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第2稿

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俺は音楽を愛してる。それこそ世界で一番。そう思ってる奴は五万といる。そしてプロを夢見る奴らはもっとだ。そんなのは百も承知。でも俺はそれを目指してるんだ。目指しちゃってる?いや、もしかすると音楽という名のお化けに憑依されてるのかもしれない。でも上昇志向だけはいつも持ってるつもり。確かに象牙の塔から一歩を踏み出せないような状態だけど。また今はドが付く貧乏でもいつか絶対、実力で這い上がってみせるんだって内心マジで思ってる。虚栄心からではない。虚空を掴まされるのが、オチと分かっていてもまだ、引くに引けない。レッツプレイミュージックっす。そらっ今日もガンガン行くぜ。「シャー」あっ「痛えええー」いたたた「なにやってるんだ。しっかりやれ」いきなりバイトのボスに怒られた。現実は甘くないのだ。俺は時間を上手く使いたい願望から、バイトは、色々掛け持ちでやってる。今日は中華料理屋でバイト。簡単な調理から客の注文取り、皿洗いまで何でもやる。さっき怒られたのはまだ日本語が弱冠、危うく、タジタジの中国人の陽さん。でもこの人の料理は本物。まかないで美味いもん食わしてくれるし、そして普段はとてもいい人だ。おまけに音楽もかなり好きらしい。たまに鼻歌も飛び出す。中国語で何言ってるか、さっぱり分からないけど、楽しい雰囲気は重々伝わって来る。俺が音楽やってることを彼に話すと「いいねーいいねーヤングはいいねー」とドラマに出てくるインチキ中国人のように無邪気にハシャいだ。ミスター陽王権。最高にファンキーなオヤジ。外人だろうと何だろうと俺は好きだ。この手のオッサンは。 
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