95 / 96
完全無欠の竜と神ならぬ春の来訪神
【Proceedings.84】完全無欠の竜と神ならぬ春の来訪神.07
しおりを挟む
「ハハハッ、私の、我の天道白日を折る? これはその紛い物とは違う。正真正銘の神刀だ。その偽物とはわけが違う、この神刀は絶対に折れぬよ」
神宮寺雅はそう言って高らかに笑う。
真の神刀である天道白日は決して折れない。
完全無欠の力を有した神刀なのだ。折れるわけがない。
つまり神宮寺雅にとって負けはない。
それを知っているからこそ、神宮寺雅はすべてを容認して来たのだ。
戌亥道明が必至に犠牲者を出さないように努力していたことをあざ笑いならが、天道白日を天辰葵に宿らせ、それが自分の手元に返ってくることを確信していたからこそ、すべてを静観していたのだ。
最終的に今、自分の手に天道白日が握られていることが神宮寺雅には、それがわかっていたのだ。
そして、天道白日さえ、手の内にあれば負けがないことも神宮寺雅は既に知っているのだ。
後は、全て戯言でしかない。
ただ、そんなことはどうでも良い、とばかりに天辰葵は、
「そう? 月子に宿っていた刀だよ? それだけで十分さ。そもそも、これがなかったら木刀で叩き折るつもりだったしね」
そんな神刀など初めから知ったことではないとばかりに言い放つ。
「何をバカなことを……」
神宮寺雅は天辰葵を冷ややかに見つつも内心は激高する。
この最も神聖な神刀、天道白日を木刀などでへし折ると抜かしているのだ。
無駄だと分かっていていても頭に血が上るという物だ。
だが、そんな神宮寺雅を見透かすように天辰葵は伝える。
「滅神流はそう言うものだよ。そもそも神を相手取るのに武器の良し悪しはないよ。昔ならそうでもないけれども、今の時代に神を斬れる刀を打つ刀匠なんか、もういないのだからね」
神を斬る刀。
そんなもの今の世に存在しない。
それでも神を斬らなくてならない神狩りの巫女にとって武器を選んでいる余裕などない。
滅神流の技を一度でも出せるなら、棒きれでも石ころでも何でもいい。
武器を選んでいる余裕はないのだ。
「なにをいうか、古今東西、人の作る物が神を打てるわけはない」
そんな天辰葵の物言いに、逆に神宮寺雅は逆に冷静になる。
人の手によってつくられる物で神を害せるわけもないと。
「ものを知らないんだね、神殺しができるのは、神の子たる人間の特権だよ」
それを天辰葵は笑い飛ばす。
既に数多の狂った神々を屠ってきた天辰葵にとって、それはただの事実に過ぎないのだから。
「何をバカなことを」
「はあ、それよりも早くやらない? それとも饒舌戦をしたいのかな?」
天辰葵は神宮寺雅を煽る。
時間がないわけではないが、この空間にいる神を早く解き放った方がよい。
新しい神が、新しい春を告げる神が生まれてきてからでは色々と面倒になる。
「フン、良かろう。相手になってやろうではないか! 私の、我の力見せてくれる!」
そう言って神宮寺雅は天道白日を見せびらかす様に前に出す。
「おまえのじゃないだろ? 神の、神刀の借り物の力だろ?」
天辰葵は更に煽る。
「その口、黙らせてくれる!」
神宮寺雅は刀を、神刀、天道白日を振るう。
刀身から青い火花が散り、雷撃が放たれる。
天辰葵も見たことがない神刀の能力だ。
雷撃を人がかわせる訳はない。
だが、天辰葵は神速を使い雷撃をかわす。
正確には、抵抗をなくすための領域を使い雷撃自体を反らしかわす。
そのまま神速を使い神宮寺雅に斬りかかる。
だが、天辰葵が、目に見えないほどの神速の速度でも神宮寺雅にたどり着くことはない。
天辰葵と神宮寺雅の距離が一向に縮まらない。
それも天道白日の持つ能力の一つだろう。
天道時雅が左手で招くようなしぐさをする。
そうすると天辰葵は瞬時に神宮寺雅の間合いに引き寄せられる。
だが、
「それはもう見たよ」
天辰葵はそう言い切って、引き寄せられた後、振り下ろされた天道白日の一撃を受ける。
それに対して神宮寺雅は笑いながら刀を振るう。
「受け切れるものか!」
神刀、天法不敗。
物理の法則を無視することができる神刀の能力だ。
刀で受け止めたはずの斬撃が物理法則を無視し、天辰葵を切り裂く、はずだった。
だが、それは天辰葵の振るう月下万象により防がれ、天辰葵が切り裂かれることはない。
「天法不敗の物理法則を無視するって奴だろ? 言ったろ、それはもう見た、と」
そして、天辰葵はいつもの余裕の笑顔を見せる。
その笑顔はまるでお前など敵ですらない、そう言っているかのようだ。
「知っている程度で!」
神宮寺雅は吼える。
一度見た程度で神刀の能力をすべて理解できるわけがない。
これは神の力なのだ。
人間に理解できるわけもない、そんな力のはずなのだ。
だが、必中必殺の一撃であるはずの一撃は、天辰葵の持つ月下万象によって再び受け流される。
物理法則を無視した斬撃ですら、天辰葵には届くことはない。
「馬鹿な!? どうやって!」
神宮寺雅には理解できない。
