never coming morning

高山小石

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Let There Be Light 2

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 彼とエリタは制御室で指示を出すプトリ氏に会った。
「なるほど。いい考えかもしれませんな。ギザンガの引力から脱出し普通航行で交信に適した場所へ行くことができれば、助けがくるまで全員でもなんとかもつでしょう」
「メインエンジンが回復する可能性は?」
「……調査してわかったのは、エネルギィを増幅する際に振動させる物質がなくなっていたということです。おそらく磨り減ったのでしょう。作り出せればどうにかできるのですが」
「ここでは作れないんだな?」
「はい」
 地球外科学には地球にない物質を使ったものが多い。宇宙船に地球外科学を使ったまでは良かったが、最新技術過ぎて、摩耗して消滅することまでは思い至らなかったのだろう。
「回復の可能性はゼロ、か」
 ため息をもらす三人。
「増幅できないならメインエンジンはサブエンジンと変わりません。サブエンジンの力を合わせてなんとか勢いをつけられないかと考えているのですが」
 いくつあってもサブだけでは力不足だろう。暗に察した二人にプトリ氏は無理に明るい声で言った。
「あ、あと、ギザンガに降りる案も出ています」
「それは案にもならない」
 即座に否定した彼にエリタも続く。
「そうだよ。僕はずっとギザンガを観察してきたけど、あの雲のように見えるのは地球人には猛毒だよ? それを抜けたとしても、地表には食料はおろか空気もない。なんでそれで降りる案なんて出るわけ?」
「いや、見逃しているだけで、もしかするとなにかあるんじゃないかと」
「ないよ。なんだったらデータを見てもらってもいい。まったく。誰も真面目にギザンガの観察してないだろ? やだやだ。それで開発が進んでるかっていったら僕より遅いんだから」
 愚痴になったところを、エリタ、と彼が制す。
「ま、まぁ、とにかく倉庫を爆破して、普通航行ができるかどうか試してみましょう!」
 1時間後には細かい打ち合わせも終わった。皆に通達して居住区へ避難してもらう。
 作業員は中の兵器を並べ替える班とドラム缶の接続部を緩める班に別れた。
 倉庫がギザンガに向くように宇宙船をひっくり返しているので、今は上にギザンガがある。
 こんなことじゃなければ最高の眺めなのに、と彼は落ちそうで落ちない宇宙空間に立ち、頭上にあるギザンガと小さな地球を見ていた。
 と、電波になって少し変質した声が宇宙服に響く。
「先輩、ここもっすよ」
 示された場所のねじを緩める。彼はエリタと宇宙服を着て外の作業にあたっていた。
「けっこー強力な爆発が起きますけど、この宇宙船は大丈夫なんすか?」
「わからない。計算上では大丈夫のはずだが」
「ぶっつけ本番っすね! あぁ、わくわくするなぁ」
 宇宙服の中でオレンジの髪を揺らすエリタに、彼は作業の手を止めた。
「こんな時に不謹慎だぞ」
「だからこそっすよ! 自分で作った兵器の威力を自分で確かめるなんて、普通できないでしょ」
 違いない、と彼は苦笑する。
「それに意外なことも聞けたし」
「なんだ?」
「親代わりの博士のことですよ。今まで話してくれなかったじゃないっすか」
「あぁもう死んだからな。ここに来る直前だった。それにおまえの期待を裏切るようで言えなかった」
 エリタが、このプロジェクトの最初の登録者である彼のことを打倒宇宙人の第一人者だと信じているからこそ、彼を慕っていることを、彼はよくわかっていた。
「あぁ。そりゃ最初はそうでしたけど、先輩のことは普通に尊敬してますよ」
「そりゃ良かった」
 倉庫をギザンガへ向けることで爆発の威力が少し弱まる。
 ギザンガの引力と爆発がいいバランスをとれれば成功する。
 乗組員が避難を終え、カウントダウンが始まった。
「……、3、2、1、点火!」
 大きな衝撃が船を襲った。
 スクリーン、照明、すべての電源が落ちた。
 誰もいない広間だけは窓から入る星明りとでほんのり明るい。
 爆発を繰り返すドラム缶がゆっくりと離れていくのが窓から見える。
 宇宙船もまだ揺れていたが、動き出した。
 その周囲には本来の目的から離れた破片が、決してやわらかいはずのない鋭片が、まるで羽のようにゆっくりと宙を流れていく。
 細かい揺れが続く中、電源が戻った。

 緊急警報、緊急警報。非常事態が発生。自家発電のチューブが一部破損。係員はすぐに修復してください。
 緊急警報、緊急警報。非常事態が発生。自家発電のチューブが一部破損。係員はすぐに修復してください。
 緊急警報、緊急警報。非常事態が発生。自家発電エリアを封鎖します。係員はすぐに撤去してください。

