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第五章. 悪嬢 vs 悪役令嬢!? 真なるヒロインはどっちだ!
079. ファインプレー、からの后たちの会話
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(よっしゃ! 切り抜けた!)
修羅場チックな場所から逃げ出したレヴィア。彼女は心の中でガッツポーズを決めた。
危ないところであった。今までの努力が台無しになるところだった。
(流石俺! マジでファインプレーだった! よかったー)
あのまま正体をバラされればロムルスは不信感を抱いたかもしれない。もしくは後で告げ口をされる可能性もあった。しかしルシアを悪役に仕立て上げたことにより、彼女の言葉を素直に信じたりはしないだろう。加えて最後に身を引く事で健気な女をアピール。ロムルスはさらにこちらへと心惹かれるに違いない。
ピンチをチャンスに変え、さらには一石二鳥の結果。素晴らしい結果であった。代わりにロムルスとルシアの間に亀裂ができたかもしれないが、知ったことではない。
心の中で自画自賛しながらも階段を下りたレヴィア。そこにはレナ、ステラ、イレーヌの手下三人組がいた。
「き、今日ほど姉御を恐ろしいと思ったことはないっす……」
「思わず同情してしまったわ……。ルシアという方に」
「レヴィア様すごい……」
どうやら一連の出来事を見ていたらしい。口々にレヴィアの所業を讃えてくる。その言葉に気分を良くしたレヴィアは「そうだろそうだろ」と頷く。
「ま、俺にかかればこんなモンだ。王族だろうが世界最強だろうがひとひねりよ」
「や、マジで姉御に従っといてよかったっす。分け前期待してますね」
「妃となられた暁にはぜひ夫の店をひいきに……」
「わ、私は何してもらおうかな……」
三人ともレヴィアが妃になれると確信したのだろう。協力の対価をそれぞれが主張してくる。その現金さを見たレヴィアはさらに気を良くし、「フフフ。まあ任せておけ」とドヤ顔。こういう即物的な人間は嫌いじゃないのだ。
さて、いつまでもここでグダグダしているのはマズい。いつロムルスが追いかけてくるかも分からないからだ。今回の出来事は予定外ではあったが、これはこれで演出的には悪くない。少々前倒しになるが、ロムルスを不安がらせる“溜め”を入れた方がいいだろう。
そう考えつつレヴィアたち四人はステラ&イレーヌの部屋へと戻り、再びこれからの計画を話し合うのであった。
* * *
その日の夕刻。
ルシアは自らの居住地、『翼の宮』へと帰り着く。
翼という名の通り、翼を模した意匠があるこの場所。鳥やペガサス、グリフォンなど翼を持つ生物の彫刻や彫像がところどころに飾られている。
特に多いものは鷲の意匠であった。鷲とはヴィペール王族の紋章であり、王国の権威を示すもの。つまり翼の宮は英雄殿の中でも特別であり、重要な人物が住まう場所なのだ。
「ルシア様」
「ルシア様、如何でした? 千妃となられる方は……」
ルシアが帰ってくると、他の妃たちが集まってくる。皆が皆、心配そうな顔であった。
彼女らに対し、ルシアはふるふると首を振る。
「残念ながら、妃としてふさわしい人物ではありませんでした。実力の程は分かりませんが、性格が……。あれは毒婦の類です」
「そんな……!」
「何という事でしょう……!」
嘆く后たち。
ここにいるのは全員が貴族の出。それも、国を支えるという意識が非常に強い者たちだった。
過去、貴族が増長し、思うままに権力を振る舞っていた時代。成長したロムルスはその力を持って多くの貴族を物理的に取り潰した。しかし全部を取り潰した訳ではない。国を思う故にロムルスの味方となった貴族も多く、そういった者たちは今も王族を支えてくれている。ここにいるのは彼らの子女という訳だ。
「まあ毒婦というには少々間抜けな気もしましたが……好ましくない事に変わりはありません。今でさえロムルス様がああなのです。結婚すればどうなるかは目に見えています」
「ええ。何としても阻止しなくては……」
そして国を想う故に千人目の后というのは重大な関心事だった。
――次期後継者の母。
国中に影響を及ぼす事は間違いない。貴族でなくとも、他の九百九十九人とは別格の扱いをされるはず。
