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本編
2
「やられた…」
畑で育てた作物を行商人や旅人に売ったり、村を襲ってくる獣を殺し、剥ぎ取った毛皮や牙なんかを売ったりして、3年間コツコツ貯めた全財産。
それを、結婚の約束をしていた彼女に持ち逃げされたのだ。
その子は村長の娘さんだった。
よそから来たイケメンな旅人と出会って、オレをポイッと捨てたあげく、オレの財産を全て持って村から出て行ってしまった。
「あー!クソォォー!またかよおぉぉ…」
涙を溢しながら畑を耕す。
その前は、『病気の母が…』っていう女の子にやられたし。
たまたま王都観光してたらドラゴンが空を飛んでてさ。何故か街に向かって炎を吐こうとしてきたから、ダメ元で落ちてた石をビュンッて投げたんだ。
もちろんポケットに入れてあった投石器を使って。布と編んだ紐で作った簡単なやつだけど。飛んでる鳥を落として食べたり、変な奴に絡まれたら撃退したり、持ってると色々使えて便利なんだよね。
で、投げたその石さ。奇跡的にドラゴンの口の中にヒュッと入って…爆発…したんだよね。
あの石、なんだったんだろ?
王都の人が行き交う普通の道に落ちてたんだよ…?
可能性があるとすれば、馬車の荷台から落ちた“軍事兵器的な何か”とか?
異世界こっわ!
今思い出しても震える…。
っとまあ、そんな訳で。ドラゴンを倒したオレは、王様から報奨金をもらったんですよ。『我が国を救ってくれた英雄…』みたいなこと言われてさ。
そしたら、ちょうどその日泊まった宿の食堂で、可愛い女の子と隣の席になってさ。
『病気の母がいるんです。薬代を稼ぐにはこの身を売るしか…』って泣き出してさ。
食堂のおにいさんが奥の席に移動させてくれて、温かいお茶まで出してくれて、その子の話を詳しく聴くことにしたんだ。
そしたらどうなったと思う?
まぁ、分かるよね…。
オレだって今思えばおかしいなって思うもん。
いつの間にかオレ、寝ててさ。
目が覚めたら身ぐるみ剥がされてた…。
たぶん今思えば食堂の男も、あの女の仲間だったんだろうね。薬を盛られたんだと思う。
報奨金…白金貨5枚って、日本円にするといくらなんだろ?
今頃アイツら豪遊してんだろうなぁ。
あーヤダヤダ。
女なんか2度と信用するもんか!
話が逸れたな。
村長の娘に全財産を持ち逃げされた話に戻ります。ごめんなさい。
幸い、村長さんはオレに同情的でさ、『すまない…』って自分も娘に出て行かれちゃったのに謝りながら慰めてくれるわけ。
村に出入りしてて、時々オレに剣を教えてくれてる冒険者のカイルさんも優しくてさ。
無精髭のイケオジね。
最初こそ『さっさと子どもを作っちまえばよかったんだ。このヘタレ』みたいに言ってオレを凹ませてきたんだけど、
『そんなオミだから放っておけねぇんだ』って景色が綺麗な山に連れてってくれて、美味しい串焼き肉とか美味しい焼き魚とかを食べさせてくれて、慰めてくれたんだよ。
オレ、なんだかんだ運がいいのかも。
女運だけは極限にないけど。
はぁ…。
むしゃくしゃしたら畑仕事だよね!
オレは農業が向いているのかサクサク耕せちゃう。
実家が農家で子どもの頃はよく手伝ってたし、こうして体が勝手に動いてくれるくらい毎日頑張ってきたからな。
オレ農民じゃん?
でも『たかが農民』と侮るなかれ。
農民は薪割りだってできちゃうし、畑を開墾するのに木だって切り倒せちゃう。大きな岩だって1人で運べちゃう。
しかも村には、鹿やら猪やら熊やら怖い動物がジャンジャカ出るのだ。畑に悪さをしに。それを倒すのも農民の仕事。
誰だよ。『鹿?つぶらな瞳がかわいいよね』とか言ってたやつ。
オレだよ!鹿を完全に舐めてたおバカ。
遭遇1回目ですぐに考えを改めたけど。
隣で弓を構えてたパン屋の息子・パズは鹿の角に突き上げられて腹に穴開けられてたんだ!怖かった!!麻酔代わりの葉っぱを噛まされて傷口を縫われてたのも怖かった!!
…あれ?何の話だっけ?
そうそう。『異世界の農民すげぇ!』って話。
最初は罠の設置から始まって、『ウプッ』って吐きそうになりながら暴れる獣にナイフでトドメを刺し、弓で矢を射り、ついには剣を振って殺す!って域まで達したのだ。
カイルさんが教えてくれる剣ってすごくてさ、一振りするだけで5メートルくらい先に生えた木が根元からスッパリ切れるんだぜ!
…変だよな?刃が通ってないのに…。異世界やばいよな?
オレも練習してたらできるようになったし…。
へへっ!
でもやっぱり、農民にとって一番大事なのは畑。
耕せば耕すだけ広くなる畑っていいよね。ミミズも土をふかふかにしてくれてありがとう!
『手間をかけただけ、畑は答えてくれるんだ』
それは父の言葉だった。
んで、父さんの声を思い出したら、急に気になり始めた。
『逹臣。ちゃんとご飯食べてる?』
『いつでも帰って来なさい』
母さんの声も思い出してさ。
田舎に…元の世界に残して来た両親はどうしているんだろう?
オレ、行方不明扱いになってるんじゃないの?
まだ探してたらどうしよう。
むしろ鞄を橋の上に落として来ちゃったから、自殺したことになってたりして?
3年も連絡を絶ったら、さすがに取引先から忘れられて仕事はゼロになってるだろうな。
…ってね。いろんな不安がぐわーっと襲ってきてさ。
で、元の世界に帰る方法をいろいろ考えた。
これまでだって、何度も何度も考えてきたんだけど。
この世界に来た時、落ちた川。あそこへあの時と同じように落ちてみたり、ちょっと小高い崖から飛び降りてみたり。
死にかければいいのかなって猪の突進を受けようとしたり。
あ、その時にオレを助けてくれたのがカイルさんね!それで身を守れるようにって剣を教えてくれるようになったんだ。
やっぱりオレはゲームか物語の世界へ“異世界転移”ってやつをしたんだと思う。
この世界にはドラゴンもいたし、魔族や魔王なるものもいるらしいし。
で、オレは思った。
魔王を倒せばゲームクリア!元の世界に帰れるのでは?!
オレは主人公の“勇者”じゃなくて、間違いなくモブの“村人A”だ。Aでさえないかも。
でもさ、奇跡とはいえドラゴンを倒せたのだ。
魔王だって倒せるのでは?
ってね。
んで、村長さんやカイルさんにお世話になったお礼をして、魔王探しの旅に出たってわけ。
…2人には『少し長い旅に出る』とだけ言っておいた。
だって、“魔王を倒せば元の世界に帰れる”なんて、本気で思ってた訳じゃない。
ちょっと気持ちを切り替えたくて、旅に出たかっただけなんだ。
畑で育てた作物を行商人や旅人に売ったり、村を襲ってくる獣を殺し、剥ぎ取った毛皮や牙なんかを売ったりして、3年間コツコツ貯めた全財産。
それを、結婚の約束をしていた彼女に持ち逃げされたのだ。
その子は村長の娘さんだった。
よそから来たイケメンな旅人と出会って、オレをポイッと捨てたあげく、オレの財産を全て持って村から出て行ってしまった。
「あー!クソォォー!またかよおぉぉ…」
涙を溢しながら畑を耕す。
その前は、『病気の母が…』っていう女の子にやられたし。
たまたま王都観光してたらドラゴンが空を飛んでてさ。何故か街に向かって炎を吐こうとしてきたから、ダメ元で落ちてた石をビュンッて投げたんだ。
もちろんポケットに入れてあった投石器を使って。布と編んだ紐で作った簡単なやつだけど。飛んでる鳥を落として食べたり、変な奴に絡まれたら撃退したり、持ってると色々使えて便利なんだよね。
で、投げたその石さ。奇跡的にドラゴンの口の中にヒュッと入って…爆発…したんだよね。
あの石、なんだったんだろ?
王都の人が行き交う普通の道に落ちてたんだよ…?
可能性があるとすれば、馬車の荷台から落ちた“軍事兵器的な何か”とか?
異世界こっわ!
今思い出しても震える…。
っとまあ、そんな訳で。ドラゴンを倒したオレは、王様から報奨金をもらったんですよ。『我が国を救ってくれた英雄…』みたいなこと言われてさ。
そしたら、ちょうどその日泊まった宿の食堂で、可愛い女の子と隣の席になってさ。
『病気の母がいるんです。薬代を稼ぐにはこの身を売るしか…』って泣き出してさ。
食堂のおにいさんが奥の席に移動させてくれて、温かいお茶まで出してくれて、その子の話を詳しく聴くことにしたんだ。
そしたらどうなったと思う?
まぁ、分かるよね…。
オレだって今思えばおかしいなって思うもん。
いつの間にかオレ、寝ててさ。
目が覚めたら身ぐるみ剥がされてた…。
たぶん今思えば食堂の男も、あの女の仲間だったんだろうね。薬を盛られたんだと思う。
報奨金…白金貨5枚って、日本円にするといくらなんだろ?
