絶対少女議事録 ~蟹座の私には、フェチニズムな運命を感じられずにはいられない~

只野誠

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甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ

【Proceedings.43】甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.01

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 ここは永遠の学園の園、神宮寺学園。
 絶対にして完全なる学園。
 桜舞う常春の学園。
 その学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の噂話が聞こえてくる。

「ねえ、ミエコ、シャベルコ。前回のデュエルは、まあまあ、まともだったんじゃない?」
「でも、葵さん? ですか? あの人、毎回なんか叫んでませんか?」
「ですね。葵ちゃん、面白い子ですね」
「今回は…… あの守銭奴の子が動くみたいですね」
「また私の推しが暗躍するみたいですね。女装を禁止されて激オコみたいです」
「今回、ひらりちゃんは随分とお金を貯め込んでいるようなので強敵ですね」
「どうなるかは楽しみですね」
「「「クスクスクスクス……」」」



 桜の花が舞う桜並木からは、それなりに遠く離れたプール。
 綺麗な透明な水をたたえているプールの水面に、遠くから風に運ばれてきた桜の花びらが数枚浮いている。
 プールサイドに置かれたプールサイドチェアに男が二人並んで座っている。
 片方はちゃんと男用の制服、学ランを着て、特に日差しも強くないがサングラスをかけた男、牛来亮だ。
 もう一人は、溢れんばかりの胸筋にはちきれんばかりのブラジャーをつけていてそれ以外、上半身は裸だ。こちらもサングラスをつけている。言わずと知れた丑久保修だ。
 二人は春のプールサイドで日光浴をしている。
 会話はない。
 今のこの二人に会話はいらない。
 二人と、春の陽気と、降り注ぐ優しい陽光があれば、他に何もいらないのだ。
 二人の仲は進展しないが、それでいいのだ。



「えー、なにー、また屋上に呼び出してー」
 酉水ひらりは眠そうに、そして、迷惑そうに言った。
 もう用はないと思っていたのにひらりは、丁子晶からまた屋上に呼び出されている。
「はい! ひらりちゃん」
 元気よく返事する晶に、ひらりは少し引いた顔を見せる。
「男の子の制服で、その喋り方はやめなよ、正直、気持ち悪いよー」
 そして、ひらりは思ったことを即座に口にする。
 晶の行動は見た目だけでも、かわいらしい少女だったから許されていた仕草だ。
 男子の制服、今は学ランを着ている晶がしても、少し気味が悪い。
「くそ! くそくそ!! 天辰葵め!! 絶対許さない!!」
 晶は顔を歪めて地団駄を踏みながらそう言った。
 ひらりは晶が落ち着くまで、しばらく眠そうにその様子を見守る。

 一通り落ち着いたところで、改めてひらりは晶に声をかける。
「で、用はなにー」
「はい、これ」
 晶は、冷静さを取り戻し、張り付いた笑顔を作りながら、懐から少し肉厚な茶封筒をひらりに手渡す。
「これは…… うえ、お金!?」
 茶封筒の中を確認したひらりは驚く。
 恐らく晶がバイトで稼いだほとんどの金額、金額にして五十万以上が封筒に入っていた。
 
「そうだよ。バイトで稼いだお金、全部だよ」
「ええー、うれしいけど流石に理由もなく貰うのはなー、ただより高いものはないって言うしー」
 ただより高い物はない。
 商家の娘であるひらりはそのことをよく理解している。
「ただじゃないよ、依頼料だよ。この間に言っていたひらりちゃんの狙いを葵ちゃん、天辰葵にしてよ」
 晶は張り付いた笑みを捨て去り、怒りを露わにしてそう言った。
「あー、自分じゃ勝てないからひらりに復讐させる気?」
「はい! そうです!」
 と、笑顔で元気に晶は言った。
 その時の顔は本当にいい笑顔だ。
 それだけに、ひらりはさらに晶に引く。

