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登場人物紹介
吹雪の国
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白銀の世界に一つ紛れ込んだ異物。
漆黒の髪を風になびかせて、ルビウスは先頭を歩いた。
アカネリとリリアが黙ってウッドラウルの後を付いていけば、自ずと道を決めるのはルビウスの役割となる。
王子を先導して歩くのか、はたまた王子の盾となっているか。
街道ではなく何故森を歩くのか、その全てがアカネリには読めなかった。
ただ1つ言えるとしたら、これは護衛として間違った判断だと言うことだった。
「あの、ルビウスさん!街道に戻りましょう!」
リリアが耐えきれず声をかける。
しかしルビウスは振り返りもせず、返事すらしない。
森の奥深くに向かって、獣道を進んでいく。
土地勘のあるスノーファリアの人間であったら、膝ほど雪の積もった日に森に立ち入ったりはしない。
どこに谷や崖があって、落ちるかわからないからだ。
冬眠中の魔物が目を覚まして襲ってくる可能性もある。
隣国は雪など降らない暖かな気候だ。
おそらく、この人はその恐ろしさを知らないのだろう。
殿下が国内の町の様子を見に行くだけに、馬を使わないのも、馬車を使わないのも、殿下が全て自身の感覚で触れたいと申し出たからだ。
隣町に行くには確かにこの森を抜けるのが近道だろうが、リスクが高すぎる。
それも計算だとしたら?
アカネリの脳裏に1つの疑問が浮かんだ。
そもそも何故国内旅行に隣国の偉い軍人が着いてくるのだろう?
公務の一環といっても建前上は物見遊山だ。
国内の殿下親衛隊が着いてくるならばまだしも、何故隣国の軍人なのだろう?
そして、ブルリと背筋が震える
隣国とスノーファリアはほんの6年前まで戦争状態だった。
お互いの国境上に位置する町が戦場となり、そこをどちらの領地とするかと10年もの間小競り合いが続いていた。
結局疲弊した両国が和平を結び、互いに国境の町とする事に合意して和平条約が締結されたのだ。
多くの犠牲の上に、長い長い戦争の後に、呆気なく終わりを迎えた勝利でも敗北でもない戦果だった。
だからこそ、犠牲者の家族は納得出来ないものも多い。
もしも
アカネリは思い当たった考えに手を震わせた
まさか
今この場で、殿下とリリアが不意を突かれた時、自分だけで守れるだろうか?
ルビウスが振り返った
ゆっくりとした動作ではないのに、不覚にも全ての動きがとても美しいと、そう思った。
「やっと」
間違いなく、ルビウスの口はそう紡いだ
「ああああ!!!!!」
背後で大きな叫び声がしたのは同時だった。
振り返った時に見えたのは、白銀の世界に不似合いな、赤い果実を絞った様な染みが雪の上にじわりじわりと広がる光景
生ぬるい温度が風で伝わってくる。
鉄の不快な臭いが、森の清廉な空気を汚していく。
アカネリの【咄嗟】は数秒遅く、剣を抜いた時には、もう全てが終わっていた。
「こ、れは…」
喉に何かが引っ掛かった様に、ウッドラウルの声はひきつり
何時もの聡明な凛とした声もなく
アカネリとリリアは絶句した
「うーん、これは面白くない」
ルビウスはまるでトランプゲームでもしているかのような気軽さで、誰にこたえるわけでもなく
本当に自分の読みが良すぎて困ると言いたげに頭を振った。
そこに転がる人を嬉しそうに見下ろし、ルビウスはその頭を掴んだ。
「ぐあ、あ」
「ご存じでしたか?この辺りは近くにあるセルーンの町の猟師がよく狩場に使っていましてね、そこらじゅうに大型の対魔物用の罠が仕掛けられているんですよ」
他の人間の狩場は、町の人間位しか知る事は出来ない。他の町、流れの傭兵、そんな人間に貴重な資源がある場所を教えたりしないからだ。
それを、ルビウスは知っていた。
「なん、で?」
リリアが思わず口から漏らした。ルビウスは振り返りもせずに答えた。
「特務師団長ですから」
そういうと、【殿下の周囲を】どこからか現れた人間が一斉に囲う。
真っ白な軍服、隣国の王家の紋章と特務師団特殊軍章。
特務師団。
罠にかかった男から、そして何処からの敵襲にも対処出来るように、ルビウスは頭を低くしておくようにとウッドラウルに耳打ちする。
全てが計画の上だったのかと取り押さえられながら怒号を発する男に、ウッドラウルは何と返答したものかと思案したが、今否定したところで彼を納得させられる言葉を彼は持ち合わせていなかった。
すかさずアカネリが返答しようとしたが、ルビウスはそこに立ちはだかり、手で彼女を制した。
「おっと、誤解なきように申し上げておきますが、これはスノーファリア王家の命令ではありませんよ?あくまで和平の一環として、殿下の私情に同行させて頂いたところ、たまたま偶然不審者が敵意ある行動をしていたので【和平の為に】取り押さえた。それだけですから」
そんな偶然があるものかと声が上がるが、ルビウスはまるで聞こえないふりをして部下に指示を出す。
「さぁて、この殿下の後をつけ回した不届き千万な男達が何故抜き身の武器を構えていたのか事情を伺っておいてください。」
ルビウスがそう指示すると、アカネリは他の場所で罠にかかっている人間が居ることにやっと気付いた。
そして
「大丈夫ですか、殿下?」
そういって、ルビウスはウッドラウル殿下の傍に立って怪我の確認をする。
そしてわたしは、またこの人に勝てなかったのだ。
漆黒の髪を風になびかせて、ルビウスは先頭を歩いた。
アカネリとリリアが黙ってウッドラウルの後を付いていけば、自ずと道を決めるのはルビウスの役割となる。
王子を先導して歩くのか、はたまた王子の盾となっているか。
街道ではなく何故森を歩くのか、その全てがアカネリには読めなかった。
ただ1つ言えるとしたら、これは護衛として間違った判断だと言うことだった。
「あの、ルビウスさん!街道に戻りましょう!」
リリアが耐えきれず声をかける。
しかしルビウスは振り返りもせず、返事すらしない。
森の奥深くに向かって、獣道を進んでいく。
土地勘のあるスノーファリアの人間であったら、膝ほど雪の積もった日に森に立ち入ったりはしない。
どこに谷や崖があって、落ちるかわからないからだ。
冬眠中の魔物が目を覚まして襲ってくる可能性もある。
隣国は雪など降らない暖かな気候だ。
おそらく、この人はその恐ろしさを知らないのだろう。
殿下が国内の町の様子を見に行くだけに、馬を使わないのも、馬車を使わないのも、殿下が全て自身の感覚で触れたいと申し出たからだ。
隣町に行くには確かにこの森を抜けるのが近道だろうが、リスクが高すぎる。
それも計算だとしたら?
