元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね?

紅葉ももな(くれはももな)

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激闘

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 同じくらいに出発した商人達に混ざるようにして進んできたが、付かず離れずついてくる一団が有った。

 紅く染まった空を見上げた商人達が次々と早めの夜営準備のために次第に足を止めていく。

 周りを木々に囲まれた場所は夜営に相応しい広さと、飲料水につかえる清水が流れる川があり、多くの商人達はここで休むようだ。

 私達も彼らに混ざり食事と飲み水の確保、手持ちのムクロジ石鹸を引き取ってもらい保存食や薬などを分けてもらった。

 愛馬のグラスタは気性の優しい牝馬では有るが十歳の私の幼い身体では、まだ足を骨折しているミリアーナ叔母様の身体を支えることが出来ず落馬させる恐れがあるため、ミリアーナ叔母様は常にロンダークさんと相乗りになる。

 なるべくお尻に負担が掛からないように柔らかな布を幾重にも重ねた物の上に横座りで移動していた。

 小休憩を挟み他の商人達と離れるようにして移動を始める。

 後ろから付いてきている一団がもし追手であれば、仮に襲撃を受けてしまえば行動をともにした他の商人達を巻き込むことになりかねないと判断したからだ。

 すっかり日が落ちて辺りを暗闇と虫の声や野性動物の息遣いに混ざり、私たちの後ろを付いてくる気配に私は傍らのロンダークさんを見上た。

「ロンダークさん……、人数はわかりますか?」

 小さく呟いた声はしっかりとロンダークさんに伝わったようでロンダークさん前方を向いたまま小さく頷く。

「そうですね……騎馬が五といった所でしょうか」

 腰に佩いた剣に手をかけて神経を研ぎ澄ますロンダークさんの気迫にミリアーナ叔母様は小さく震えてロンダークさんの服にしがみついた。

「五人か、追っ手だと思います?」

「恐らく、でなければこんな夜更けに私達と行動しません……っ!」

 突然背後の馬の蹄の音が変わった。 

 振り返れば、追っ手がこちらへ馬を駆けさせているのがわかる。

「走りますよミリアーナ様、しっかりと掴まって下さい! ハッ!」

「ハッ!」

 走り出したロンダークさんに続いて私もグラスタの手綱を握り締めて駆けさせる。

 いくら距離があり駿馬とはいえ、二人のりでは追い付かれるのも時間の問題だ。

「シオル様、このままでは追い付かれます……ミリアーナ様をお願いいたします」

 ロンダークさんは私にミリアーナ叔母様を見させて迎撃に向かうつもりなのだろう、しかし十歳に過ぎない私がミリアーナ叔母様を支えながらグラスタを駆けるのは無理がある。

「ロンダークさん……ミリアーナ叔母様を必ず父様の所へ!」

 それだけ告げると私は進路を変更して追っ手に向かって駆け出した。

「シオル様!?」

「行け! ロンダーク! 命令だ!」

「ぐっ、ご無事で……ハッ!」

 今までロンダークさんを呼び捨てにしたことなど無かったが、はっきり言って私とミリアーナ叔母様の二人を守り抜くのは困難だ。

 狡いかも知れないが、少しでも追っ手の足を止めて距離を稼ぎたい。

 命令だと言われてロンダークさんは苦虫を噛み潰したような顔をしたあと、開け道を外れて木立へと駆けていった。
  
 馬上でスラリと愛剣シルバを引き抜くと追っ手は木立へと進路を変えてきた。

「行かせない!」

 進路を遮るように馬身を割り込むと、私は斬りかかってくる剣を馬上で飛び跳ねるようにして躱し、追っ手に飛び掛かると背後に回り込み剣を首もとに当てて切り裂いた。

 鉄臭い液体が頬に飛び散る。

