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第三章. 最強娘を再教育
044. パパは空気です
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「純花! 聞いてますの!?」
耳元でカン高い声が響く。それを意図的に無視し、純花は調査を続ける。
どれも関係ない記述ばかりだ。軍事目的の研究内容ばかりで、純花が欲する帰還の”き”の字も無い。イライラしながら紙を机に戻す。
(ここには無い。次)
憮然としつつ部屋の出口へ向かう。相変わらず片耳から説教の声がするも、純花は反応を返さないでいた。色々と言われているが、要は「やりすぎ」という内容の繰り返しだった。
そうは思わない。純花からすれば首を折らなかっただけマシだと思っている。とはいえ口に出せば反論が返ってくるだろう。故に相手にするのも面倒。無視一択。
ふと、目の前が明るくなる。いきなりの眩しさにまぶたを閉じ、再び開けると、天井の明かりが灯っていた。天井や壁、床の一部には緑色の淡い光の線が走っており、特徴の無い施設が一気にSF的になった。
「電源が入った? 誰かがつけたのでしょうか?」
レヴィアは警戒した様子を見せる。どうやら辺りに電気が来たらしい。いや、電気ではないかもしれないが、とにかくエネルギー源から動力が供給されたのだ。
原因は不明だが、今の純花にとっては朗報である。物が探しやすくなるし、書類もよく見えるようになる。純花は歩みを進め、次の部屋へと移動した。
机や棚をひっくり返し、資料をあさる。やはり見つからないが、無ければ次に行くだけだ。
「純花。一度戻りますわよ。ネイも気になりますが、流石に戻ってくるでしょう。もし戻らなければ他のメンバーと合流してから……」
どうでもいい。それよりも調査だ。ネイや他のヤツの事など気にしてられない。死のうが何だろうが知った事ではない。そんな事よりも早く――
――パァン!
頬に痛みが走る。何だろうと正面を見ると、赤い頭巾――リズが目を吊り上げていた。
「スミカ。いい加減甘えてんじゃないわよ」
……甘える?
この子は何を言ってるのだろう。甘えてなどいない。自分だけを頼り、他人は利用するだけ。甘えてなど――
「分かってないようね。甘えるなってのは、自分の感情に甘えるなって事。よく考えなさい。アンタが少しでも早く帰る為にはどうすればいい? 自分一人で頑張る? そうじゃないでしょ」
…………。
それは、そうだ。
人手が多ければ多いほど調査は進む。遺物だって見つかりやすい。そう思ったからこそレヴィアの同行の申し出を受けた。
「勝手に召喚されて、お母さんと離れ離れになっちゃって。辛いのは分かる。余裕がないのも分かる。けど、他人からしたら文字通り他人事なの。悲しくても辛くても知ったこっちゃないの。……だから、上手くやりなさい。完全に合わせる必要はないけど、相手を思いやるような行動が無いと人はついてこないんだから。みんないなくなっちゃえばその分帰るのが遠くなる。でしょ?」
…………。
確かに、そうかもしれない。
他人をアテにせず、自分だけで頑張る。日本ではそれでうまくいっていた。故に人にどう思われようが問題なかった。
しかしここでは他者を頼る必要がある。なのに自分の行動は変わらず、以前と同じように動いた。己の感情が第一で、人の事など気にもしなかった。その結果がこれだ。二週間も経たないうちに一人と決裂してしまった。
もちろん言い分はある。が、いきなり拒絶する必要はなかった。冷静に話し合えばよかったのだ。
つまり今までの自分では上手く行かない。やり方を……自分を変える必要がある。
正直、抵抗しかない。他者への気遣いなど殆どしてこなかったのだ。今回のようにこじれてしまう前に対処できるだろうか?
純花の不安。それを感じ取ったのか、リズの表情が優しいものなる。
「大丈夫。上手くいかなくても私とレヴィアがフォローしてあげるから。ああ見えてレヴィアは頼りになるのよ? いつもは困ったヤツだけど、何だかんだで決めるところは決めるんだから。ね?」
「……うん」
思わず返事をしてしまった。母の事を思い出したからだろうか?