自分は圧倒的な神の力を振るっているのだ。
なのに、まるで自分が優勢だとは思えない。
だが、それでも神宮寺雅は自分が負けることはない、その事だけは確信している。
「修行のせいかだよ。私はすべての力場を受けながすことができるんだよ」
天辰葵が得意とする神速の元となる技術だ。
これを技術と呼んでいいのか少々不明だが、天辰葵は力場を支配していると言って良い。
流石に学生同士のデュエルでそのすべてを使う気にはなれなかったが、相手は人食いの神もどきだ。
手加減してやる通りはない。
「何をバカな…… 人間にそんなことが出来るわけが」
そう言いつつも、確かに神刀の能力による攻撃は天辰葵に届かないのだ。
雷撃を反らし、物理法則を無視し斬撃だけを飛ばしたのにも関わらず、それすらも受け流された。
神宮寺雅にとって理解しがたい事態だ。
「神の子である人間を過小評価するなよ。少なくとも私は神刀の力に頼らずにデュエルを勝ち抜いているんだから」
そう言いつつ天辰葵は月下万象を振るう。
その刃は神速により加速され、神宮寺雅の喉元に迫る。
だが、
「ぬぅ! ならば!!」
その刃は神宮寺雅には届かない。
事前に安全な位置へと神宮寺雅は移動し終えている。
その避け方を天辰葵は知っている。
自分にこの学園の未来を、希望を託した男、未来望に宿っていた神刀の能力だ。
「そう言えば、その刀の名前は知らなかったな。未来予知かい?」
ふと彼の身に宿る神刀は見ることはなかったと、そんなことを考える余裕すら天辰葵にはある。
「前途光明という銘だよ。紛い物にも素晴らしい力は宿るものだ!」
完全なる未来予知。
すべての分岐する未来をすべて知ることができる神刀の中でもずば抜けた能力を持つ刀だ。
だが、
「だけど、それももう攻略済み」
木の枝のように無数に広がっていく未来の可能性が一瞬にしてすべて刈り取られる。
「未来が…… 刈り取られていく? な、なぜだ?」
また新しく未来予知を始めるが、それも即座に刈り取られる。
流石の神宮寺雅も押し寄せては刈り取られていくすべての未来予知という情報量を処理できずに頭を抱える。
これでは未来予知自体を止めざる得ない。
「どれもこれも借り物の力で研鑽がまるでない。これならデュエリスト達の方がまだ強かったよ」
天辰葵は神宮寺雅を見下す。
この神宮寺雅という男は天道白日、その力しかない。
その力を磨き創意工夫する、その研鑽がまるでない。
天辰葵からすれば、そんなものは相手にもならない。
「これはどうだ。貴様が見たことない力だ! 遠赤迩鳥!」
天道白日から紅蓮の炎が巻き起こる。
そして、天辰葵が突然燃える。巻き起こった炎に触れてもいないのに突然燃えたのだ。
本来なら。
だが、天辰葵は平然と立っている。
燃え上がることなどなく煙一つ上がらない。
「なぜ、燃えぬ?」
神宮寺雅には理解できない。
天辰葵は今の神刀の能力を知らないはずなのだ。
「遠赤外線で相手を燃やす神刀かなにか、かな?」
しかし、天辰葵はその能力を既に見切り対応している。
「まだ見ぬ力のはず…… なぜ?」
神宮寺雅は理解できない。
目の前の少女、天辰葵が化物か何かに思えて来る。
「あのさ、私は神を狩る巫女だよ? デュエルの時は、まあ、なんだ。それこそ今回は神様を相手にしないといけないと思っていたからね」
少し天辰葵は、戦ってきたデュエリスト達にすまないと、そう思いながらその言葉を口にする。
「葵はデュエルの時ですら、本気で戦ってなかったのですか?」
信じられないというように申渡月子は言葉を漏らす。
死闘を繰り広げていたと思っていた、あれらのデュエルですら、天辰葵は本気を出していなかったのだ。
その先にあるはずの神との戦いを見据えて、力を出し渋っていたのだ。
「んー、いや、まあ、そういえばそうだけど、人間相手に全力を出すというのもね…… 元は神に抗うための力だし」
天辰葵の身に着けた技術は神を狩るために身につけたものだ。
気軽に人間に振るっていいものでもない。
神速や滅神流の技を天辰葵に使わせただけ、それらのデュエリスト達が優れていたという証明なのだ。
「神狩りの巫女…… 化け物め!」
神の視点から見れば、その言葉は間違いではない。
天辰葵は、神狩りの巫女は、神を狩る化け物でしかない。
「正真正銘化け物のお前に言われたくないね」
胸に三人の少女のデスマスクを埋め込んでいる神宮寺雅に天辰葵は言い返す。
「ならば見せてやる! 本当の神の力を! 天道白日の力を! 天威無崩!!」
天道白日の刀が煌めく。
それはすべての魔を打ち払う朝日のように黄金に輝き、すべてを薙ぎ払い、無に帰す様に崩しさる光りとなる。
すべてを飲み込み、すべてを粉砕し打ち払う光の奔流となり天辰葵に迫る。
「滅神流、天命殺」
刀を構えつつも拝むように構え、そして、刀を振るう。
神社の神主が御幣を使い祓うように、刀をただ振るう。
静かな、伴いただの薙ぎ払い。
だが、それは神の運命をも断ち切る、縁切りの太刀。
