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4:運命とは偶然と必然が混ざること

作戦会議

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 ジェイスから依頼を受けたレミア先生は一通り談笑をする。ジェイスはジェイスで仕事が忙しく、恋とは無縁の生活を送っているようだ。

 一応、飲みに誘われたりするようだがどれも男ばかり。そのため出会いという出会いがないと話していた。
 レミア先生はそんな寂しい生活を送るジェイスを笑う。仕事柄、仕方がないこととはいえデートに誘われるのはいい年齢のおじさんばかりらしいのでさらに笑ったのだった。

 そんな楽しい会話を終え、去っていくジェイスを見送った彼女は考える。
 強力な従魔をどうやって退治するか。誘き寄せるのはおそらく簡単だが、対処法が思いつかない。
 高位の存在ということは、低火力では太刀打ちなんてできないだろう。そのうえ少し厄介そうな存在だ。何かからめ手を用いてくる可能性がある。

 そのことから考えられる方法は二つ。
 一つは低級魔術に魔力を乗せに乗せて威力を底上げすること。元々は威力が低い低級魔術でも魔力を込めれば上級魔術並に仕上げることができるため、複雑な術式を作り上げる必要はない。
 まさにゴリ押しといえる戦法だが、欠点がちゃんとある。魔力を込めれば込めるだけ強くなるのだが、それは術者の魔力総量に依存してしまう。レミア先生の場合はそこまで魔力総量はそこまで多くないのでこの戦法は使えない。

 二つは上級魔術を事前に組んで配置しておく。つまりトラップを仕掛けておくということだ。これならば時間さえあれば複雑な術式を事前に組んでおける。しかし、今度は時間の問題が出てしまう。
 もしトラップを仕掛けている最中に現れたらどうしようもない。出現場所や時間帯は決まっているが、それが縛りとなる。

「さすがに大通りを封鎖できないし、人払いも難しいわね。そんな中を短時間で上級魔術を組むのは現実的じゃないわねぇ」

 短時間で組むとしたらレミア先生の腕だと中級魔術が限界である。だがそれだと威力が足りない気がしていた。
 普通に戦えればそれでいいのだが、相手は気配を感知しにくいようにしている。もしかすると接近に気がつかない可能性があった。
 つまりとてもやりにくい相手なのだ。

「どうしたものかしらねぇ……」

 頭を悩ませるレミア先生。そんな彼女の前に一つのコーヒーが置かれる。
 何気なく顔を向けると、優しく微笑んでいる店のマスターである老人がいた。

「困ってるようだね」
「まあね。なかなかに厄介なことを押しつけられたわ」
「それは大変だね。まあ、こういう時は一人で悩まないほうがいいよ。頼れる専門家がいたらその人に相談したほうがいいさ」
「そんな人がいたらいいんだけど。まあ、あまりいい考えが浮かばなかったら誰かに相談してみるわ」

 とはいいつつも、いい考えなんて浮かばない。老人が去ってからまた考えてみるもののいいアイディアなんて浮かばなかった。
 時間ばかりが過ぎていく。このままではまた新たな犠牲者が増える、と焦りが生まれる彼女に声をかける存在がいた。それは先ほど出会い、バックの中にしまった奇妙な仮面だ。

『あのぉ~、よろしければ意見を申し上げてもいいでしょうか?』
「今忙しい。後にしてくれる?」
『無駄にはしませんから! その、とてもためになりますから!』
「時間がないのよ? アンタそれわかってる?」

『わかってます! だから聞いて欲しいんですよ!』
「わかった、じゃあ言って。有用だったら深く聞いてあげるわ」
『むぅー! ならギャフンと言わせてあげます!』

 バッグの中にいるサンを取り出し、レミア先生はその言葉に耳を傾ける。
 サンは一度咳払いしつつ間を取ると、ギャフンと言わせる作戦を話し始めた。

『単純な話です。人が邪魔なら追い払えばいい。火力を出したいのなら足せばいいだけです』
「そんなのできたら苦労しないわよ。できないから困っているんでしょ?」
『できますよ。ただ人払いは一発勝負になりますけど』
「ふーん、一発勝負ねぇ。その一発勝負をやるためにも足りない火力はどうやって出すのかしら?」

『先ほども言いましたが、足せばいいんですよ。術式が組むことができて設置もできるなら、あとは簡単です。燃料を注げばいいだけですよ』
「だーかーらー、それをどうやって――」
『オーバーヒートを利用するんですよ』

 オーバーヒートと聞き、レミア先生は考え出す。
 魔力によるオーバーヒート。つまり無理矢理術式に内蔵した魔力を暴走させ、爆発的な火力を出そうということだ。
 確かにこれなら火力を安易に出せる。だがこれには大きな欠点があった。

「ダメね。確かに火力は補えるけど、危険すぎるわ。周りの被害や後始末が面倒になるし、下手したら国一つ吹っ飛ぶ爆発が起きるわ。そもそも暴走させるんだからコントロールなんて効かないし、そんなものをどう扱うのよ」
『それも簡単です。全て把握しておけばいいんですよ』
「はぁ?」

『実験による試行錯誤。それで把握しておけばコントロールできます。簡単です』
「アンタねぇ……」

 サンの言葉にレミア先生は頭が痛くなった。確かにそれができるなら実現性は高まるだろう。しかし、やるには時間がかかりすぎる。
 そもそも1日でオーバーヒートの把握ができたら苦労しない。

「却下よ却下。んなことしてる暇はないわよ」
『えー』
「でもまあ、悪くない考えかもね」

 レミア先生は考えてみる。
 火力を補うという点では問題ない。だが、コントロールできない点が残ってしまう。
 どうにかその点さえクリアできれば悪くない作戦だ。
 しかし、その方法がない。

「もっと簡単な方法はないものかしらね」

 レミア先生は唸りながら考える。ふと、何気なくテーブルの上に置いたコーヒーが目に入った。
 まだ熱々のコーヒー。しかし時間が過ぎれば冷えてしまう。
 また温めても美味しくはない。なぜなら時間経過によって酸化してしまうからだ。

「ふむ?」

 酸化してしまえば美味しさは半減する。いやもしかしたら不味いものになるだろう。
 つまり、時間経過によって味が変化するのだ。

「そうか、これだ!」

 レミア先生は大声を上げた。
 始めから狙いにくいなら何回かにわければいい。そうすれば狙った爆発力が出せる。
 そのことに気づいた彼女はさっそく準備に取りかかることにした。
 そんな彼女を見て、サンは微笑んだ。

『どうやら今回のご主人様はなかなかに頭がいいみたいですね』

 大きな事件。それを解決できるのか、とサンは見守る。
 これから事件に挑むレミア先生が無事に解決できることを信じて。
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