元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね?

紅葉ももな(くれはももな)

文字の大きさ
154 / 178

二通りの転生事情

しおりを挟む
 キャロラインに一体何が起こったのかわからずに、私は彼女の頭からそれまで来ていた上着を被せて他から見えないようにして城内をひた走る。

 セイン様を見た途端に取り乱したキャロラインの様子には焦りと不安、そして恐怖があった。

 キャロライン付きの侍女に扉を開けさせ室内に入れば、木目の茶色と爽やかな緑色の壁紙が目に入る。

 居間をくぐり抜け続きの間である寝室の豪奢な天蓋付きベッドへキャロラインの身体をゆっくりと横たえる。

「すぐに医者が来る、済まないがキャロを清め着替えを頼む」

 侍女達が私の出した指示に動き出したので部屋を出ると、入れ替わるようにリステリア母様が足元が隠れるほどに長いドレスを華麗に捌きつつ、こちらへやってくる。

「おかえりなさいシオル、キャロラインが倒れたって、一体何があったの?」

「わかりません、ずいぶんと混乱しているようでした……まるで自分が誰かを確かめるような」

 リステリア母様にキャロラインを任せてとりあえず陛下のもとへ戻る事にした。

 やはり気候が違う事もあり、レイナス王国は冬でも暖かい。

 追いかけてきたらしいクロードの話では陛下は既に執務室へ戻っているらしく、セイン様が休んでいる客室へ向かっていた足を執務室方向へ向けなおす。

 執務室の両脇に立った近衛騎士に取り次ぎを頼めば、すぐに室内へと通されれる。

 幼い頃から執務机の上に山積みされた書類の量くらいしか変わりがない、いや……陛下に次期国主として仕事を教わる私の机が増えてからしばらく立つ執務室に置かれた応接用の飴色に艶めくテーブルにロブルバーグ様と陛下が向かい合うように着席し、陛下の後ろに立つシリウス宰相がたっていた。

 レイナス王国の近衛が三名部屋の隅にたち、ロブルバーグ様の背後にカークとスケイルが控えていた。

「シオル、キャロラインは?」

 陛下に促され隣合うように、革張りの応接ソファーに腰掛ければ、まるで身体を包み込むように深くお尻が沈み込む。

「今は母上がそばに付き様子を見てくれています、ロブルバーグ様……キャロラインはセイン様を見た途端に狼狽え始めました……」
 
 みるみる青褪めたキャロラインの顔が脳裏にちらつく。

「キャロラインはこの国に生を受けてから王都より外へ出たことがありません、セイン様は?」

「神子は協会本部の最深部から出ることはない、お会い出来る者も限られたものだけ、今回が異例中の異例なのじゃ」 
 
 ロブルバーグ様の言葉を信じるならば、キャロラインがセイン様を知っているはずがない。

「あのように取り乱すキャロラインは、初めて見ました。 このような事態に何か心当たりはありませんか?」
 
 私の言葉に陛下とシリウス宰相の視線がロブルバーグ様に集まる。

「ふむ……皆は『輪廻転生』と言う概念を知っておるかの?」

 ロブルバーグ様から出た言葉にどくんと心臓が大きく脈打つ。

「はい、たしか死んで双太陽神の身元にに還った魂が浄化されこの世に何度も生まれ変わってくることでしたでしょうか?」

 陛下の言葉にロブルバーグ様が頷く。

「本来なら生まれ変わる際に魂は浄化されまっさらな状態で産まれてくる。 しかし稀に転生までの期間が短いと前世の業……記憶を残したまま赤子として産まれてくる者もおるのじゃ……のうシオル殿下」 

 そう言ってこちらに視線を寄越されたじろぐ。

 部屋中から視線が私に集まりいたたまれない。

 ロブルバーグ様は何か確信しているようで、下手な誤魔化しは通用しないだろうと判断した。

「はい……あります前世の記憶……」

 私があっさり認めると、部屋中から困惑と驚愕が伝わってくる。

「やはりのぅ、初めて会った時から幼子にしては伝わってくる意識がハッキリしすぎておったからの」

 ロブルバーグ様は自分の意思を上手く伝えられない幼児や赤子の感情を読み解くことが出来る異能……こちらの世界では『双太陽神の加護』と呼ばれる力を有している。

「それでも言葉を覚える頃には前世の記憶は魂に封じられて薄れ、今生を歩み始める。 しかしこちらの殿下は記憶を保持したまま成長なされた。 ずいぶんと短期間で転生されたらしい」

 カラカラと笑うロブルバーグ様に陛下が声をかける。

「……シオルがその輪廻転生をした者であると言うことはわかりました。 しかしキャロラインもそうだと?」

「記憶持ちには二通りありましてな、1つ目はさきほど言った赤子から記憶を保持している者、そうしてもう一つは何かのきっかけで封じれていた魂に刻まれていた記憶が蘇る者がおるのです」

 常とは違うキャロラインが生前の記憶を取り戻したきっかけ、それはきっとセイン様を見たあの時だろう。

 ロブルバーグ様の話では階段を落ちたり、事故に巻き込まれるなどの生前亡くなった時と類似した状況下で思い出すことが多いらしい。

「これまでの症例からみて、しばらくは人格が馴染むまで時間が掛かろう、気長に見守っておくことじゃ……決して一人にしてはいかん。 生前の人格次第では少々厄介な事になるからの」

「厄介な事……?」

 不穏なロブルバーグ様の言葉に陛下は怪訝な表情を浮かべる。

「前世の人格が凶悪犯罪者だった場合、今生でも同じような犯罪を犯す可能性がある……と言う事じゃ」

 皆が息をのむ中で、私は少しだけ安心していた。

 凶悪犯罪者が人の顔を見て鼻血を吹きながら「イケメンやばい萌死ぬ……」なんて言わないだろう。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...