リズとは髪色が同じくらいで、見た目も性格も似てない。説教の仕方もぜんぜん違う。が、本気で怒った時はこんな感じだった。怒られてる途中はへこむが、最後は優しく導こうとしてくれる辺りがそっくりだ。
「ほら、行くわよ。とりあえず皆と合流しないと」
「……分かった。そうする」
リズに手を引かれ、抵抗する事なく従う純花。空気と化していたレヴィアが「リズさんすげぇ……」と小さく拍手している。
「何してるの。レヴィア、アンタも」
「お、おう。分かった」
耳元でカン高い声が響く。それを意図的に無視し、純花は調査を続ける。
どれも関係ない記述ばかりだ。軍事目的の研究内容ばかりで、純花が欲する帰還の”き”の字も無い。イライラしながら紙を机に戻す。
(ここには無い。次)
憮然としつつ部屋の出口へ向かう。相変わらず片耳から説教の声がするも、純花は反応を返さないでいた。色々と言われているが、要は「やりすぎ」という内容の繰り返しだった。
そうは思わない。純花からすれば首を折らなかっただけマシだと思っている。とはいえ口に出せば反論が返ってくるだろう。故に相手にするのも面倒。無視一択。
ふと、目の前が明るくなる。いきなりの眩しさにまぶたを閉じ、再び開けると、天井の明かりが灯っていた。天井や壁、床の一部には緑色の淡い光の線が走っており、特徴の無い施設が一気にSF的になった。
「電源が入った? 誰かがつけたのでしょうか?」
レヴィアは警戒した様子を見せる。どうやら辺りに電気が来たらしい。いや、電気ではないかもしれないが、とにかくエネルギー源から動力が供給されたのだ。
原因は不明だが、今の純花にとっては朗報である。物が探しやすくなるし、書類もよく見えるようになる。純花は歩みを進め、次の部屋へと移動した。
机や棚をひっくり返し、資料をあさる。やはり見つからないが、無ければ次に行くだけだ。
「純花。一度戻りますわよ。ネイも気になりますが、流石に戻ってくるでしょう。もし戻らなければ他のメンバーと合流してから……」
どうでもいい。それよりも調査だ。ネイや他のヤツの事など気にしてられない。死のうが何だろうが知った事ではない。そんな事よりも早く――
――パァン!
頬に痛みが走る。何だろうと正面を見ると、赤い頭巾――リズが目を吊り上げていた。
「スミカ。いい加減甘えてんじゃないわよ」
……甘える?
この子は何を言ってるのだろう。甘えてなどいない。自分だけを頼り、他人は利用するだけ。甘えてなど――
「分かってないようね。甘えるなってのは、自分の感情に甘えるなって事。よく考えなさい。アンタが少しでも早く帰る為にはどうすればいい? 自分一人で頑張る? そうじゃないでしょ」
…………。
それは、そうだ。
人手が多ければ多いほど調査は進む。遺物だって見つかりやすい。そう思ったからこそレヴィアの同行の申し出を受けた。
「勝手に召喚されて、お母さんと離れ離れになっちゃって。辛いのは分かる。余裕がないのも分かる。けど、他人からしたら文字通り他人事なの。悲しくても辛くても知ったこっちゃないの。……だから、上手くやりなさい。完全に合わせる必要はないけど、相手を思いやるような行動が無いと人はついてこないんだから。みんないなくなっちゃえばその分帰るのが遠くなる。でしょ?」
…………。
確かに、そうかもしれない。
他人をアテにせず、自分だけで頑張る。日本ではそれでうまくいっていた。故に人にどう思われようが問題なかった。
しかしここでは他者を頼る必要がある。なのに自分の行動は変わらず、以前と同じように動いた。己の感情が第一で、人の事など気にもしなかった。その結果がこれだ。二週間も経たないうちに一人と決裂してしまった。
もちろん言い分はある。が、いきなり拒絶する必要はなかった。冷静に話し合えばよかったのだ。
つまり今までの自分では上手く行かない。やり方を……自分を変える必要がある。
正直、抵抗しかない。他者への気遣いなど殆どしてこなかったのだ。今回のようにこじれてしまう前に対処できるだろうか?
純花の不安。それを感じ取ったのか、リズの表情が優しいものなる。
「大丈夫。上手くいかなくても私とレヴィアがフォローしてあげるから。ああ見えてレヴィアは頼りになるのよ? いつもは困ったヤツだけど、何だかんだで決めるところは決めるんだから。ね?」
「……うん」
思わず返事をしてしまった。母の事を思い出したからだろうか?
リズとは髪色が同じくらいで、見た目も性格も似てない。説教の仕方もぜんぜん違う。が、本気で怒った時はこんな感じだった。怒られてる途中はへこむが、最後は優しく導こうとしてくれる辺りがそっくりだ。
「ほら、行くわよ。とりあえず皆と合流しないと」
「……分かった。そうする」
リズに手を引かれ、抵抗する事なく従う純花。空気と化していたレヴィアが「リズさんすげぇ……」と小さく拍手している。
「何してるの。レヴィア、アンタも」
「お、おう。分かった」
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