寡黙な男はモテるのだ!……多分

しょうわな人

文字の大きさ
1 / 90
転生

001話 死んだか……

しおりを挟む
✱寡黙
 【言葉数が少ないこと。ほとんど物を言わないこと。】
 (広辞苑より抜粋)


 今日は残業もなく定時で仕事を終える事が出来た。大きなプロジェクトを成功させた我が課の雰囲気は明るい。打ち上げをしますからと、部下たちに誘われたが俺は幹事役の若手社員に茶封筒に入れたお金を渡して黙って首を振った。

「そんなぁ~、今日こそは課長を酔わせてそのお声を聞かせて貰おうと思ったのに……」

 幹事をしているのは去年我社に入社した女の子でもしも俺が結婚していたら娘と言っても良い年齢(十九歳)だ。思えば彼女も入社した当時はなかなか喋らない俺に苦労した事だろう。しかし、そんな彼女も古参の部下たちによって教育されて、今では我が課になくてはならない戦力に育ってくれた。俺が渡した茶封筒には社長から頂いた金一封(五万円)に俺が五万円を足して十万円が入っている。俺は茶封筒の裏に社長からのプロジェクト成功の礼金だと記載している。

「それなら尚更、課長も出席してくださいよ~。社長から頂いたお金を使用するなら課長も参加してくださらないとダメです!!」

 そう強く言ってくる幹事の子に笑顔で首を横に振り、手を上げて退社する事を伝えた。それを見た幹事の子が古参の課員に言う。

「あっ、課長が帰っちゃいますよ! 山添さんも何とか言って引き止めて下さいよ!」

「いや~、美弥ちゃん。これは無理だわ。今日は課長、プライベートで用事があるみたいだし。課長、僕達で使っちゃって良いんですか?」

 古参とはいえ三十代の山添係長補佐がそう聞いてきたので俺は黙って頷く。しかしこいつも俺の手振りでプライベートで用事があると見抜くとは大したものだ。思えば俺は優秀な部下たちに恵まれている。俺が部屋を出る時には、そんな優秀な部下たちが口々に、

「課長、お疲れ様でしたっ!」
「課長、また月曜日からお願いします!」
「課長、ゴチになりますっ!!」

 そう声をかけてくるので俺は背中越しに手を上げて応えて部屋を出た。

 俺の名前は磯貝いそがい澄也とうや。誕生日が過ぎて四十五歳という年齢になった。未だに独身。何故ならば俺は人と喋るのが苦手だからだ。子供の頃から苦手だった。大人になれば治るかもと思ったが、やっぱり苦手なままだった。
 そんな俺でも雇ってくれた社長には感謝しかない。しかも、課を一つ任される課長という役職まで賜っている。
 俺は喋れない訳ではない。家では独り言も言うし、テレビを見て面白ければ笑いもするし、時にはツッコミもいれている。そう人が居なければ俺は喋れるのだ。
 そんな俺を何故出世させてくれたのかその理由は分かっている。今でも俺についてきてくれている優秀な部下たちのお陰なのだ。
 
 今まで彼らは俺の手振り、目線を読み解き、その指示を的確に判断して仕事をしてくれた。そんな優秀な部下たちのお陰で俺は出世した。いや、してしまった。それならば俺みたいな上司が居ない方が打ち上げは盛上がる筈だ。みんな優秀過ぎて俺みたいな無能な喋らない上司の愚痴を好き放題に言えるだろうから。

 ソレに、プライベートで用事があるのも本当だった。今日は従妹いとこが家にやってくる日なのだ。何でも暴力夫と離婚したのはいいが、同じ県で住むのは嫌だけど、頼れるのが澄兄しか居ないから暫くだけでもいいから居候させてと言ってきたのだ。
 従妹とは言ってもまだ若く、二十七歳で俺が喋る事の出来る女性の中の一人だ。いや、見栄をはったな…… 唯一喋る事の出来る女性だ。

 従妹には郵便で先に合鍵を送っており今頃は部屋で待っているだろう。と、思って家の近くまで帰ってきたらその従妹が目の前で元旦那に乱暴に手を引かれて連れ去られそうになっていた。俺は慌てて駆け寄った。

 そして元旦那の従妹を引っ張っている手を強く握り締めた。


「イデデデデデッ!! 畜生、誰だ手前てめーはっ! 俺はコイツの旦那だよっ! 手を放しやがれっ!!」

 戯言を聞く気はない俺は更に強く手を握る。

「グワーッ、くそ、放せよっ!!」

 そんな男の叫びに重なるように、従妹が叫んだ。

澄兄とうにい!!」

「もう、大丈夫だ。家に入って鍵をかけておけ」

 俺の言葉にうんと頷いて従妹は家に駆け込んだ。そして、騒ぎを聞きつけ誰かが通報してくれたのだろう。警察官が二人走って来るのが見えた。それは元旦那にも見えたようで、

「クソッ! 俺は捕まる訳には行かないんだよっ!!」

 と言って、ポケットから何かを出すと俺に向かって突き出してきた。走ってくる警察官に気を取られていた俺はマトモにそれを左胸に受けた。
 違和感を覚えた俺が自分の胸を見たら刃物が突き立っている。そんなあり得ない光景に俺も無意識に力を込めてしまったようだ。
 バキッ! という音と共に俺が握っていた元旦那の骨が折れる。

「グワーッ!!」

 という元旦那の叫び声を遠くに聞きながら、俺の意識は遠くなった……


 気がついたのは何故だ? 俺は明らかに死んだと思ったのだが…… そうか信じて無かったが死後の世界というのはあるんだな……
 俺が黙考していると聞こえた声。

『はーい、磯貝澄也さん!! 私の眷族の子が間違えちゃって、死んでしまってゴメンねぇ~』

 何か軽いな…… ソレに誰だコイツは?

『あ~、私は神様だよ~。アメノウズメのみことって名前を人間に貰ってるけど聞いた事ない?』

 ああ、引きこもりになったアマテラスを騙して引きずり出した邪神か……

『ちょっとっ!! ヒド~イ! あの時にアマテラス様を岩戸から出さなかったらず~っと氷河期が続いてたんだからねっ! 私のお陰なんだから感謝してよねっ!』

 いや、しかし自分の上司が傷ついて引きこもりになっているのに、ソレを無視して無理矢理引きずり出したのは事実の筈だ……

『ホントにもう~っ! それ以上言うと怒るわよ~! って言って喋ってないんだったわね……』

 そう、この自称神様はさっきから俺が頭で考えた事に対して返事をしてきていた。
 そうか、俺は死んだか…… 

 その時に俺はハッキリと自分が死んだと自覚したのだった……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...