 悲鳴をあげてのたうつ身体を力ずくで地面に叩き落とせば、次の刺客が迫ってきていた。

 振り下ろされる剣を刀身で受け止めると、懸念していたほどの力は入っていなかったようでて流すと、私は剣を刺客の胸へと貫いた。

 手に剣から伝わる肉の感触と濃厚な血の香りに吐き気を催しながらも、剣を引き抜けば温かな鮮血が吹き出した。

「調子に乗るなよ小僧」

「ぐっ!」

 すぐ後ろに迫っていた男が横凪ぎに払った剣を受け止める。

 ガチャガチャと刀身がぶつかり合い自と相手の顔が近付いてくる。

「ペッ!」

 唯一黒い布で覆われていない目に向かって唾を飛ばせば、男が反射的に剣を引いた。

「糞がきが! ぎゃぁぁぁあ!」

 身体を前倒して勢いよく剣を馬上の男の息子に突き立てた。

 断末魔が夜の闇に響きわたると、近くにいた鳥が一斉に飛び立った。

 剣は馬の背中にも刺さってしまったようで暴れた馬の体当たりを受けて身体がよろける。

 男を背中に縫い付けたまま横倒しになった馬に潰された男を、持っていた短剣で止めを指した。

 シルバを引き抜き血を払う。

 これで三人……ロンダークさんたちを追ってに行った二人に追い付かなければと、木立を疾走しながら短く口笛を吹けば、小さな嘶きをあげて愛馬グラスタが駆け寄ってきた。

 馬上で馬を乗り換えるという前世の私ならまず無理だっただろう軽業をやってのけ、私はグラスタとともに暗い木立の隙間を縫って走った。

 はっきりいって夜目は効かないからグラスタ頼みだ。

 グラスタが前を走る馬影を捉えたため速度を上げて背後に回り込む。

 背後から迫る蹄の音に仲間が応援に来たと思っただろう刺客が振り向き目を向いた。
 
「なに!? なぜ生きている!」

「私の命は安くないのよっ! たぁ!」

 まだ声変わりも果たさない声で気合いを入れて斬りかかれば素早く跳ね返された。

「ぐっ! 餓鬼のくせになんつう剣圧をしてやがる」

 呻きながらも二度三度と繰り返す剣劇を躱す刺客が放った突きが脇腹を掠めた。

「痛っ!」

 激痛に脇腹を手で押さえて見ればヌルリとした液体が触れる。

「どうしたそれで終わりか」

「終わりな訳ないでしょ!」

 私はシルバに吊るしていた荷物袋から前の町で仕入れた長帯を傷口の上に巻き付けて剣の鞘を外して差し込みぐるりと捻り傷口を圧迫した。

 応急処置を施してシルバを持ち直し手綱をしっかりと掴むとグラスタの背中に立ち上がった。

「しぶといガキだな。 曲芸でも始めるつもりか!」 

 グラスタを走らせて追っ手の馬に横付けし、私は刺客の胴体目掛けて馬上を飛び越えた。

「グラスタとまれ!」

 私の指示を理解するグラスタは賢いと思う。

「ぐぁっ!?」

 前足を踏ん張るように急停止したグラスタと、私が渡した手綱が刺客の腹部を圧迫し、馬上から地面へと落馬させることに成功した。

 咄嗟に私の服を掴もうとした刺客の身体を蹴り飛ばして叩き落とす。

 手綱が手に食い込んでいるが、走り続けるグラスタをなんとか宥めて停まらせる。

 警戒しながら蹴落とした男の生死を確認するために戻ると、どうやら最後の蹴りで受け身がとれなかったのか、頭から血を流して絶命していた。

 残りは後ひとり……。ロンダークさん達は上手く逃げられただろうか。

 グラスタを走らせながら、小川を見つけて、川辺に降りると喉を潤すために夢中になって顔を水に突っ込んだ。

「ぷはぁ、はぁ、はぁ、もうだめだ」 
 
 冷や汗が止めどなく流れているような気がする、応急処置はしたものの血を流し過ぎたのか目の前が真っ白になるほどの目眩に身体に力が入らない。

 上手く考えすら纏まらないし、目も空かない……私、死ぬのかな?

 暗転した意識を取り戻したのは、見知らぬ馬車の中だった。  
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