故に彼女らは千人目の后――千妃となる者に多大な関心を寄せている。ロムルスの女好きはもう諦めているものの、せめてその相手はマトモな相手を選んでほしい。本音を言えば自らの子を後継者にしたくはあるが、それが叶わないのなら……という訳だ。
后のうちの一人が決意したように言う。
「ロムルス様に直訴しましょう。レヴィアという者を后にしないようにと。千人以上集めているのです。他に適格な者はいるはずです」
「いえ、今のロムルス様が話を聞いて下さるかどうか。恋は盲目といいますが、この間お話した時は完全にその状態でした」
「最悪、“いなくなってもらう”という手もありますが……」
「それは最後の手段としましょう。后候補が“いなくなる”など、ロムルス様の名誉に傷がついてしまいます。とはいえ、国が乱れるよりはマシでしょうが」
あーだこーだと話し合う后たち。しかしイマイチいい方法が見えてこない。政治に関しては他者の意見を多分に取り入れるロムルスであるが、女の事となれば他者の言葉など耳から耳だからだ。
「ルシア様。ルシア様ではどうにかなりませんか? ロムルス様の幼馴染である貴女なら……」
すがるような目を向ける后たち。しかしルシアは再び首を横に振る。
「残念ながら、レヴィアという女に一杯食わされました。もうわたくしの言葉は届かないでしょう。少なくとも千妃に関しては」
あの後、ロムルスを説得しようとした彼女だが、彼は一切耳を貸さなかった。
優しく、美しく、健気な女。それがロムルスから見たレヴィアであり、ルシアは彼女との仲を邪魔する者。彼女をいじめ、ロムルスから遠ざけようとする邪魔者。最終的に険悪な雰囲気となり、ロムルスは一方的に話を切って立ち去ってしまった。
その言葉を聞き、がっくりと肩を落とす后ら。ルシアで無理なら自分たちでも無理と分かっているからだ。彼女の言は王の言葉よりも通り安いくらいなのだから。
とりあえず明日までに対策を考えておくと言い、ルシアは彼女たちと別れる。そして自室への道を歩きつつもため息を吐く。
(本当、困ったものだわ。次々と后を増やしてついには千人目。しかもその千人目の子を次期後継者とするなんて……)
千妃を許容しているように見えるルシアだが、内心はそうではない。当たり前だ。出自も知れぬ平民を次期後継者の母とするなど、国が乱れる原因になりかねない。最初は無欲でも権力を持たせれば狂ってしまうのが人間の常。能力も大事だが、幼き頃からの教育も大事だと彼女は考えている。
そもそも后が千人いる辺りからしておかしいのだ。予算はハンパなく膨れ上がっているし、争いもヒドい。誰がロムルスの寵愛を受けるかという女の争いが。翼の宮においてはあまり無いが、他の宮では結構な問題になっている。
(一度手を出したっきりなんて娘もいるのだから、せめてそういう娘と離婚してくれればいいのに。そうしたら多少は……って、ここに一度も手を出されてない女がいるのでしたね……)
ずーんと沈んだ様子になるルシア。普段は気にしてないように振る舞う彼女だが、内心はしっかり気にしていた。女のプライドは既にボロボロである。
見た目は悪くない。立ち振る舞いだって気を付けている。頭も国政を理解できる程度に努力してきた。なのに……。
(まあ、仕方ないのでしょう。他の后の方々と違い、わたくしは政治的な都合で嫁いだ身。女として求められていた訳ではない。ロムルス様も嫌々娶られたのでしょうね……)
ルシアは過去を思い出す。
王権をないがしろにし、好き放題していた一部の貴族たち。そんな貴族を一掃するためにロムルスは立ち上がった。
その際、公爵家は王家側についた。しかし問題となったのは当時のルシアの婚約相手。相手は侯爵家の子息で、敵対貴族の音頭を取る家。王家寄りの公爵家とはウマが合わなかったが、政治的バランスを取る為にルシアと婚約していたのだ。
が、内乱のせいで状況は一変。敵味方に分かれた事でルシアとの婚約は無しとなった。代わりに王家へと嫁ぐ事になり、「滅ぼすのは敵対貴族のみ」という王家の意思を示す為にロムルスと婚約する事となる。敵対貴族の婚約者だったルシアを娶る事で「敵方と多少の縁があっても裁いたりはしない」と他の貴族へと示し、味方を増やしつつ裏切る可能性を減らす……という話し合いがあったそうだ。