狂った神を終わらせる滅神の刃。
いかなる運命も断ち切ることができる一閃。
迫りくる光の奔流をも切り裂き、更には天道白日の刀身にその一撃は食い込む。
が、どういうわけか、天道白日を断ち切ることができない。
すべての運命を切り裂く刃のはずが、天道白日を半分ほど断ったところで受け止められる。
「ば、ばかな!? 天威無崩をも切り裂くだと? 神の力が、なぜ!!」
天道白日を半分ではあるが月下万象の刃を喰い込ませたことよりも、天威無崩という光の奔流を切り裂かれたことの方が、神宮寺雅には驚きだったようだ。
だが、驚いたのは天辰葵も同じだ。
まさか神をも斬り殺すことができる天命殺でも、天道白日を断てなかったのだ。
「むっ、今ので終わらせるつもりだったけど浅かったか…… けど、次は……」
そう言いつつも、天辰葵もどうすべきか迷う。
先ほどの一太刀で本当に終わらすつもりだったのだ。
運命をも断ち切る天命殺を防がれた以上、天辰葵にも天道白日を折ることも断ち切ることもできない。
次は、と、天辰葵も言ってはいたが次はない。
それでも今は優位は天辰葵にあるが、神宮寺雅に負けはない以上、天道白日が折れない以上、いつかは天辰葵も負ける事となる。
「次などない」
そう言って、神宮寺雅は力任せに天道白日を払い、食い込んだ月下万象の刃を無理やり強引に外す。
天道白日が折れかねない行為だが、神宮寺雅は気にも留めない。
だが、月下万象が無理やり引き剥がされた後、天道白日のかけた刃が瞬時に再生していく。
「これぞ、天道輪廻! 神は不滅である。日はまた昇る!」
まるで時間が巻き戻るかのように、沈んだ太陽が翌朝に再び朝日となって登るように、天道白日の刃が治る。
「未来を見る力があれば、過去に戻る力もありか……」
「その通り! 天道白日は唯一無二の完全無欠! 決して敗れ去ることはない!」
だが、その神宮寺雅の言葉に天辰葵は光明を見出す。
そして、理解する。申渡月子、その姉、申渡恭子の行った行動を、なぜ、月下万象を妹に託したのかを。
「なるほどね。だから月子の姉さんは月下万象を月子に託したのか」
そう言って、天辰葵は愛おしそうに申渡月子を見る。
一時的とはいえ、完全無欠の能力を得た申渡恭子はすべてを理解し、今のままでは勝てないことを理解し、そして、希望を妹である申渡月子に託したのだ。
その託された希望は今、天辰葵の手の中にある。
「なにを……」
神宮寺雅は天辰葵の言葉にあからさまな焦りを見せ始める。
「本当に完全無欠なら、私に天道白日を宿し修復させる必要はなかったんじゃないの?」
と、天辰葵はその言葉を発する。
本当に天道白日が完全無欠であるならば、修復などする必要はなかったはずなのだ。
「そ、それは……」
だが、神宮寺雅はその問いに答えられない。
答えることが出来ない。
「この、月下万象に力を奪われた、そう言ってたね」
そう言って天辰葵は手に持つ月下万象という銘の刀を見せつけるように前に出す。
それを恐れるように神宮寺雅が一歩後ずさる。
「くっ!!」
「月子の姉さんから託されたこの月下万象! これなら、決して折れないはずの天道白日をも折ることもできる」
天辰葵はそう断言する。
唯一無二の完全無欠だからこそ、月下万象というこの刀は天道白日という刀に勝つことが出来る。
「だが、貴様は神刀の力を使うことは出来ない! 大人しく贄となるがいい! お前も神と一つになるのだ!」
神宮寺雅にはもう余裕など一切ない。
金色に輝く天道白日を片手に天辰葵に斬りかかる。
「おっさんと一つになるとかお断りだよ。なるほど、だいたい分かった」
天辰葵はそんな神宮寺雅から距離を取りつつ、月下万象を、その刀の刀身をじっくりと見つめる。
それで、それだけで、天辰葵は理解できる。
「何がわかったというのだ!」
神宮寺雅がそう吠えて天道白日を振り上げる。
だが、次の瞬間、天辰葵は月下万象の本当に名乗りを噤む。
「すべては月光となり我が力とならん! 月下万象!」
その神刀から流れる名であり、本当の、真なる銘。
今まで天辰葵が名乗っていたその名乗りは、天道白日の力により見せられたいたものに過ぎない。
今名乗った名乗りこそが、本当の月下万象の名乗りなのだ。
だから、天辰葵は今まで月下万象の力も引き出せなかった。
その、相手の神刀の能力を、月が太陽の光を反射して輝くがごとく、写し取る能力を。
「なっ!」
神宮寺雅の持つ神刀、天道白日から黄金の輝きが失われる。
月下万象が天道白日の力を模写したことで、唯一無二の完全無欠の力故に、その力が月下万象へと移ったのだ。
「これで月下万象は天道白日の力を奪い模倣した! さらに私は自分の中に宿ってた神刀、天道白日の力を引き出す!」
天辰葵の手に持つ月下万象が黄金の輝きを発し始める。
そして、その光は神宮寺雅が発していた光よりも強烈なものとなる。
一時的にとはいえ、確かに天辰葵は天道白日をその身に宿していたのだ。
神狩りの巫女たる天辰葵に、己の身に宿る神刀の力を引き出せない道理はない。