今頃アイツら豪遊してんだろうなぁ。
あーヤダヤダ。
女なんか2度と信用するもんか!
話が逸れたな。
村長の娘に全財産を持ち逃げされた話に戻ります。ごめんなさい。
幸い、村長さんはオレに同情的でさ、『すまない…』って自分も娘に出て行かれちゃったのに謝りながら慰めてくれるわけ。
村に出入りしてて、時々オレに剣を教えてくれてる冒険者のカイルさんも優しくてさ。
無精髭のイケオジね。
最初こそ『さっさと子どもを作っちまえばよかったんだ。このヘタレ』みたいに言ってオレを凹ませてきたんだけど、
『そんなオミだから放っておけねぇんだ』って景色が綺麗な山に連れてってくれて、美味しい串焼き肉とか美味しい焼き魚とかを食べさせてくれて、慰めてくれたんだよ。
オレ、なんだかんだ運がいいのかも。
女運だけは極限にないけど。
はぁ…。
むしゃくしゃしたら畑仕事だよね!
オレは農業が向いているのかサクサク耕せちゃう。
実家が農家で子どもの頃はよく手伝ってたし、こうして体が勝手に動いてくれるくらい毎日頑張ってきたからな。
オレ農民じゃん?
でも『たかが農民』と侮るなかれ。
農民は薪割りだってできちゃうし、畑を開墾するのに木だって切り倒せちゃう。大きな岩だって1人で運べちゃう。
しかも村には、鹿やら猪やら熊やら怖い動物がジャンジャカ出るのだ。畑に悪さをしに。それを倒すのも農民の仕事。
誰だよ。『鹿?つぶらな瞳がかわいいよね』とか言ってたやつ。
オレだよ!鹿を完全に舐めてたおバカ。
遭遇1回目ですぐに考えを改めたけど。
隣で弓を構えてたパン屋の息子・パズは鹿の角に突き上げられて腹に穴開けられてたんだ!怖かった!!麻酔代わりの葉っぱを噛まされて傷口を縫われてたのも怖かった!!
…あれ?何の話だっけ?
そうそう。『異世界の農民すげぇ!』って話。
最初は罠の設置から始まって、『ウプッ』って吐きそうになりながら暴れる獣にナイフでトドメを刺し、弓で矢を射り、ついには剣を振って殺す!って域まで達したのだ。
カイルさんが教えてくれる剣ってすごくてさ、一振りするだけで5メートルくらい先に生えた木が根元からスッパリ切れるんだぜ!
…変だよな?刃が通ってないのに…。異世界やばいよな?
オレも練習してたらできるようになったし…。
へへっ!
でもやっぱり、農民にとって一番大事なのは畑。
耕せば耕すだけ広くなる畑っていいよね。ミミズも土をふかふかにしてくれてありがとう!
『手間をかけただけ、畑は答えてくれるんだ』
それは父の言葉だった。
んで、父さんの声を思い出したら、急に気になり始めた。
『逹臣。ちゃんとご飯食べてる?』
『いつでも帰って来なさい』
母さんの声も思い出してさ。
田舎に…元の世界に残して来た両親はどうしているんだろう?
オレ、行方不明扱いになってるんじゃないの?
まだ探してたらどうしよう。
むしろ鞄を橋の上に落として来ちゃったから、自殺したことになってたりして?
3年も連絡を絶ったら、さすがに取引先から忘れられて仕事はゼロになってるだろうな。
…ってね。いろんな不安がぐわーっと襲ってきてさ。
で、元の世界に帰る方法をいろいろ考えた。
これまでだって、何度も何度も考えてきたんだけど。
この世界に来た時、落ちた川。あそこへあの時と同じように落ちてみたり、ちょっと小高い崖から飛び降りてみたり。
死にかければいいのかなって猪の突進を受けようとしたり。
あ、その時にオレを助けてくれたのがカイルさんね!それで身を守れるようにって剣を教えてくれるようになったんだ。
やっぱりオレはゲームか物語の世界へ“異世界転移”ってやつをしたんだと思う。
この世界にはドラゴンもいたし、魔族や魔王なるものもいるらしいし。
で、オレは思った。
魔王を倒せばゲームクリア!元の世界に帰れるのでは?!
オレは主人公の“勇者”じゃなくて、間違いなくモブの“村人A”だ。Aでさえないかも。
でもさ、奇跡とはいえドラゴンを倒せたのだ。
魔王だって倒せるのでは?
ってね。
んで、村長さんやカイルさんにお世話になったお礼をして、魔王探しの旅に出たってわけ。
…2人には『少し長い旅に出る』とだけ言っておいた。
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