「なんてことだ!」
 大きなモニターをにらんでいたプトリ氏の指示でようやくサイレンが止んだ。
 プトリ氏は彼とエリタを制御室に呼んだ。
「チューブは修復しなくてもいいのですか?」
「エリアが封鎖されてしまっては、手も足もだせん」
 プトリ氏は額に手を当てた。
「よりにもよって自家発電システムが壊れるなんて……」
「でも、宇宙船は動き出したじゃないか。救助がきたら修理してもらえるって」
 ちょっとは嬉しそうな顔をしろよ、と睨むエリタに、プトリ氏は苦い顔を向ける。
「それまで待てないのだよ。自家発電システムは空気を作っている独立した機関だ。それが壊れたらどうなるか、わかるだろう?」
「自家発電システムは代用できないのですか?」
「無理だね」
「そんな簡単に」
「私だって言いたくない!」
 パネルを叩きながらプトリ氏は叫んだ。
「なぜ! なぜこんなことに! こんなことになるくらいなら」
「誰かを犠牲にしたほうが良かったってのか? 仲間だろ!」
「だけど死にたくない! こんな所で死にたくないんだ!」
「それはみんな同じ気持ちだ。最後まであきらめずに他の方法を考えてみよう」
 顔を上げないままプトリ氏は言った。
「あと、2時間しかありません。もう、無理でしょう」

 広間に戻ると、船が動き出したことで、地球へ帰れるんだと信じて喜ぶ人々でいっぱいだった。
(まだ一部の者しか現状を知らないようだな。早く次の手を考えないと)
 彼とエリタの表情が硬くなる。
「良かったよかった」
「一時はどうなることかと思いましたよ」
「なにをしてるんだ!」
 和やかな雰囲気が漂う中、鋭い声があがった。
 皆の視線の先には、ここでは少ない女の博士がいた。
 あれはファッションなんすかね、とエリタが彼に囁く。女性博士の額にはカラフルな飾り紐が巻かれていた。
「見ればわかるでしょう? 食事の時間がきたのでごはんをあげているのです」
 女性博士の手元には、犬によく似た宇宙生物ピリカがいた。ピリカのヒーリング効果は絶大で、長い宇宙の旅には欠かせない存在だ。
「それはわかっている。わからないのは、なぜそんな下等生物に貴重な食料をあげているのか、ということだ」
「我らにとってもぎりぎりの食料であるのに、だ」
 真剣に言う博士たちを女性博士はくすりと笑った。
「まぁ。たった今計画は成功したじゃありませんか。それともあなた方は下等生物の食料がお好きなの? それならどうぞ」
 餌袋を差し出す彼女。
「くっ」
 博士達はまだなにか言いたそうだったが、周囲からの『こんなめでたいときに』という視線を受けて引き下がった。女性博士は少しもためらわずにピリカに餌袋を破っていく。
(なんで兵器を作っているんだろう?)
 彼は初めて疑問を持った。
(誰だって死にたくない。それは地球人だけじゃなくてピリカだってそうだ。そしてきっと、宇宙人もそうなんだろう。宇宙人のやり方が気に入らないにしても、もっと他の方法があるんじゃないか?)
「……帰りたい」
 彼はつぶやいていた。それは今まで思ったこともない気持ちだった。
「宇宙船を探せばいいわ。非常用の宇宙船よ。知らない?」
 手にまとわりつく餌袋を外しながら女性博士が言った。
 残念ながら彼は知らない。そんな話、聞いたこともない。
「あ、知ってるっす!」
 エリタが嬉しそうに話し出した。
「この研究所のどこかにあるって言われてる、最新の船っすよね? 来たばっかりのとき探しましたよ」
「へぇ。見つかったのか?」
「いいえ。でも、あると思います。絶対!」
 瞳を輝かすエリタの様子に彼も大きくうなずくと、女性博士はにっこりとほほえんだ。
「宇宙船はあるわ」
 まるで実際に船を見たような言い方だった。
「誰にも気づかれずに、ひっそりと、今も誰かを待っているのでしょう。ただ」
「ただ?」
 彼とエリタは吸い込まれるように女性博士を見つめた。
「1人用なのです。スリープ装置が1つしかついていません」
「それでは意味がない」
 彼はあっさりとあきらめた。
 確かに帰りたい。でも皆が帰りたいと言うときに抜け駆けする気にはならなかった。
 彼はすでに違う方法を考え始めていた。
「探しましょうよ、船! もし見つかったら1人でも地球に帰れる! そうすれば、僕らのことを話してくれる! このままここでみんな死んでしまうより全然マシっすよ!」
 彼とエリタは視線を交わす。
「じゃあ」
「競争っすよ!」
 彼とエリタはそれぞれ思うところを探しに行った。
 動かなかった女性博士は2人を見送ると、窓にもたれて外をながめた。地球が見えるのは反対側なのだが、女性博士はかまわず見つめ続けていた。
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