半同棲日記

カネコネコ

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3月27日 引越し日より

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3月27日(金)  天気晴れ


 この日、僕達は20年間生まれ育った土地を離れ、東京寄りの神奈川県に引っ越してきた。

 本当はもう一週間程早めに引っ越すつもりであったが、アパートの手続気が遅れてがギリギリになってしまった。

 契約は主にこの春から社会人になる彼女が1人で決めて僕はその初期費用の半分を彼女に渡すだけでいつの間にか住む場所も部屋も決まっていた。

 僕としては風呂トイレ別で、雨風がしのげればそれでいいとだけ要望していたので、木造だろうが築年数が古かろうが大したことは無かった。むしろ実家に似ていて安心するぐらいだ。

 1つ問題があるとするなら家から駅に向かうには徒歩で30分かかるので、駅に行くたびにバス代に210円、往復で420円の出費が必要なことぐらいである。

 しかし、演劇の学校に通い始める僕は訳の分からないウイルスのせいでほとんどがリモート授業のためそこまでデメリットではないと思っていた。

 少し懐かしいけれど全く違う部屋の中で運ばれたばかりのダンボールを1個づつ開けはじめた。

 「シュウが社会人から学生になって、私が学生から社会人になるなんて変な感じがするね。」

 彼女が隣の部屋でカッターを持ちながらニコニコと能天気にそう言った。

「マフユがちゃんと社会人してくれないと僕達は飢え死にだよ。」

 僕もふざけて応えた。

 しかし、ふざけてはいるが本当のことではあった。

 なぜなら僕が2年間の間に貯めた僅かな貯金は主に入学金や引越し資金で全て使いはたし、手元にはあと高級焼肉に行ったら全部なくなってしまうぐらいのお金しか残っていないのだ。
 
 だが、僕はこういった状況でも最悪、彼女がいるから大丈夫だろうとタカをくくっていた。

 なぜなら彼女はお金のことに関してはとてつもなくシビアで家賃や光熱費、食費に関しても全て自分で払うと言いきったのだ。

 それなら僕はその言葉に思う存分甘え、この先の生活がどうなろうと知ったことでは無いと心の底から安心しきっていた。
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