(そういう意味だとロムルス様も可愛そうですね。不本意な婚約だったのでしょうから。こんな口うるさい女をわざわざ娶りたいなんて思わないでしょうし)
ルシアは己の欠点を自覚していた。口うるさく説教臭いという。
もちろん、普段からそんな風にしている訳ではない。が、ロムルスの振る舞いがあまりにもひどいのでついつい口うるさくなってしまうのだ。幼い頃の関係も影響しているのだろう。
今はあんな感じのロムルスであるが、子供の頃はああではなかった。気が弱く、自信なさげで、ちょっとした事で泣いてしまう男の子。ルシア、ルシアと言い、ちょこちょこと自分の後ろをついて来ていたのをよく覚えている。まるで弟のように感じていたものだ。
しかし十数年後。異性という事で徐々に距離が開き、ルシアに婚約者が出来た事もあってロムルスと会う事は殆どなくなっていった。そして次に会ったときは立派な女狂い。いや、正確には次の次か。内乱中、反乱軍のハニートラップにハマッて以来ああなってしまったのだ。
その狂いっぷりは反乱軍も予想できぬほどの狂いっぷりであり、様々な経緯はあったものの、結果として反乱軍のハニートラップは失敗。王族側は勝利を得る。ここまではまだよかったが、なんとロムルスは勝利の他に九人の后をもお持ち帰りしたのだ。
結果、第一夫人になる予定だったルシアは第十夫人になってしまった。もちろんルシアの祖父たる公爵家当主はカンカンだったが、最早遅い。既にロムルスは絶対的な権力を手にしていたのだから。
とはいえ、それでルシアが不貞腐れるなんて事はなかった。怒りはあるが、再び内乱になるなんて事態は避けたかったからだ。故に彼女は第十后となる事を許容し、祖父を説得。公爵令嬢として、そして王族としての義務を果たすべく努力しているのだ。すなわち、国を守るという。
ひたすらに王族として振る舞う日々。その事に寂しさを覚えぬ訳ではない。だが今の自分が出来ることはそれしかない。
沈んではいられない。もしレヴィアが千妃になれば再び国が荒れてしまう可能性は固い。いや、確実に荒れる。ただでさえ魔王という存在が迫ってきているのだ。王族たるルシアは何としてもそれを阻止しなければならない。
(ロムルス様はアテにならない。ならばわたくしがやるしかありません。あの女を廃し、将来の王妃として相応しい者を千妃としなくては。その為には……)
修羅場チックな場所から逃げ出したレヴィア。彼女は心の中でガッツポーズを決めた。
危ないところであった。今までの努力が台無しになるところだった。
(流石俺! マジでファインプレーだった! よかったー)
あのまま正体をバラされればロムルスは不信感を抱いたかもしれない。もしくは後で告げ口をされる可能性もあった。しかしルシアを悪役に仕立て上げたことにより、彼女の言葉を素直に信じたりはしないだろう。加えて最後に身を引く事で健気な女をアピール。ロムルスはさらにこちらへと心惹かれるに違いない。
ピンチをチャンスに変え、さらには一石二鳥の結果。素晴らしい結果であった。代わりにロムルスとルシアの間に亀裂ができたかもしれないが、知ったことではない。
心の中で自画自賛しながらも階段を下りたレヴィア。そこにはレナ、ステラ、イレーヌの手下三人組がいた。
「き、今日ほど姉御を恐ろしいと思ったことはないっす……」
「思わず同情してしまったわ……。ルシアという方に」
「レヴィア様すごい……」
どうやら一連の出来事を見ていたらしい。口々にレヴィアの所業を讃えてくる。その言葉に気分を良くしたレヴィアは「そうだろそうだろ」と頷く。
「ま、俺にかかればこんなモンだ。王族だろうが世界最強だろうがひとひねりよ」
「や、マジで姉御に従っといてよかったっす。分け前期待してますね」
「妃となられた暁にはぜひ夫の店をひいきに……」
「わ、私は何してもらおうかな……」
三人ともレヴィアが妃になれると確信したのだろう。協力の対価をそれぞれが主張してくる。その現金さを見たレヴィアはさらに気を良くし、「フフフ。まあ任せておけ」とドヤ顔。こういう即物的な人間は嫌いじゃないのだ。
さて、いつまでもここでグダグダしているのはマズい。いつロムルスが追いかけてくるかも分からないからだ。今回の出来事は予定外ではあったが、これはこれで演出的には悪くない。少々前倒しになるが、ロムルスを不安がらせる“溜め”を入れた方がいいだろう。