「そ、そんなことが!」
神宮寺雅だけが理解できない。
申渡月子は知っている。
天辰葵という人物の無茶苦茶加減を。
彼女は理屈ではないのだ。
彼女はすべてを、真理を捻じ曲げてでも押し通ることが出来る強者なのだと。
だが、神宮寺雅には理解できない。
天辰葵がなぜ自分の中の天道白日の力を引き出せたのかを。
天道白日は自分の、いや、自分と同化した未来望の妹の体に宿っている神刀なのだ。
天辰葵がその力を引き出せるわけはないのだ。
「やろうと思えばいつでもできたさ、ただ必要がなかっただけだよ」
天辰葵はそう言って優雅に笑う。
「そ、そんな…… ばかな…… お、お前は…… 何者なんだ……」
神宮寺雅はもう神を語る余裕すらない。
天辰葵という化け物じみた少女の前に恐怖しか感じることはできない。
「天辰神社の神狩りの巫女だよ。さようなら、神宮寺雅さん。あなたも被害者だ」
そう言って、黄金に輝く月下万象を拝むような、特殊な構え方をする。
「く、私が、我が、神が、負けるわけがない! 天威無崩!!」
ただ神宮寺雅もこのまま終わるつもりはない。
天道白日に残っている神の力を総動員して、最強最大の神刀の力を振るう。
だが、それすら天辰葵からすると、
「それはもう見たって。滅神流、天命殺」
でしかないのだ。
天辰葵が真の力、相手の持つ神刀の能力を模倣する力を取り戻し、相手の神刀の力を模倣する。
相手の神刀、天道白日だ。
だが、天道白日の力は唯一無二の完全無欠の能力だ。
唯一無二。
それは同時に存在できない。
つまり、月下万象に能力を模倣された時点で天道白日はその力を失うのだ。
申渡恭子もそれをした。
しかし、月下万象の方が天道白日の力に耐え切れず、壊れてしまう。
それにより申渡恭子は負け、贄となった。
だが、贄となるまでに申渡恭子は奪った天道白日の力で月下万象を再生し、さらに次は天道白日の力に耐えれるように強化し、妹である申渡月子に宿らせたのだ。
希望を妹に託して贄となったのだ。
だから、今の月下万象は完全無欠の力を得ても、もう壊れない。
天道白日の力をすべて模倣し奪い去る。
更に天辰葵は自分の中に宿っていた天道白日の力を上乗せさせる。
それは他のデュエリスト達のように、神刀の能力を引き出せるものではなく、その残り香を、残滓を引き出す程度の物だったが、ダメ押しにはなる。
真の神刀の能力を奪った月下万象により放たれた天命殺は、力を失った天道白日を簡単に断ち切る。
一刀両断する。
神刀であり、この新しくも歪んだ世界の要でもあり、すべての元凶である、天道白日は断ち切られたのだ。
同時に天辰葵は意識を失う。
自分に宿っていた神刀が折れたのだから。
意識を失う中、自分に駆け寄ってくる申渡月子の姿を見ながら。
意識を失い倒れ込んだ天辰葵を抱きかかえ、申渡月子は神宮寺雅を睨む。
だが、神宮寺雅は既に人の形をしていなかった。
体が崩れては、再生を繰り返しながらも、崩壊していく。
胸に取り込まれた少女達の顔ももう見つけることもできない。
再生と崩壊を繰り返しながら、徐々に無へと返っていく。
社の中にあった異質な空間が揺れ始める。
「これは…… 世界が終わるのですか……」
申渡月子は崩れゆく世界を感じながら、気を失った天辰葵を守るように抱き締める。
そして、ついに一人の少女の願いにより囚われていた神が解き放たれる。
ここは終わりを迎えた学園の園、神宮寺学園。
絶対にして完全になりえなかった崩壊を迎える学園。
桜舞う常春を終えた学園。
その崩れゆく学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の話声が聞こえてくる。
「月子ちゃん、やってくれましたね……」
「やっと終わりましたね」
「あなた達も私のせいでごめんなさい」
「そうれはそうですが、あれは事故みたいなものだったんですから、いいですよ」
「私達もやっと解放されるのか」
「ええ、あなた達は天へと昇って行きなさい」
「キクコちゃんは?」
「私にはもう少し後始末があります。それに私の行先は地獄ですよ。あの人を迎えに行かないと行けません」
「生徒と教師の禁断の恋が生んだ悲劇がこんなことになるとはね」
「お二人とも、ぐずぐずせずにお逝きなさいな。けど、本当に長い間ありがとうございました。そして、巻き込んでしまい本当に申し訳ないです」
「まあ、それなりに楽しかったよ、キクコ」
「じゃあ、後のことはよろしくね、キクコちゃん」
「ええ、こればっかりは私の責任ですからね……」
「「「それでは、さようなら、クスクスクスクス」」」
天辰葵は目覚める。
ここはとある山の頂上で神社の境内だ。
見慣れた風景で自分の家である。
暖かい春の日差しで、晴れ渡った朝の空だ。
天辰葵はゆっくりと身を起こす。
つい先ほどまで、気を失っていた自分を抱きかかえてくれていた少女のぬくもりと匂いを確かに感じる。
だが、辺りからは自分以外の気配はない。
自分以外に誰もいない。
