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23,誤算

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 ルイス達が都へ戻ってきた。
 出迎えをするか散々迷い、迷った末に城まで出向く。どうせヒューリアが逃げたところでルイスは逃がしはしないだろう。
 それを考えると頭が痛くなった。


***


「ルイス様」

 国王への挨拶が済んだルイスは、そこにいたヒューリアに驚いたようだった。

「ヒューリア」
「お帰りなさいませ。お身体はご無事ですか?」
「あぁ……君は来ないと思っていたが」
「そうすればルイス様が訪ねて来られるでしょう」
「…話が早いな、君は」

 入れ、と部屋の扉が開かれる。
 従者は元よりルイスの命令で下がっていた。

「…茶を用意しようか」
「ーーそうですわね、長くなりそうですもの」




 さて、という声にヒューリアは顔を上げた。

「どういうことか説明して貰えるかな」
「それは私のセリフでもございますわ」

 非現実的なタイムスリップ。
 アルテミス塔から落ちたのがヒューリアだから、という仮説はおかしいのは元より承知だ。何故なら、カインも戻ってきていたのだから。

「…僕はね」

 ため息をつきながら、ルイスが話し始める。

「あの日、あの塔の上から、君が飛び降りた。目撃者の証言もあって、それが自殺だということにすぐ気が付いたよ」

 やはり、ルイスも始まりはそこなのだ。

「自殺の理由が分からなかった」
「…え?」

 分からなかった?本当に?
 あんなにも堂々と、あの女の手を取っておいて?

「そして続くように、兄上が死んだ」

 そうだ。今更のように思うけれど、王位継承者であるカインが死んだ。今思えば、あの時代に残してきたお父様やお母様に申し訳なく思う。塔を建設したアルテミス侯爵家に責任が問われなければいいけれど。

「…苦労したよ。兄上のことを尊敬したと共に、恨めしくも思った」
「恨めしい…ですか?」
「あぁ。全てのことを私に押し付けて君を追いかけた兄上が恨めしかった」

 そこから先は、ルイスの地獄の日々だった。

「君が平民と駆け落ちする人生、君が兄上と結婚して王妃として僕の前に立つ人生、君が他の貴族の元へ嫁いで行った人生。他にもたくさんあるよ、数えきれないほど」
「そ、そんなに沢山…?」

 やはりパラレルワールドは存在するのかもしれない。私がやり直したのはせいぜい、二回。三回の人生しか送っていない。

「どうして…」
「どうして?…君を愛していたからだろう。どんなに裏切られても、何度でも。…けれど、ある日から気が付いたんだ」
「え?」
「望んでも手に入らないのだから、傷付けてしまえばいいって。他の男が引いてしまうほど、君を愛してあげればいい。そう思ったのが、この人生だったんだ」

 けどね、とルイスが続ける。

「誤算だったよ。まさか君が、意思を持って僕以外の男を選んでいたなんて。…許せることではない、かな?」

 ゾクリとするほどの視線はまっすぐ、ヒューリアに突き刺さる。

「さて、話してもらおうか。君の事情を」

 ヒューリアはもう、耐えきれなかった。

   
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