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そして、ガルシア男爵家では…。
「ようやく届いたか。嫁がせないなどと嘘をつきおって…」
カイロスはマルティネス公爵家から届いた支度金を数えてほくそ笑んでいた。
大方美しくなったクロエを手放すのは惜しいと思ったのだろう。醜い公爵といえども所詮はただの男だな。
「さて、この金を使って何をしようか…?」
その時、扉を叩く音が聞こえる。
「だ、旦那様…。大変でございます…」
慌てた様子の使用人の声にカイロスは急いで金をしまって外に出る。
「どうしたというのだ?」
「それが…。警邏の方たちが…」
言い終わる前に制服を着た恰幅のいい警邏の団体が押し寄せてきた。
「ガルシア男爵、お話を聞かせてもらいますよ」
「な、なんだお前たちは!私が何をしたというのだ!」
必死の抵抗も虚しく、カイロスは馬車に乗せられて牢屋へと入れられてしまう。
「何故この私が…」
狭くて薄汚い牢屋に閉じ込められ、出せと叫べば殴られる。
こんな理不尽がまかり通るとは…。男爵である自分に平民が暴力を振るうなどもっての外だ。
力では敵わないので、外に出たら制裁を与えてやると憎悪の炎を燃やす。
コツコツコツ…
ゆっくりと近付く足音に顔を上げると、警邏を取り締まる者だろうか。他の者とは違う立派な制服に身を包んだ男がカイロスの牢屋の前で立ち止まる。
「ダンテとマチルダという人物は知っているな?その二人が窃盗の罪で捕まったんだよ」
「あの二人は男爵家で雇っていたが、仕事もろくにできないから辞めさせた!私には関係のない者たちだ!早くここから出してくれ!」
男は牢屋を思いっ切り蹴り、カイロスは飛び退いた。
「それはおかしいな…。辞めた後も定期的に男爵家に通う二人が目撃されている」
「そ、それはダンテに食事を作って運ばせていたんだ!」
「ほぅ…。男爵様、あなたは先程あの二人とは関係ないと言っていたよな?仕事をしないから辞めさせたと…。それなのに何故食事を作って運ばせるんだろうか?」
「ぐっ…」
妻のヘラに頭が上がらないこと。
ヘラに隠れてこっそり肉を食べていること。
カイロスは自分の矜持を守るために言えなかった。
「それにな、あの二人は男爵様の為にやったと言っているんだよ。食事を届けるという建前でどこの家を襲わせるか話していたんだろう?」
( 彼奴らめ…。恩を仇で返しよって… )
このままでは窃盗の主犯にされてしまうと考えたカイロスは正直に男に伝えた。
初めは訝しげに聞いていた警邏の男だったが、カイロスの必死の形相や証拠が不十分なこと。更にダンテとマチルダの話が二転三転することから、カイロスを釈放することに決めた。
ただし、保釈金を払うという条件付き。
せっかく手に入れた支度金を全て使い切ってしまった上に、ヘラに隠れて肉を食べていた事も知られてしまった。
屋敷に戻ると鬼のような顔のヘラが待っており、一日中喚き散らしていた。
「男爵家の名誉が傷付いてしまったじゃない!これでは恥ずかしくて外も歩けないわ!アドニスちゃんが可哀想だと思わないの!」
「健康の為に食事制限をしたというのに、私に隠れて食べるだなんて…。私だって我慢しているのよ?勝手な事をするからあの二人にしてやられたんですよ!」
「あなたはアドニスちゃんに悪影響だわ!これからは私の言う通りに動いてちょうだい!」
「まったく…。浮気をした時に見限っておけば良かったわ。こんなに情けなくなるだなんて誰が予想できたかしら…?」
カイロスは何をするにもヘラに伺いを立てるようになり、当主としてカイロスを敬う者はいなくなった。
どんどん窶れていく父を見たアドニスは馬鹿にしたように笑う。
「情けないパパって格好悪いよね」
「そうよ。アドニスちゃんはこんな風になっては駄目よ?お母様が立派な男爵にしてあげますからね」
「うん!僕はママの言う通りにするよ」
カイロスはストレスで食事を受け付けなくなり、味の薄いスープやパンだけを食べるようになっていた。
アドニスやヘラは今まで我慢していた反動が来たのか、味の濃い食事に馬鹿馬鹿しくなって再開させた肉料理、カイロスの残した食事までにも手につけている。
元々細身だったヘラは標準くらいの体重になっていた。
また癇癪を起こされては堪らないと、使用人達はヘラにわからないようにドレスを直し、新しく買う物は一回り大きいサイズに変えていた。
顔の大きさも身体の大きさも変わってしまったのだが、ドレスが着れるから気にしていないのか…。
鏡を毎日見ているのにも関わらず、ヘラは自分の変化に気が付かない。
アドニスは遂に縦よりも横に大きくなってしまった。
髪の毛も顔も掌さえも、汗と脂で常に湿っている。
少し歩けば息切れして汗まみれ。そんなアドニスの汗を甲斐甲斐しく拭うヘラ。二人は常に一緒にいる。
暗い執務室に一人でいるカイロスは挽回の機会を伺っていた。
( もう一度マルティネス公爵家から大金が貰えればヘラもアドニスも見直してくれるだろうか…? )