天辰葵はその事実に気づき空に向かい吼える。
最愛の少女の名を。
――― 絶対少女議事録 完 ―――
神宮寺雅はそう言って高らかに笑う。
真の神刀である天道白日は決して折れない。
完全無欠の力を有した神刀なのだ。折れるわけがない。
つまり神宮寺雅にとって負けはない。
それを知っているからこそ、神宮寺雅はすべてを容認して来たのだ。
戌亥道明が必至に犠牲者を出さないように努力していたことをあざ笑いならが、天道白日を天辰葵に宿らせ、それが自分の手元に返ってくることを確信していたからこそ、すべてを静観していたのだ。
最終的に今、自分の手に天道白日が握られていることが神宮寺雅には、それがわかっていたのだ。
そして、天道白日さえ、手の内にあれば負けがないことも神宮寺雅は既に知っているのだ。
後は、全て戯言でしかない。
ただ、そんなことはどうでも良い、とばかりに天辰葵は、
「そう? 月子に宿っていた刀だよ? それだけで十分さ。そもそも、これがなかったら木刀で叩き折るつもりだったしね」
そんな神刀など初めから知ったことではないとばかりに言い放つ。
「何をバカなことを……」
神宮寺雅は天辰葵を冷ややかに見つつも内心は激高する。
この最も神聖な神刀、天道白日を木刀などでへし折ると抜かしているのだ。
無駄だと分かっていていても頭に血が上るという物だ。
だが、そんな神宮寺雅を見透かすように天辰葵は伝える。
「滅神流はそう言うものだよ。そもそも神を相手取るのに武器の良し悪しはないよ。昔ならそうでもないけれども、今の時代に神を斬れる刀を打つ刀匠なんか、もういないのだからね」
神を斬る刀。
そんなもの今の世に存在しない。
それでも神を斬らなくてならない神狩りの巫女にとって武器を選んでいる余裕などない。
滅神流の技を一度でも出せるなら、棒きれでも石ころでも何でもいい。
武器を選んでいる余裕はないのだ。
「なにをいうか、古今東西、人の作る物が神を打てるわけはない」
そんな天辰葵の物言いに、逆に神宮寺雅は逆に冷静になる。
人の手によってつくられる物で神を害せるわけもないと。
「ものを知らないんだね、神殺しができるのは、神の子たる人間の特権だよ」
それを天辰葵は笑い飛ばす。
既に数多の狂った神々を屠ってきた天辰葵にとって、それはただの事実に過ぎないのだから。
「何をバカなことを」
「はあ、それよりも早くやらない? それとも饒舌戦をしたいのかな?」
天辰葵は神宮寺雅を煽る。
時間がないわけではないが、この空間にいる神を早く解き放った方がよい。
新しい神が、新しい春を告げる神が生まれてきてからでは色々と面倒になる。
「フン、良かろう。相手になってやろうではないか! 私の、我の力見せてくれる!」
そう言って神宮寺雅は天道白日を見せびらかす様に前に出す。
「おまえのじゃないだろ? 神の、神刀の借り物の力だろ?」
天辰葵は更に煽る。
「その口、黙らせてくれる!」
神宮寺雅は刀を、神刀、天道白日を振るう。
刀身から青い火花が散り、雷撃が放たれる。
天辰葵も見たことがない神刀の能力だ。
雷撃を人がかわせる訳はない。
だが、天辰葵は神速を使い雷撃をかわす。
正確には、抵抗をなくすための領域を使い雷撃自体を反らしかわす。
そのまま神速を使い神宮寺雅に斬りかかる。
だが、天辰葵が、目に見えないほどの神速の速度でも神宮寺雅にたどり着くことはない。
天辰葵と神宮寺雅の距離が一向に縮まらない。
それも天道白日の持つ能力の一つだろう。
天道時雅が左手で招くようなしぐさをする。
そうすると天辰葵は瞬時に神宮寺雅の間合いに引き寄せられる。
だが、
「それはもう見たよ」
天辰葵はそう言い切って、引き寄せられた後、振り下ろされた天道白日の一撃を受ける。
それに対して神宮寺雅は笑いながら刀を振るう。
「受け切れるものか!」
神刀、天法不敗。
物理の法則を無視することができる神刀の能力だ。
刀で受け止めたはずの斬撃が物理法則を無視し、天辰葵を切り裂く、はずだった。
だが、それは天辰葵の振るう月下万象により防がれ、天辰葵が切り裂かれることはない。
「天法不敗の物理法則を無視するって奴だろ? 言ったろ、それはもう見た、と」
そして、天辰葵はいつもの余裕の笑顔を見せる。
その笑顔はまるでお前など敵ですらない、そう言っているかのようだ。
「知っている程度で!」
神宮寺雅は吼える。
一度見た程度で神刀の能力をすべて理解できるわけがない。
これは神の力なのだ。
人間に理解できるわけもない、そんな力のはずなのだ。
だが、必中必殺の一撃であるはずの一撃は、天辰葵の持つ月下万象によって再び受け流される。
物理法則を無視した斬撃ですら、天辰葵には届くことはない。
「馬鹿な!? どうやって!」
神宮寺雅には理解できない。
自分は圧倒的な神の力を振るっているのだ。
なのに、まるで自分が優勢だとは思えない。
だが、それでも神宮寺雅は自分が負けることはない、その事だけは確信している。
