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CHAPTER_01 魔法学は苦難の道のり ~don't through the thorny road~
(07)予感の的中 ~incident~
しおりを挟む今日も憂鬱な日が始まる。
それでも、昨日よりは精神的にマシだった。魔法を使えると言う自信が、シュウのやる気を支えていた。
相変わらず授業の中身はサッパリだが、必死に喰らいつくことができた。
ただ、ポケットに入った白いカタマリがどうしても頭に引っかかる。
朝1番に一般クラスの教室近くへと出向き、例の生徒を探したがどこに行っても見当たらない。通りすがりの生徒に聞いても、知らないか無視されてしまう。
何も無ければいいのだが――
「じゃあ次の問題、10分時間あげるから考えてみて」
先生の掛け声とともに静かな時間が始まる。
チャンスかも、と思った。このイヤな予感が気になってしょうがなかった。
「――はい!」
シュウは大きく右手を上げる。
「ハナミヤさん、どうしたの」
「ちょっと、おなか痛くって……」
大げさに腹を抑えて苦しい表情を作る。先生は、仕方がなさそうに手を振った。
「早く戻るのよ」
呆れた視線を感じながら、シュウは大げさな演技を続けて足早に教室を出ていく。その姿を、リンは心配そうな目で見ていた。
やがてリンも耐えきれず、静かに手を挙げる。
「あのー先生、実はわたしも……」
「リンさん、あなたまで?」
「恥ずかしながら……」
「気をつけてね」
シュウのときとは打って変わり、先生は真っ先にリンの身を案じ、教室から出ていくことを許可する。
リンも大げさに演技をしながら教室を出てシュウのことを追いかけた。
○○○○○○
「この辺で落として、向こうに行っちゃって――」
シュウは、白いカタマリを拾った場所に戻っていた。
とにかく例の生徒を見つけたいし、急がないとイケない気がする。
シュウは、生徒が去った方へと進む。
清掃のおかげで校内の地理は、ある程度把握していた。
中等部棟と高等部棟を結ぶ長い渡り廊下、主に化学室や調理室などの特別教室が点在し、1階には美術室がある。
閑静な美術室――
授業はやっていなかった。
シュウは、不思議な魅力に引き込まれ、何も考えずに足を踏み入れた。
「おお……」
美術室の独特な雰囲気に、部屋の後ろに飾られた絵や彫刻の作品たち。美術にはてんでうといが、どれも魅力的なのは間違いなかった。
なかでも、ひと際目を引く作品がある。
大きな太陽と照らされる広原――
絵に込められた力強さが、見たものの心を強く揺さぶる。
「――絵の中に引き込まれちゃいそうだね」
「ああ」
シュウとリンは授業中であることも忘れ、しばらく絵に見惚れていた。
「――ってリン! なんでここに!」
「下手な演技で出て行って、気になるもん。昨日見せてくれた変形痕が関係するんでしょ?」
「そうだけど――」
「おや、きみたち授業中じゃないのかい?」
『――っ!』
部屋の入口から声がする。
振り向くと、背が丸まった白髪混じりの小柄な男性がいる。美術の先生だ。
「えっと! と、トイレ行こうとしたら、声がしたっていうか」
(なにそれ!)
(なにも思いつかなかったんだよ!)
「まあいいんだ、ゆっくりしていってくれ」
2人は、ホッと胸をなでおろす。
後ろの作品たちに向き直り、静かな声で会話を再開する。
「美術室で拾ったの?」
「そうじゃないよ、気になっただけで――」
「おぬしら、お願いがあるんだが」
『――っ!』
再び振り向くと先生がまた、すぐそこにいた。
先生の独特な雰囲気に飲まれそうになりながら、2人は同時に声を発する。
『な、なんでしょう?』
「そこの絵……」
先生は、2人が見惚れていた大きな太陽の絵を指差した。
「去年の1年生が描いた絵なんだがな、別のところに飾る予定で……んでもってそれ――」
その絵の下、棚の上に置いてあるアクリル製のシンプルなトロフィー、美術の先生は「それを取れ」と言わんばかりに指差す。
シュウは仕方がなく、慎重に手に取った。
「取りに来てくれなくてね……トロフィーまでは飾れんから、その子に返して欲しい」
「はあ」
<ここに表彰する ムーヴ・アストラッシュ>
トロフィーにはっきりと文字が刻まれていた。
「でも、おれこの人のこと知らない――」
「じゃあ頼んだよ」
先生は聞く耳持たず、そそくさと奥の教員室に戻ってしまう。シュウは、トロフィーを握ったまま固まった。
「探すの大変だね」
「なんで他人事なんだよ」
「シュウくんが頼まれたでしょ、わたし知らないもん」
「なんてひどい」
渋々トロフィーをポケットにしまう。しかし、既に白いカタマリが入っていて、トロフィーまでは入りそうに無かった。トロフィーと入れ替えるようにカタマリを取り出した。
