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しおりを挟む橘美香という女と結子は、初めこそはいい関係だった。それこそ職場で一番仲が良く、その頃は結子も周りと上手くいっていた。
妬まれるようになったのはやはり、あのセクハラが始まってからだった。
後から聞いた話だと、橘は結子にセクハラしていた医者の本城がずっと好きだったらしい。あの病院に勤めたのも、本城がいたからということだった。
結子はそれを知らずに、本城が最近ベタベタしてくることや、食事に誘われることなどを、橘に相談してしまったのだ。
結局は痴情の縺れのような感じだった。
翌日、結子は時間を作り、警察署まで来ていた。
何故結子に連絡が来たのか。それは翔大が現行犯逮捕だったにも関わらず何も話さない、かといって通り魔といった感じでもない。事前から計画的に犯行に及んだというのに、彼が何も話さないという。そこで押収された彼の電話の発信履歴を見て、結子の携帯に電話がかかってきたのだ。
もちろん普通に発信履歴がついているだけならば何も連絡は来なかったのだろう。けれど翔大の携帯の発信履歴には、結子への番号が何十回と掛けられたことを示し、結子が事件に何か関与しているのでは、と疑われたらしい。
「確かに三日前、彼が私に会いに来ましたけれど」
「えっ、と。貴女との関係は…」
まさか収穫があると思ってもいなかったのか、刑事の男はメモ帳を取り出した。
「元恋人です」
「因みに被害者の橘さんとの関係は」
「…昔の職場の、先輩でした」
「…何故橘さんと早川が知り合いかご存知で?」
「話せば長くなりますけど」
「お願いします」
仕方がない。橘さんが今どうしているのかは知らないけれど、私が加害者の一人に入れられても大変困る。
まずは橘と私が普通に仲が良かったこと、それからセクハラのこと、橘と周りの態度が一変したこと、その頃に橘が翔大に接触し、私がさも浮気しているような言葉を告げたこと、翔大に着信拒否され、私が振られる側で(←ココ重要)、自然消滅したということ。
「私が知っていたのは、それだけです。その後に彼が橘さんと連絡を取っているのかどうかは分かりませんし」
「その、三日前に会ったとは?」
「…私には今、婚約者がいるんです。あの日は婚約者の実家に挨拶に行く予定で、朝から準備していたんですけど。別れてから彼とデパートだったりで会うことは偶にあって、けれどその時に私はもうちゃんと付き合っている人がいるということも言ったんですけど。三日前、朝ベランダへ出たら、マンションの下に挙動不審な彼がいて」
「彼というのは、早川ですね?」
「えぇ。けれど私は家を教えていないし、そもそも婚約者と同棲しているので、気にしないようにしたんです。それで裏から出たんですけれど。夜に帰ってきて、マンションの正面から入ろうとしたら…」
「…まさか」
「そのまさかです。ずっと立ってたみたいで、しかも向こうから連絡を絶ったくせに、結婚しようとか、ストーカーしてやるとか。あ、これ…一応」
SDカードを渡すと、不可解な顔をしている。
「その時の音声、途中からですけど録音してたんです」
「あ!そうなんですか!これ、お預かりしても?」
「はい。…まぁ、多分」
逆恨みじゃないですか?私と別れたのは橘さんのせいだっていう。彼女より見知らぬ女を信じたのは自分のくせに。
その結子の言葉は、とても冷めていて。多分、振られたことがショックだったんじゃない。誰よりも側にいた彼氏が自分を信じてくれなかったことに対して、とにかく辛かったのだ。
もうどうでもいいことだけれど。
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