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第13稿

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すると、自分の耳を疑りたくなるような、音が空気を伝わって、俺の脳まで響いた。こいつ、一体何者?楽器屋で働く男って、こんなにも上手いのか、上手いを超えて凄い。早弾きも一音一音ピッキングしているし、指の運びが、俺と比べて数段もスムースだ。滑らかで美しい。悔しいけど、俺やっぱ辞めといて正解かも。こんな奴が世の中にいるなんて。それもこんな場所に。
「お客さん。歌は歌われないんですか。今、店内見ての通りガラガラなんで、俺ハモリますから、歌って下さいよ。ビートルズかなんかどうです?」
そう言って彼が勝手に弾き出したのは、ヘイ、ジュード。このスタンダードな曲を知ってんのもあったけど、こいつの持つ豊かな音色で、なんだが気分が高揚し、俺も思わず歌ってしまった。
「ヘイジュー ドンミーアフレーン テイカセッソン アイニージュー……」
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