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1章 ようこそエルデネンスへ!

異世界グルメ

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席に戻ってみると、ミアナはすでに料理を取り終えていたようで、席に座って俺を待ってくれていた。

「おかえりなさい、ケントさん」

ミアナがにこやかに微笑む。
ミアナのとってきたメニューは、カレーとナン、豆サラダとお茶だった。

俺が席につくのを見るとミアナは

「ロールキャベツが売り切れていたのだけが心残りです」

とため息をついた。
ロールキャベツ、あったなら俺も食べたかった。

「明日からはもっと早めに並ぼう。ほら、食べよう!」

俺の提案に、ミアナは頷くと小さな声で「いただきます」と言いながら手を合わせた。
それにつられてこちらも小さくいただきますをしてから食べ始める。


シーフードサラダにはエビによく似た剥かれた甲殻類がたっぷりはいっている。
ドレッシングはすでにカルパッチョソースがかかっているようだった。
至って普通のシーフードサラダだが、よく見ると入っている野菜は見たことがないものばかりだった。

カレールーは、日本の一般家庭の定番食材の他にも色々な野菜が入っていて、栄養価が高そうだった。
学校給食の工夫みたいだと思う。


ナンにつけて、一口カレーを食べてみる。
カレーだ。完全にカレーの味だ。異世界感皆無だ。

少し辛めのカレールーだが、食べ慣れない風味があるわけでもなく、至って普通のカレーだった。
普段食べ慣れたカレーと違うのはコクがありとても滑らかな舌触りだという事だ。

ふと、疑問が頭をよぎる。


「にんじん、たまねぎ、じゃがいも……だよな?ファンタジーじゃがいも警察に見せたら怒られそうだ」

俺の言葉に、ミアナは口の中に入っているものを飲み込んで、お茶を一口飲んでから答える。

「全部良く似たこの世界に自生する野菜なので問題ないと思いますよ?それに、お芋はタノカ芋っていって、食感等はじゃがいもっぽくはないです。もっとホクホクしていて粘り気があるんです。」


カレールーのなかから芋を拾って食べてみる。
なるほど、たしかにじゃがいもっぽくはない。
ヤツガシラのホクホク感が増したような味で、カレーよりも煮物なんかに合いそうな味だ。

「たしかに里芋とかヤツガシラっぽい味だ。」

「でしょう?似ている食材で料理しているだけなので、見た目とか食感とかが少しずつ違うものが多いんです。スープに入っているトマトは大きな木になる果物ですし、元の世界のものと比べると風味が違うといいますか、採れたばかりの固い桃のような風味が少しあるんです。」

言われてスープを飲んでみると、たしかに採れたばかりの桃のような少し青臭く、甘い香りがした。


その他の食材も、少しずつ元居た世界とは違っている。
ただ、味付けが良いのかあまり違和感なく食べる事ができそうだった。

食事を食べ終え、牛乳を飲み干す。

「ミアナ達が作ったんだろう?すごいな、プロみたいだ」

俺の言葉にミアナは小さく首を横に振る

「私やお料理当番の人は皮を剥いたり、下処理をしたりとかそういったお手伝いしかしません。基本的に調理はアダムさんしかしないんです。」


「アダムさん?」

初めて聞く名前だ。
しかしあれだけ大量の料理を一人で調理というのは大変そうだ。

「料理が運ばれてくる時に、先頭に立っていた金髪の男性が居たでしょう?彼がアダムさんです。」


あぁ、あの金髪美少年の……

「僕の料理は気に入ってくれたかな?」

「アダムさん!」

振り返ると、そのアダムという男がにこやかな笑みを浮かべながら立っていた。
見ると、先程まで着ていたコックコートとエプロン姿ではなく、ラフな格好をしている。

「あぁ、とっても美味しかったです。俺と同い年くらいにしか見えないのに……」


同い年くらい、というよりも中学生くらいにしか見えない。

「あぁ、僕は調理のチーターなんだよ。なんとなく自然とレシピが思いついたりサクサク調理できたり……と結構便利だよ。前の人生も一応小料理屋の子供だったしね、12歳の時に死んじゃったけど。生きてれば17歳かな?」


そういってアダムさんは小さく笑った


「あ、俺は17で死んだから同い年ですね」


俺の言葉にアダムさんは嬉しそうに笑う

「敬語使わなくてもいいよ、僕はアダム。ファミリーネームとかは決めてないよ。よろしく」

そう言ってアダムは右手を差し出す。

「俺は矢張賢人。ケントって呼んでくれ」


やっぱり俺も格好いい名前考えようかな、なんて事を考えながらアダムの手を握った。

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