絶対少女議事録 ~蟹座の私には、フェチニズムな運命を感じられずにはいられない~

只野誠

文字の大きさ
43 / 96
騙される竜と幻惑する塩引く鼠

【Proceedings.38】騙される竜と幻惑する塩引く鼠.03

しおりを挟む
「なんていうか、思ってた以上に葵…… メイド服も似合ってるな」
 巧観が葵のメイド服姿に見惚れながらそう言った。
 たしかに葵のメイド服姿は似合っている。
 まず葵からしてスタイルが抜群によく、体のラインも美しいのだからなんだって似合う。
 何より顔が良い。ものすごく顔が良い。
 どこをどう見ても優雅で美しいのだ。

 それで体のラインがただでさえ美しいのに、フリルや繊細なレースで彩られた葵のメイド服姿は洗練され、葵の美しさをより一層引き立てている。
 葵の体のラインにピッチリと合っているメイド服なせいか、それは何とも言えない大人な魅力も備えている。
 またメイドのミニスカートからすらりと伸びた脚にはガーターベルトのついたストッキングとヒールの高い革靴を着用しているのがとても美しく似合っている。
 完成されたかわいさと美しさ、その両立がそこにはあった。

「そうですね。本当に外見だけは……」
 月子も葵のメイド服姿を見て、一緒にバイトしなくて良かったと心底思った。
 葵が美しすぎる。
 これの隣に立つにはかなりの勇気がいる。
 比べられたところで月子も何とも思わないのだが、それでも葵の横に立つには勇気がいるほどだ。
「月子も着て見ない? 似合うと思うよ」
 そんな月子の思惑とは相反して、葵は月子にもメイド服を着させようとしてくる。
 たしかに、この食堂のメイド服はかわいい。
 月子も一度くらいは着てみたいと思っている。
 だが、やはり葵の隣に立つには勇気がいる。
 それほど葵の美はどこか完成されすぎている。

「葵様に言われてもですね」
 と、月子は葵のメイド服姿を見ながらそう言った。
「って、油売ってていいのか」
 メイド服を着てはいるが、いつも通り月子の対面に座りまるで働いている様子のない葵に巧観が声をかける。
「今はまだ昼前で忙しくないしね。もう少しして正午になってからだよ、忙しいのは。今はお客も今は月子と巧観、それと綾くらいだし」
 そう言って葵は食堂を見渡す。
 葵には綾がどこにいるかわかっているようだ。
 たしかに自分たち以外誰もいない、そのように巧観には見える。
「綾もいるのか」
 そう言って巧観は綾を探そうとするが、どこに潜んでいるかまるで分らない。
 綾は驚くほど体臭がない。というか周囲の臭いと同化している。
 その為、巧観の自慢の鼻でも綾を探しだすことができない。

「そう言えば、お金を貯めるために綾もバイトをするって言ってたな」
 葵が思い出したようにそんなことを言い出した。
「綾もメイド服を?」
 と、巧観は綾のメイド服姿を想像する事が出来た。
 が、綾がメイドとして働いている姿はどうしても想像できなかった。
 あの人見知りの綾がウエイトレスのようなことをできるとは思えない。
「いや、夜間の校舎の見回り警備って言ってた。他の人と会わなくて済むから気楽だって」
「綾も葵相手だと、そんなことまで話すのか」
 葵の言葉に、巧観も驚きつつ納得もする。
 なんなら、夜間の警備員はすごく綾に合っているとすら巧観には思える。
 もし、夜の校舎に忍び込んだ者が居れば、ある種の恐怖体験をすることではないかとも。