改めてカタマリを持つと、手にわずかな温かさを感じる。カタマリが元々ロッドであることが関係しているのだろう。このカタマリを落とした生徒は、確かに魔法を使ったのだ。
いったい何のために――
シュウは、大きな太陽の絵を見つめ直す。
「……なあリン、ちょっと頼まれてくれないか?」
「しょうがないなあ。ムーヴって子のことなら部活でも聞こうと思ってたけど」
「いや、そっちじゃなくて……魔法で見つけられないか??」
シュウは絵を眺めたまま、思い付きで言葉を発する。リンには、何を言っているのか理解できなかった。
「どういうこと?」
「なんて言うか、見えない魔法、隠れている魔法を見つけられないかな」
「隠れてるってどこに?」
「分からないけど、どっかにある気がするんだ」
確信は無い。
それでも、このカタマリから感じるイヤな予感が確かなら、きっとどこかに魔法があるはず――
そんな気がした。
「そうだ、あの授業でも言ってたやつ。魔法陣がぶつかって、みたいな……れぞ、れぞ――」
「共鳴のこと?」
「それ! できないか?」
「うーん、どうだろう。ある程度の場所が分からないと」
自信なさげだが、リンは早速ロッドを取り出して魔法陣を出すよう右手を構える。
「まずはここの天井とか、どこでも良いんだけど」
「わかった、はい持って」
リンは、ロッドを握ったまま差し出してくる。シュウも握ることで、リンと一緒に共鳴を感じることができる。
シュウは、差し出されたロッドを強く握り返した。
「見えないところ……壁を通すには≪変形魔術≫かな」
リンは右手を頭上に掲げる。
その右手の前に繰り出される青色の魔法陣――
魔法陣は、落ち着いた光を保ったままゆっくりと大きくなり、同時に壁に向かってゆっくりと移動していく。
リンは目をつむり、ロッドを握る手に感覚を集中する。シュウも見よう見まねで目をつむる。
やがて、魔法陣が天井をすり抜けて見えなくなる。見えないが、リンは感じていた。
天井裏に魔法陣が存在する。
ゆっくり、ゆっくりと上に進んで行く。
そして、何かにぶつかった。
――カッチ、カッチ、カッチ……
突然の感覚に驚き、シュウはロッドを握っていた手を離す。リンも目を開けて考え込んだ。
「なんか、音も聞こえたよな?」
「うん。それも、いくつも……」
ロッドに響いたいくつもの手触り、ロッドを通して聞こえた何かを刻む音――
「時計かなあ。でも、天井裏なんかに……意味ないもんね」
時間を刻んでいたのは間違いない。
問題は何の時間を刻んでいたか、そしてどうして天井裏なのか――
「……ばくだん」
パっと頭をよぎった。
容器に圧縮した空気を詰め込み、魔法で力を加えて爆発させる。映像や資料でしか見たことがない。
当てずっぽうだが、リンも否定しなかった。
「そんな……一体だれが?」
「分からない。でも、ホントに爆弾だったら……」
2人が見合う。そして、頷きあった。
最悪な事態だけは避けなければいけない――
「リンは1階からお願いできるか? おれは上から声をかけていく」
「分かった、場所は? グラウンドでいい?」
「そこしかないか……それじゃあよろしく頼む」
「シュウくん!」
急いで上の階へ向かうシュウを、リンが引き留める。
リンには魔法がある。ある程度の事態には対応できる能力があった。
しかし、今のシュウではまだ――
「……気を付けて」
「おう、リンもな!」
シュウは、改めて上の階へと駆け上がる。
リンも急ぎ、一番近い中等部棟の教室へと向かう。
「先生っ!」
授業中の教室に大声で割って入る。もちろん先生も生徒も目を丸くして驚き、リンの方を振り向いた。
「り、リンさん?」
「先生、学校に……この建物に爆弾が仕掛けられている可能性があります。急いでグラウンドに避難して下さい!」
「ば、ばくだん?!」
突然の知らせにザワザワ騒ぎ出す教室の生徒たち、先生も対応に困っている。しかし、学園でリンのことを知らない先生も生徒もいない。
それだけ有名で優秀なリンが言うことを、大人の先生でさえ信じずにはいられなかった。
「先生、はやく!」
「わ、わかったわ。とりあえずみんなグラウンドに移動しましょう。 あせらず、ゆっくりね」
「私は他のクラスにも声をかけていきます。先生もなるべく多くの人に――」
――ゴオォォンッ!
遠くで、頭上で鳴り響く低い衝撃音――
その衝撃がリンがいる場所まで伝わり地面が揺れる。教室の生徒たちが悲鳴を上げる。
「み、みんな落ちついて! ゆっくり! ゆっくり移動するのよ!」
「先生、頼みます!」
「リンさんもお願いね」
リンは、その教室を後にして隣の教室に移動する。
事情を説明し、先生に避難誘導と情報周知をお願いする。
今のは爆発音だろう。上の階からだった。
シュウが向かった方だった。
「シュウくん……」
爆発とともに、学園は大きく騒ぎ始めた――
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