そう考えつつレヴィアたち四人はステラ&イレーヌの部屋へと戻り、再びこれからの計画を話し合うのであった。
* * *
その日の夕刻。
ルシアは自らの居住地、『翼の宮』へと帰り着く。
翼という名の通り、翼を模した意匠があるこの場所。鳥やペガサス、グリフォンなど翼を持つ生物の彫刻や彫像がところどころに飾られている。
特に多いものは鷲の意匠であった。鷲とはヴィペール王族の紋章であり、王国の権威を示すもの。つまり翼の宮は英雄殿の中でも特別であり、重要な人物が住まう場所なのだ。
「ルシア様」
「ルシア様、如何でした? 千妃となられる方は……」
ルシアが帰ってくると、他の妃たちが集まってくる。皆が皆、心配そうな顔であった。
彼女らに対し、ルシアはふるふると首を振る。
「残念ながら、妃としてふさわしい人物ではありませんでした。実力の程は分かりませんが、性格が……。あれは毒婦の類です」
「そんな……!」
「何という事でしょう……!」
嘆く后たち。
ここにいるのは全員が貴族の出。それも、国を支えるという意識が非常に強い者たちだった。
過去、貴族が増長し、思うままに権力を振る舞っていた時代。成長したロムルスはその力を持って多くの貴族を物理的に取り潰した。しかし全部を取り潰した訳ではない。国を思う故にロムルスの味方となった貴族も多く、そういった者たちは今も王族を支えてくれている。ここにいるのは彼らの子女という訳だ。
「まあ毒婦というには少々間抜けな気もしましたが……好ましくない事に変わりはありません。今でさえロムルス様がああなのです。結婚すればどうなるかは目に見えています」
「ええ。何としても阻止しなくては……」
そして国を想う故に千人目の后というのは重大な関心事だった。
――次期後継者の母。
国中に影響を及ぼす事は間違いない。貴族でなくとも、他の九百九十九人とは別格の扱いをされるはず。
故に彼女らは千人目の后――千妃となる者に多大な関心を寄せている。ロムルスの女好きはもう諦めているものの、せめてその相手はマトモな相手を選んでほしい。本音を言えば自らの子を後継者にしたくはあるが、それが叶わないのなら……という訳だ。
后のうちの一人が決意したように言う。
「ロムルス様に直訴しましょう。レヴィアという者を后にしないようにと。千人以上集めているのです。他に適格な者はいるはずです」
「いえ、今のロムルス様が話を聞いて下さるかどうか。恋は盲目といいますが、この間お話した時は完全にその状態でした」
「最悪、“いなくなってもらう”という手もありますが……」
「それは最後の手段としましょう。后候補が“いなくなる”など、ロムルス様の名誉に傷がついてしまいます。とはいえ、国が乱れるよりはマシでしょうが」
あーだこーだと話し合う后たち。しかしイマイチいい方法が見えてこない。政治に関しては他者の意見を多分に取り入れるロムルスであるが、女の事となれば他者の言葉など耳から耳だからだ。
「ルシア様。ルシア様ではどうにかなりませんか? ロムルス様の幼馴染である貴女なら……」
すがるような目を向ける后たち。しかしルシアは再び首を横に振る。
「残念ながら、レヴィアという女に一杯食わされました。もうわたくしの言葉は届かないでしょう。少なくとも千妃に関しては」
あの後、ロムルスを説得しようとした彼女だが、彼は一切耳を貸さなかった。
優しく、美しく、健気な女。それがロムルスから見たレヴィアであり、ルシアは彼女との仲を邪魔する者。彼女をいじめ、ロムルスから遠ざけようとする邪魔者。最終的に険悪な雰囲気となり、ロムルスは一方的に話を切って立ち去ってしまった。
その言葉を聞き、がっくりと肩を落とす后ら。ルシアで無理なら自分たちでも無理と分かっているからだ。彼女の言は王の言葉よりも通り安いくらいなのだから。
とりあえず明日までに対策を考えておくと言い、ルシアは彼女たちと別れる。そして自室への道を歩きつつもため息を吐く。
(本当、困ったものだわ。次々と后を増やしてついには千人目。しかもその千人目の子を次期後継者とするなんて……)