一通の手紙を認める。
「ようやく届いたか。嫁がせないなどと嘘をつきおって…」
カイロスはマルティネス公爵家から届いた支度金を数えてほくそ笑んでいた。
大方美しくなったクロエを手放すのは惜しいと思ったのだろう。醜い公爵といえども所詮はただの男だな。
「さて、この金を使って何をしようか…?」
その時、扉を叩く音が聞こえる。
「だ、旦那様…。大変でございます…」
慌てた様子の使用人の声にカイロスは急いで金をしまって外に出る。
「どうしたというのだ?」
「それが…。警邏の方たちが…」
言い終わる前に制服を着た恰幅のいい警邏の団体が押し寄せてきた。
「ガルシア男爵、お話を聞かせてもらいますよ」
「な、なんだお前たちは!私が何をしたというのだ!」
必死の抵抗も虚しく、カイロスは馬車に乗せられて牢屋へと入れられてしまう。
「何故この私が…」
狭くて薄汚い牢屋に閉じ込められ、出せと叫べば殴られる。
こんな理不尽がまかり通るとは…。男爵である自分に平民が暴力を振るうなどもっての外だ。
力では敵わないので、外に出たら制裁を与えてやると憎悪の炎を燃やす。
コツコツコツ…
ゆっくりと近付く足音に顔を上げると、警邏を取り締まる者だろうか。他の者とは違う立派な制服に身を包んだ男がカイロスの牢屋の前で立ち止まる。
「ダンテとマチルダという人物は知っているな?その二人が窃盗の罪で捕まったんだよ」
「あの二人は男爵家で雇っていたが、仕事もろくにできないから辞めさせた!私には関係のない者たちだ!早くここから出してくれ!」
男は牢屋を思いっ切り蹴り、カイロスは飛び退いた。
「それはおかしいな…。辞めた後も定期的に男爵家に通う二人が目撃されている」
「そ、それはダンテに食事を作って運ばせていたんだ!」
「ほぅ…。男爵様、あなたは先程あの二人とは関係ないと言っていたよな?仕事をしないから辞めさせたと…。それなのに何故食事を作って運ばせるんだろうか?」
「ぐっ…」
妻のヘラに頭が上がらないこと。
ヘラに隠れてこっそり肉を食べていること。
カイロスは自分の矜持を守るために言えなかった。
「それにな、あの二人は男爵様の為にやったと言っているんだよ。食事を届けるという建前でどこの家を襲わせるか話していたんだろう?」
( 彼奴らめ…。恩を仇で返しよって… )
このままでは窃盗の主犯にされてしまうと考えたカイロスは正直に男に伝えた。
初めは訝しげに聞いていた警邏の男だったが、カイロスの必死の形相や証拠が不十分なこと。更にダンテとマチルダの話が二転三転することから、カイロスを釈放することに決めた。
ただし、保釈金を払うという条件付き。
せっかく手に入れた支度金を全て使い切ってしまった上に、ヘラに隠れて肉を食べていた事も知られてしまった。
屋敷に戻ると鬼のような顔のヘラが待っており、一日中喚き散らしていた。
「男爵家の名誉が傷付いてしまったじゃない!これでは恥ずかしくて外も歩けないわ!アドニスちゃんが可哀想だと思わないの!」
「健康の為に食事制限をしたというのに、私に隠れて食べるだなんて…。私だって我慢しているのよ?勝手な事をするからあの二人にしてやられたんですよ!」
「あなたはアドニスちゃんに悪影響だわ!これからは私の言う通りに動いてちょうだい!」
「まったく…。浮気をした時に見限っておけば良かったわ。こんなに情けなくなるだなんて誰が予想できたかしら…?」
カイロスは何をするにもヘラに伺いを立てるようになり、当主としてカイロスを敬う者はいなくなった。
どんどん窶れていく父を見たアドニスは馬鹿にしたように笑う。
「情けないパパって格好悪いよね」
「そうよ。アドニスちゃんはこんな風になっては駄目よ?お母様が立派な男爵にしてあげますからね」
「うん!僕はママの言う通りにするよ」
カイロスはストレスで食事を受け付けなくなり、味の薄いスープやパンだけを食べるようになっていた。
アドニスやヘラは今まで我慢していた反動が来たのか、味の濃い食事に馬鹿馬鹿しくなって再開させた肉料理、カイロスの残した食事までにも手につけている。
元々細身だったヘラは標準くらいの体重になっていた。
また癇癪を起こされては堪らないと、使用人達はヘラにわからないようにドレスを直し、新しく買う物は一回り大きいサイズに変えていた。
顔の大きさも身体の大きさも変わってしまったのだが、ドレスが着れるから気にしていないのか…。
鏡を毎日見ているのにも関わらず、ヘラは自分の変化に気が付かない。
アドニスは遂に縦よりも横に大きくなってしまった。
髪の毛も顔も掌さえも、汗と脂で常に湿っている。
少し歩けば息切れして汗まみれ。そんなアドニスの汗を甲斐甲斐しく拭うヘラ。二人は常に一緒にいる。
暗い執務室に一人でいるカイロスは挽回の機会を伺っていた。
( もう一度マルティネス公爵家から大金が貰えればヘラもアドニスも見直してくれるだろうか…? )
一通の手紙を認める。
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