「うん。慣れれば普通に話してくれるよ」
「綾ってあんまり匂いがないからボクだと探せないんだよね。葵はどうやって探しているの」
 そもそも巧観が話そうにも、綾は未だにその姿を滅多に現さない。
 姿を現すときは葵が綾を呼ぶときくらいの物だ。
「勘かな。それよりも月子、そんなにメイド服を見てどうしたの? やっぱり着たいんでしょう?」
 葵は巧観の問いに答えつつも、月子の視線に気づき、笑顔になる。
「まあ、バニーガールの衣装よりは。可愛いですしね。見ていたのは葵様によく似合ってると思いまして」
 着たいか着たくないか、と言われれば月子はメイド服なら着たい、と考えているのは変わらない。
 ただ葵を見ているとその気も失せてくるのも事実なのだ。
「ありがとう、月子。月子も一緒に着ようよ、きっとかわいいよ」
 と葵は笑顔で月子に言ってくるが、月子は冗談じゃない、という顔をする。
「はぁ…… 葵様のその姿を見ると自信がなくなりますので」
 月子のその答えに、葵は少し驚いた顔を見せる。
 そして、すぐに一つの答えを出す。
「じゃあ、私がバニーガールの姿をして、月子がメイド姿っていうのは?」
 そう言われた月子は葵のバニーガール姿を想像する。
 それは美しいのだろうと、月子もそう思う。
 ちょっと見てみたいとさえ思う。
 そう思ってしまったばっかりに月子がどう答えようか迷っていると、
「はい! 葵ちゃん、そろそろお昼ですよ、ちゃんと働いてください!」
 と、丁子晶が葵に声をかけてきた。
 気づくともう正午になろうとしている時間だった。
 たしかに、これから一気に忙しくなる油を売ってはいられない。
「はーい、じゃあ、行ってくるね」
 葵は返事をして厨房のほうへと向かった。

「月子、本当はバイトしたかったんでしょう?」
 そんな葵を月子が見送っていると、巧観にそんなことを言われた。
 それに対して月子は特に隠すまでもなく答える。
「ええ、そうですよ。持ち合わせがもう少ないですし、ここの時給は良いですからね」
 と。口には出さなかったが、ここのメイド服を着てみたかったとも、心の中だけで答える。
「なら、一緒にバイトすれば、よかったじゃない」
「葵様と比べられるのは流石に嫌ですよ」
 月子はため息を吐きながら、そう言った。
「え? それ本気で言ってたの?」
 と、巧観は驚く。
 少女と言うよりは少年、そんな中性的な容姿の巧観からすれば、葵も月子も物凄い美少女に見える。
 二人とも遜色ない完璧な美少女に、巧観には思える。
「そうですよ」
 と、月子は少しつまらなさそうにそう言った。



 丁子晶は面白くなかった。
 自分のメイド服姿を見て葵がバイトを始めたところまでは良い。
 だが、葵は、天辰葵は、あまりにも外見が良かった。
 メイド服すらも完璧に着こなして見せたのだ。
 まさかこの学園に自分以上にメイド服を着こなせる人間がいようとは思いもしなかった。

 なので、晶は面白くなかったのだ。
 ただ表面上は笑顔を見せている。
 内心は嫉妬の炎で燃え上がっている。
 が、それはそれとして晶にとっても、これはチャンスでもある。

 葵の動きを近くで観察できる。
 普段の動き、癖、手足の使い方、体幹それらを余すことなく観察する。

 天辰葵の動きは、基本どこまでも無駄がなく、それでいて優雅だ。
 とにかく優雅なのだ。
 ゆったりとしていながら、最短で動くため動作自体は異様に速い。その上でとても華麗であり優雅なのだ。
 優美さと機能美、その両方を併せ持つ究極の動きにさえ思える。
 晶でさえ、その動き方に見惚れるほどだ。

 だが、葵の動き方の基本を晶は理解することができた。
 とにかく最短で動き無駄を嫌う。
 そうであれば神速の攻撃を防ぐのは容易だ。
 ただ、それだけでは葵の神速対策にはならない。
 丑久保修とのデュエルで修は勘のみで葵の攻撃を防いでいたが、すぐ葵に攻撃に軌道を変え対策している。