「修行のせいかだよ。私はすべての力場を受けながすことができるんだよ」
天辰葵が得意とする神速の元となる技術だ。
これを技術と呼んでいいのか少々不明だが、天辰葵は力場を支配していると言って良い。
流石に学生同士のデュエルでそのすべてを使う気にはなれなかったが、相手は人食いの神もどきだ。
手加減してやる通りはない。
「何をバカな…… 人間にそんなことが出来るわけが」
そう言いつつも、確かに神刀の能力による攻撃は天辰葵に届かないのだ。
雷撃を反らし、物理法則を無視し斬撃だけを飛ばしたのにも関わらず、それすらも受け流された。
神宮寺雅にとって理解しがたい事態だ。
「神の子である人間を過小評価するなよ。少なくとも私は神刀の力に頼らずにデュエルを勝ち抜いているんだから」
そう言いつつ天辰葵は月下万象を振るう。
その刃は神速により加速され、神宮寺雅の喉元に迫る。
だが、
「ぬぅ! ならば!!」
その刃は神宮寺雅には届かない。
事前に安全な位置へと神宮寺雅は移動し終えている。
その避け方を天辰葵は知っている。
自分にこの学園の未来を、希望を託した男、未来望に宿っていた神刀の能力だ。
「そう言えば、その刀の名前は知らなかったな。未来予知かい?」
ふと彼の身に宿る神刀は見ることはなかったと、そんなことを考える余裕すら天辰葵にはある。
「前途光明という銘だよ。紛い物にも素晴らしい力は宿るものだ!」
完全なる未来予知。
すべての分岐する未来をすべて知ることができる神刀の中でもずば抜けた能力を持つ刀だ。
だが、
「だけど、それももう攻略済み」
木の枝のように無数に広がっていく未来の可能性が一瞬にしてすべて刈り取られる。
「未来が…… 刈り取られていく? な、なぜだ?」
また新しく未来予知を始めるが、それも即座に刈り取られる。
流石の神宮寺雅も押し寄せては刈り取られていくすべての未来予知という情報量を処理できずに頭を抱える。
これでは未来予知自体を止めざる得ない。
「どれもこれも借り物の力で研鑽がまるでない。これならデュエリスト達の方がまだ強かったよ」
天辰葵は神宮寺雅を見下す。
この神宮寺雅という男は天道白日、その力しかない。
その力を磨き創意工夫する、その研鑽がまるでない。
天辰葵からすれば、そんなものは相手にもならない。
「これはどうだ。貴様が見たことない力だ! 遠赤迩鳥!」
天道白日から紅蓮の炎が巻き起こる。
そして、天辰葵が突然燃える。巻き起こった炎に触れてもいないのに突然燃えたのだ。
本来なら。
だが、天辰葵は平然と立っている。
燃え上がることなどなく煙一つ上がらない。
「なぜ、燃えぬ?」
神宮寺雅には理解できない。
天辰葵は今の神刀の能力を知らないはずなのだ。
「遠赤外線で相手を燃やす神刀かなにか、かな?」
しかし、天辰葵はその能力を既に見切り対応している。
「まだ見ぬ力のはず…… なぜ?」
神宮寺雅は理解できない。
目の前の少女、天辰葵が化物か何かに思えて来る。
「あのさ、私は神を狩る巫女だよ? デュエルの時は、まあ、なんだ。それこそ今回は神様を相手にしないといけないと思っていたからね」
少し天辰葵は、戦ってきたデュエリスト達にすまないと、そう思いながらその言葉を口にする。
「葵はデュエルの時ですら、本気で戦ってなかったのですか?」
信じられないというように申渡月子は言葉を漏らす。
死闘を繰り広げていたと思っていた、あれらのデュエルですら、天辰葵は本気を出していなかったのだ。
その先にあるはずの神との戦いを見据えて、力を出し渋っていたのだ。
「んー、いや、まあ、そういえばそうだけど、人間相手に全力を出すというのもね…… 元は神に抗うための力だし」
天辰葵の身に着けた技術は神を狩るために身につけたものだ。
気軽に人間に振るっていいものでもない。
神速や滅神流の技を天辰葵に使わせただけ、それらのデュエリスト達が優れていたという証明なのだ。
「神狩りの巫女…… 化け物め!」
神の視点から見れば、その言葉は間違いではない。
天辰葵は、神狩りの巫女は、神を狩る化け物でしかない。
「正真正銘化け物のお前に言われたくないね」
胸に三人の少女のデスマスクを埋め込んでいる神宮寺雅に天辰葵は言い返す。
「ならば見せてやる! 本当の神の力を! 天道白日の力を! 天威無崩!!」
天道白日の刀が煌めく。
それはすべての魔を打ち払う朝日のように黄金に輝き、すべてを薙ぎ払い、無に帰す様に崩しさる光りとなる。
すべてを飲み込み、すべてを粉砕し打ち払う光の奔流となり天辰葵に迫る。
「滅神流、天命殺」
刀を構えつつも拝むように構え、そして、刀を振るう。
神社の神主が御幣を使い祓うように、刀をただ振るう。
静かな、伴いただの薙ぎ払い。
だが、それは神の運命をも断ち切る、縁切りの太刀。
狂った神を終わらせる滅神の刃。
いかなる運命も断ち切ることができる一閃。
迫りくる光の奔流をも切り裂き、更には天道白日の刀身にその一撃は食い込む。
が、どういうわけか、天道白日を断ち切ることができない。
