村に平和が訪れました

八木山

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エピローグ ー 焼き肉屋にて②

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「犯人は巡査だ」
「えぇ~~~~?」

宮古島は目を丸くして、大声で大げさに驚いて見せた。

「いやいや、体格的に立ち向かえなくないっすか」

そう、これこそがお前の仕込んだトリックだったんだな、宮古島。

「順を追って説明しようか。この事件が起きた時は雷雨だった。家の外の様子は見えないし聞こえない、犯人にとってはかなり殺人が楽な環境だったはずだ。血痕も足跡も残らないし、村人は家に引きこもっていて殺人を見られるリスクも少ない。だがそれにしては、この死体には不自然なことが3つある」
「3つ!」

それを聞いて何を思ったのか、宮古島はタン塩を3皿追加で注文した。


①現場が広場だったこと

「被害者がポッと出ってことは、以前から人目につかない場所、おそらく廃屋に潜んでたってことになる。それなら廃屋で殺してゆっくりと痕跡を消せばいい。なのに、それを犯人は避けたのは、そうする必要があったからだ」

②死体の首が持ち去られていること

「次。何故死体の首には狼の置物があてがわれていたのか。本当の首は何故持ち去られたのか。大上の身元を隠したいなら身分証を残すなんてことはしないよ。だったら首を持ち去ったのには別の目的があったってことになる」

③死体の衣服に争った形跡がないこと

「正面から斧で殺されたなら、逃げるなり抵抗するなりで、多少なりとも衣服が乱れていていいはずなんだ。しかし被害者の衣服にはその跡はなかった」


「ほうほう」
「ほうほう、じゃない。ドサクサに紛れてまたタン塩注文しただろ」

てへっと宮古島は舌を出した。
これから舌を食うのに、だ。

「次は先輩の好きなもの頼んでいいっすから、続きを聞かせてくださいよ」
「3つのことから導き出せる仮説はこうだ。犯人は、相手の抵抗を許さない方法で殺害したが、それには屋内ではなく屋外でなければならず、また首を持ち去らざるを得なかった」

俺は話を聞きながら、尚もタン塩を焼き続け、パクパクと食べる宮古島に行った。

「要するに、犯人は拳銃で頭を撃ち抜いて殺したんだよ。これなら体格差は問題にならない」
「お~!うまい!なるほど!うまい!」

感心するのか、美味しがるのかどちらかにしたらどうなんだ。
俺は呆れながらも、それでも宮古島の仕込んだ「謎」の真相について補足を進める。

「屋内を現場に選べなかったのは弾が壁に埋まって残る可能性があったし、血痕の飛び散り方でわかってしまうかもしれない。雨降る外の方がそう言う意味でも都合はよかったんだ。そして首を持ち去ったのは、銃創を見れば一発で凶器がわかってしまうから。そしてこれらは、銃声も聞こえないようなひどい豪雨だったからこそ実行ができた。巡査が拳銃を携帯しているってことも1話で描かれている。つまり犯人は巡査だ」
「うーん、正解!」

宮古島は拍手で俺の推理が当たっていることをたたえた。

「で、これ簡単すぎます?」
「いや、いいんじゃないか?」

人狼ゲームをもとに、霊媒師、占い師、村長っていう役職者を並べるのには感心した。
序盤、巡査が『平和が訪れました』と言わせることで、読者は巡査はゲームマスター、つまり犯人候補に含まれないと誘導もできる。
それに、人狼がモチーフであるっていうのを利用して一度村長が誤認逮捕されるのも、なかなかいい展開だ。
ヴェリスが剣と魔法の世界から転移してきた人間であるために、巡査の腰にぶら下がっている拳銃の用途に気付かないのも無理がない。

「えへへへへ、じゃあちょっと直せば間に合うかな」

宮古島がうれしそうに笑う。
それを見て俺は、彼女が育てたタン塩を何食わぬ顔で頬張った。

・・・だとしても4人しかいない村と言うのは、かなり無理のある設定だとは思うが。

焼いては直し、焼いては直し。
焼き直し、焼き直し、書き直し、書き直し。
宮古島は、焼き肉よろしく何度も細かい部分を書き直して、なんとか文化祭に間に合わせたのだ。

そしてそこで中堅の出版社に見初められ、「村に平和が訪れました」が新人賞を獲得することになるのは、また別の話。
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