アカネリの脳裏に1つの疑問が浮かんだ。
そもそも何故国内旅行に隣国の偉い軍人が着いてくるのだろう?
公務の一環といっても建前上は物見遊山だ。
国内の殿下親衛隊が着いてくるならばまだしも、何故隣国の軍人なのだろう?
そして、ブルリと背筋が震える
隣国とスノーファリアはほんの6年前まで戦争状態だった。
お互いの国境上に位置する町が戦場となり、そこをどちらの領地とするかと10年もの間小競り合いが続いていた。
結局疲弊した両国が和平を結び、互いに国境の町とする事に合意して和平条約が締結されたのだ。
多くの犠牲の上に、長い長い戦争の後に、呆気なく終わりを迎えた勝利でも敗北でもない戦果だった。
だからこそ、犠牲者の家族は納得出来ないものも多い。
もしも
アカネリは思い当たった考えに手を震わせた
まさか
今この場で、殿下とリリアが不意を突かれた時、自分だけで守れるだろうか?
ルビウスが振り返った
ゆっくりとした動作ではないのに、不覚にも全ての動きがとても美しいと、そう思った。
「やっと」
間違いなく、ルビウスの口はそう紡いだ
「ああああ!!!!!」
背後で大きな叫び声がしたのは同時だった。
振り返った時に見えたのは、白銀の世界に不似合いな、赤い果実を絞った様な染みが雪の上にじわりじわりと広がる光景
生ぬるい温度が風で伝わってくる。
鉄の不快な臭いが、森の清廉な空気を汚していく。
アカネリの【咄嗟】は数秒遅く、剣を抜いた時には、もう全てが終わっていた。
「こ、れは…」
喉に何かが引っ掛かった様に、ウッドラウルの声はひきつり
何時もの聡明な凛とした声もなく
アカネリとリリアは絶句した
「うーん、これは面白くない」
ルビウスはまるでトランプゲームでもしているかのような気軽さで、誰にこたえるわけでもなく
本当に自分の読みが良すぎて困ると言いたげに頭を振った。
そこに転がる人を嬉しそうに見下ろし、ルビウスはその頭を掴んだ。
「ぐあ、あ」
「ご存じでしたか?この辺りは近くにあるセルーンの町の猟師がよく狩場に使っていましてね、そこらじゅうに大型の対魔物用の罠が仕掛けられているんですよ」
他の人間の狩場は、町の人間位しか知る事は出来ない。他の町、流れの傭兵、そんな人間に貴重な資源がある場所を教えたりしないからだ。
それを、ルビウスは知っていた。
「なん、で?」
リリアが思わず口から漏らした。ルビウスは振り返りもせずに答えた。
「特務師団長ですから」
そういうと、【殿下の周囲を】どこからか現れた人間が一斉に囲う。
真っ白な軍服、隣国の王家の紋章と特務師団特殊軍章。
特務師団。
罠にかかった男から、そして何処からの敵襲にも対処出来るように、ルビウスは頭を低くしておくようにとウッドラウルに耳打ちする。
全てが計画の上だったのかと取り押さえられながら怒号を発する男に、ウッドラウルは何と返答したものかと思案したが、今否定したところで彼を納得させられる言葉を彼は持ち合わせていなかった。
すかさずアカネリが返答しようとしたが、ルビウスはそこに立ちはだかり、手で彼女を制した。
「おっと、誤解なきように申し上げておきますが、これはスノーファリア王家の命令ではありませんよ?あくまで和平の一環として、殿下の私情に同行させて頂いたところ、たまたま偶然不審者が敵意ある行動をしていたので【和平の為に】取り押さえた。それだけですから」
そんな偶然があるものかと声が上がるが、ルビウスはまるで聞こえないふりをして部下に指示を出す。
「さぁて、この殿下の後をつけ回した不届き千万な男達が何故抜き身の武器を構えていたのか事情を伺っておいてください。」
ルビウスがそう指示すると、アカネリは他の場所で罠にかかっている人間が居ることにやっと気付いた。
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「大丈夫ですか、殿下?」
そういって、ルビウスはウッドラウル殿下の傍に立って怪我の確認をする。
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