すべての運命を切り裂く刃のはずが、天道白日を半分ほど断ったところで受け止められる。
「ば、ばかな!? 天威無崩をも切り裂くだと? 神の力が、なぜ!!」
天道白日を半分ではあるが月下万象の刃を喰い込ませたことよりも、天威無崩という光の奔流を切り裂かれたことの方が、神宮寺雅には驚きだったようだ。
だが、驚いたのは天辰葵も同じだ。
まさか神をも斬り殺すことができる天命殺でも、天道白日を断てなかったのだ。
「むっ、今ので終わらせるつもりだったけど浅かったか…… けど、次は……」
そう言いつつも、天辰葵もどうすべきか迷う。
先ほどの一太刀で本当に終わらすつもりだったのだ。
運命をも断ち切る天命殺を防がれた以上、天辰葵にも天道白日を折ることも断ち切ることもできない。
次は、と、天辰葵も言ってはいたが次はない。
それでも今は優位は天辰葵にあるが、神宮寺雅に負けはない以上、天道白日が折れない以上、いつかは天辰葵も負ける事となる。
「次などない」
そう言って、神宮寺雅は力任せに天道白日を払い、食い込んだ月下万象の刃を無理やり強引に外す。
天道白日が折れかねない行為だが、神宮寺雅は気にも留めない。
だが、月下万象が無理やり引き剥がされた後、天道白日のかけた刃が瞬時に再生していく。
「これぞ、天道輪廻! 神は不滅である。日はまた昇る!」
まるで時間が巻き戻るかのように、沈んだ太陽が翌朝に再び朝日となって登るように、天道白日の刃が治る。
「未来を見る力があれば、過去に戻る力もありか……」
「その通り! 天道白日は唯一無二の完全無欠! 決して敗れ去ることはない!」
だが、その神宮寺雅の言葉に天辰葵は光明を見出す。
そして、理解する。申渡月子、その姉、申渡恭子の行った行動を、なぜ、月下万象を妹に託したのかを。
「なるほどね。だから月子の姉さんは月下万象を月子に託したのか」
そう言って、天辰葵は愛おしそうに申渡月子を見る。
一時的とはいえ、完全無欠の能力を得た申渡恭子はすべてを理解し、今のままでは勝てないことを理解し、そして、希望を妹である申渡月子に託したのだ。
その託された希望は今、天辰葵の手の中にある。
「なにを……」
神宮寺雅は天辰葵の言葉にあからさまな焦りを見せ始める。
「本当に完全無欠なら、私に天道白日を宿し修復させる必要はなかったんじゃないの?」
と、天辰葵はその言葉を発する。
本当に天道白日が完全無欠であるならば、修復などする必要はなかったはずなのだ。
「そ、それは……」
だが、神宮寺雅はその問いに答えられない。
答えることが出来ない。
「この、月下万象に力を奪われた、そう言ってたね」
そう言って天辰葵は手に持つ月下万象という銘の刀を見せつけるように前に出す。
それを恐れるように神宮寺雅が一歩後ずさる。
「くっ!!」
「月子の姉さんから託されたこの月下万象! これなら、決して折れないはずの天道白日をも折ることもできる」
天辰葵はそう断言する。
唯一無二の完全無欠だからこそ、月下万象というこの刀は天道白日という刀に勝つことが出来る。
「だが、貴様は神刀の力を使うことは出来ない! 大人しく贄となるがいい! お前も神と一つになるのだ!」
神宮寺雅にはもう余裕など一切ない。
金色に輝く天道白日を片手に天辰葵に斬りかかる。
「おっさんと一つになるとかお断りだよ。なるほど、だいたい分かった」
天辰葵はそんな神宮寺雅から距離を取りつつ、月下万象を、その刀の刀身をじっくりと見つめる。
それで、それだけで、天辰葵は理解できる。
「何がわかったというのだ!」
神宮寺雅がそう吠えて天道白日を振り上げる。
だが、次の瞬間、天辰葵は月下万象の本当に名乗りを噤む。
「すべては月光となり我が力とならん! 月下万象!」
その神刀から流れる名であり、本当の、真なる銘。
今まで天辰葵が名乗っていたその名乗りは、天道白日の力により見せられたいたものに過ぎない。
今名乗った名乗りこそが、本当の月下万象の名乗りなのだ。
だから、天辰葵は今まで月下万象の力も引き出せなかった。
その、相手の神刀の能力を、月が太陽の光を反射して輝くがごとく、写し取る能力を。
「なっ!」
神宮寺雅の持つ神刀、天道白日から黄金の輝きが失われる。
月下万象が天道白日の力を模写したことで、唯一無二の完全無欠の力故に、その力が月下万象へと移ったのだ。
「これで月下万象は天道白日の力を奪い模倣した! さらに私は自分の中に宿ってた神刀、天道白日の力を引き出す!」
天辰葵の手に持つ月下万象が黄金の輝きを発し始める。
そして、その光は神宮寺雅が発していた光よりも強烈なものとなる。
一時的にとはいえ、確かに天辰葵は天道白日をその身に宿していたのだ。
神狩りの巫女たる天辰葵に、己の身に宿る神刀の力を引き出せない道理はない。
「そ、そんなことが!」
神宮寺雅だけが理解できない。
申渡月子は知っている。
天辰葵という人物の無茶苦茶加減を。
彼女は理屈ではないのだ。
