聖火

青山喜太

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はじまり、はじまり

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 ──ガタン ゴトン ガタン ゴトン

 昼、日光に照らされながら、王都エポロ行き列車は揺れる。その列車の中の個室として区切られた一室に、ため息をつき、窓際に肘をつく少女が一人。

 そんな少女に四人ほどの、男子のグループが絡んでいた。

「なぁ、お前ほんとに騎士になるために来たのか?」

 グループの一人の少年が聞く。

「ええ、そうよ」

 少女のそっけない返答を聞いた少年たちは笑う。

「ははは! まじかよ! 女なのに!」

「家で、ダンスの練習してた方がいいんじゃねぇか? 可愛いんだしさぁ!」

 わずかに嘲笑が混じる、笑い声、その合唱の合間にニブイ音が響いた。

「ギャアアア!」

 少女の鉄拳が、笑っている内の一人の顔にめり込んだのだ。殴られた少年は個室の外まで吹き飛ばされ、それ巻き込まれたもう一人と共に壁に激突する。

 一瞬、間を置いて、残る二人の少年の笑いは、徐々に小さくなっていく。

「顔に虫が止まってたみたいだから、とってあげた」

 そう言うのは、殴った張本人である少女だった。
 あらためて残った少年二人は少女を見た。
 黄金の瞳、少し青が混じる黒のロングヘアーを三つ編みにしていた。

 そして見惚れるほどの白い肌に、そして整った可愛いらしい顔立ち、そんなどこかの深窓の令嬢か、どこかの国の寵愛を受ける姫かという容姿なのに、少女の顔には不釣り合いな強大な怒りが刻まれていた。

 眉間に皺が寄せられ、黄金の瞳は射抜くように少年たちを睨みつけている。
 心なしか、髪の毛も逆立っているような、そんな気さえさせる程の怒りの雰囲気を少年たちは感じとり、震える。

「あんたたちも気をつけた方がいいかもね、ここの部屋、ロクデモナイ虫が湧いてるみたいだから」

 まあ、と少女は付け足す。

「もし、顔についたらとってあげるわよ」

 にこり、と眉間に皺を寄せたまま笑う少女。すると、少年たちは叫び、外に殴り飛ばされた二人の仲間を無理やり立たせて、逃げていった。

 部屋に残ったのは、静寂と少女のみ。

「ふん……」

 少女は鼻を鳴らす。今のように、珍しがられることは別に"珍しくない" 舐めた口を聞かれることもだ。
 だからこそ、腹が立つ。

 父親からも、母親からも、同じことを言われた。

『騎士なんてやめなさい』

 うるさい。愛着を持っている親にそう感じるのだから、見ず知らずの男子にそう言われるのは尚更、腹が立つ。

「ほんと、男って嫌い」

 少女はそう呟いた。例外はいるが、基本的に少女は男というものが嫌いだった。
 先ほどのような馬鹿しかいないからだ。

 再びため息をつき、外を見る。景色は畑を映し出している。緑の何かの野菜の葉と暗い茶色の土が目に入った。

 つまらない景色だったが男子の相手をするよりはマシだった。

「あの……」

 すると部屋の入り口から声が聞こえてくる。
 美しい、透き通った声。
 少女が窓の外の景色から、入り口に目をやると、少女と同じ歳くらいの子供が立っていた。

 目立つ金色の髪は、ちょうど耳に掛かる程度の長さで、翡翠色の目、中性的な面持ちなその少女と同年代の子供は、男物の服装を着こなしているのを見てかろうじて男子だと、少女は理解できた。

「あ、あの、よ、よろしく僕、リリベル・オウス・ノルンヴェント」

「アンタさ」

「え?」

「入るんなら入んなよ」

「あ、うん、ごめん」

 リリベルはビクビクしながら、少女の対面のソファに座る。
 その様子を見ると少女はどうしても、イラついてしょうがなかった。

「なによ、何さっきから怖がってんの?」

 男子に絡まれたことと、ビクビクしている、目の前の少年にイラつきを抑えられない少女は思わず、その苛立ちをほんの少しぶつけるように、リリベルに声をかけた。

 リリベルはビクリと肩を一瞬、震わせ恐る恐る口を開く

「その……さっき鼻から血を流した男子が駆け抜けていったんだけどもしかして……」

「……私がやった」

 なるほど、と少女は腑に落ちた。自分の自業自得だったわけだ、と。ならば、少しは事情を説明しなくてはいつまでも怖がられていては、居心地も悪い。

「怖がんなくていいわ。私、揶揄われたり馬鹿にされるの嫌いなの、だから、アンタが舐めた口を聞かなければ大丈夫よ。何もしない」

 するとリリベルは、少しばかりの恐怖を顔に滲ませながら「うん」と呟いた。そして、

「えっと、馬鹿にしたりしないよ、そのえっと……」

 何かに詰まったように、しどろもどろになるリリベルを見て少女は訝しむ。何を戸惑っているのだろうと思案を少しばかり巡らせ、すぐに理由がわかった。

「ああ、そういえば自己紹介まだだったわね」

 少女は、無愛想ながらも、リリベルのビクビクとした目を見ながら言った。

「私は、ネクス、ネクス・オウス・クロエロード」

 よろしくね、ネクスはそう簡潔に締め括った。
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