「性格わるー、でも、あんまり勝てる気しないなー」
 ひらりの眼からみても、天辰葵の実力は未知数だ。
 というか、実力が高いことは確かだが、その高さにも振れ幅がありすぎる。
 言うならば天辰葵の強さは本人の気分次第なのだ。
 葵の中で何か感情が爆発すれば、それで手が付けれなくなる。
 なのだが、なにがきっかけで天辰葵の感情が爆発するのか、それは誰にもわからない。
 わからないというか、恐らくは誰にも理解できない。
 当たり前だ。誰だって決闘中に、本当の望みは尻枕だ、と告白してくる人間など理解できるわけがない。
「だから、そのためのお金だよ」
「と、言ってもなー、財布に入るのは限度ってものがあるし」
 流石のひらりも、すでに自分が持っているお金全てを入れられる財布すら持ち合わせていない。
 追加で五十万貰っても仕方がない。
 有名百選の効果は財布の中にお金が入ってないと効果がないし、複数財布を持っていても一番高い金額の財布の分しか効果はない。
 財布を盗まれたときのリスク分散にはなるが、それでは強化の恩恵も分散してしまう。
 天辰葵を相手にするのなら、一つの財布に金額を集中させたい。

 となると、いくらお金も持っていても無用の長物だ。
 入る財布がないのであれば仕方がないことだ。
 それにあまりにも詰め込み過ぎて、財布が目立つようでは目の前の晶のように財布を盗まれて二の舞になるだけだ。

「だと思って、これ、特注で作っておいたよ!」
 そう言って、晶はバッグのような物を手渡してきた。
「おっきながま口…… あんまりかわいくない」
 ポーチとも思えるほどの大きさのがま口財布だ。
 というか、ほぼほぼポーチのような大きさだ。
 肩から下げるような肩紐までつけられている。
 ただデザインがダサい、物凄くダサい。
「でも、これならいくらでも入るよ」
「んー、でも、晶みたく盗られたら終わりじゃん?」
 神速で動き回る葵から、この財布を死守すること自体が困難だ。
「これは特殊合金のワイヤーを編み込んだ肩紐でできてるから、首から下げておけばそう簡単には盗まれないよ。それに同じ特殊合金のウォレットチェーンも付属しているからね!」
「うわー、すごい執念……」
 元々やる気がないひらりからすると、晶の執念は驚くべきことだ。

「ダメ?」
 首を捻り品を作ってくるが、晶は今、男の格好なので、ひらりから見てもあまりかわいくはない。
 それを考えると、女装というか、かわいい恰好は大事だったんだな、と、ひらりはそんなことを思う。
「んー、まあ、ここまでされちゃうと逆に断れないなー」
 ただ五十万以上の金額や、こんな特注の財布まで貰ってしまうと、ひらりとしても断りずらいものがある。
 なにより五十万という大金はひらりからしても欲しいものだ。
 これらを用意して晶自身でリベンジしないのは、恐らく晶自身が勝てる要素がないのだろう。
 男とばれてしまえば、天辰葵ももう晶相手には容赦しない。
 自慢の分身もすでに破られているし、葵相手では効果も薄い。

「あと、葵ちゃんのことを色々と教えるから!」
 それでも晶にはまだ天辰葵を観察して、実戦を経て得られたデータがある。
 現金とデータを渡し、天辰葵が本気を出せなくなる相手であれば、まだ勝機はあると晶は考えている。
「はあー、まあ、いいけどー、ひらりじゃ多分勝てないよー」

 それがひらりには容易に想像できる。
 まず自分では葵の神速には対応ができない。
 それに首跳ね攻撃をまともに喰らっても平然と立っていられる相手を倒せるとも思えない。
「謙遜しないでくださいよ。ひらりちゃん、元から弱くはないし、これだけの金額があれば勝てるでしょう?」
 と、晶に言われる。
 たしかにこれだけの金額を酉水ひらりが持てば、彼女の中に眠る有名百銭の力で、ひらり自体もかなり強化される。
 恐らく超人的な、それこそ天辰葵以上の超人的な身体能力を得られることだろう。
 それでも天辰葵に勝てる気がしない。
 なにより彼女は強くなろうという向上心も、勝とうという意思もない。
「いやー、葵ちゃんのデュエル見てると勝てる気しないんだけど? 常識が一切ないじゃん、あの人」
 
「ならやめますか? それなら、そのお金は返してもらえます?」
「むー、返すのはなんだか気が引ける…… まあ、いいかな? じゃあ、このお金を持って葵ちゃんに勝負を挑めばいいのー?」
 ただより高い物はない。
 その言葉の意味をひらりはよく知っている。
 よく知っているのは、それで何度も痛い目を受けて来たせいだからだ。
「はい!」
「負けても返さないからね」
「は、はい」
 と、丁子晶は少しだけ後ろ髪を引かれながらも頷くしかない。



