4 / 38
本編
4日目~咲良side~
しおりを挟む料理部でシフォンケーキを作った。
思ったよりも上手く出来ていて、部活がもうすぐ終わるはずの煌夜を迎えに行こうと、駆け足になった時だ。
前をよく見ていなくて、人にぶつかってしまった。
「きゃっ…!?」
「わっ…!…ごめ、……」
相手は、咲良の顔を見て黙り込んだ。
「こっちこそごめんなさ………」
咲良も同様、相手の顔を見て黙った。
茶髪にピアス、学校指定でないパーカー。校則違反をしまくりの男。
「…智樹くん」
それは、煌夜の親友“だった”男で、咲良の“元恋人”の、瀬尾 智樹だった。
「……ワリ、良く見ないで歩いてた」
「…う、うん、私こそ…」
別れた理由は、長くなる。
別れ話を告げたのも彼から。
見た目はチャラチャラしているし、校則違反しまくりで先生からも呆れられている問題児だけれど、本当は誰よりも優しい人。
いつも人のためを思う人。
咲良と智樹は別れてから、1度もマトモに会話は愚か、挨拶をすることさえもなかった。
この先もずっとそうなのだと思っていたので、いざ目の前にいると何を言えばいいのか分からない。
(…なにか、言わなきゃ…)
そう思うのに、言葉が出てこない。
「…ごめんなさい」
「……俺、咲良ちゃんに謝らないでって言ったよね。…今のは俺がぶつかったから、俺が謝るべきでしょ」
そう言った声は冷たくて、淡々としたものだった。
もう、優しく話しかけてくれる彼はいない。
そりゃそうだ。
だって、私は煌夜を選んで、智樹を傷付けたのだ。それは、きっと今でも生傷のまま残っているだろう。
「………あっ」
思わず声を上げたのは、自分の手元を見てからだ。
せっかく綺麗にラッピングしたケーキが、見事に潰れていた。
「…それ、部活で作ったの?料理部の部室からすっごい甘い匂いしてた」
「あ、うん。シフォンケーキ作って…」
「…アイツに持って行くの?」
「え?あ、…うん」
智樹が言ったアイツとは、きっと煌夜のことだろう。
「潰れたのに?」
「そ、そーだよね、どうしよ…」
「……俺にちょーだい」
「えっ?」
思わず目を丸くする。
それは全く頭になかったからだ。
「いや、その…」
「…嫌だったらいいけど」
「そ、そうじゃなくてっ!潰れたからどうぞって、すごく失礼じゃ…」
「俺が欲しいって言ってんの」
「…えと、…どう、ぞ…?」
「…ありがと」
その一瞬、智樹の表情が柔らかくなった。
(あ、……)
付き合っていた時、私が大好きだった顔。
「…なに?」
「あ、ううん」
「……じゃあ、…」
「あ、うん。ありがと、バイバイ」
「…おう」
久しぶりに話して、やっぱり思った。
智樹は煌夜と似ていて、だからこそ仲が良かったのだろう。そして、似ていたから私も惹かれた。
私のせいで壊れた2人の仲を、また戻したい。
そう思った。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
真実の愛の祝福
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。
だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。
それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。
カクヨム、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる