浮気癖夫が妻に浮気された話。

伊月 慧

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「私ね、別れてからもしばらく、広瀬くんのことが忘れられなかったんだ」

 朝食を摂りながら、皆沢がへらりと笑う。

「……まさか」

 そんな彼女に、和樹も笑い返す。
 未練があったのだとしたら、和樹の方だ。皆沢は別れて数日後には新しい彼氏が出来ていた。
 顔は別に、美人だというわけではない。ただ、側にいると落ち着く。そんな女だった。

「ほんとだよ。…ねぇ、また連絡とか取り合えないかな?」

 きっと、何もなかったならすぐに連絡先を交換しただろう。けれど事後だ。
 それに女にはもう、懲りた。

「…あー…」
「……あ、そうだ。身体、傷?結構大きかったけど、大丈夫なの?」
「え?」
「私、看護師だから分かるっていうか…結構最近の傷だよね、それ」

 そういえば、看護師をしていると言っていたような気がしなくもない。学生の頃からずっと言っていた。

(みんな、自分の夢ちゃんと叶えてるんだな…)

 学年でも有名でグレていた男が父親になっていたり、真面目に働いていたり。
 まるで自分だけが取り残されたような感覚に陥るけれど、一時は俺もそうだったのだ。自分で壊してしまっただけなのだから。

「…まぁね。色々あって」
「色々って、」

 あぁもう、嫌だ。考えたくない。

「悪いけど。あんま、聞かないでくれる?」

 初めからこうすれば良かった。人と距離を置いていれば。

「それと、もうこういうのはナシね。俺が言うのも何だけど、一夜の間違いってことで」
「広瀬くん…?」
「俺は別に、皆沢のこと覚えてなかったし。同窓会に来たのだって、恋愛求めて来たわけじゃないから」

 そう言うと、皆沢の顔がカッと赤くなる。別に恋愛を求めたり結婚相手を探しに来るのを悪いとは言わない。けれど俺にそれを求められても困る。
 俺はきっと、二度と結婚は出来ない。香織以上に愛せる女性など見つかりはしない。

「…ごめんな」

 静まり返ってしまう。雰囲気が辛い。もう冷めてしまったスープを飲み干し、身支度を整える。

「俺、帰るわ」
「あ……の、待って!」
「え?」

 まだ何かあるのだろうか、と思う。

「せめて、連絡先教えて!別に、普通に!!友達として付き合いたいって思っただけ!」

 そうでないことは和樹にも分かった。
 けれど了承したのは、皆沢があまりにも必死だからだった。

         
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