魔法学のすゝめ!

蒔望輝(まきのぞみ)

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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(02)取締1日目 ~regulation~

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 学園には、いつもと違う空気が流れていた。

 早朝に校内の清掃を終え、いつも通り制服に着替えて倉庫を出たシュウは、その異様な空気にすぐ気が付いた。

 校門から校舎に続く道に数人の生徒が待ち構えている。1人1台タブレットを持ち、通りゆく生徒をじっくり観察している。
 生徒を引き止めてはカバンをまさぐり、不要な荷物を持ち込んでいるようならば注意する。引き止められた生徒の大半は、イヤイヤ対応していた。

 学園セントラルでは毎年恒例の風紀取締とりしまり強化週間――
 1年の内、生徒会が定めた平日5日間だけ学園の規範ルールが守られているかを厳格に取り締まる。

「なんだかなあ……」

 学校指定の制服、カバン、派手な髪形や髪色――
 取締項目は多岐に及ぶが、先生たちは学園内での生活でこれらを注意することは無い。基本的には生徒たちの自由を尊重しているからだ。
 一方で、学園はあくまで魔法学を学ぶ場所であり、学生の本分は勉学であることも違いない。そのことを忘れぬよう、年1回気を引き締める目的で取締が行われ、その責務は生徒会に一任されていた。

「どうしたんだよ、シケたツラして」

「あ、リオラ」

 リオラはいつの間にかリオラが隣の席にいる。
 そして、いつだって変わらない――
 取締があろうがなかろうが、制服のジャケットは羽織はおらずにワイシャツを着崩して堂々と座る。

「例年はここまで厳しくなかったんだろ?」

「そうだな、ぜんぶシャエラのせいだ」

 親友のロイからも、最低限のルールを守っていれば注意されることも無いと聞いていた。ところが今年は例外らしい。
 それもシャエラが生徒会長になったせいだとリオラは言う。

「それより、早くどかないとカホが座れないぞ」

 隣はカホ・クラシアの席だ。極度のあがり症で自分から話しかけるには、仲のいいリオラであろうと多大な時間と勇気を要する。

「心配ねえって、きっと生徒会のやつらに見張られてるせいで校門すら通れてないな」

「そういうリオラは、その格好でよく通ってこれたな」

「まあな、ワタシに掛かれば生徒会なんてヘでもないさ」

 今年の取締は厳しいと話したばかりだった。持ち前の身体能力で監視の目をくぐり抜けてきたのだろうが、自慢げに語ることではない。

「とはいえ、やりすぎだよなあ……」

「そんなのみんな思ってるサ。ほら、シュウも捕まりたくないだろ」

 リオラはシュウのネクタイに手をかける。
 ネクタイだけでなく、ワイシャツのボタン1つ1つにまでご丁寧に手を掛けて整える。

「――捕まりたくないのはアナタも同じね、ミス・リオラ?」

「ちっ……」

 リオラのすぐ後ろには、いつの間にかシャエラがおごそかに立っていた。
 縦ロールの銀髪がいつもより輝いて見える。

「そのお姿でどうやって教室にたどり着けたかは存じませんが、この教室ではわたくしが許しません」

「これがワタシだ、いちいち許可がいるのか?」

「学園の決まりでございます、従ってもらいますわ」

「ワタシのどこがルール違反なんだ? 1コずつ、丁寧に教えてくれよ」

 お互い1歩もゆずるつもりはないらしい。
 険悪ムードが徐々に高まっていく。

「その態度も問題ですが、まあいいでしょう……まずはその服装っ! 風紀をいちじるしく乱しておりますわ」

「だからワタシの服装のどこがイケないんだ?」

「ですからその、まるで胸元を見せびらかすような、自慢するかのような……」

「こんな感じか?」

 リオラはシュウの肩を掴み、自分はシュウの背中に隠れるようにしてシャエラの前に差し出した。

「おい、リオラ?」

 シャエラもシュウも、向かい合ったまま呆然としてしまう。
 振り返ったリオラの顔は、ニヤリとほくそ笑む――

「なっ……」

 口元はわずかに動いており、それが詠唱えいしょうだと気づいた時にはもう遅かった。
 シュウが着るワイシャツのボタン1つ1つが赤色に光り出す。先ほどリオラがワイシャツに手をかけていたのは、魔法陣を仕掛けていただけだった。

「なんだこれっ?!」

 直後、ワイシャツのボタンすべてが派手にはじけ飛び、内側のシャツまで破けてシュウの胸元が大きく開く。

 厚い胸板に、割れた腹筋――
 細くも引き締まったシュウの肉体がシャエラの目の前であらわになる。

「あわ、あわわわわ……」

 シャエラは、顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。教室にいる女子生徒たちは悲鳴を上げた。遠くの席にいるリンも手で顔をおおい、隙間から目線をシュウに向けていた。

 シュウはどうすればいいか分からず、上半身を露わにしたまま立ち尽くす。

「アア、アナタ! なんてことをっ!」

「い、いまのはリオラがっ」

「早く前を隠してくださるっ?!」

 シャエラは耐え切れず目線を反らし、シュウも慌てて前を隠す。リオラは他人事ひとごとのように笑っていた。

「リオラ、そしてミスタ・ハナミヤ……放課後、お2人とも生徒会室までご招待しますわ」

「い、いまのはリオラのせいだし、それに放課後は用事が――」

「例外は……」

「しゃ、シャエラ、さん……?」

「許ししませんわ!」

 シャエラはついに怒ってしまう。全部リオラのせいだ。冷たい目でリオラとシュウを見下ろしている。
 それから放課後まで、シュウは不安な時を過ごす――




「――はあ……」

 放課後になったところで不安な気持ちは収まらず、思わずタメ息が漏れてしまう。
 生徒会室への呼出しを喰らっているが、行きたくもないし場所も分からない。

「シュウ、また明日な」

 そんなシュウの目の前を、リオラは平然と通り過ぎていく。

「リオラ、生徒会には行かないのか?」

「行くわけないだろ? 行く必要が無い」

 おまけに悪びれる様子もない。とはいえ、シュウにも清掃という大事な役目がある。授業で疲れた精神を浄化するいこいの時間でもあり、これだけは譲りたくなかった。

「そうだな、それならおれも……」

 リオラと一緒に教室を出る。
 いつも通り――そう思ったときだった。

 後ろから誰かに肩をつかまれる。
 ゆっくりと後ろを振り返ると、知らない女子生徒に睨みつけられる。

「……やっぱり行かなきゃダメ、ですよね?」

 さらに後ろには数人の生徒――
 生徒会役員が勢揃いだった。

 警棒の形に変形させたロッドを手に持ち、シュウのことを睨みつけたまま何も喋らない。このまま帰らせてくれるワケは無さそうだ。

「り、リオラっ? どうすれば――」

 横を歩いているはずのリオラに振り向くと、リオラはとっくに居なくなっていた。

「シュウ、あとは頼んだぜ!」

「そんなぁ~」

 廊下を走って逃げるリオラ――
 だが、そう簡単には逃げられない。

 リオラの前にも数人の生徒会役員が立ちはだかる。

「よっ、と――」

 振りかざされる警棒を前に、リオラは真上に跳んで避ける。足元には魔法の痕跡も見えた。
 人間離れした跳躍で生徒会役員の頭上を越えていく。

「まだまだ、ツメが甘いんじゃないか?」

 シュウは、華麗な身のこなしについ見惚みとれてしまう。自分が捕まっていることを忘れてしまいそうだった。
 しかし、余裕しゃくしゃくのリオラを突然激しい揺れ・・が襲う。

「う゛っ……!」

 地面が揺れるというよりは、脳が直接揺さぶられる感覚――
 離れた場所にいるシュウの頭もガンガン揺れる。思わぬ揺れ強さに、タフなリオラは廊下の途中でよろけてしまった。
 いつの間にか、リオラの周りを紫色・・の魔法陣が囲んでいる。

「くっ……しゃ、えら――」

 リオラは、頭を押さえながら苦しそうに立ち上がる。
 目の前には、数少ない≪波動魔術ジグラクタブレイカ≫の使い手――
 シャエラ・エイブリンが立ちふさがった。
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