千妃を許容しているように見えるルシアだが、内心はそうではない。当たり前だ。出自も知れぬ平民を次期後継者の母とするなど、国が乱れる原因になりかねない。最初は無欲でも権力を持たせれば狂ってしまうのが人間の常。能力も大事だが、幼き頃からの教育も大事だと彼女は考えている。
そもそも后が千人いる辺りからしておかしいのだ。予算はハンパなく膨れ上がっているし、争いもヒドい。誰がロムルスの寵愛を受けるかという女の争いが。翼の宮においてはあまり無いが、他の宮では結構な問題になっている。
(一度手を出したっきりなんて娘もいるのだから、せめてそういう娘と離婚してくれればいいのに。そうしたら多少は……って、ここに一度も手を出されてない女がいるのでしたね……)
ずーんと沈んだ様子になるルシア。普段は気にしてないように振る舞う彼女だが、内心はしっかり気にしていた。女のプライドは既にボロボロである。
見た目は悪くない。立ち振る舞いだって気を付けている。頭も国政を理解できる程度に努力してきた。なのに……。
(まあ、仕方ないのでしょう。他の后の方々と違い、わたくしは政治的な都合で嫁いだ身。女として求められていた訳ではない。ロムルス様も嫌々娶られたのでしょうね……)
ルシアは過去を思い出す。
王権をないがしろにし、好き放題していた一部の貴族たち。そんな貴族を一掃するためにロムルスは立ち上がった。
その際、公爵家は王家側についた。しかし問題となったのは当時のルシアの婚約相手。相手は侯爵家の子息で、敵対貴族の音頭を取る家。王家寄りの公爵家とはウマが合わなかったが、政治的バランスを取る為にルシアと婚約していたのだ。
が、内乱のせいで状況は一変。敵味方に分かれた事でルシアとの婚約は無しとなった。代わりに王家へと嫁ぐ事になり、「滅ぼすのは敵対貴族のみ」という王家の意思を示す為にロムルスと婚約する事となる。敵対貴族の婚約者だったルシアを娶る事で「敵方と多少の縁があっても裁いたりはしない」と他の貴族へと示し、味方を増やしつつ裏切る可能性を減らす……という話し合いがあったそうだ。
(そういう意味だとロムルス様も可愛そうですね。不本意な婚約だったのでしょうから。こんな口うるさい女をわざわざ娶りたいなんて思わないでしょうし)
ルシアは己の欠点を自覚していた。口うるさく説教臭いという。
もちろん、普段からそんな風にしている訳ではない。が、ロムルスの振る舞いがあまりにもひどいのでついつい口うるさくなってしまうのだ。幼い頃の関係も影響しているのだろう。
今はあんな感じのロムルスであるが、子供の頃はああではなかった。気が弱く、自信なさげで、ちょっとした事で泣いてしまう男の子。ルシア、ルシアと言い、ちょこちょこと自分の後ろをついて来ていたのをよく覚えている。まるで弟のように感じていたものだ。
しかし十数年後。異性という事で徐々に距離が開き、ルシアに婚約者が出来た事もあってロムルスと会う事は殆どなくなっていった。そして次に会ったときは立派な女狂い。いや、正確には次の次か。内乱中、反乱軍のハニートラップにハマッて以来ああなってしまったのだ。
その狂いっぷりは反乱軍も予想できぬほどの狂いっぷりであり、様々な経緯はあったものの、結果として反乱軍のハニートラップは失敗。王族側は勝利を得る。ここまではまだよかったが、なんとロムルスは勝利の他に九人の后をもお持ち帰りしたのだ。
結果、第一夫人になる予定だったルシアは第十夫人になってしまった。もちろんルシアの祖父たる公爵家当主はカンカンだったが、最早遅い。既にロムルスは絶対的な権力を手にしていたのだから。
とはいえ、それでルシアが不貞腐れるなんて事はなかった。怒りはあるが、再び内乱になるなんて事態は避けたかったからだ。故に彼女は第十后となる事を許容し、祖父を説得。公爵令嬢として、そして王族としての義務を果たすべく努力しているのだ。すなわち、国を守るという。
ひたすらに王族として振る舞う日々。その事に寂しさを覚えぬ訳ではない。だが今の自分が出来ることはそれしかない。
沈んではいられない。もしレヴィアが千妃になれば再び国が荒れてしまう可能性は固い。いや、確実に荒れる。ただでさえ魔王という存在が迫ってきているのだ。王族たるルシアは何としてもそれを阻止しなければならない。
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