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35,それぞれの想い(完)
しおりを挟む「…王妃様」
城の渡り廊下を歩いていると、向こう側から歩いてきた女性がいた。大妃、カインにとっての義母上だ。
「…ごきげんよう」
いつもなら素通りをするだろうに、その日は珍しく声をかけてきた。それに驚きを感じながらも頭を下げると、思いも寄らない言葉が返ってきた。
「国王になるというのに、考えていることを顔に出すのは感心しませんよ」
「ーー王妃様」
驚いた。自分など国王だと認めないと、高らかに宣言したのはこの人だというのに。
「…ルイスが、楽しかったと。貴方と菓子を食べたと。…これからも仲良くしてあげて」
てっきり、もう関わるなと言われるかと思ったのだが。
「はい、私で良いのでしたら、王妃様の命に…」
「命令ではないわ。母親から息子へのお願いよ、…弟と仲良くしてあげてと言っているの。…今度、貴方の迎えた未来の正妃と三人でお茶でもしましょう。では」
「…は、い」
どうしたんだろう。熱でもあるのか、体調が悪いのか、余命が近付いているのか。まさかリーザを正妃として認めるような発言をするとは思わなかった。そんな失礼なことを考えながら、通りすぎていった王妃の横顔を見る。
晴れ晴れとしたような、笑顔だった。
***
「ルイス!」
「ヒューリア。どうしたんだ?」
「貴方また義兄様のところへ?政務が溜まっていると、臣下が呆れているそうよ」
「……兄上は、いいって言った」
「最近入り浸りでしょう。夜も遅くまで義兄様の部屋に行って、起きたらまた義兄様の元へ」
「ぼ、僕はただ、兄上との溝をゆっくり埋めていこうと…」
「それは結構ね。けれど迷惑ということを考えて」
「うー……あ!!なら、政務も手伝ってくるよ!じゃあね!」
「ルイス!」
そのまま走って逃げた夫にため息をつく。義兄様と仲良くできて嬉しい気持ちは良く分かるけれど、…こんなこと言えないけど、別にヒューリアはカインの心配をしているのではなかった。
(…嫉妬、してるのよね)
自分からルイスを取っていくカインに嫉妬しているのだ。
「ヒューリア」
「あら、リーザ」
「またルイス殿下が来たわ。もう、最近カインが私に構ってくれなくなったの」
「奇遇ね、私もよ」
そうして二人でため息をつく。
きっと、考えていることは同じだろう。
数ヵ月も経たない内に、あの二人はこう言う。
「ヒューリアをリーザにとられた」
「リーザをヒューリアにとられた」
と。
それを考えると、今から楽しみで仕方ない。
何はともあれ、私たちは仲良くやっている。きっとこれからも、この平和な日常は続くだろう。
勘違いからあの不思議な体験をしたのだから、もう二度とすれ違ったりはしない、させない。
もう離れたくはないから。
サルマンス王国が誇る、高い塔がある。その塔に名前をつけられてはいないけれど、皆がそれの建設費を出したアルテミス侯爵の名前を取って、アルテミス塔と呼ぶ。
「お母様。この塔は、お祖父様が作ったのでしょう?」
可愛らしい姿をした少女が聞いてくる。
「えぇ、そうよ」
「この塔って不思議ね。お母様の言う通り、本当に特別な何かがあるみたい」
「そうよ、この塔は不思議な塔なの。不思議な力を持っているのよ」
「本当っ?どんな力?」
「それは…」
ヒューリア、と後ろから声がする。
「ルイス」
「アリーダ、お母様になにを聞いていたんだ?」
「お母様がね、この塔は不思議な塔だって!お母様ね、不思議な体験をしたんですって」
「…そうだなぁ。けど、アリーダは知らなくていいことだ」
「えぇ、どうして?お父様」
「それはね、お母様と僕だけが知っていればいいことだからだよ。…ね?」
にこりと笑って同調を求めたルイスに、ヒューリアが笑う。
「二人の秘密なのっ?」
「…そうね、秘密にしましょうか」
辛くて悲しくて苦しい、けれど幸せな秘密。
一人の王子と、一人の令嬢の、誰も知らない恋の話。
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