 戌亥巧観は見惚れていた。
 なにに? 決まっている。申渡月子のメイド服姿にだ。
 確かに葵もメイド服も似合っている。
 だが、月子のメイド服姿は、とにか気品があるのだ。
 まるで着物でも来ているかのように優美で雅なのだ。
 葵を完成されたメイド姿だとすれば、月子は完成された芸術品、そんな気高さもある美しさだ。
 確かに、葵のように体のラインに凹凸がくっきりとあるわけではないのだが、だからこその雅さと奥ゆかしさが月子にはあるのだ。
 巧観はもう月子を追うことはやめたのだが、それでも見惚れてしまっている。
 巧観は山菜蕎麦が冷めてしまうのにもかかわらず、手を止めて月子に見惚れているほどには。

「月子様…… なんて素敵なのかしらね」
 巧観に同意するかのように、巳之口綾がそう言ってカレーのトッピングの茹で卵を丸呑みにした。
 葵と月子、二人が食堂でバイトするようになってから、巧観は一人が多かったのだが、いつの間に巳之口綾が巧観の傍に座るようになっていた。
 巧観もそれが嫌と言うわけではない。
 綾は恥ずかしがり屋で人見知りなだけで、月子を舐めたい、と言う点を除けば、天辰葵よりも常識人だ。
 逆に葵は外見だけは素晴らしくとも、中身は残念でそれも隠さないところが大きい。

「確かに。素敵だよね。あれで葵の横に立つのが恥ずかしいとか、ふざけているよね」
 葵と月子、二人そろうとその空間が別の空間のように華やぐ。
 まるで映画か何かのワンシーンのように巧観には思えてしまう。
「葵も似合ってはいるけど、なんだか性的で下品だわ。けど月子様には気品があるわ」
 綾はそう思ってはいるのか、それとも嫉妬からか、そんな言葉を口にする。

 その言葉を聞いて葵が瞬時にやってくる。
「私が下品ってどういう事?」
 と、葵に詰め寄られ、綾は視線をずらし口をつぐんだ。
「お疲れ様、葵。昼休憩? って、もうそんな時間か」
 このままではカレーを置いたまま綾が逃げ出すと思った巧観がそう言って助け舟をだす。
「巧観。お蕎麦を食べる手を止めていますがどうしたんですか? 冷めてしまいますよ」
 そこへ月子もやってくる。
 お昼の十二時代を乗り切り二人とも休憩時間のようだ。
 それに合わせ食堂もセルフサービスへと戻っている。
「ずっと月子に見惚れていたんだよ。私も、巧観も、綾も」
 葵がそんなことを大げさに言う。
「またそんなことを言って……」
 と、月子が疲れた表情を見せる。
 実際、お昼にこの食堂でバイトするのは非常に疲れるので、月子が疲れた顔をしたのはそのせいもある。

「いや、実際に月子のメイド服姿は、なんていうか凄い雅だよ。気品があるよ! だから見とれちゃってたんだよ」
 と、巧観が正直に言って頷いた。
「雅……? ですか? メイド服に雅ですか……? 褒めてくれているんですよね?」
 ただ月子はその言葉にはピンとこないようだ。

「もちろん褒めているよ」
「それはありがとうございます」
 月子はそう言って、自分で持ってきたフレンチトーストにかじりついた。
「ほら、言ったでしょう、月子。月子にはメイド服も似合うって」
 葵もそう言って、梅風味の鳥の胸肉と青じそのパスタを食べだす。

「葵様に言われてもですね」
 月子は再び葵の姿を見て、その姿にため息を出す。
 あまりに自分のプロポーションと違い過ぎるからだ。
「葵のは下品よ、どこか性的だわ」
 と、月子を援護するように綾が机に半分隠れながら葵に言ってくる。
 それに対して、葵はいたずらっぽく笑い、
「え、綾。私のことそう言う目で見てくれていたのかい?」
 そう言って綾を微笑みながら見つめる。
「そ、そう言うわけじゃ……」
 見つめられた綾は顔を赤くして更に机の下に完全に隠れた。




━【次回議事録予告-Proceedings.44-】━━━━━━━


 天辰葵に接触する酉水ひらり。
 酉水ひらりは天辰葵に興味が色々とある様子。
 それを見てなんだか不機嫌になる申渡月子だが……


━次回、甲斐性なしの竜と能ある鳥は金を稼ぐ.02━━
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