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第3章 負けっぱなしじゃいられない

22:たくさんの正解と不正解

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◆◆27◆◆

 雲がかかり、窓から入っていた光がなくなる。真っ暗な部屋の中で、ベッドに腰をかけているシャーリーは天井を見つめていた。

 すぐにドロシア達を助けに行きたい。そんな思いが強まるが、すぐに頭から振り払った。
 今のままではみんなを助けるどころではない。もしかしたら命を落としてしまう可能性がある。

 自分だけの命なら無駄死にしても文句は言われないだろう。
 だが、シャーリーが死んで悲しむ人はたくさんいる。

「どうすればいいんだろ……」

 ダルシオの言われたことが大きな枷となり、シャーリーの決断を鈍らせた。
 助けに行こうにも今のままでは二の舞になる。かといってこのまま考えていてはいけない。
 時間が消えていく中、シャーリーの中で焦りが募っていく。
 やっぱり助けに行こう、と決断をしようとしたその時、部屋の扉が開いた。

「嬢ちゃん、起きてるかー?」

 姿を見せたのは、外に行っていたおじさんだった。何気に見つめるとその手には一通の手紙がある。
 おじさんは手紙を見つめているシャーリーにニッと笑顔を浮かべ、こんなことを言い放った。

「あーっとな、なんか変なキツネからもらったんだ。お前さんに渡してくれってな」
「変なキツネ?」
「なんつーか、ライザって奴からの手紙だそうだ。知り合いかい?」
「ライザ? ライザは確か……お母さんだ!」

 シャーリーはおじさんから奪い取るように手紙を手にする。
 慌てて封を切り、中に入っていた紙に目を通し始めた。
 そこにはシャーリーを叱りつつも迷宮探索者になったことを喜ぶ文章が記されている。
 とても嬉しいのか、『さすが私の娘ね!』と親バカっぷりを見せている状態だ。

「相変わらずだなぁー」

 思わず苦笑いを浮かべ、シャーリーは読み進めていく。
 あっという間に一通目が終わり、二通目へと移る。そこにはこんなことが書かれていた。

『ここからは迷宮探索者の先輩としてのアドバイスをします。
 今、あなたの目の前にある壁は確かに固く、高く、幅が広いです。
 だけどそれは工夫と頑張り次第でどうにでもなります。

 その正解は一つではない。当然、不正解もたくさんあります。
 だけどその不正解は正解へ繋がる道しるべ。だから恐れないで。

 その失敗が、あなたにとってかけがえのない大きな経験になる。

 今、あなたにできることは何ですか?
 あなたの武器は? 能力は? 技能でもいい。
 とにかく、試練を打ち破る方法を見つけて。

 そうすれば必ず、あなたが望む未来に辿り着けるから。

 不正解を、失敗を恐れないで。
 必ず正解、いえ成功に辿り着けるから。
                       あなたの母 ライザより』

 シャーリーの目から涙が流れた。
 とても苦しい。その苦しみをライザは理解してくれる。
 だからこそ、迷宮探索者の先輩としてアドバイスを送ってくれた。明確な答えではないが、だからこそ彼女は前を向く。

「そうだ、私にはできることがある」

 ただ闇雲に迷宮へ向かっては意味がない。
 みんなを助けるためにできることはある。
 それを駆使して少しでも可能性を高める。
 そうすれば試練を乗り越えるなんて楽勝だ。

「ドロシアさんが教えてくれた錬金術がある!」

 ドロシアがくれた技術。大切な友達が教えてくれたもの。
 それを今、使わないでいつ使う。
 たくさんの正解と不正解がある。そのうちの一つに、シャーリーは気づいた。

「おじさん、手伝って! 私、できること全部する!」

 元気になったシャーリーを見て、おじさんは安心したかのような笑顔を浮かべる。
 そしてその元気に答えるように、彼は気持ちいい返事をした。

「オゥッ! 手伝えることは何でも言ってくれ!」
「うん! ありがと、じゃあ早速なんだけど――」

 ポーションしか作り方がわからないシャーリーだが、それでもやると決断する。
 みんなを、ドロシアを助ける。そのためには失敗を恐れている暇はない。
 見た目が悪いかもしれない。性能を引き出せないかもしれない。

 それでも、限られた時間でシャーリーは挑む。
 硬く、高く、幅が広い試練を打ち破れると信じて――
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