 ただ晶にとって、葵だろうと誰だろうと、その攻撃をかわすのは容易い。
 そこに注目する必要は薄い。
 晶にとっては、どうやって攻撃をあの葵に当てるか、そちらの方が重要だ。

 葵の攻撃をかわすことも難しいが、それ以上に攻撃を当てるほうが難しい。
 その上、即死するような攻撃にすら葵は実際に耐えて見せている。
 それだけではない。
 蛇腹剣のような、あんなでたらめな武器でさえも数回振るっただけで自由自在に扱える器用さまで持っている。
 一見して、弱点などないようにすら思える。

 色々と規格外なデュエリストであることは確かだ。
 それでも、晶は、丁子晶は己の願いために天辰葵に勝ちたいと考えている。
 絶対少女となりたいと思っている。
 そして、今は目の前の難敵、天辰葵の攻略法を見つけ出す為に、注意深く、そのすべてを観察する。

 今はちょうど昼時で学園中の生徒が昼食を食べに来ているランチタイムであり、一日で一番のラッシュタイムだ。
 朝は食べない者も多いし、夕食も時間が割とバラバラだ。
 だが昼はなぜか、みんな正午から一斉に昼食を食べようとする。
 つまり、この学園の生徒が一斉に、この食堂に押し寄せるのだ。
 普段はセルフサービスのこの食堂も、バイトが入ればセルフサービスをやめる。
 メイド姿のバイトが注文を受け、厨房で作りそれをバイトが届ける。
 普通の食堂のスタイルとなる。

 けれど、今のバイトは晶と葵の二人だけだ。
 二人だけでこの無駄に広い食堂のホールをすべて回しているのだ。
 それは忙しいと言うよりは地獄だ。

 それでも葵は笑顔で優雅だ。
 笑顔を絶やすことなく優雅で華麗に給仕をこなす。
 生徒達が、男も女も見惚れるほどの美しさと優雅さでだ。
 その上、仕事量も半端ない。
 テキパキとその仕事を貯めることなく、こなしていく。
 その様子も丁子晶は注意深く観察する。

 両手に食べ終わった後の食器を大量に持ち、今も笑顔で働いている。
 そんな葵に晶は、一枚の皿を偶然、いや、ドジっ子を装って、投げつける。

「あっ! こ、転んじゃいました!」
 とわざとらしく言いつつ、晶は鋭角で凄まじい速度の皿を葵に、しかも死角から投げつける。
 
 が、投げつけられた皿を葵は片方の持つ皿で華麗に受け流し、もう片方の手に持つ皿で受け流した皿を優雅にキャッチする。
 もちろんそれで皿が一枚たりとも割られることもない。

 もはや曲芸の域だ。

 周囲から歓声が上がる。
 それどころか葵は晶のところまできて、
「大丈夫かい?」
 と、微笑みかけ転んだ心配までして見せる。
 流石に両手に皿を持っているので、手を差し伸べることはできないが。
 晶ですら自然と頬を染めてしまう、そんな微笑みだ。

「はい! ごめんなさい。葵ちゃんの方こそ大丈夫ですか?」
 と、晶は内心嫉妬の炎を燃やしながらも葵を心配する素振りを見せる。
「私は平気、なにも問題ないよ」
 そう言って葵は優雅に仕事へと戻っていった。

 晶は、丁子晶はその後姿を悔しそうに見ながらにして、その頬を赤く染めることしかできなかった。
 頬が赤く染まった理由は、晶自身にも判断が付かない。




━【次回議事録予告-Proceedings.39-】━━━━━━━


 バイトをし、天辰葵を倒すためのお金を貯める丁子晶。
 そうとも知らず、バニーガールの衣装を月子が着てくれないことを未だに嘆く天辰葵。
 その二人がついに対峙するときが来た、かもしれない。


━次回、騙される竜と幻惑する塩引く鼠.04━━━━━
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...