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失われた記憶?
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瓦礫の下から奇跡的に救出されたミリアーナ叔母様はその後三日間高熱に襲われ昏睡した。
燃えるような鮮やかな赤い髪は、その色彩が抜けてしまったように白くなり、ベッドに散らばっている。
瓦礫に挟まれた右足首が粉砕骨折しており、治ったとしても後遺症が残るだろうと診察にあたった宮廷医師が話しているのを、呆然と聞き流していた。
高熱で流産する可能性も高かったが、どうやら持ち直してくれたようで、もしかしたらクラインセルト陛下が叔母様と赤子を守ってくれたのかも知れないとぼんやりと考えていた。
バジリスクを討伐した後、あれほど続いた地震はすっかりとなりをひそめている。
城下町は王都周辺の町や村から食料や物資を分けてもらい、少しずつ復興へ向かって歩み始めた。
この度の災害で死者はクラインセルト陛下をはじめ二千人を越えていた。
多くの国民が倒壊した家屋の下敷きとなり亡くなっている。
今日も朝から私は眠り続けるミリアーナ叔母様の顔を眺めながら目覚めを待っていた。
熱が下がり既に体調は安定しているものの、いっこうに目を覚まさない。
「……殿下……シオル殿下」
肩を叩かれて顔を上げれば窶れたロンダークさんが立っていた。
「あぁ、ロンダークか……」
「ミリアーナ様がご心配なのはぞんじておりますが、少しお休みになられた方が宜しいですよ?」
どこか呆れたような、困っているような不思議な表情で言ってくるが、そのままそっくりロンダークさんに言葉を返したくなるほどにロンダークさんの目の下に大きな隈が居座っている。
「ロンダークさんも休んでないんじゃない? 私は平気だよ……なぜかな……眠くないんだ……」
苦笑いを浮かべればわざとらしく溜め息を吐かれた。
「では寝なくても構いませんのでベッドで横になる位はしてください。 ミリアーナ様がお目覚めになりましたら真っ先にご連絡いたしますから」
そう告げるとロンダークさんは隣の部屋へ続く扉を開けて、ベッドへと私を放り込んでしまった。
本来ならばいくら血縁者とはいえこんな至近距離に男である私が、大国の王妃に付きっきりで付き添うことはあり得ない。
しかし、バジリスクによってミリアーナ叔母様の私室は風穴が開いており、住める状態になかったため、今は私と同じ無事だった迎賓館に居を移している。
明日……犠牲者の追悼が行われた後、地震で亡くなった人々の合同葬儀が行われる予定だ。
王都の外れに広がる草原には今回の地震で倒壊した家屋の廃材が集められている。
ミリアーナ叔母様がこのまま目を覚まさなければドラグーン王国の宰相カルロス・ガザフィー殿がクラインセルト陛下と犠牲者の鎮魂の儀を取り仕切る事になるだろう。
ぼんやりと見慣れない天井を見ているうちにいつのまにか眠っていたようで室内はすっかり暗くなっていた。
カーテンの隙間から月の光が室内に筋となって入り込んでいる。
人気がない室内を見渡して、ベッドの足元にある革靴を履くと、部屋に置かれたテーブルへ向かう。
テーブルには銀器のコップと水が入った銀器の水差しが置かれているための、一杯注いで一気に煽るように渇いた喉を潤した。
ふと目を向ければ、ミリアーナ叔母様が寝ているはずの客間からが気配を感じてゆっくりと近付き、静かに扉を開けた。
普段手入れが施されている筈の扉は度重なる地震の影響をうけ、軋んだ音をたてながら開いていく。
月明かりに照らさし出されたベッドの上で身体を起こした状態で月を眺めるミリアーナ叔母様がいた。
「ミリアーナ叔母様!」
私の声にミリアーナ叔母様はゆっくりとこちらを振り返った。
「だぁれ?」
いつもと違う舌足らずな話し方に違和感を覚える。
「シオルです。 ミリアーナ叔母様御体の具合はいかがですか?」
「シオル? ごめんなさい。わたしあなたをしらないの……ねぇ、おにいさましらない?」
そう告げるとミリアーナ叔母様はこてんと首を傾げて問いかけてきた。 おかしい、何かがおかしい。
「ミリーはおにいさまとはぐれてっ……ひっく……しまったの?」
無邪気に問い掛けてきたと思ったら、子供のように顔を歪ませてぐずりだしてしまった。
「ろっ、ロンダーク! ロンダークさん!」
事態が飲み込めず、夜中であるにも関わらず大声でロンダークさんの名前を叫んだ。
「どうしましたシオル様!」
どうやらロンダークさんは隣の部屋に居たようで私の切羽詰まった声にすぐに部屋へとやって来た。
「ロンダークさん! ミリアーナ叔母様が!」
「ミリアーナ様、目を覚まされたのですね」
ミリアーナが意識を取り戻した事に一度は安堵した様子を見せたロンダークさんだったが、キョトンとした様子で自分を見つめるミリアーナ叔母様の様子がおかしいと気が付いたのだろう。
「ロンダーク? 面白い……いつの間におじさんになってしまったの?」
くすくすと笑う無邪気に笑うミリアーナ叔母様に冷や汗が背筋を滑り降りる。
「シオル様、申し訳ございませんが直ぐに医師とカルロス様を秘密裏に呼んできていただけませんでしょうか?」
