きな艦艇だ。確実に護衛艦『かが』の建造費を大きく超えることになる。その設計図から見てざっと2,500億。そんな金どこから用意する。国民は猛反対するぞ」
  「安心してください。そこも考えて発言しています。確かに彼の言うとおり、建造費の予算は2,500億で見ている。だが、レーダーなどの機器は新しいものとして他の通信機器などは廃艦が決まっている艦艇から貰うことで経費を抑えることが出来る。そして、建造予定数は4隻。そして、現在、廃艦が決まっているのは『いずも』『かが』に加え、護衛艦『あたご』『あしがら』の計4隻。この4隻の艦艇から機器を貰うことが出来れば、建造費は1,800億にまで下がる」

鈴沼は廃艦の決まっている『いずも』『かが』『あたご』『あしがら』から通信機器などの機材を貰い、レーダーなどは新しいものを採用するとのこと。これで、建造費は2,500億円から1,800億円にまで下げられるという。しかし、すかさず反応したのは統合幕僚長である渡辺辰巳。階級は統合幕僚長たる海将。

  「だから、なんだと言うのだ。私たちは今、『新型艦建造』の会議をしている。使い回しだと?ふざけるなよ!貴様はそれで、経費を抑えようというのならば、最初からこのような艦の設計図など持ってくるでない!」
  「あなたは何も分かっていないようだ。この計画の本当の意味を」
  「本当の意味だと?一体なんだと言うのだ」
  「今は知らなくていいですよ。後に知ることになりますから」

こうして、空母『ひよう』は建造計画が決定。政府はこれを承諾。早急な建造が勧められ、今に至る。そして、『ひよう』率いる第6空母機動隊は次なる任務の海域へと向かっていた。
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