元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね?

紅葉ももな(くれはももな)

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救出

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 左手?えっ!?子供の手じゃん!?

 狼狽えながらも凝視していると、手がはみ出していた事に気が付いた給仕の男は何食わぬ顔で布の中に手を戻すと、空いている食器を下げる振りをしながら目撃者ご居ないか辺りを確認しているようだった。

「すみません!あの、今子供が!」

 近くにいた貴族に給仕の話をして助けを求めたが、子供の戯れ言だと取り合って貰えず、その間にもどんどんと給仕の男は遠ざかる。

 これから国王が入室したのか、人並みが王族席側に流れると男は会場に一礼して出ていってしまった。

「あー、うー、もう!」

 近場のテーブルから銀のナイフとフォークを掴みポケットへ入るだけ放り込む。

 愛剣は会場に持ち込めず、護身用の短剣も会場に入るときに没収されてしまった。

 落ち着いた様子で会場を後にする男の後ろを物陰に隠れながら追跡することにした。

 男はどんどんと人気がない方角へ悩むことなく進んでいく。

 王族が一同に会するあの会場に警備を集中しているせいか、今いる辺りには誰も居ない。

 明らかに厨房とは違うだろう部屋の前までやって来ると、ノックもせずに男は部屋の中へと入ってしまった。

「う~ん、これ以上近づくと流石に見付かるよね。」

 大人相手に勝てる気がしないしと悩んで数分後、男は車輪がついた衣装箱を曳き、先程の給仕のお仕着せとは違う貴族の従者を思わせる服装で部屋を出てきた。

 カートは持っておらず、そのまま衣装箱を引っ張って廊下の奥へとゆっくり歩いていく。

 部屋の中には人の気配がないため、少しだけ隙間を開けて忍び込むとすぐ近くにあのカートを見付けて赤い布を捲り上げた。

「いない、やっぱりあの衣装箱!」

 キラリと床に光るものを見付けて絶句した。

「これ、あの王子さまが着けてた耳飾りじゃん。」

 動機がわからないが、色々とまずい事態に発展しかねないのは暢気な私でもわかる。 

 幸せそうな叔母の婚礼に、このような犯罪染みたサプライズは必要ない。

 家具や柱の影に隠れながら誘拐犯を追い掛けて着いたのは、参列している貴族用の馬車が停められている場所だった。

 地面に転がる馬糞をよけながら進むと、男が一代の馬車に衣装箱を積み込んでいた。

「おい、お嬢様の荷は?」

「問題ない。しかしお嬢様の我が儘にも困ったものだ。」

「ちげぇねぇ。おっとそろそろ出発しねぇと御迎えに間に合わなくなるぞ。」

 ひらりと御者席に座り込んだあと、馬車はゆっくりと動き出してしまった。

「くそぅ、逃がすかぁ!」

 走り去る馬車の後部に辛うじてとりすがると、目の前にあるトランクを開けて飛び移った。

 座面の下を空洞にしたトランクの扉を軽く閉めて目的の衣装箱を小さく叩く。

「おーい、誰か入っているのか?」

 小声で声を掛けるとムームー、と唸り声が聞こえてくる。

「わかったわかった!あいつらに見付かるから暴れんな!」

 ガタガタと暴れだしたのでべしっ!と衣装箱を叩くと大人しくなったので衣装箱の蓋を開ける。

 衣装箱の中には布に埋もれるように手足をしばられて猿轡を噛まされたアールベルト王子が横たわりながらこちらを凝視していた。

「むーむーむー!!」

「はいはい、わかったわかった!見つかる前に脱出するから静かにしようね?」

 持っていたナイフを縄に当てて両手足の拘束をはずしてやる。

「ぷふぁ!一体何を考えてるんだ!こんなところまでひとりで来るなんて!危険じゃないか!むぐむぐ!」

「あっ!このバカ!?そんな大声出すなって!みつかんだろ!」

 怒鳴りだしたアールベルト王子の口許を覆って声を封じると馬車が停まった。

「おい、なんか変な声がしなかったか?」

「いや、車輪の音で聞こえなかったが、もしかしてあれが起きたんじゃないか?」

「ちょっと確認してくるよ。」

 前方から聞こえてきた声に急ぎ衣装箱の中に潜り込んだ。

 身体の上に布を掛けて、急いで猿轡を噛ませアールベルト王子に気絶した振りをさせる。

 両手足のは布を被せたので拘束が解けている様には見えないはずだ。

 ガタリと音がして衣装箱の蓋を持ち上げられる気配に鼓動が跳ねる。

「ん、異常ねぇな。しっかし、何度みても綺麗な顔してやがるぜ。」

「おいっ!気付かれる前に城から出なければならないんだ、問題ないならさっさと戻りやがれ!」

 アールベルトに伸ばされかけた手がもう一人の男の声で止まった。

「ちっ!わかったよ、出すぞ!」

 バタンと少しだけ手荒に衣装箱の蓋を閉じると御者席に戻っていった。

「行ったか?」

「あぁ、大丈夫だ。」

 ガタンと馬車が動き出した震動がするのを確認して、二人で衣装箱の蓋を持ち上げて外を確認する。

 そろそろと箱を脱出し音を立てないように閉め直すと、トランクを開けて外を確認する。

 馬車は思ったよりも速度は出ていないらしく、飛び降りても軽い擦り傷くらいで済みそうだ。

「さて、私はこの馬車から降りるけどどうする?」

 後で怪我をさせたと言われるのも嫌なので一応本人の意思を確認するとしますかね。

「もちろん降りるさ。」

「解った!お先にどうぞ?」

 トランクの外へ手のひらでご案内すると綺麗なお顔がひきつった。

「お先にってまさか飛ぶ気か!?」

「うん。もちろん。大丈夫だって軽い打ち身や創傷にはなるけどこんなもんじゃ死なないから。」

「うっ!」

「なんだ、怖いのかなぁ?」

「べっ、別に怖くなんか「ならさっさと降りる!」ってわぁ!?」

 二の足を踏んで動かないアールベルトの背中をけり飛ばした直後に私も飛び降りた。

 ごろごろと地面に転がる様にしてスピードを落とすと、すこし前方で地面に貼り付いたアールベルトに駆け寄る。

「おーい、大丈夫か?」

「くそぅ痛ぇ。お前なんて大嫌いだ!」

 おー、涙を浮かべて睨み付けてくる少年の服についた土を払い落とす。

「はいはい、わかったわかった!見つかる前に戻るよ?だから知らない人についていっちゃダメなんだよ?」

 辺りは暗いため見えにくいが、遠くから賑やかな楽団の奏でる音楽が聞こえてくるため大体の方角はわかる。

 動こうとしないアールベルトの手を握ってゆっくりと歩き始めた。

「さて戻ろう。あっと、これ返すわ。」

 ポケットに放り込んでいた耳飾りを引っ張りだしてアールベルトに渡してやる。

「っ!あっ、ありがとぅ・・・・・・。」

「どういたしまして。」

 消え入りそうに呟かれた言葉に返事を返して暗い夜道を城へと歩き出した。
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