ロンダークの頼みにしっかりと頷くと、私はこれ以上ミリアーナ叔母様を見たくなくて、浮かんでくる涙を乱暴に袖で拭きながら薄暗い城内を走った。
燃えるような鮮やかな赤い髪は、その色彩が抜けてしまったように白くなり、ベッドに散らばっている。
瓦礫に挟まれた右足首が粉砕骨折しており、治ったとしても後遺症が残るだろうと診察にあたった宮廷医師が話しているのを、呆然と聞き流していた。
高熱で流産する可能性も高かったが、どうやら持ち直してくれたようで、もしかしたらクラインセルト陛下が叔母様と赤子を守ってくれたのかも知れないとぼんやりと考えていた。
バジリスクを討伐した後、あれほど続いた地震はすっかりとなりをひそめている。
城下町は王都周辺の町や村から食料や物資を分けてもらい、少しずつ復興へ向かって歩み始めた。
この度の災害で死者はクラインセルト陛下をはじめ二千人を越えていた。
多くの国民が倒壊した家屋の下敷きとなり亡くなっている。
今日も朝から私は眠り続けるミリアーナ叔母様の顔を眺めながら目覚めを待っていた。
熱が下がり既に体調は安定しているものの、いっこうに目を覚まさない。
「……殿下……シオル殿下」
肩を叩かれて顔を上げれば窶れたロンダークさんが立っていた。
「あぁ、ロンダークか……」
「ミリアーナ様がご心配なのはぞんじておりますが、少しお休みになられた方が宜しいですよ?」
どこか呆れたような、困っているような不思議な表情で言ってくるが、そのままそっくりロンダークさんに言葉を返したくなるほどにロンダークさんの目の下に大きな隈が居座っている。
「ロンダークさんも休んでないんじゃない? 私は平気だよ……なぜかな……眠くないんだ……」
苦笑いを浮かべればわざとらしく溜め息を吐かれた。
「では寝なくても構いませんのでベッドで横になる位はしてください。 ミリアーナ様がお目覚めになりましたら真っ先にご連絡いたしますから」
そう告げるとロンダークさんは隣の部屋へ続く扉を開けて、ベッドへと私を放り込んでしまった。
本来ならばいくら血縁者とはいえこんな至近距離に男である私が、大国の王妃に付きっきりで付き添うことはあり得ない。
しかし、バジリスクによってミリアーナ叔母様の私室は風穴が開いており、住める状態になかったため、今は私と同じ無事だった迎賓館に居を移している。
明日……犠牲者の追悼が行われた後、地震で亡くなった人々の合同葬儀が行われる予定だ。
王都の外れに広がる草原には今回の地震で倒壊した家屋の廃材が集められている。
ミリアーナ叔母様がこのまま目を覚まさなければドラグーン王国の宰相カルロス・ガザフィー殿がクラインセルト陛下と犠牲者の鎮魂の儀を取り仕切る事になるだろう。
ぼんやりと見慣れない天井を見ているうちにいつのまにか眠っていたようで室内はすっかり暗くなっていた。
カーテンの隙間から月の光が室内に筋となって入り込んでいる。
人気がない室内を見渡して、ベッドの足元にある革靴を履くと、部屋に置かれたテーブルへ向かう。
テーブルには銀器のコップと水が入った銀器の水差しが置かれているための、一杯注いで一気に煽るように渇いた喉を潤した。
ふと目を向ければ、ミリアーナ叔母様が寝ているはずの客間からが気配を感じてゆっくりと近付き、静かに扉を開けた。
普段手入れが施されている筈の扉は度重なる地震の影響をうけ、軋んだ音をたてながら開いていく。
月明かりに照らさし出されたベッドの上で身体を起こした状態で月を眺めるミリアーナ叔母様がいた。
「ミリアーナ叔母様!」
私の声にミリアーナ叔母様はゆっくりとこちらを振り返った。
「だぁれ?」
いつもと違う舌足らずな話し方に違和感を覚える。
「シオルです。 ミリアーナ叔母様御体の具合はいかがですか?」
「シオル? ごめんなさい。わたしあなたをしらないの……ねぇ、おにいさましらない?」
そう告げるとミリアーナ叔母様はこてんと首を傾げて問いかけてきた。 おかしい、何かがおかしい。
「ミリーはおにいさまとはぐれてっ……ひっく……しまったの?」
無邪気に問い掛けてきたと思ったら、子供のように顔を歪ませてぐずりだしてしまった。
「ろっ、ロンダーク! ロンダークさん!」
事態が飲み込めず、夜中であるにも関わらず大声でロンダークさんの名前を叫んだ。
「どうしましたシオル様!」
どうやらロンダークさんは隣の部屋に居たようで私の切羽詰まった声にすぐに部屋へとやって来た。
「ロンダークさん! ミリアーナ叔母様が!」
「ミリアーナ様、目を覚まされたのですね」
ミリアーナが意識を取り戻した事に一度は安堵した様子を見せたロンダークさんだったが、キョトンとした様子で自分を見つめるミリアーナ叔母様の様子がおかしいと気が付いたのだろう。
「ロンダーク? 面白い……いつの間におじさんになってしまったの?」
くすくすと笑う無邪気に笑うミリアーナ叔母様に冷や汗が背筋を滑り降りる。
「シオル様、申し訳ございませんが直ぐに医師とカルロス様を秘密裏に呼んできていただけませんでしょうか?」
ロンダークの頼みにしっかりと頷くと、私はこれ以上ミリアーナ叔母様を見たくなくて、浮かんでくる涙を乱暴に袖で拭きながら薄暗い城内を走った。
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