彼女はすべてを、真理を捻じ曲げてでも押し通ることが出来る強者なのだと。
だが、神宮寺雅には理解できない。
天辰葵がなぜ自分の中の天道白日の力を引き出せたのかを。
天道白日は自分の、いや、自分と同化した未来望の妹の体に宿っている神刀なのだ。
天辰葵がその力を引き出せるわけはないのだ。
「やろうと思えばいつでもできたさ、ただ必要がなかっただけだよ」
天辰葵はそう言って優雅に笑う。
「そ、そんな…… ばかな…… お、お前は…… 何者なんだ……」
神宮寺雅はもう神を語る余裕すらない。
天辰葵という化け物じみた少女の前に恐怖しか感じることはできない。
「天辰神社の神狩りの巫女だよ。さようなら、神宮寺雅さん。あなたも被害者だ」
そう言って、黄金に輝く月下万象を拝むような、特殊な構え方をする。
「く、私が、我が、神が、負けるわけがない! 天威無崩!!」
ただ神宮寺雅もこのまま終わるつもりはない。
天道白日に残っている神の力を総動員して、最強最大の神刀の力を振るう。
だが、それすら天辰葵からすると、
「それはもう見たって。滅神流、天命殺」
でしかないのだ。
天辰葵が真の力、相手の持つ神刀の能力を模倣する力を取り戻し、相手の神刀の力を模倣する。
相手の神刀、天道白日だ。
だが、天道白日の力は唯一無二の完全無欠の能力だ。
唯一無二。
それは同時に存在できない。
つまり、月下万象に能力を模倣された時点で天道白日はその力を失うのだ。
申渡恭子もそれをした。
しかし、月下万象の方が天道白日の力に耐え切れず、壊れてしまう。
それにより申渡恭子は負け、贄となった。
だが、贄となるまでに申渡恭子は奪った天道白日の力で月下万象を再生し、さらに次は天道白日の力に耐えれるように強化し、妹である申渡月子に宿らせたのだ。
希望を妹に託して贄となったのだ。
だから、今の月下万象は完全無欠の力を得ても、もう壊れない。
天道白日の力をすべて模倣し奪い去る。
更に天辰葵は自分の中に宿っていた天道白日の力を上乗せさせる。
それは他のデュエリスト達のように、神刀の能力を引き出せるものではなく、その残り香を、残滓を引き出す程度の物だったが、ダメ押しにはなる。
真の神刀の能力を奪った月下万象により放たれた天命殺は、力を失った天道白日を簡単に断ち切る。
一刀両断する。
神刀であり、この新しくも歪んだ世界の要でもあり、すべての元凶である、天道白日は断ち切られたのだ。
同時に天辰葵は意識を失う。
自分に宿っていた神刀が折れたのだから。
意識を失う中、自分に駆け寄ってくる申渡月子の姿を見ながら。
意識を失い倒れ込んだ天辰葵を抱きかかえ、申渡月子は神宮寺雅を睨む。
だが、神宮寺雅は既に人の形をしていなかった。
体が崩れては、再生を繰り返しながらも、崩壊していく。
胸に取り込まれた少女達の顔ももう見つけることもできない。
再生と崩壊を繰り返しながら、徐々に無へと返っていく。
社の中にあった異質な空間が揺れ始める。
「これは…… 世界が終わるのですか……」
申渡月子は崩れゆく世界を感じながら、気を失った天辰葵を守るように抱き締める。
そして、ついに一人の少女の願いにより囚われていた神が解き放たれる。
ここは終わりを迎えた学園の園、神宮寺学園。
絶対にして完全になりえなかった崩壊を迎える学園。
桜舞う常春を終えた学園。
その崩れゆく学び舎から、姿はどこにも見えないのだが、どこからともなく少女達の話声が聞こえてくる。
「月子ちゃん、やってくれましたね……」
「やっと終わりましたね」
「あなた達も私のせいでごめんなさい」
「そうれはそうですが、あれは事故みたいなものだったんですから、いいですよ」
「私達もやっと解放されるのか」
「ええ、あなた達は天へと昇って行きなさい」
「キクコちゃんは?」
「私にはもう少し後始末があります。それに私の行先は地獄ですよ。あの人を迎えに行かないと行けません」
「生徒と教師の禁断の恋が生んだ悲劇がこんなことになるとはね」
「お二人とも、ぐずぐずせずにお逝きなさいな。けど、本当に長い間ありがとうございました。そして、巻き込んでしまい本当に申し訳ないです」
「まあ、それなりに楽しかったよ、キクコ」
「じゃあ、後のことはよろしくね、キクコちゃん」
「ええ、こればっかりは私の責任ですからね……」
「「「それでは、さようなら、クスクスクスクス」」」
天辰葵は目覚める。
ここはとある山の頂上で神社の境内だ。
見慣れた風景で自分の家である。
暖かい春の日差しで、晴れ渡った朝の空だ。
天辰葵はゆっくりと身を起こす。
つい先ほどまで、気を失っていた自分を抱きかかえてくれていた少女のぬくもりと匂いを確かに感じる。
だが、辺りからは自分以外の気配はない。
自分以外に誰もいない。
天辰葵はその事実に気づき空に向かい吼える。
最愛の少女の名を。
――― 絶対少女議事録 完 ―――
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる