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アクナス修練堂ー修練堂通路にて
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枝を覆う花芽をついばみついばみ渡ってくるルリ朧が、パッと顔を上げ三度ほど羽ばたいて止まったのは人の指であった。
太い枝に跨っていたのはよく陽に焼けたエルガーである。愁を帯びた優しげな眼差しで小鳥を見つめると、腰袋から取り出した種を与える。一粒ついばむと、種をつまんでいた指に頭を擦り付ける。男の子は、人差し指で小鳥の顎から首にかけて優しく撫でる。満足したのか、小鳥はピッ、ピッ、首を傾げて男の子を見上げ再び、ピッ、ピッ、とさえずる。
「よしよし、わかった。また勝負したいの」
人さし指に小鳥をたからせ、腕を軽く前方へ突き出す。
「よし、いいよ」
途端に小鳥がパタパタと羽ばたいて飛び立とうとする。が飛び立てない。小鳥の気を読み、少年が手を下げるので飛び立つ反動が得られない。黒い小さなガラス玉のような瞳を少年に向け、小鳥はサッと横を向くと、横っ飛びに飛ぼうとするがこれも失敗に終わる。しかし、体が落ちそうになったので小鳥は慌てて羽ばたき体勢を建て直す。その小鳥の目の前を、羽虫が横切った。反射的に手を蹴った小鳥は、見事に少年の手から飛び立ち、そのまま遠ざかっていった。
「やっぱり、無色だと」
そう呟いた時、修練堂の高窓から
「やぁっ」
甲高いが気迫に満ちた声が少年の耳を突いた。従兄弟のタナスは近頃、急速に頭角を表しつつある。力量の上り盛りを迎え、周りから将来を期待された存在となっている。
「エル坊、そろそろ入堂生が集まる時間じゃろが」
大木の下から声が聞こえる。庭仕事に一区切りついたのかドワンジ爺がこちらを見上げている。少年は枝の上に立ち上がると、開いた両腕の袖をはためかせそのまま垂直に幹を駆け下りた。
地面が近づくと木から飛び降り、深く体を沈めると弾むボールのような勢いで駆け出した。
「ありがとう」
振り返って手を振ると、爺は額の汗をぬぐいながら手を振り返した。今の一つ一つの足運びには気が行き渡っていた。
「あやつ、まんまと幽闇の技を盗みおったわ」
「入堂者の方で段位の確定がお済みでない方・・・」
「では、これにてごめん被ります。若君様にはご精進なされ・・」
「ねぇ、あなた何領の何家?」「さっき見かけたんだけど、鬼人族じゃないかな」
ゆったりした袖が手首で締まった剛綿の白いシャツ、脚の付け根から膝下までゆったりと、ふくらはぎからきゅっと紐で締めるハイウェストの紺色ズボン。修練生の制服だ。
アクナス修練本堂は、この春から修練を始める様々な年齢の新規修練生でごった返している。身分も様々、名門貴族、名家、または武門の子女、子息、から近隣からの通いの農家、商家。
名誉を得る、立身出世を目指す、己の力で家族を守る、目的も様々だ。戦乱の世、力がものを言う世にあって、武芸を身につけるのは生き残ることと直結している。それは誰もが身にしみてわかっている。
紙を片手に大勢が行き交う通路に、少年が二人。何やら親しげに話している。
「わざわざ付いてこなくてもよかったのに」
「やっと、やっとだよ。やっと同じ修練を受けられるんだ」
クリスイン・タナスは12歳。エルガーと同じ歳である。初めて会ったときから不思議と気が合った。
「修練着の採寸だぞ」
「その後に段位の確定試験があるだろ」
「タナスと同じ段位になれるわけないよ」
「エルガー、もしかして目立ちたくないからわざと、とかないだろうね」
「そんなことも見抜けないほど、上位の修練生は甘くないよ。受付のときに何人か見かけたけれど、どの上位生も並大抵ではないのがすぐわかった。それよりもタナス、やっぱり離れてくれ。タナスと一緒だとみんながこっちを見て来るんだ」
クリスイン・エンテスの孫であるタナスは、既にニイン流の俊才、などと噂される存在である。父親似の広い肩幅、母親似の白い肌、絵に描いたような若武者振り、と女性修練生の間でもてはやされている、と待女たちの話から漏れ聞こえてくる。修練生だけあって、表立って騒いだりはしないが、今も通り過ぎる女性修練生たちが送ってくる視線がタナスにまとわりついている。
ちらりとタナスが視線を送ると、幾人かの女性はパッと顔をそむれるが、残りの幾人かはタナスを見てはいなかった。彼女たちの視線の先にはタナスの連れがいた。
タナスは至って自分が普通だと思っており、エルガーの方がよほど人の目を惹く顔立ちをしている。
実際、タナスは待ちきれなかった。しばらくするとこの地にタナスと同じ年頃の男の子が来ると聞かされていた。到着したその子がエンテスお爺様、父ダンガスに見せたセグマはタナスを震わせた。
気付くと横にいるエルガーの切れ長に綺麗な弧を描く眼がタナスを睨みつけ、早く離れろと言っている。
「とにかく、じゃあね。また後で」
エルガーは両手でタナスを椅子から押しのける。
「わかった。じゃあ入堂式でね」
かなりたくさんの新規修練生が採寸の部屋へ入っていった後なので、しばらくは呼ばれないだろう。エルガーはいつものように密かな修練を始める。
メブル(意識の焦点)が脳内回路であるヨルトに灯る。脳内に立体構築された複雑な迷路をメルブは迷いなく瞬時に奔る。右脳から左脳へ切り替わる瞬間、霊門マノンは身動きを始め、迷宮を抜けたメルブが大きく開いたマノンに飛び込むと、ワールの波が溢れ出した。
身体に眠る超感覚が励起され、エルガーのオーグは目覚めた。周辺に躍動するあらゆるエネルギーが感じられる。大抵オーグは自身の身体より一回り大きく展開されるのが自然である。また、その方がより積極的に周辺に存在するエネルギーを感じ取れる、とされている。
それをエルガーはオーグを抑えることに集中する。自身の身体と完全に一致させること、父、母から何度となく言い渡されてきた事だ。
ニイン流の基礎であり、エルガーに遺された課題でもあった。エルガーはそれを片時も忘れなかった。
いつしか修練生たちの動く気配が見えるようになった。
オーグは視覚を持たない、とされている。エメルタイン、メルタインなどの操甲体は眼晶体という像を結ぶための器官を有する。その仲介をもってして初めてオーグは外界の像を装着者に伝えることができる。
初めは自分の肉眼で見えるようになったのか、と思っていた。が、どうやら違う、と理解したのは後のことだった。多分オーグが感知する生体磁気を、自分の視覚へ映し出してくれているようだ。オーグを身体に一致させることで、周辺の動きを機敏に精密に感知することがいつしかできるようになっていた。
そして、最近は‘意‘と言うものを感じられる。こちらへ意識を向ける者を感じ取れるようになってきたようだ。ただ、それが敵意なのか好意なのかは判別できない。現に今、こちらへ意識を向ける者がいる。パチリと目を開いてそちらへ顔を向けた。
通路の奥から手を挙げて近寄ってくる二人。
「エルガー様」
澄んだ声が呼びかけてくる。エルメ以外で女性修練生に知り合いなどいたか、とエルガーはしばし考えてから
「あーっ! セリナ様、リヨル様」
雑踏の中ではあるが、セリナは『エルガー様』とはっきりと聞こえるように言った。エルガーはセリナの身分を承知している。その人物から敬称を付けて呼ばれる事にどのような反応を見せるのかセリナは注視していた。
気まずさ、照れ、臆する様子は見えなかった。やはりエルガーの反応は使用人のそれではない。このアクナス修練堂のような施設はいくつもあるが、身分を隠して入学、入堂することはよくあることだ。
「覚えておられましたか。しばらくぶりでございました。本当に入堂検査をお受けになられるのですね。エルガー様のアーク遺跡での見事なお働きを見て、修練生ではないことが信じられなかったのですが」
人混みでごった返す通路は騒々しく、エルガーは張り上げるセリナの声がやっと聞き取れた。セリナは後ろに控えていた黒い癖毛の男の子が人混みを押し退け姉の前にやっと出た。
「セリナの弟、リヨル・カナリです。覚えていらっしゃいますか。エルガー様とはあのとき以来でしたが」
武を尊ぶ国柄で育った二人は、エルガーへの接し方が丁寧であった。
「もちろん二人のことは覚えております。南クロイダンのワイナ・カナリ議員騎士様の御息女、御子息。」
挨拶を交わしていると、通り過ぎる人々がエルガーの顔を繁々と見ることが多い。世に美形の種族と言われるフルワ族の中で過ごして来たエルガーには、自分に関心を向ける人々の気が知れなかった。しかし、今目の前にいる二人がエルガーに向ける視線は種類が異なっていた。何かを探るような眼差しをエルガーに向ける。
「ぼくの顔に何か」
するとセリナが
「ごめんなさい、あの時と違ってこうして対面するのと何か違う感じがしたものだから」
「姉上は整った顔立ちの男性がお気にめすことが多いから、エルガー様も気おつけてください」
「その軽口をどうにかしてやろうと思っていたけど、ついにその時が来たようね。修練が始まって私と対峙する時はあなたこそ気をつけなさい」
お調子者の弟といった感じだが、この人も姉に劣らず相当の腕前だ、とは感じ取っていた。セリナにも前々からその立ち居振る舞いにただならぬ印象を受けていたエルガーであった。
「こちらこそ、お近づきになれて光栄です」
ここで少年は居住まいを正し軽く胸を張ると
「われの名はエルガー。姓はロードン」
この名乗りを聞いた姉弟は、礼を失さない程度に怪訝な顔色を浮かべた。
「こう名乗ると大抵の相手はその反応になります。もう慣れてしまいましたが。名乗りを上げる時は堂々としなさい、と大恩ある方から言われているのでいつもこのように名乗っています」
少年は一点の曇りなく言い切った。エルガーの横顔をじっと見つめていたセリナはひとつの考えに至った。『常に恥じぬ自分でいなさい、ということなのだろう』との思いに頷くと自然と言葉が出た。
「その方はエルガー様を大切に思われているのですね」
この言葉にエルガーは嬉しそうに笑顔で応えた。リヨルは何かを思い出したように手を打ち
「思い出しました。どこかで聞いた事があると思っていたのですが、ロードンとはかつてこのアクナス領を統治していた家柄でしたね」
「祖母がロードン家の出なので御宗家様からロードンの姓をいただきました」
太い枝に跨っていたのはよく陽に焼けたエルガーである。愁を帯びた優しげな眼差しで小鳥を見つめると、腰袋から取り出した種を与える。一粒ついばむと、種をつまんでいた指に頭を擦り付ける。男の子は、人差し指で小鳥の顎から首にかけて優しく撫でる。満足したのか、小鳥はピッ、ピッ、首を傾げて男の子を見上げ再び、ピッ、ピッ、とさえずる。
「よしよし、わかった。また勝負したいの」
人さし指に小鳥をたからせ、腕を軽く前方へ突き出す。
「よし、いいよ」
途端に小鳥がパタパタと羽ばたいて飛び立とうとする。が飛び立てない。小鳥の気を読み、少年が手を下げるので飛び立つ反動が得られない。黒い小さなガラス玉のような瞳を少年に向け、小鳥はサッと横を向くと、横っ飛びに飛ぼうとするがこれも失敗に終わる。しかし、体が落ちそうになったので小鳥は慌てて羽ばたき体勢を建て直す。その小鳥の目の前を、羽虫が横切った。反射的に手を蹴った小鳥は、見事に少年の手から飛び立ち、そのまま遠ざかっていった。
「やっぱり、無色だと」
そう呟いた時、修練堂の高窓から
「やぁっ」
甲高いが気迫に満ちた声が少年の耳を突いた。従兄弟のタナスは近頃、急速に頭角を表しつつある。力量の上り盛りを迎え、周りから将来を期待された存在となっている。
「エル坊、そろそろ入堂生が集まる時間じゃろが」
大木の下から声が聞こえる。庭仕事に一区切りついたのかドワンジ爺がこちらを見上げている。少年は枝の上に立ち上がると、開いた両腕の袖をはためかせそのまま垂直に幹を駆け下りた。
地面が近づくと木から飛び降り、深く体を沈めると弾むボールのような勢いで駆け出した。
「ありがとう」
振り返って手を振ると、爺は額の汗をぬぐいながら手を振り返した。今の一つ一つの足運びには気が行き渡っていた。
「あやつ、まんまと幽闇の技を盗みおったわ」
「入堂者の方で段位の確定がお済みでない方・・・」
「では、これにてごめん被ります。若君様にはご精進なされ・・」
「ねぇ、あなた何領の何家?」「さっき見かけたんだけど、鬼人族じゃないかな」
ゆったりした袖が手首で締まった剛綿の白いシャツ、脚の付け根から膝下までゆったりと、ふくらはぎからきゅっと紐で締めるハイウェストの紺色ズボン。修練生の制服だ。
アクナス修練本堂は、この春から修練を始める様々な年齢の新規修練生でごった返している。身分も様々、名門貴族、名家、または武門の子女、子息、から近隣からの通いの農家、商家。
名誉を得る、立身出世を目指す、己の力で家族を守る、目的も様々だ。戦乱の世、力がものを言う世にあって、武芸を身につけるのは生き残ることと直結している。それは誰もが身にしみてわかっている。
紙を片手に大勢が行き交う通路に、少年が二人。何やら親しげに話している。
「わざわざ付いてこなくてもよかったのに」
「やっと、やっとだよ。やっと同じ修練を受けられるんだ」
クリスイン・タナスは12歳。エルガーと同じ歳である。初めて会ったときから不思議と気が合った。
「修練着の採寸だぞ」
「その後に段位の確定試験があるだろ」
「タナスと同じ段位になれるわけないよ」
「エルガー、もしかして目立ちたくないからわざと、とかないだろうね」
「そんなことも見抜けないほど、上位の修練生は甘くないよ。受付のときに何人か見かけたけれど、どの上位生も並大抵ではないのがすぐわかった。それよりもタナス、やっぱり離れてくれ。タナスと一緒だとみんながこっちを見て来るんだ」
クリスイン・エンテスの孫であるタナスは、既にニイン流の俊才、などと噂される存在である。父親似の広い肩幅、母親似の白い肌、絵に描いたような若武者振り、と女性修練生の間でもてはやされている、と待女たちの話から漏れ聞こえてくる。修練生だけあって、表立って騒いだりはしないが、今も通り過ぎる女性修練生たちが送ってくる視線がタナスにまとわりついている。
ちらりとタナスが視線を送ると、幾人かの女性はパッと顔をそむれるが、残りの幾人かはタナスを見てはいなかった。彼女たちの視線の先にはタナスの連れがいた。
タナスは至って自分が普通だと思っており、エルガーの方がよほど人の目を惹く顔立ちをしている。
実際、タナスは待ちきれなかった。しばらくするとこの地にタナスと同じ年頃の男の子が来ると聞かされていた。到着したその子がエンテスお爺様、父ダンガスに見せたセグマはタナスを震わせた。
気付くと横にいるエルガーの切れ長に綺麗な弧を描く眼がタナスを睨みつけ、早く離れろと言っている。
「とにかく、じゃあね。また後で」
エルガーは両手でタナスを椅子から押しのける。
「わかった。じゃあ入堂式でね」
かなりたくさんの新規修練生が採寸の部屋へ入っていった後なので、しばらくは呼ばれないだろう。エルガーはいつものように密かな修練を始める。
メブル(意識の焦点)が脳内回路であるヨルトに灯る。脳内に立体構築された複雑な迷路をメルブは迷いなく瞬時に奔る。右脳から左脳へ切り替わる瞬間、霊門マノンは身動きを始め、迷宮を抜けたメルブが大きく開いたマノンに飛び込むと、ワールの波が溢れ出した。
身体に眠る超感覚が励起され、エルガーのオーグは目覚めた。周辺に躍動するあらゆるエネルギーが感じられる。大抵オーグは自身の身体より一回り大きく展開されるのが自然である。また、その方がより積極的に周辺に存在するエネルギーを感じ取れる、とされている。
それをエルガーはオーグを抑えることに集中する。自身の身体と完全に一致させること、父、母から何度となく言い渡されてきた事だ。
ニイン流の基礎であり、エルガーに遺された課題でもあった。エルガーはそれを片時も忘れなかった。
いつしか修練生たちの動く気配が見えるようになった。
オーグは視覚を持たない、とされている。エメルタイン、メルタインなどの操甲体は眼晶体という像を結ぶための器官を有する。その仲介をもってして初めてオーグは外界の像を装着者に伝えることができる。
初めは自分の肉眼で見えるようになったのか、と思っていた。が、どうやら違う、と理解したのは後のことだった。多分オーグが感知する生体磁気を、自分の視覚へ映し出してくれているようだ。オーグを身体に一致させることで、周辺の動きを機敏に精密に感知することがいつしかできるようになっていた。
そして、最近は‘意‘と言うものを感じられる。こちらへ意識を向ける者を感じ取れるようになってきたようだ。ただ、それが敵意なのか好意なのかは判別できない。現に今、こちらへ意識を向ける者がいる。パチリと目を開いてそちらへ顔を向けた。
通路の奥から手を挙げて近寄ってくる二人。
「エルガー様」
澄んだ声が呼びかけてくる。エルメ以外で女性修練生に知り合いなどいたか、とエルガーはしばし考えてから
「あーっ! セリナ様、リヨル様」
雑踏の中ではあるが、セリナは『エルガー様』とはっきりと聞こえるように言った。エルガーはセリナの身分を承知している。その人物から敬称を付けて呼ばれる事にどのような反応を見せるのかセリナは注視していた。
気まずさ、照れ、臆する様子は見えなかった。やはりエルガーの反応は使用人のそれではない。このアクナス修練堂のような施設はいくつもあるが、身分を隠して入学、入堂することはよくあることだ。
「覚えておられましたか。しばらくぶりでございました。本当に入堂検査をお受けになられるのですね。エルガー様のアーク遺跡での見事なお働きを見て、修練生ではないことが信じられなかったのですが」
人混みでごった返す通路は騒々しく、エルガーは張り上げるセリナの声がやっと聞き取れた。セリナは後ろに控えていた黒い癖毛の男の子が人混みを押し退け姉の前にやっと出た。
「セリナの弟、リヨル・カナリです。覚えていらっしゃいますか。エルガー様とはあのとき以来でしたが」
武を尊ぶ国柄で育った二人は、エルガーへの接し方が丁寧であった。
「もちろん二人のことは覚えております。南クロイダンのワイナ・カナリ議員騎士様の御息女、御子息。」
挨拶を交わしていると、通り過ぎる人々がエルガーの顔を繁々と見ることが多い。世に美形の種族と言われるフルワ族の中で過ごして来たエルガーには、自分に関心を向ける人々の気が知れなかった。しかし、今目の前にいる二人がエルガーに向ける視線は種類が異なっていた。何かを探るような眼差しをエルガーに向ける。
「ぼくの顔に何か」
するとセリナが
「ごめんなさい、あの時と違ってこうして対面するのと何か違う感じがしたものだから」
「姉上は整った顔立ちの男性がお気にめすことが多いから、エルガー様も気おつけてください」
「その軽口をどうにかしてやろうと思っていたけど、ついにその時が来たようね。修練が始まって私と対峙する時はあなたこそ気をつけなさい」
お調子者の弟といった感じだが、この人も姉に劣らず相当の腕前だ、とは感じ取っていた。セリナにも前々からその立ち居振る舞いにただならぬ印象を受けていたエルガーであった。
「こちらこそ、お近づきになれて光栄です」
ここで少年は居住まいを正し軽く胸を張ると
「われの名はエルガー。姓はロードン」
この名乗りを聞いた姉弟は、礼を失さない程度に怪訝な顔色を浮かべた。
「こう名乗ると大抵の相手はその反応になります。もう慣れてしまいましたが。名乗りを上げる時は堂々としなさい、と大恩ある方から言われているのでいつもこのように名乗っています」
少年は一点の曇りなく言い切った。エルガーの横顔をじっと見つめていたセリナはひとつの考えに至った。『常に恥じぬ自分でいなさい、ということなのだろう』との思いに頷くと自然と言葉が出た。
「その方はエルガー様を大切に思われているのですね」
この言葉にエルガーは嬉しそうに笑顔で応えた。リヨルは何かを思い出したように手を打ち
「思い出しました。どこかで聞いた事があると思っていたのですが、ロードンとはかつてこのアクナス領を統治していた家柄でしたね」
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